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青髪の使用人の逃避行

旦那様には言えなかった。


単なる使用人との子どもなんて、奥様になんと言えば良いのか。いや、そもそも旦那様の体裁にかかわる。私は旦那様を愛していたが、離れることにした。旦那様に知らせずに、、、、



『うえっ、うえええっ。』

つわりがどんどん酷くなる。体験したことのない体の不調。子どもを宿すことはこんなにも過酷なことなのか。



その時ーーーー

誰かに背中をさすられた。

恐る恐る振り向く。



旦那様の看護師だった。



『誰の子かしら?』



看護師は冷めた目でこちらを見ている。

私は構わず嗚咽を繰り返す。




『ねえ、誰の子?』


なぜ、ただの看護師がこんな表情で子種の主を聞いてくるのか。優しくさすられ続ける。




『言いたくないのかしら?でも、私知ってるわよ。』



目は見開かれ、歯をキリキリとすり潰すように噛む。眉間に寄ったシワからは明らかに怒気がこめられている。





『あなた、この屋敷にはいられないわよ?いいわ、あなたに住まうところを斡旋してあげるわ。来なさい。』


つわりがおさまった私は、看護師に手を引かれて屋敷を出ていった。




♦︎♦︎♦︎♦︎


私は、荒屋のようなところに住まわされた。

荒屋は、何軒か周りにある。

村の中心部からは少し離れているようだ。

村までの道は丁寧に、看板で表示されていた。


『荻羽生村はこちら。』


道なりに歩くと商店が見えてくる。

空腹の為、食べ物を買おうにも店の人は売ってくれない。


道歩けば、石を投げつけられた。


『あやつは淫魔だ。』



いつから誰が言ったのか。そんな風に罵られる日々。旦那様はどうしたのだろうか。助けに来てくれないのか。あり得ない希望を抱いて村人からの罵声や暴力に耐えた。


『父さん、母さん、ごめんなさい。せっかくウチが・・・』

父と母の村で、築いた地位をまた貶めてしまったのは私だ。



荒屋の扉が開く。看護師だった。


『あなた、大変なことになってるわね。』

『だ、旦那様は・・・。』


看護師は残念そうに、首を振る。

『そ、そんな・・・・。』


『そんな事よりね、今日は会って欲しい人がいるわ。』


看護師の後ろからスーツの男性が1人。

男性は名刺を渡してきた。

肩書きは弁護士だった。


そして一枚の紙を渡してくる。

『示談書』と書かれている。





示談内容は、一方的なものだった。


・淫行により羽生家の名誉毀損したこと

・羽生家当主に精神的ダメージを負わせたこと



などなど書かれていた。


そして、その示談金として500万円の支払いを命ずる旨が書かれていた。500万円の大金なんて、とても払えない。どうしよう。その時は必死だった。




『支払うかどうか1日ご検討ください。』

そう言って男と看護師は去っていった。

茫然と村を歩く。すると、目の前に坊ちゃんが現れた。



『ぼっちゃま、どうかお父上に取り次いでくださいまし。』


縋るように、土に額をつけて何度も何度も懇願した。しかしあんなに、懐いていた坊ちゃんにお腹を蹴られた。



『うるさい、悪魔を孕みやがって。』


まだ3歳の子どもなのに、悪魔に見えた。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


旦那様はなぜ、私を追い出そうとした。

旦那様はただ私の体で楽しむだけ楽しんで面倒になったら捨てるのか。

旦那様でなくなぜ、看護師が。


頭の中はぐちゃぐちゃになっていった。


私にはもう道が残されていなかった。その日の晩には闇夜に紛れてこの村を出た。


村の入り口を振り返る。道は二股に分かれている。脇道に捨てられた古ぼけた『この先、羽生村』と書かれた看板を一瞥し、足早に逃げていった。



少し違和感を感じつつも、身の安全が第一だった私は、とにかく闇に紛れて駆け抜けていった。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


残金はほとんどなかった。

私は、両親も亡くなっていたから頼れる人がいなかった。とにかく歩いた。警察に保護してもらうことも考えたが、荻羽生村に連れ戻される可能性があったので、やめた。


なんとか、ペットボトルで水道水を組みながら、なけなしの金でパンを買い、ようやく東京に辿り着いた。ただ当てもないのだ。とにかくその日屋根がある場所を探した。しかし、私の残金で入れるようなホテルや安宿はなく、電車の架線下でうずくまっていた。私はどうなっても構わない。しかし、お腹の子はどうなるのか?何もかも途方に暮れていた。



『あのーー』


『はい?』


見知らぬ女性。年は40代くらいだろうか。何か名札を首からかけている。


『あなた、妊娠しているの?おうちは?』


『ありませんーーー、逃げてきました。』


『そうなの。大変ね。』


私はその女性を睨む。



『ああごめんなさい。私、こういう者です。』



母子生活支援施設職員と書かれていた。


『あなたよかったら、使ってみない?私はここで支援しているの。』


『でもお金がないです、、、』


『お金は後からでいいわ。一緒に考えましょう。相手がわかれば、養育費だってとれるし。どうかしら??』


縋るものが他になかった私はーーーー


その施設でお世話になることに決めたのだった

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