暴かれる
父の事務所は、うちのかつての大手の顧客である荻羽生村でなく都内に存在する。
私の兄貴から鍵は借りた。私の兄貴は言わずもがなこの事務所の所属弁護士だ。なんで、私に鍵を貸してくれるか。兄貴は頭がいいが、脇が甘い。
事務所の金を横領しているのを私に見られたからだ。それ以来、兄貴は基本的には私の言いなりだ。
『ずいぶんと散らかった事務所ね。』
父は羽生の当主と折り合いが悪くなったのもこの雑さが原因なんだろうか。
父のデスクを漁る。父は今更だが、羽生の当主に取り入る為に接待やらで村に出かけている。
『ちゃんと都内で顧客捕まえればいいのにね。ん?何これ?』
家系図のようなものが出てきた。巻物のような形で帯を解いてみる。
『羽生家の家系図かあ。』
非常に歴史ある家らしく、太一くんまでたどるのに10代以上ある。
『ふーん、、、ん?何これ?』
太一くんの父は羽生太蔵だ。横に書かれている配偶者。いや、太一くんのお母さんってそういや、聞いたことないな。
ー荻 玲子ー
『荻ね。荻かあ。あれ?』
気になるのは、玲子と太蔵の子が太一くんだけでない事だ。兄妹かしら?でもこの名前だと男だか、女だかわからない。
名前は『怜』
荻・・・・。
他の資料を漁る。
『こんなものを机上に置くなんてね。』
出てきた書類は・・・・。
『ははっ、あはははははははは!!!ついに見つけたわ!これで!これで!太一くんは、私のものよ!はは!父さん、やったわ!私、これで父さんに・・・・。』
やっと頭を撫でて、玲奈ちゃんえらいねって褒めてもらえる!
バサッ!
別の書類が落ちる。土地の申請書?不動産関係か?あとは戸籍関係の書類。
どうやら、荻羽生村の敷地の近くに大きめの土地があるようだ。建売か何かかな?一軒家の建築の契約書も出てくる。あとは、何かしら。人材派遣契約?なんだかきな臭い村だ。
とにかく羽生家のこの書類を使えば全て丸く収まるはず。これで、全て終わる。
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大学にも慣れた。バイトにも慣れた。
バイト終わりは、生徒のいない教室や私の部屋で太一と重なる。夢のような日々。愛のある重なりは私の心を溶かしていく。
ある日。
『萩島せんせー、これわかんねえー。』
『教えてー。』
いつもの日常。生徒に勉強を教えて、終わったら太一と重なる。
トイレへ行く。
『はあ・・・・。』
太一と重なるのが待ち遠しい。今、私の世界は太一で埋め尽くされている。
『太一と結ばれたいな。死が2人を分かつまで。』
結婚なんて、重すぎるかしら。でも、家に帰れば太一がいて、私と太一の子どもがいて。太一が子どものオムツを変えて、私が夕飯を作って。そんな幸せには太一が必要だ。太一以外は考えられない。太一は、私のものだ。
トイレを出て、職員室に向かう。
『あれ?羽生先生は?』
『あら、一緒じゃなかったの?帰っちゃったわよ。』
太一がどうして?今日は何か用があったのかな?
『そうですか、、お先に失礼します。』
校舎になっている一軒家の玄関の、引き戸を引く。
『あれ?』
見知った顔がそこにはいた。
『行馬?』
『よ!萩島!』
『どうしてここに・・・・?』
『いやあ、ちょっと相談があってさ。飯でも食いに行かない?』
行馬はニコニコ笑っているが、目は見開いたままだ。何があったのだろうか?それよりもーーー
体が疼いて仕方ない。だって今日も太一にこの疼きを鎮めてもらうつもりだったんだもの。太一に連絡をとりたい。
断わろう。
口を開こうとしたその時。
『太一のことで話をしたいんだ。』
笑みがなくなり、刺すような視線で私は見られた。
一気に体温が下がったような気がした。




