萩島の失敗と三井の失敗。
俺は、あいつに呼び出されて体育倉庫に来た。
カビ臭く空気も汚い。
バスケットボールのゴムくささが鼻につく。
ゴムか。
その時開きかけていた、扉が閉ざされあいつが後ろから体を寄せてくる。
吐息が首筋にあたる。
視線だけ送る。
いつもはポニーテールのあいつが、ポニーテールのシュシュを外し赤髪をストレートに下ろしている。
『ねえ、太一。』
『な、なんだよ。』
生唾を飲み込む。
『私だってあの子ほどじゃないけど、オンナの体だからあなたを喜ばせることはできるんだよ。』
あいつの表情はいつもと違う。
幼なじみとして、恋のキューピッドでなく1人の女性としての覚悟を持ってここにきた。
体育倉庫の窓灯りだけが僕らを照らす。
何か金縛りにでもかかったかのように動くことが叶わない。
そのうち僕の胴体に腕を巻きつけてくるあいつは確かに魅惑的な女の子だった。
何が起きているかわからないまま、僕はあいつに向き合うことにした。
『萩島。どういうつもりだい?』
『どういうって・・・太一に私の初めてをあげるわよ。ううん、一回きりじゃない。したい時はいつでも呼んで。便利に使ってもらっていいの。』
腕を絡ませてくる。胸板にあった手は腹回りに落ちてくる。
ああ、女性を組み敷き好きなようにできる。
そんな理想がすぐそこに横たわっているのだ。
でも、違うのだ。
これは、萩島が俺と寝たいから迫ってきていて
俺が萩島を性の捌け口にしたいから、という構図ではない。
父のように品行方正で清廉潔白ながら、気に入った女を犬のように扱いたいのだ。
だって犬を飼う時もそうだろう?
ご主人様が、犬を飼いたいから飼うのだ。
犬から飼って欲しいなんて、なんと上から目線なのだ。そういう意味で言うと、三井もそうだが、三井はいいのだ。
『萩島、ごめん。』
腕を引き剥がす。
『え・・・どうして・・・?』
『俺は三井がいいから。』
そうあの俺を手玉に取った女を、絶望に叩き落とすという意味で。
三井は俺の獲物に相応しい。
『わ、私じゃ、私じゃ、ダメなの!?』
『ごめん。』
犬が主人を選ぶお前なんてごめんだよ。惜しかったな、萩島。別にお前の見た目や体は別に犬としては合格点だ。
『じゃあ、帰るから。』
体育倉庫を去る。
俺はむしろ。
他に好きな人がいてもいい。寝取られたって構わない。
そんな事を考えられないくらい組み敷き、従わせたいのだ。
品行方正に。
清廉潔白のまま。
さて。こんな動画、品行方正を妨げるものはいらないのだ。
ねえ、誰かさん?
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
『撮れた、撮れた。』
決定的瞬間。
人のものに手を出す萩ちゃん。
正直、太一クン、萩ちゃんとヤっちゃうかと思ったけど、所詮私には叶わないってことね。
『萩ちゃん、いい加減不愉快かな。太一クンには悪いけど・・・。』
『人の男を寝とる泥棒猫は、どう料理してあげようかしら。』
明日から面白いことになる。
私を怒らせたら、大変なんだから。
『あれ??』
撮ったはずのデータがない。
動画データ一覧を見る。
『あれ。あれっ!あれええええっっ!?』
萩ちゃん?
太一?
このスマホの存在に気づいていたっ??
『あああああああああああああああああ!くそくそくそぉっ!』
スマホを叩き割る。
爪を噛む。
どうやって悟られたっ!?
マズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ!!!
どっちだ!?どっちなんだ!?
『ま、まあでも、大丈夫よ。大丈夫。萩島でも太一クンでも。やましいことをやりかけたんだから、、、問題ない。問題ないっ!』
一泡蒸された。
くそっ!!くそっ!!




