三井玲奈は報われない。
3年前ー
家に帰る。
三井法律事務所。落ちぶれた私の生家。
『お父さん。』
『玲奈か。羽生家の御子息とはどんな感じかな?』
父は机に足を乗せてタバコをふかしながら、部屋に入ってきた私を見るなりそう伝えてきた。
『その、、振られました。』
『・・・・。』
父の表情にみるみる怒気が籠る。
私を突き刺すように見る。
『はあ。残念だよ、玲奈。やはり娼婦の子は娼婦。いや、おまえの場合は羽生家の御子息の娼婦にすらなれないということか。この役立たずがっ!』
プラスチック製の灰皿を投げてくる。こめかみあたりにあたる。少し痛い。
『あーあ。玲奈、おまえの兄貴の龍一はT大の法学部を出て、立派に弁護士をやっているのにお前と言ったら、頭は悪いわ、女の武器を使えないわ、本当に能無しだな!ええ?その下品な体を使って誘惑するくらいしか使い道はなかろうが!?』
なんで、こんなんが私の父親なんだろう。
私の母はいわゆる、内縁の妻だ。父とは結婚はしていない。兄の龍一とは腹違いだ。私の母は、私を産んですぐ父に私を押しつけて行方をくらました。父は流石に不憫に思ったのか、育ててくれた。とはいえ、世話はベビーシッターに任せきりで、愛情をかけてもらった事はない。私の発育がよくなってきた中学あたりから、私をどこか名家の息子に嫁がせようと躍起になっていた。
『お前は所詮、娼婦の娘だ。ならば、娼婦の娘らしくどこぞの名家の息子にまたがって喜ばせるのが役目だ。』
そんな言葉を何百、何千回とかけられてきた。
私は自分はそうしてれば、父に褒めてもらえるのだと思った。だから、援助交際を始めた。援助交際で関係を持った、偉いおじさま方と父を繋げて弁護士業に貢献した。その度に父は頭を撫でてくれた。しかし、腹の虫が良くない時は、『娼婦の娘』と言って、私を蔑んできた。
父の部屋を出る。灰皿のせいで制服が汚れてしまった。また、太一くんを振り向かせなくてはならない。
『ああ、玲奈。またお父さんかい?』
『ええ、兄さん。』
『かわいそうに。』
『兄さん後で私の部屋来て。』
『え?』
一発、頬に張り手をかました。
『い、痛っ!』
『ああ!めめしい!』
さらにもう一発。兄は倒れる。足を振り上げて倒れた兄の胴体を何度も何度も踏みつける。
『痛っ、痛っ、、ああっ!』
兄の声はだんだん嬌声に変わる。
三井家は狂っている。血の繋がりはとんでもないなと、私は知っている。血の繋がりこそが、全てを破滅へと追いやってしまう。
その確信があったからこそ。
私は、あの書面を萩島に送りつけた。
奴も血の繋がりに後悔し、遅かれ早かれ社会的な死か、肉体の死を選ぶかわからないけど、たぶんそんな感じになるのだと思う。
私は今日また、お父さんの部屋を訪ねる。今度は褒めてもらえるはずだ。
『お父さん、いますか?』
ノックするも返事がない。ドアノブを回す。
部屋は真っ暗だ。明かりをつける。部屋はいつものように散らかっている。いや、散らかっているんだけども、、、、
イスが倒れ、花瓶が割れている。間接照明も倒されており、散らかっているという表現は正しくない。
兄の部屋に向かう。兄もいない。いつもなら家にいるはずだ。普段は、兄の部屋はしっかり整理整頓されているのだ。なのに、今日は机は紙が散乱しており、兄が飼っている熱帯魚の水槽が破られて部屋は水浸しだ。窓も割られている。
私は、自分のスカートのポケットを探る。
携帯と財布はある。兄の部屋を出て、廊下を全速力で駆け抜ける。その先には玄関がある。玄関を開けようとドアノブをガチャガチャ回す。慌てているのか、うまく回らない。額から落ちる汗。震える手。
『早く・・・早く早くっ!』
開けないと、じゃないと・・・・。
ガチャ。
ドアが開いた。これで、この家から抜けられーー
後頭部に鈍い音がしたかと思うと視界が揺れ、私はそのまま倒れた。




