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月と太陽の交わるところ  作者: 白髪銀髪


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気合の入った女の子と、ショッピングをして、お茶をして、ライブを見に行く 2

 でも、その前に。


「お昼にはまだ少し時間があるけれど、どこか、喫茶店にでも寄っていこうか。ファーストフードでもいいけれど」


 お腹が空いているんじゃない、と女の子ではあってもまごうことなき女性に直接尋ねるのは、またデリカシーに欠けるだろうと思い直し。


「ええっと、ほら、コンビニで買うのだと今は寒いし、外で食べてゴミ箱まで持ち歩くのも面倒でしょう。デパートにはレストラン街もあるけれど、そっちのほうがいいかな?」


 多分、高校生と小学生だけでは利用できないお店というのは、酒類を主に扱うところだけだろうけれど、僕たちはそんなものを頼みたいと思っているわけではないし。

 

「い、いえ。喫茶店でいいです」


 どうせライブは海浜公園であるのだから、『ミニヨン』まで戻ってもいいけれど、あそこは主にお菓子類が専門で、成長盛りの僕たちには、少し物足りなく感じるかもしれない。

 縁子ちゃんをあまり歩き回らせるのも悪いと思い、最初に発見した喫茶店に入る。

 もちろん、スウィーツ類だけでなく、きちんと料理も提供しているところだ。

 僕はオムライスを、縁子ちゃんは生ハムとほうれん草のパスタをそれぞれ頼み。

 ああ、そうだ、忘れないうちに言っておこう。


「縁子ちゃん、僕が言うことでもないかもしれないけれど、今年も一年、紫乃と仲良くしてくれてありがとう。それだけじゃなくて、今年は僕も大いに助けられたけれどね。来年も、多分、迷惑をかけるとは思うけれど、よろしくお願いします」


「私のほうこそ、今年は空楽さんに助けていただきましたし、いくら感謝してもしきれません」


 人を――それも知り合いならなおさら――助けるのは当たり前のことだし、感謝されるようなことではないと思う。

 というか、あの出来事をネタに小説まで書かせて貰っている以上、もしかしたら、肖像権とかの問題で、むしろ、謝らなくてはいけないのは僕のほうかもしれない。

 まあ、その小説は文化祭で僕たちの出した同人誌を購入してくれた縁子ちゃんにも届いているし、きちんと感想までもらってしまっている。今までなにも言われていないということは、縁子ちゃん自身、あまり気にしていなかったからかもしれない。もしくは、あんな体験は忘れてしまいたいと思っているのなら、わざわざ掘り返すこともないだろう。


「紫乃のことは、むしろ、感謝しているのは私のほうなので」


 縁子ちゃんは遠くを見つめるような、綺麗な表情をしていた。

 

「紫乃となにかあったの?」


「いいえ、なにも」


 縁子ちゃんは静かに首を振る。

 なにもなかったのに感謝している? 世界平和みたいなこと? それとも、なにもないがあるみたいな、哲学っぽい話?

 紫乃と縁子ちゃんは、小学校に上がる前から、知り合いで、友人で、親友だったと思っていたけれど、もしかしたら、僕の知らないところでなにか素敵なエピソードがあったのかもしれない。

 文芸部員の僕としては、ぜひとも、その経緯を聞いてみたいところではあるけれど、今の縁子ちゃんの表情を見ていれば、それがきっと縁子ちゃんにとって宝箱の奥底の物のようだということくらいは察せられたので、尋ねて引きずり出してしまうのも野暮だと思い、それ以上は聞かないことにした。


「お待たせしました。オムライスと、生ハムとほうれん草のパスタです」


 普段はお弁当だし、滅多に外食なんて行かないけれど、まあ、クリスマスくらいはいいだろう。

 チキンライスというのもクリスマスには合っているし。

 僕にとっては、丁度いい、もしくは、少し物足りないくらいの量ではあったけれど、小学生の縁子ちゃんには結構大変だったみたいで、食べ終えて店を出るころには、丁度いい時間になっていた。

