仄暗い青春のはじまり
『あ、羽生と鯨井じゃん。どしたの?』
『どしたのじゃねえよ、お前のせいで萩島が泡吹いて倒れたんだろ。』
萩島の肩を抱き抱えるように三井は懸命に運ぶ。
流石に俺と行馬は女の体の萩島を抱き抱えるのは抵抗があるので、一応三井の付き添いだ。
『行馬は、クラス委員だからな。付き添うのはわかる。でも、なんで俺まで。』
『いいじゃねえか、保健室、お前のネグラなんだし。』
『なんだ、それ。』
『頼もー!』
三井は元気よく扉を開ける。
『三井、保健室で頼もーはどうかと思うが。』
冷静に突っ込む。三井は頭はいいのだが、コミュニケーションが変だ。しかし、ショートボブに目を引くくらいの大きさの胸元。くりくりした瞳。
男受けする見た目だ。男にはモテるだろう。
だろうと推測するのは、俺があんまり授業に出てなくて学校の恋愛事情とかそういうのに疎いからだ。
『先生いないな。』
『参ったな。とりあえず萩島は寝かせておくか。』
辺りを見渡す。
ん?
昨日と比べて、保健室が綺麗だ。あのズボラな先生が掃除なんてするのか?サボるたびに目につく、煎餅の食べかすが落ちているような、保健室がだ。
まあ、いいか。誰かさんが掃除してるんだろうな。保健室は少し広めに出来ており、ベッドが4つほどあり、1つはいつもカーテンが閉まっている。
『あそこでいいか。』
カーテンが閉まっているベッドから1番離れたところに萩島を寝かせる。
『はあ、、疲れちまったよ。俺はあ、ここで寝るわ。』
『太一また、サボるのか?』
『太一クンおサボり?』
『具合悪りぃんだよ。』
吐き捨てるように言って横になる。
『頭良くてもぼっちくん?』
三井が覗き込んでくる。
シャンプーのいい匂い。流れるようなショートボブ。豊かな胸元が俺の体に急接近する。
『な、なんだよ?』
『ぼっちくんだね、羽生くんは。』
『べ、別に。行馬や萩島だっているし。』
体を横にして視界から三井を消す。
『勉強しかできないの?』
行馬なんとかしてくれ。
『まあ、具合悪いみたいだし、行こうぜ三井。』
『青春を吐き捨てて、ぼっちくんなんて寂しいよ。』
『じゃあ、三井が羽生に青春を提供してやれよ。』
行馬余計なことを言うな。
『そうかあ。じゃあさ、じゃあさ。同好会作ろうよ??』
『なんのだよ?』
行馬、もうリアクションすんな。変な方向に話が進んでるぞ。
『うーん、羽生くんの青春を取り戻す同好会は?』
『ふむー。確かに羽生は保健室か図書館にしか生息しなかったからなあ。青春は一度きりだからな。よし、萩島も巻き込んでなんかやろう!』
『おい、俺を差し置いて話を・・・。』
『そうだよ!太一はもう大学決まってるんだからっ!やろうやろう!!何やる?』
萩島が復活した。
『同好会かあ。よし、じゃあ合宿やるか。』
『だからなんのだよっ!?』
『おい、太一!お前んちの別荘でやるぞっ!』
『き、行馬・・・。』
なし崩し的に決まったなんだかよくわからない合宿と同好会。行き先は、俺の家が持っている海が近い別荘になった。