いじめ
涼子は、俺にとっての全てだった。
涼子を保健室登校にし、死に至らせ、青春を潰したのはアイツらだ。
萩島玲。
俺の幼なじみで涼子と1年の時、同じクラス。
萩島は裏表のない気さくな奴だと思っていた。
『はあ・・・今日もクラス行きたくないわ。』
『涼子、そんなに大変なのか?』
『そうねえ、太一クンくらいおバカさんが多くて大変。』
『ひどいなあ。』
あれからよく図書館や保健室での逢瀬を繰り返した俺らは、自然と恋仲になっていた。
涼子も俺もクラスに馴染めていない同士ということもあり、距離は急速に近くなった。
ただなんとなく涼子はキスどころか、手を繋ぐことすら許さない。
『つーうっ!』
『おわっ、くすぐったい!』
『くすぐったいだけかしら?いいのよ、生理現象なんだから。』
指先で突然、腹のあたりをなぞるなど焦らしプレー的なことはよくやってくる。
そんな涼子との日々は、官能的で色鮮やかで俺の加虐的な感情を激らせた。
『涼子!』
ある日の保健室で涼子はずぶ濡れになっていた。
『どうしたんだ!?涼子、こんなずぶ濡れで、、、着替えはあるのか?!』
『落ち着いて頂戴。こんなもの大した事ないわ。洞島の血はこんなものくらいで折れたりしないわ。』
ずぶ濡れなだけでなく、少し臭い。
間違いなく、掃除終わりの水バケツあたりでずぶ濡れにされたんだろう。
『誰が!誰が!こんな事を・・・・。』
『ふふ。』
涼子は俺の頬を手のひらで触れる。冷たい手のひらがいっそう冷たい。
『あなたがよく知っている、気立てのいいクラスメイトよ。』
『な、なんで、、、なんでだっ!』
『さあ?自己防衛じゃないかしら?田舎者は弾かれやすいからね。より弱気者を仮想敵にすれば、矛先は向かない。理由なんてそんなところかしらね。』
涼子は静かに立ち上がる。
『太一クン、着替えるからちょっと保健室の外にいてちょうだい?』
絹がすれる音がする。
魅惑的な音が、ひどく屈辱的に聞こえた。
涼子に対する萩島からのいじめ。
涼子はそのせいで今、ずぶ濡れなのだ。
『いいわよ。』
開ける。
涼子は、白のワンピースに身を包んでいた。
『今日はもう帰りましょ?太一クン。温かいお茶でも飲みにいきましょ?』
颯爽と歩いていく涼子を俺は追いかけた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
『萩島ちゃん、今日ちょっとやりすぎヨォ!』
『・・・いいじゃん、あんな奴。』
私は、いじめの主犯格という事にされていた。
東京はこんなんばっかりなのだろうか。
クラスの女子グループに入れてやるからといって、洞島と遊ぶように言われた。
スクールカーストのてっぺんにいるにはこのグループが安泰だった。大した智略も、持ち合わせていない私は、こうやって手を汚すしかなかったのだ。
『ねえ、萩ちゃん、明日はさ、あいつの初モノ奪わせようよ。』
『え・・・・?』
『大丈夫だって。アタシの知り合い使えばさ、なんとかなるし。なんかあってもさ、ウチの家、弁護士だからどうにでもなるって。』
スクールカーストのてっぺんは、三井玲奈。
三井といえば、有名な弁護士一家で、ウチの村にも仕事で来たことがあったっけか。
『玲奈ー、さすがにヤッちゃうのはやばいんじゃね?割に合わないよ。』
誰かが言う。
三井はそいつをキッと睨む。
『ああん!?口答えするんだ?』
『あ、いや、その、、』
汗ダラダラに流しながら、顔を伏せる。
三井はその誰かに近づく。
肩に手を置く。
『まあ、たしかに刑事事件とかなったら面倒だな。じゃあさ、これ飲ませてロッカー閉じ込めちゃおうよ。』
三井が手に持っているのはカプセルだった。
下剤だ。
『うんこ女って最高じゃん!さすが、玲奈!』
『まあ、これなら法律すれすれっしょ?萩ちゃん、明日はこれね。』
『う、うん。三井さん、わかったよ。』
三井玲奈との関わりは、私を不幸にした。
結局はあいつに引導を渡されて、学校を去ることになるなんて思いもしなかった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
『いやっ、開けて!開けてよぉっ!』
ガンガン鳴り響くロッカー。
洞島に無理くり下剤を飲ませて閉じ込めた。
『ヒッヒッヒっー、はあ、愉快愉快!!』
三井が嘲笑う。
『萩島っ、最高だなあっ!!なあ?』
『う、うん、そうだね。ねえ、洞島さん、早くしないと漏れちゃうんじゃない!?』
『開けてっ!お願いっ!いやっ!』
『しかし、ロッカークソまみれにされてもなあ。教室匂うよなあ。』
『三井さん、大丈夫だよ。旧校舎だし、ここ使われてないから。』
『萩島も、頭いいよなあっ!じゃあいいか!このままで!』
仕方ないのだ。
やらなければ、あの時は私がやられていたから。
そう言い聞かせて、洞島の悲痛な叫びをかき消した。
♦︎♦︎♦︎♦︎
『涼子・・・・。』
『何よ。太一くん。』
『どうしたんだよ、何をされたんだ!?』
涼子からの着信があって、旧校舎に来てみたらロッカーの中に閉じ込められていた。
『私のバック取ってくれない?そこにあるでしょ?』
『あ、ああ。』
バックの中身はスカートと下着だ。
『ずぶ濡れにされてから持ち歩くようにしてるの。頭いいでしょ。』
バックを無言で渡す。
『ありがとーーーー』
涼子を抱きしめた。骨が軋むくらいの強さで。
『臭いでしょ、私。』
『臭くない!涼子はいい匂いなんだっ!!』
『・・・嗅覚おかしくなっちゃった?』
涼子は力なく笑う。微かに震えている。
顔は見ない。涼子のために。
♦︎♦︎♦︎♦︎
体育館のシャワーを借りた涼子が出てきた。
こんな時に不謹慎かと思いはしたが、蒸気に当てられて顔がほんのり赤い涼子は美しかった。
『な、何?太一クン。』
『あ、いや、なんでもない。』
そんなことより大事なことがある。
『誰がやった?』
『あなたの幼なじみ。あとは三井。』
『そうか。』
拳を固く握りしめる。
『ダメよ、そんな暴力を暴力で返しちゃ。』
『だけど、、、』
『もっと奴らに相応しい方法があるの。聞いてくれる??』
『ああ。』
『太一クン。私は長くないの知ってるでしょ?だから。私が死んだあとも、彼女らの人生をズタズタにして欲しいの。』
『ああ、必ず。』
『彼女らには死んでもらうわ。太一はずーっと品行方正のままでいて。大丈夫。必ず絶望の淵に叩き落とせるから。』
涼子の計画は、彼女が死んだとしても引き継がれるのだ。萩島と三井は必ず。




