三井玲奈は出来損ない
萩島はあの後実家に泊まり、東京へ帰ったそうだ。
俺はというと、実家にいて親父とまた会っていた。
『男子三日会わなければ、というが、少しは心境の変化でもあったのか?』
『いえ。品行方正に、かつ女を愛することは未だわかりませぬ。しかし、一つわかったことがあります。』
『なんだ?申してみよ。』
『駆け引きは疲れました。』
『羽生家の次期当主が情けない。そここそ、智略をめぐらすところなのだろう。お前も知っての通りこの村は長年戦いを強いられている。ダム問題や、公共工事、役所との癒着。それを乗り越えてこそ今の荻羽生村がある。智略があってこそできたことだ。』
『・・・・。』
『役所のキーマンの女性の心を掴んだのも、私がお前くらいの頃だったかな。ただ本気で愛し、愛し尽くした。そうするとな、面白いことが起こる。女は役所側と自分の男を守ることでの葛藤に心乱されてついには村のダム問題は凍結されたのだ。ただな、私の父の政略に使われたのは違いなかったが、私はな、そのキーマンを本気で愛した。向こうにも愛される為に、駆け引きはしたさ。毎日通ったと思うと、ある日そっけなくしたり、我を忘れ狂うように抱いたと思えば、拒んでみたり。そうこうして、彼女も私を愛してくれた。』
『・・・・。』
『お前は何か勘違いしていたようだが、相手を征服したり支配することが愛にあらず。己の全てをその人に捧げ、愛しつくす。駆け引きはあくまで武器だ。しかし必要な事だ。』
『その愛が報われなかったことはないのですか?』
父は障子の窓越しに中庭の方を見て、目を細める。
『あったさーーー特に当主になってからは、しがらみもあるし、相手が遠慮するなんてこともあった。』
『・・・・追いかけなかったのですか?』
『私は村を預かる身だったのでな。いやーー最終的にはそれを承知した相手が、私の前から居なくなって、それが悲劇に繋がったのやもしれぬ。しかしながら気づいた時はすでに遅かった。』
『・・・・。』
父が視線を俺に向ける。
『なれば。お前は、今まだ、愛のみに生きれる立場やかもしれぬ。だとしたら、愛を貫けよ。』
『わかりましたーーー、お父さん、後1つ。』
『なんだ?』
『今、愛せぬものから愛を押し付けられた時はどうすれば?』
『ふむ。仔細は聞かぬが、そうだな。お前の愛にとって妨げならば、排除せよ。荻羽生村もそうやって生き残ってきた。村の為をと思って、よからぬ企みをするものには制裁を加えてきた。排除だ。それもーーーーー』
『それも?』
生唾を飲み込む。
『品行方正にだ。』
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
ふふふ。
邪魔者は消えた。しかし、クラスの男どもはやりすぎなくらいやり過ぎだ。結果萩島をこの学園から追放できたのだから、問題はない。罪に問われるのも、萩島をズタズタにした男どもだ。
太一くんを迎えることができる。
他にライバルはいない。
肉体でじわじわと追い込んで既成事実を作ってしまえばいい。萩島みたいなやり口で、少々引け目は感じるが、仕方ない。
クラスに入る。
『おはよー。』
『三井さん、おはようー。あ、羽生きてるよ。』
『・・・・。』
じっと机に座り、窓の外を眺めている太一くん。
じわじわと近づく。
太一くんは、私に気づいたのかこちらを一瞥する。
『あ、、、太一くん、、お、おはよう。』
『ああ、三井か。』
こちらを見る太一くんの目はじっとりとしており、視線は外さない。それはかつて私を見るような視線ではなく、何か冷めたような心を貫くような目。喉元にナイフを突きたてられるような感覚。
『あ、あのさ。』
『うん、大変だったね。』
そういうと、写真を出してくる。
私が男とホテルに入る写真。
『あ、それは、その。』
『無理やりだったんだろ?』
『う、うん・・・。』
『そうか。じゃあこれは?』
『えーーーー』
そこにある写真は、私がDJ機材を触り、酒を飲みながら男と口づけをしている写真。
それだけでない。
そうーー情事はホテルだけで展開していたのではないのだ。誰が撮った?こんな写真。萩島?萩島が隠し撮りしたのか?
『俺は、別にこれをどうこうしようとは思えない。だけど、一言言うなら。』
背中に冷や汗がつたう。
『近づかないで、三井さん。俺はキミを愛せない。ヤリたいなら別の男としてくれ。そうでなければ、、この写真をどうにかしてしまうかもしれないんだ。そうだな。俺はね、とても怒っているんだ。いいね。話は、それだけ。』
写真をしまう太一くん。
そのまま立ち上がり、教室を出ていった。
私はそのまま自席に座る。
視界が揺れる。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
終わった。
何もかも。
やっぱり、私は三井の出来損ないなのだ。