 もちろん、食後に走る必要もなく、のんびり歩いて向かえば、丁度、ステージの準備をしているところらしく、スタッフだろう、黒い服の人たちが、スピーカーやら、ドラムセットやらを奏先輩たちと一緒に準備しているところだった。

 幸い、天気は晴れていて、感じる寒さほどには、雪や雨は降りそうにもない。

 

「お客さん、結構いらっしゃいますね」


「そうだね」


 幸い、椅子に座れないほどということではなかったけれど、前列のほうは思っていたよりも埋まっていた。

 今日のステージは『昼休みデザートプリン』の単独ライブなのに、さすがの人気だ。

 これは、ちょっと本番前に挨拶に、なんてできそうな雰囲気でもないな。

 まあ、奏先輩とは、多分、明日会うことになるわけだし、急ぐ用事もあるわけではないから、気にすることもないか。

 チャリティーライブであるためか、客層的には、大人のほうが多い。僕たちと同年代くらいの人はまばらに思える。

 中には、おそらくは夏に行われたというフェスで手に入れたのだろう、『昼休みデザートプリン』のグッズを持っているような、コアな方たちもいらっしゃった。

 あれは、奏先輩たちが自作販売していたのかな? それとも彼らが自作した物だろうか?

 アイドルのライブなんてものには、もちろん、行ったことはないけれど、似たような雰囲気である――人たちがたくさんいる――のだろうか。

 時間になり、奏先輩たちが姿を見せると、集まった人たちのテンションは最高潮に高まった。もちろん、これが最高であるかどうか――つまり、まだ上があるのかということはわからないけれど。

 奏先輩たちがいつもの制服姿ではなかったからだ。

 女子高生バンドということも売りのひとつと考えているのか、学内でやるのにそこまでは必要ないと思っていたのか、理由はわからないけれど、基本的に、僕が見たことのある奏先輩たち『昼休みデザートプリン』のライブ衣装は、極浦学園の制服姿だった。

 しかし、今日はなんと、赤の下地に白いファーや大きなボタン、膝よりわずかに上の丈の赤いスカート(こちらも白く縁取られている)に加え、白いポンポンのついた赤い帽子をかぶっているという、俗に、サンタコスと呼ばれるような格好だった。

 正直に言ってしまえば、寒くないのか? というところだったけれど、多少の寒さより、女性が見た目を重要視することは知っていたし、なにより、そうすることがお客さんに喜んでもらえると奏先輩たちが考えられた結果なのだろう。実際、客席は大盛り上がりだ。

 演奏は、もちろん最高だった。

 クリスマスライブということで、いつもの選曲とは異なり、クリスマスソングが中心だった。

 当然、新曲もあり、寒さなどあっという間にどこかへ吹きとばす。タオルも使っていたことから、もしかしたら、ステージ上の奏先輩たちは、あんな格好にも関わらず、汗までかいているのかもしれない。

 途中で、偶然、奏先輩と視線がかち合い、指鉄砲を撃たれる真似をされる。

 周りの人たちは撃たれたふりをしていたけれど、そういうのがノリというものだろうか。あいにく、僕は反応が遅れてしまったのだけれど。


「空楽さんは奏さんとも仲が良いんですね」


 縁子ちゃんが呟いた声は、会場は熱狂しているにもかかわらず、隣にいた僕にはしっかり届いた。


「うん。親しくさせてもらっているよ。どちらかと言えば、というより、僕が一方的に御迷惑をかけている感じだけれど」


 奏先輩には事あるごとに頼ったり、小説の感想を求めたりしているけれど、僕ができているのはせいぜい、学内ライブや、たまにこうして、学外ライブに来ることくらいだ。正直、借りは溜まり続けている。

 

「でも、素敵です。私はそんなに頻繁に聴かせていただいているわけではありませんが、素敵な音楽だということはわかります」


 

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