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三井家殺し

新幹線に乗り、電車を乗り継ぎ、さらにバスに乗って着いた我が故郷。



荻羽生村。



鬱蒼とした林道を抜けて眼前に広がるのは、田んぼや一軒家。村を囲むような山々。深緑の中にさえずる小鳥の鳴き声。自然豊かなこの村は、こういった癒しを与えてくれる。ただの観光客としてくれば、こんな爽やかな印象を持つことができる。しかし、俺にとっては陰鬱な故郷でしかない。性癖が歪んだ父親。他人の情事に首を突っ込んで村八分にし、追い出す村民たち。



俺も、その追い出しに乗っかったわけではあるが。。




田んぼの畦道を通る。聞こえるのは稲穂のない田んぼを吹き荒ぶ風の音だけ。こんな寒い日だからか、村民は誰もいない。不気味なくらいに誰もいない。


大きな屋敷の前につく。武家屋敷のような門構え。インターホンを鳴らす。



インターホンから声による応答はないものの、門が自動的に開く。


門から、屋敷までは竹林の鬱蒼とした小道が続く。親父が京都の嵐山の竹林の小径をモチーフにして作ったものだ。


竹林の小径を抜けると、竹林に囲まれた我が家が見えて来る。


屋敷の前に人影が1つ。




『太一、久しぶりだな。』


着物を着こなし、下駄を履いてまっている。

老いたな。白髪が増えて、シワが増えた。かつての精悍さは無い。しかし、俺を突き刺すような視線が痛い。



『・・・・。』

背中がじわりと湿るのがわかる。


『きなさい。』

冷える廊下の床。ひと踏みひと踏みで軋む床。

大広間に入る。



『・・・え?』


そこにいたのは、白装束を身に纏った三井の姿があった。三井玲奈だけでなく、三井の父、三井の兄がいた。ただ座敷ではなく、中庭に敷物なしで、腕を縛られている。


三井はこちらを見つめる。嫌味な女だ。白装束すら、艶かしく見える。眼には涙を溜めて、何かを媚びるような目でこちらを見る。



『親父これは??』

『お前の妹を殺した奴らだ。』

『妹?俺は1人っ子だろ?』





1枚の紙を渡される。





『遺書』と書かれている。





署名は『萩島怜』だ。








『許されない恋、許されない愛。私が好きだった人は、好きになってはならない人だった。私が宿したお腹の子は、私の兄との子どもでした。許されない。私が私を許せない。だから、お腹の子と一緒に幕を下ろすことにします。』











『萩島が、、俺のいも・・・うと?』


『太一よ。この事実を預かり知るのは、羽生、萩島そして養子縁組関係の仕事を任せたそこにいる三井だ。決しては知られてはならないことだ。そして、羽生家にとって兄妹が肌を重ねた事は絶対知られてはならない事だ。それを暴こうとした、三井のご息女と管理不届。この償いは命と引き換えになろう。』



『そ、そんな!羽生様!このアバズレがやったことに過ぎません!この者さえ、死ねばいい!』


三井の親父が玲奈に全ての罪を被せる。いや、実際のところは玲奈の犯行なのだろう。



玲奈の顔がみるみる青白くなる。実の父に、死ねと言われているようなものだ。歯をキリキリいわせながら、涙を流す。人生の幕引きで、親に守ってもらえない子ども。何も言わない兄。


家族とはなんなのだろうか。




『太一よ。お前が幕を引くのだ。三井殺しを行え。地下に処刑部屋がある。やり方は任せる。』




『いやだあっ!!』



三井の父は、立ち上がり腕を縛られたまま逃げようとする。




『殺せ、太一。』


親父は冷徹な目でそう指示してくる。




俺が、、人を?人を、殺せと?



『村人に知られれば、品行方正ではなくなるぞ?羽生の理想は崩れる。』



ああ、そうか。品行方正が叶わなくなるのか。

中庭にある石を抱え、三井の父に投げつけた。



『ひいっ!ひいっ!痛い痛い痛い!!』



膝に当たった。そのまま近づく。倒れた、三井の父に馬乗りになる。手頃な庭石を思い切り、三井の父の顔に叩きつけた。



『ぎ、ぎゃあああああああああああああ!!』


返り血が俺の顔を染める。


『うるさい。』


何度も何度も庭石を叩きつけた。




物言わぬ肉塊になるまで。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

『い、いやああああああああっ!』


太一は父を撲殺し、兄にもそのまま手をかけた。


屋敷の座敷に上がり、畳の上を這うように逃げる。腕の縄を解かないとならない。何か、縄を解くものは・・・。調理場だ。包丁があるはずだ。駆け抜ける。


『な、なんだべ!?』


調理場にいるパートの人に体当たりする。


『ひぎっ!』


包丁を落とした。


『よ、よし・・・。』


縄を切る。



そのまま包丁を持つ。



『三井を殺せっ!』


屋敷に響く怒号。屋敷の使用人が叫ぶ。総出で私を捕まえようとしている。


調理場を見渡す。天ぷら油がある。



『死ねええ!』



『食らえ!』



『ぎゃあああああああ!』


天ぷら油を使用人にかける。

油をかけられた使用人はのたうちまわる。

周りを見る。マッチがあった。マッチを擦ってついた火種を、天ぷら油をかけられた使用人に投げる。




『あ、あちちちぃぃぃぃっ!!』



火は一気に燃えひろがる。


轟々と燃え盛る屋敷。逃げ惑う使用人。火は竹林にまわる。それだけでない、山に火がまわる。他の家にも火は移っていった。



『ははっ、ははははははははっ!!』



助かった。助かった。

あんなくそ親父とくそ兄貴が死んで、私だけ上手く逃げおおせた。命あってのものよね。このまま、荻羽生村は燃えてなくなるだろう。私の苦しみ、悲しみ、全てを燃やし尽くしてくれる。



大丈夫!あとは、東京に戻って、父の生命保険が降りれば当面はなんとかなり・・・・





『え・・・・・。』


座りこむ。

足首が痛い。

何が?




弓矢?





『待ちなよ、玲奈。』


ボウガンを持った太一。

『最後にさ、楽しもうよ。ふふ、これで玲奈を征服するのは最後かなあ・・・・?』


笑みを浮かべながら、近づく太一。



『いやっ、いやああああああああああ!!!』




燃え盛る村。私達の故郷を轟々と音を立てて飲み込んでいく。その炎の音は、何か無防備な私を嘲笑うようにーーーー




いや、私達を包んでいった。

灼熱に侵されていった。


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