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元使用人とその子ども

施設に入所してしばらく経った。

子どもも産まれて、名前も付けた。


『かわいい、私の赤ちゃん・・・・。』


旦那様との子どもだ。でも、その隣に旦那様はいない。産まれて見てわかった、親の大変さを感じている。夜は泣くわ、オムツ換えの仕方もわからないはで、毎日が大変だった。支援施設の人のサポートは行き届いていて、助かった。

一番大変だったのは、旦那様とのやりとりだ。


施設専属の弁護士がいたので、認知してもらうのと養育費をもらう交渉が難航した。

何せ、あんな示談書を叩きつけてくるくらいだ。

旦那様は話し合いの場には出て来ず、旦那様の弁護士とたまに、看護師が出てくる。



『あなた、旦那様の名誉を傷つけておきながら、おめおめと養育費もらおうなんて、美人局もいいところよね。』




『最悪よね。使用人のくせに、うまく旦那様をはめて家ごと乗っ取る気だったんじゃないの?詐欺師よ。詐欺師。』





看護師がいる時はこんなことを言われるのだ。

その度に、私は避妊しなかった後悔や、旦那様との不倫関係なった自分、そして自分の不甲斐なさのせいで、施設で過ごすことになった我が子に申し訳なく思い、心がズタズタに引き裂かれていった。


弁護士は淡々と交渉を進めるが、施設の担当弁護士に言わせれば『最低、最悪の弁護士。』だそうだ。こんな示談を通そうとしてきたことが信じられないという。



この話し合いのたびに私は、しわくちゃになった紙が二度と綺麗にならないように、心は殺されていった。



結局、認知はされて養育費をもらうことは出来るようになったが、その頃にはもう悲惨だった。




『おぎゃあ!おぎゃあ!』


『・・・。』



転がるビール缶。

我が子が泣けばオムツを変えたり、ミルクをあげる最低限はしていたが、それ以外の時間は酒を飲んで現実に向き合うことを放棄していた。


一番我が子が可愛い時期に、身も心も弁護士と看護師、いや、あの荻羽生村にズタズタにされたのだ。



『岬さん、、また昼からお酒を、、、』


『支援員さん、こんぬちはあ〜。』


顔を真っ赤にし、酒の匂いを撒き散らして過ごす日々が続いた。支援員もどうすべきか困っていたに違いない。養育費をもらってお金には困らないし、かといってこの現実が大きく変わるわけでもない。


酒に逃げる日々が2年ほど続いた。








♦︎♦︎♦︎♦︎

我が子は2歳になった。


お昼の12時。


『ママー、お腹空いた。』

『ほら、これでカップ麺でも買ってきな。』

『うん、わかった。』



2歳でお使いに出す親もなかなかいないだろう。しかし、1人でこなすことが出来ていたのだ。






『ママー、ただ今。』

『お帰り。あれ?カップ麺は?』

『カップ麺じゃなくて、これ買ってきた。』


それは見るからに高級な弁当だ。持たせた金では到底買えない。


『アンタ、これ、、まさか、盗んできたんじゃないだろうね!?』


『違うよ、ママ。働いてきたの。』


『は?』


『ついてきて。』



2歳の子どもの会話ではなかった。

ついていくと、弁当屋に着いた。

『あらあ、さっきは助かったわよー。』

『お弁当ありがとうございました。』


『は?どういうーーーー』


『ママ、売り子をやるかわりにお弁当2つちょうだいって言ったの。』


『売り子ってーーーー。』


『ほんと、来てくれると飛ぶようにお弁当売れるからありがたいのよお。あなたこの子のお母さんかしら?賢い子に育つわよー♪』



時計をふと見る。

夕方は4時になっていた。


そうか。私が酒飲んで居眠りこいてた間にこの子はーーーーーー



『ありがとうございました。おいくらで買えば・・・。』

『いいの、いいの。助かるからね。またいつでも来てちょうだい。』




私が酒浸りになっている間、娘は働いていたのだ。まだ2歳だ。それなのに、私はーーーーー。



部屋に戻る。


振り返り、抱きしめる。


『ごめんね。ママも、ママも頑張るから!!』


『ママ?どうして泣いてるの?お弁当がもらえた嬉し泣き?』




どこで嬉し泣きなんて言葉を覚えたのだろうか。

私がこの子の可能性を潰してはならない。だから、何にでもなれるように頑張らないといけないのだ。その日を境に、私はお酒をやめて働き口を探すことに決めたのだった。


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