さようなら玲奈
登校のいつもの道。
ゆっくりと並木道を歩く。イチョウの葉が床に落ちて、黄金色の絨毯のようだ。
『太一クーン!』
三井さんが来た。
手を振りながらこちらに向かってくる。
俺のことを好きと言ってくれた女。
好きとはなんだろうか。組み伏せる関係では、おそらくない。三井さんはなんだろう。なんで俺と付き合っているのか。
彼女では、征服欲は満たせない。
『やあ、三井さん。』
『あははは、おはよう、太一クン。名前で呼んでくれないんだね。』
『・・・・。』
『一緒に学校行かない?』
『別に・・・そのくらいなら。』
三井さんを拒んでから、距離ができた。
近いけど、遠い。おおよそ、恋人と呼ぶには遠い距離。これ以上、恋人ごっこは、、三井さんに悪い。
肉体的な生理現象だけならこの女の子を隅々まで堪能したい。だけど、それはこの女の子に服従したみたいじゃないか。そんな姿、父の求む品行方正ではないのだ。
イチョウの葉が木枯らしで舞い散る。空が黄金色に輝くように。イチョウの葉が地面に落ちる頃、三井さんの顔を見た。
父のように品行方正で、金も人心も全て得て、自分が征服したい女性を征服する。
それを行うには、今は邪魔なんじゃないだろうか。そう全てリスタートできればいいのに。
『羽生くんはさーー』
『・・・・。』
『やっぱり、羽生家の人間らしく居たいんだよね。』
『・・・?』
三井さんが何を言っているかわからない。
『三井さん・・・・??』
『私ね・・・・。家柄に囚われてるの。お父様に認められたくて。でも、無理みたい。だって私は、、バカだから。』
『三井さん・・・。』
『羽生クン、私のこと好き?』
『・・・・わからない。』
『・・・。』
三井さんは口をパクパク言わせている。彼女なりの駆け引きだったのだろう。
『ごめん・・・・。』
秋風が吹き荒ぶ。
今日は一段と冷たい。
『三井さん、別れよう。』
『・・・・・・。』
君では、だめだ。
今の僕では、だめだ。
僕が羽生家の次期当主に相応しい器になるために。
このゲームはリセットしなくてはならない。まず必要なのは。
洞島涼子を僕に従わせることだから。
『さようなら、三井さん。好きだったよ。』
満面の笑みを浮かべる。
知っている。三井さんは粘着質のように執着深い。
君も嫉妬に狂い、何がなんでも僕を手に入れようとする姿勢はつい心動かされたよ。
でもキミじゃダメなんだ。
だってキミは、涼子の仇だから。
ここまでは、涼子の筋書き通り。
あとは勝手に自滅していくさ。
泣きながら走り去る三井さんの後ろから現れる僕の愛しい人。
『涼子・・・・。』
『振られるなんて思ってなかったわね。』
『いや、だって気持ち悪いよね。こんな人。』
涼子からもらった写真。
三井と知らない男がホテルにしけ込む写真。
『萩島は、これで僕らが別れたって勘違いしてるわけか。』
『萩島はチャンスだと思うはずよ。』
『どうして?』
『そう、吹き込んだから。』
『でも、抱かないよ。』
『大丈夫よ。この写真を撮ったのが、萩島っていう事実が大事なのよ。ふふふ。』
涼子は不敵な笑みを浮かべる。
『私、今日は学校休むわ。』
『そう、残念だ。』
『ところでーーー』
涼子は振り返る。
『あなたは、お父様のように品行方正で女に困らないような、女の愛し方、ちゃんと学ばないとだめよ。それに気づけない人は、私の心なんか掴めやしないんだから。』
吐き捨てるようにそう言って、
涼子はウェーブがかかった髪を手の甲で払い、去っていった。




