妊娠/発覚
いつものバイト終わりの空き教室。
着崩れた着衣を治し、襟を整える。
『飲む?』
ペットボトルを渡す。冬なのに汗ばむくらいに熱気に包まれた私と太一。
太一は口に水を含み、口移しで私に飲ませてくる。
『ちょっと顔洗ってくるよ。』
教室を出て行く太一。私はそれを確認する。
しっかりとお腹に届いているといいな。
私と太一はもう少しで、夫婦になれるわ。
『太一、今日もサークルの集まり?』
私は諦めたような表情で尋ねる。
『いや、今日は何もないよ。だから、朝まで一緒にいよう。』
太一が背中から優しく抱きしめてくれる。嬉しい。じわりと体の芯が暖かくなるのがわかる。太一が沸るのがわかる。今は性の捌け口だけだろうと、子どもができさえすれば問題ない。これで私を捨てたなら、羽生の恥さらしだ。何も問題はないのだ。
太一と朝を迎える。
『何か食べる?作るよ。朝ごはん。』
『うーん・・・・。』
太一は寝ぼけている。まつ毛が長い。寝顔が可愛い。抱きしめたい。食べてしまいたいくらい。
ベッドから立ち上がり下着をつけて、Yシャツを着込む。わざとぶかぶかのを着て、起きた太一がまた私を見て欲情してくれるように。
キッチンに立つ。
『うえっ、うええええっ!』
急激な吐き気。どのくらい続いただろうか。
苦しい。太一はスヤスヤ眠っている。
『はあはあ・・・・。』
棚にストックしてある妊娠検査薬を使う。
『あは、あはははは♪』
やったついにやった。太一との子を成した。念のため産婦人科に行くことにしよう。でもあんだけしてれば、できるよね。
じわりじわり暖かくなる。
眼を擦った太一が近づいてくる。まだ、何も知らない彼は私をまた便器のように扱う。そんな風にされながらも、私は笑いが止まらなかった。ずっとずっと笑いながら。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
『じゃあ、帰るから。またバイトで。』
太一はそっけない。自分の欲をおさめたら作った朝食を食べずに帰る。やはりただの捌け口でしかないのだろうか。いや、もうそんな事許さない。
私は自分の分だけ食べて洗い物をする。
ピンポーン。
インターホンが鳴る。静かな部屋に響くインターホンの音。前から思っていたが、インターホンの音はなんとなく嫌いだ。何か、良くないお告げがおりるような感覚を覚える。特に理由はないが、インターホンを止めてドアを開ける。
書留であった。宛先は・・・・ない。
『誰かしら?』
不気味な手紙。不穏さを感じる。
『そんな事より、産婦人科行かないと。。』
着替えて出かける準備を始めた。
太一との子どもを確認しなくちゃいけない。
私の愛のために。
♦︎♦︎♦︎♦︎
『おめでとうございます。妊娠です。』
私は思わず涙を流した。この3年、性暴力を受けて望まぬ妊娠を経験し、1つの命を消してしまった。私なんかのせいで消え去った命。今度こそお腹から出して、パパとママと一緒になろうね。
お腹をさすりながら帰宅する。
今日は太一に報告しよう。もうただの便器として扱わせない。正式に太一の女として胸を張れる。三井が悔しがる姿が思い浮かぶ。ああ!なんて素晴らしい!私は、羽生家の人間として!羽生家次期当主夫人よ!いや、そんな事より、ずっとずっと好きだった太一の女になれる!
机の上にある封筒。差出人のないその封筒を開ける。
中に入っているのは家系図、養子縁組の証書に、苗字の変更書だった。
まじまじと読み込む。
『そ・・・んな・・・・・。』
目の前が揺れる。
嘘だ。こんな事。私は。一体。どうして、こんな事が。あるのだ。何を。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
どうしよう。携帯!母さんに電話する。繋がらない。どうしたらいい?
こんなの。
あんまりだよ・・・・。




