せめて一晩の夢だけでも見させて
『久々に帰省しようと思うんだ。』
『あ、そう。勝手にすれば?』
いつもの保健室。
昼休み。
涼子はバナナを食べていて、俺は菓子パンを食べていた。
『つれないね。』
『別にどうってことないんだもの。』
『保健室で1人だぞ・・・。』
『いつもそうじゃない。』
『・・・・。』
涼子は力強くで抑えようとしても拒まないし、
引いてみたら、引きに乗ってこない。
何をしても俺と一定の距離を取っているのだ。
征服なんて、どうすれば。
大抵は萩島のように引けば引きに乗ってくるし、三井も同様だ。
たぶん無理やり性行為に持ち込めるが、心まで抱くことが叶わない。
『なあ、もし俺がお前を襲って子どもができたらどうするんだ?』
『さあ?産むんじゃないかしら。』
ビビらない。胆力がすごい。
『太一、ビビりさんなのね。』
『え・・・。』
気がつくと、手先が震えており額からは汗が滴り落ちている。
んー?と言いながら、俺の顔を覗きこむ涼子。
『あっはっはっ、退屈しないわね、太一。』
『・・・。』
揶揄われているのだろうか。
手を口元にあてて声をあげて笑う涼子は、とても可愛い。しかし、怖い。底が見えない。何を考えているのだ。白い肌。病的なまでに白い肌。俺はなんでこんな女に囚われているのだろうか。
この女が懇願して俺を求める姿が見たい。
そう、萩島も三井も隙が多い。それに、自らの汚れを隠そうとする。
『全く、こんな男を抱きたいと思う、三井と萩島が信じられないわー。』
高笑いが続く。
こんなに、こんなに振り回されて、彼女に従順になっている俺は羽生の恥さらしなのだ。
なのに、どうしてこんなに涼子をキレイだと思うのだろうか。こんなに、涼子を喜ばせたいと思うのだろうか。
羽生の名前がなければーーーー
俺はーーーー
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『そう、太一が帰省するの。』
ニヤリと微笑む行馬。
『どうするんだ?』
『追いかけるわ。』
『それがいいと思うよ。村に、あるだろ?使われてない診療所跡が。』
『ええ。』
『太一を襲うならそこに呼び出す感じかな??』
『呼び出しに応じるかしら。』
『ああ。呼び出しには応じるさ。そこから抱けるかは萩島次第だな。』
『・・・。』
決行は3日後の夕方。
萩羽生村は特急と在来線さらに最寄り駅からバスで1時間だ。片道6時間の旅程。ようやくバスに乗り込み、村が見えてきた。
萩羽生村。バス停から歩いて林道を抜けたところにある。山々に囲まれた陸の孤島だ。
ここで、私と太一と行馬は育った。
今回は実家に明日の朝に着くことを伝えている。
今日は、廃墟になった診療所のベッドで。
太一の腕の中で寝るんだ。生まれたままの姿で。
廃墟に近づく。
村民がうろつかない夜になるのを待った。
すっかりカラダが冷えてしまった。
『太一に温めて・・・もらわないと。』
錆びついた扉を開く。
目的の場所は奥にある診察室。
『太一・・・・・?』
月明かりが影を照らす。
『萩島、久しぶりだな。』
月明かりと重なった太一の表情はよく見えない。
『太一、、その、、この前は・・・。』
『ああ構わないよ。それより今日は寒いから。』
太一はベッドに座る。
隣を指さす。
『うん・・・。』
手先が震えている。今日、私は太一の慰みものになるんだ。嬉しい反面、なんだろう。なぜ、震えて・・・・。
隣に座る。
『ひゃっ・・・・。』
太一が私の手に触れる。
『こんなに震えて・・・。』
両手で私の右手を包む。全身に血液が急速に巡るのがわかる。
『た、太一。』
『なあ、萩島。本当は怖いんじゃないのか?』
『え・・・。』
『まだお前は抱かない。でも、今日は一緒のベッドで寝よう。』
毛布をかけて、私を寝かす。後ろからそっと抱きしめながら。
心臓が痛くなる。
血流が早い。
だってだってだってだってだってだってだって!
太一が抱きしめてくれてる。
私はたどりつけないと思っていた場所に。
立つことが出来ているのだ。




