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月と太陽の交わるところ  作者: 白髪銀髪


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気合の入った女の子と、ショッピングをして、お茶をして、ライブを見に行く

 お菓子作りからするということは、当然、前日から準備はされるはずだ。

 日陽先輩を連れてゆくのが昼頃、つまり、当日にも準備の時間はあるとはいえ、半日……じゃない、せいぜい数時間しかないにもかかわらず、すべての料理を作ることなど、さすがの弥生先輩でも、いくら有志による手伝いがあるとはいっても、不可能だろうし。 

 そういうわけで、弥生先輩に料理の準備を紫乃も手伝わせて(一応、邪魔にはならないと思う)もらっても構わないかという話をすれば、ふたつ返事で了承を得られた。


「……夏休みの合宿の際にも一緒にお料理をしたことはありましたし、楽しかったですから」


「すみません、こちらの我儘を聞いてくださって。よろしくお願いします」


 僕はその準備には参加しないのか、という話になる前に、会話は切り上げさせてもらった。

 そこに話が及んだとして、言い訳をする準備はあったけれど、不審に思われるかもしれない要素はなるべく排除したい。

 いや、べつに、クリスマスのプレゼントを準備するくらい、隠し立てすることもないかもしれないのだけれど。どのみち、縁子ちゃんにサプライズは不可能なわけだし。

 そういえば、縁子ちゃん自身へのプレゼントはどうしようかな。さすがに、本人へのプレゼントを本人に聞いて選んでもらうなんて真似はできないし。

 まあ、当日の縁子ちゃんの様子をよく観察してかな。

 いや、変な意味ではなくて、こう、視線とかから、気になっていそうなものを推測するということで。

 普段、文芸部の女性陣とは、そういう買い物に出かけることがないため、当然、視線を観察することはできず、会話からの類推も難しい。なにせ、ほしいものとか、そういう話をしていることは少ないからな。あのおやつがおいしかったとか、今はこの本を気になって読んでいるとか、そういう話ならいくらでもしているのだけれど。

 しかし、お菓子も本も、今回はプレゼントに選ばない方針だし。

 そんな感じに、下手なりに考えていたのだけれど、やはり、休んでいるのとほとんど変わらず、つまり、良いアイディアは結局思いつかなかった。



 縁子ちゃんとは、駅前にある交番のところで待ち合わせをした。

 さすがに、小学生をナンパしようなんて輩がほいほい出没するはずもないだろうけれど、さすがに紫乃と同じ年頃の子が一人でいることには危機感もあったし、なんて言うと、子ども扱いしないでください、と縁子ちゃんには膨れられるだろうから、本人には言えないのだけれど。


