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いち



ある日を境に、私の周りは変わってしまった。

始めは皆に嫌われていたような人間が、突然善人となり、誰からも好かれるようになったのだ。

直後は周りも怪しむ様子を見せていたけれど、今ではもう皆彼女の虜。


ただ一人、私を除いては…。


だって信じられる訳がないじゃないか!

彼女は自分の家より爵位が低いからって理由で、いつも私を虐げてきたのだ。


ある時は、園遊会で足を引っ掛けて転ばされ笑い者にされる。


またある時は、偶然彼女と同じ色のドレスを着ていたからとお茶を掛けられた。


それ以来、私は誰よりも地味な装いをするようになったが、それはそれでセンスがないと馬鹿にされた。

虐めは無くなるどころかどんどんと酷く、陰湿になるだけだった。


そんな私を両親は助けることなく、彼女の両親に媚びへつらってばかりで、家に帰ってもう嫌だと泣く私を慰めるどころか『彼女は次期王妃となるのだから仲良くするんだ。少しくらい我慢しなさい』言い聞かせられる。

幼い私は、泣くことも許されず、更には絶対の味方であるはずの親にすら頼ることができない事を知った。


兎も角、私は幼い頃から彼女に苦痛を強いられてきたのである。


そんな中、私達が8才になる頃、彼女は高熱に魘され生死の境を彷徨っていると連絡が来た。

家でその話を聞いた時、いい気味だと思った。正直、このまま居なくなってくれたらどれだけいいだろうとすら考えてしまった。


そんな醜い心を神は見咎(みとが)めたのか、暫くして、彼女の家で快復を祝うパーティーの招待状が届いた。

仮病を使おうとしたのだが、例え本当に風邪を引いていても連れ出すのがこの親だということを、すっかり忘れていた私は、恐々と、彼女の家に連れて行かれたのだった。


だが、そこで私は目と耳を疑う事態に遭遇(そうぐう)する。


到着してすぐに私は彼女の取り巻き達に囲まれると会場の隅へと連れていかれ、やれ地味なドレスだとか、やれ伯爵令嬢として恥ずかしくないのかとか口々に嘲笑われた。

その中には自分より下の家のものも居て、悔しくて恥ずかしくて、既に帰りたくて仕方がない。



「何をしているの?」



唇を引き結んで耐えていると、背後からと聞きたくない声が聞こえた。そう、彼女だった。



「アイーシャ様!ご快復心よりお喜び申し上げます」


「心配しましたわ。お体の具合は如何ですか?」



取り巻き達は口々に快復を喜ぶ言葉を送るが、彼女の表情は明らかに祝われる者のそれではない。眉間に皺が寄り、ただでさえ釣り気味の目尻を更に吊り上げて、口をへの字に折り曲げている。


明かに不機嫌。


これは早速嫌味を言われるな、と覚悟を決めた。

嫌味だけで済めばいいけど…。



「何をしているの? と聞いたのだけど?」



しかし、聞こえたの同じ問い掛けだった。



「え?」


「何って…」



取り巻き達は戸惑っているようだが、正直私の方が戸惑いは大きい。

何故ならいつもなら嬉々として加わってくる彼女が、その鋭い視線を、私ではなく取り巻き達に向けているのだから。



「私はこの子と二人で話したいことがあるの。さあ、行きましょう」



彼女は固まっている私の手を掴み、そのまま取り巻きの群れから抜け出す。手が放された時には、私は綺麗に整えられた庭園の一角にいた。

人気が無い様子に私は理解する。



「メリッサ」



ああ、私はここで彼女に虐められるのか。

さっき庇ったように感じたのは、久し振りに虐めよう(あそぼう)と思っていた玩具が、勝手に別の人間に使われようとしていたのが気に食わなかっただけなのだ。


当たり前だ。彼女が私を助けるなんて、そんなことは有り得ない。むしろそんな事が有ったら気持ち悪いし何を(たくら)んでいるのか怖すぎる。



「メリッサ」



手が伸びてきて無意識に体が震える。打たれるのか、髪の毛を引っ張られるのか…。

痛みが来るのを想像して目をきつく閉じて構えた。


───ぽすっ


しかし訪れたのは優しい衝撃で、頭が真っ白になった。



「こんなに震えて…怖かったわね。もう大丈夫よ」



加えて優しげにこちらを気遣うような言葉。

ギギギ…と音が鳴りそうな程の動きで顔を上げてみると、そこには優しい微笑みを浮かべている彼女がいた。


…誰だ、この人は?


私の知っている彼女ではない。彼女の生き別れの双子の片割れだ言われた方がしっくりくる程、人が変わっている。

だがそんな事があれば社交界は大騒ぎになっているはずだから、目の前の彼女はアノ彼女で間違いない。


思わずポカーンと見詰めていたら、彼女は申し訳無さそうな表情に変わった。



「わたし、寝込んでいる間、ずっと貴女に謝りたかったの」


「……え?」


「今まで意地悪をしてごめんなさい。貴女がご家族ととても仲が良いのを見て、羨ましかったの」



彼女は何を言っているのだろうか?私が羨ましい?家族と仲が良くて?何を見ていたのだろう?

本当に仲が良ければ、私が虐められいたら助けてくれたはずだ。助けを求めても我慢しろなんて言わないはずだ!



「……っ!」



背ずじに寒気が走る。顔から血の気が引き、体が震える。

私の様子に気付かずに、彼女は尚も話し続けていた。



「今更何だって思われるかも知れないけど、わたし、今度こそメリッサと本当の友達になりたいの!」



これは誰だこれは誰だこれは誰だこれは誰だ!


ほんの数週間で人はここまで変わるものなのか?

死にかけて初めて、今までの行いを振り返り反省した?いや、彼女はそんな人間ではない!


不安そうにコチラを伺う彼女に今までのような負の色は見えないが、だからこそ恐ろしい。

まるで、何か得たいの知れないものと入れ替わったのではないかと疑ってしまう程に、人が変わってしまった。


キ モ チ ワ ル イ



「…メリッサ?」



彼女が私の顔に手を伸ばして来たの姿を最後に、私の意識はフェードアウトした。



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