兄妹が生まれた日
手塩にかけた我が娘、怜。
3年前。
『母さん、学校辞めてきた。』
怜はそれだけ伝え、部屋に引きこもってしまった。理由は聞かなかった。いつか話をしたくなったら、その時まで待とう。その時はそう思うようにした。汚れた服、乱れた着衣。ボサボサの髪。
可能性を考えた。でも、考えるのはやめた。聞くのが怖かったからだ。なんとなくわかったから。
そんな怜が大学に上がって、フリースクールでバイトを始めたくらい。一緒に夕飯を食べた。
『大学はどう?』
『うん、勉強楽しいよ!知らない事を知れるのはなんだかワクワクするわ!』
『そうなのね、よかったわ。バイトはどう?』
『バイトね!あ、久々に太一に会ったよ!』
『ああ羽生さんちの息子さんね。』
『同じ大学なんだって!学部は違うんだけど、たまたまバイトが同じだった!』
3年前のあの日より前の怜。
明るい怜。無邪気な怜。天真爛漫な怜。
私のかわいい怜。
そんな明るい怜が、声を振るわせて電話してきた。出れなかった。留守電だった。折り返しても繋がらない。滲む汗。今日は、これから太蔵さんのところに行かないといけない。どうしようか。
太蔵さんに事情を話して日を改めてもらうか。
太蔵さんに電話をかける。
『おお、玲子や。今日は何時くらいになりそうだ?』
『太蔵さん。実はね。』
『早く玲子の顔が見たい。今日はずっとずっと抱きしめていたいのだ。』
太蔵さんはたまにこうやって子どものように甘えてくる。どうしよう、怜が・・・。
『どうした?玲子?』
沈黙。
『ええ、これから行くから19時前には。』
『待ってるよ。』
怜の震えた声、というのは私がそう思っていただけかもしれない。だって留守電でもそう言ってた。
『お母さん、その忙しかったら、いいんだけど、、時間ある時に聞きたいことがあるの。』
時間がある時でいい。そう言った。今は、時間がない。だって愛しの太蔵さんが待っているから。
私はバカだった。こうしている今、そう思う。
あの日自分の欲望に充実だった私を責めなくてはならない。私はしなくてはならない。復讐を。
前髪が隠れている、怜の顔を見る。前髪をかき分ける。なんて悲しそうな顔。
思い出す。
怜が生まれた日。
『産まれましたよ!』
『はあはあ・・・顔を見せて。』
しわくちゃの顔。私の生き写し。あの人の面影もある。元気に泣いている。
ぎゅっと抱きしめて、誓った。この子は何があっても守らないといけない。
『名前はどうするのだ?』
手を握るあの人。
『怜よ。そう、萩 怜。』
『いい名前だ。』
『もう1人はどうするの?』
『私が決めた。』
『でも双子なのに、さほど似てないのね。』
『まあ、そういうこともあろうよ。』
『名前はなあに?』
『太一だ。羽生太一。』
『そう、太一は羽生家。怜は萩家。』
退院した日。
『玲子や。すまない。苗字を変えて欲しい。』
『わかってますよ。家系図は変えられませんからね。』
『萩島でどうだ?』
『うん、それでいいわ。ただ、萩の名前はどこかに残したいわ。でないと私。』
涙を流す。
太蔵さんが慌てる。
かわいい人。
『村の名前に残そう。』
『あら、どんな名前にするの?』
『羽生村の頭に、萩をつける。萩羽生村だ。』