「ごめん、縁子ちゃん、おまたせしちゃったね」


 僕が駅前まで着いたとき、すでに縁子ちゃんは交番の前に立っていた。

 暖かそうな、厚手のコートに身を包み、駅前の広場に立っている時計を見つめている。

 僕はスマホで、まだ待ち合わせの時刻の十分前であることを確認しつつ、駆け寄った。


「いえ。私も今来たところですから」


 手櫛で前髪を整えつつ、ほんのりと頬を赤く染めた縁子ちゃんに、はぐれてしまわないよう、手を差し出しながら。


「今日は付き合ってくれてえありがとう。こんな時期だし、お友達とも遊んだり、それこそ、パーティーでもする予定があったんじゃないの?」


 紫乃はまだ、どこに出かけるとも話していなかったけれど。 

 夏休みにはお友達となにやら衝突していたみたいだったけれど、その後は仲良くしているみたいだし。


「いえ、とくにそういう話はしていません」


 へー。そういうものなのか。

 僕も小学生当時、友達とクリスマスパーティーなんてものをしたことはなかったけれど、連司や、道場の友達とも一緒に遊んだような。

 まあ、縁子ちゃんがしたいようにするのが一番なわけで、僕があれこれ口出しするべきことではないな。

 おかげで、こうして付き合ってもらえているわけだし。


「それで、空楽さんはどのようなものを贈りたいとか、はっきりしたことではなくても、考えてはいらっしゃるのでしょうか?」


「女の子って、どんなものを贈られたら嬉しいんだろう。やっぱり、アクセサリーの類が丸いのかな?」


 リボンとか、シュシュとか。

 さすがに貴金属は気取り過ぎだろうけれど、文芸部の女性陣は、あまり、そういうアクセサリーの類はつけないんだよな。

 前に、一ノ瀬先輩が居酒屋のバイトをしていらしたころには、ゴムで髪をまとめていらしたけれど、今は家庭教師のバイトをしていらっしゃるわけだし、過度な装飾はあまり好まれないかもしれない。

 弥生先輩は、多分、そういうアクセサリーの類はたくさん持っていらっしゃるのだろうけれど、付けているところを見たことはないんだよな。

 もちろん、氷彩さんと話していたような、パーティーにつけてゆくようなアクセサリーを僕なんかが賄えるはずもないだろうけれど。

 奏先輩はどうだろう。それこそ、普段から一緒にいるわけではないから、プリンが好きなことは存じ上げているけれど、まさか、それをプレゼントにするわけにも、今選ぶわけにもゆかないし。ライブのときにも、アクセサリーはつけているのだろうけれど、あまり目立ちはしていないから、もしかしたら、本当はつけていないのかもしれないし。

 日陽先輩は、多分、本を贈るのが一番喜ばれるんだよなあ。

 しかし、おすすめの一冊を送るにしても、すでに持っている本を被らないようにする必要があるわけで、日陽先輩の文庫本の所持事情を把握しているわけでもないからな。


「好きな相手からのプレゼントなら、その自分のことを考えながら選んでくれたのだという事実こそが、一番だと思いますけれど。もちろん、好きでもなんでもない相手からの贈り物なら迷惑に思えるときもあるという話と裏表でもあるんですけれどね」


 その理屈だと、僕が先輩方に好意的に思われていなかった場合、なにを贈っても面倒がられるということでは……いや、それならそうと言ってくれるか、なんとなくでも日頃の態度から分かるはずだし、嫌われてはいないはずだ。

 

「でも、そうですね。皆さん、なんであっても喜ばれるとは思いますけれど、消え物は今回は適さないみたいですし、空楽さんのおっしゃっていたとおり、アクセサリーがいいのではないでしょうか」


「縁子ちゃんも嬉しいかな?」


 縁子ちゃんは数度目を瞬かせ。


「な、なんで私の話になるんですか?」


「なんでって、だって、縁子ちゃんにもプレゼントは贈りたいし。せっかくなら、喜んでもらえるものをと思っているからね」


 縁子ちゃんの好きなものなら、紫乃に聞くのが早いかもしれないけれど。

 しかし、こうして本人に聞いてしまうのは、サプライズという点に関しては、いささか、どころか、大分、間違っているだろうけれど。

 とはいえ、まったく、微塵も気にならないものを贈るよりは、よっぽどいいはずだ。多分。


「……私は、皆さんより素敵なものを、すでにいただいているので」


「えっ? 僕なにか縁子ちゃんに渡してたっけ?」


 まったく、覚えがないのだけれど。

 もしかして、ついに、僕にも分身が? それとも、もう一人の僕というやつだろうか。


「そういえば、空楽さん、まだ時間は大丈夫なんですか?」


 奏先輩たちのライブは、お昼ごろから始まる予定だ。まだ、小一時間ほど余裕はあるし、ここから海浜公園まではバスなら数分とかからない。

 

「うん。まだ、もう少しは。縁子ちゃんは疲れてない? ずっと歩き回らせてしまっているけれど。遠慮しないでね」


 雑貨店やアクセサリーショップ、それから本屋も見て回り、縁子ちゃんの意見も参考にしつつ、なんとかプレゼントを選び終え、一緒に海浜公園へと向かう。

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