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月と太陽の交わるところ  作者: 白髪銀髪


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七海春善の謎 11

 電話をかけても、やはり応答はない。

 まさか、誘拐とか?

 日陽先輩は珍しい真っ白な髪と真っ赤な瞳の持ち主であることだし、体力的には貧弱な女子高校生だ。

 一応、警察に届けを出したほうがいいのか? ご家族に連絡するべきなのだろうけれど、その海原家の連絡先は知らないしな。

 ただ出かけているだけというのなら、通話に出ないというのはおかしいし、そもそも、学園を休んで出かける必要があるとは思えない。それなら、学園のほうにも連絡があり、クラスメイトである奏先輩たちにも通達されているはずだ。

 

「帰って来るまで待つこともできなくはないと思いますが、どうしますか?」


 幸い、今は試験休み期間であり、残る二学期の登校予定はテスト返却日と終業式の二日だけだ。

 少なくとも、今週一週間は休みがあり、このアパートの利用者に不審がられて通報されるというリスクを鑑みなければ、たとえば、寝袋などを持ってこの部屋の前で張り込みをする、という方法もとれなくはない。

 

「帰ってくるまで待ってみるって、秋月くん、あなた、何日間待つつもり?」


 一ノ瀬先輩にはバイトがあるから無理かもしれないけれど、僕としては、学園が無いときの用事なんて、せいぜい、道場へ通うくらいだし、ここから通うのも、自宅から通うのも、さして違いはない。

 まあ、テント……寝袋まで準備して本格的にやるとなると、他の住人の方にかなり迷惑になると思うので、あまりやりたくはないけれど。


「待つにしても、いつもどおりに過ごしながらでいいでしょう。もちろん、私だって連絡のつかない海原さんのことは心配だけれど、彼女だって高校二年生なのよ。もうすこし、信じてみてもいいんじゃないかしら」


 信じるといっても、高校二年生はそこまで大人でもないと思うのだけれど。

 それに、一ノ瀬先輩だって、連絡がつかないこと自体は不審に思われているわけだし。


「それは、そうだけれど……」


 一ノ瀬先輩も言葉を詰まらせる。

 まさか、冬休みの時期を勘違いして、早目の旅行に出かけている、なんてこともないだろうしな。

 いずれにしても、連絡がつかないというのが一番おかしい。

 出かけていて、鞄にスマホを仕舞ったままなのかもしれない。

 いや、単純な旅行というのなら、文芸部の部員である僕たちに先に声をかけないはずがなかった。

 まさか、事故とか? それでも学園に連絡は入るはずだけれど。

 一応、ネットでここ数日間の、周辺地域での事故について調べてみる。

 軽傷者はいたみたいだけれど、死者は出ておらず、病院に運び込まれたという記録もない。重傷なら、やはり、学園に連絡が無いというのはおかしな話だし。

 僕たちは念のため、駅前の交番まで出向き、交通事故、電車の事故について尋ねてみたけれど、真っ白な髪の女の子が関わったという記録は残されていなかった。

 警察官の方も覚えがないという顔をしていたし、日陽先輩を見かけたのなら、絶対印象には残っているはずなので、すくなくとも、この駅前を通り過ぎたということはないはずだ。一応、駅員の方にも同じことを質問させて貰ったけれど、答えは同じ、覚えはないということだった。

 つまり、日陽先輩が電車を使った可能性は限りなく低いということになる。いや、もはや、電車の利用(少なくともこの駅の利用)はしていないと断定しても良いだろう。

 それは、バスにしても同じだった。

 真っ白な髪の高校生くらいの女の子を乗せたという記憶は、この地域一帯のバスの運転手の方には残っていなかった。 

 

「一応、捜索願を出したほうがいいのでしょうか?」


 丁度、近くに交番もある。

 

「そういうのは普通、家の方がするものではないかしら」


 家、か。


「そういえば、日陽先輩の御実家、海原家ってどこにあるのかご存知ですか?」


 日陽先輩はあのアパートのひとり暮らしをしながら、学園まで通っていた。

 もしかしたら、なんらかの事情で実家に帰る必要があり、そこでなにか電話にも反応できないような、あるいは電源を切りっぱなしにしている必要がある事態に遭遇しているのかもしれない。 

 まあ、どんな場合を想定したとしても、学園になんの連絡もない、という事実が足を引っ張るわけだけれど、まあ、そこは試験休みだし、ということで納得できなくもない。

 

「いいえ、私は知らないわ」


 一ノ瀬先輩は首を横に振られ。


「……すみません、私も存じ上げておりません」


 弥生先輩もそれは同様だったけれど。


「けれど、調べていただくことは、できないこともないと思います」


 ただし、それだけでは終わらなかった。

 清雅さんが、どのような会社を、いくつ経営されているのかは知らないし、どれだけ顔が広いのかもわからないけれど、実際、今まで、かなり頼らせて貰っている。

 向こうから申し出てくださったこともあるし、善意からのことだとわかってはいるけれど。


「……私も海原さんのことは心配ですし、空楽さんたちが遠慮されても、私が勝手に父に頼んでしまうかもしれません」


 脅迫じみた言い方だった。

 もちろん、弥生先輩が僕たちにも決断しやすいようにと、わざとそういう言葉を選んでいらっしゃるのだということは伝わっている。

 しかし、年末といえば、先生ですら忙しい(実際には、先生はいつでも忙しいのだけれど)といわれる時期だ。

 そんな時期に、いくつかの会社の社長という、想像もできなさそうな忙しさを誇る清雅さんに、個人的な、しかも、日陽先輩が隠したがっていることを調べてもらうというのは、気が引けるというか。

 もちろん、清雅さんではなく、探偵会社というものも世の中に存在していることは知っている(街中にも、たまに犬の写真のプリントされたものが貼られていたりする)し、今の口調だと、弥生先輩はおひとりでも動かれるに違いない。


「……わかりました。ですが、とりあえず、最初は学園で尋ねてみませんか。毎度、清雅さんに頼り切りというのはよくないと思うんです」


「それは私も同感ね」


 目的を達成するために、使えるものはなんでも使う、それもまた、正解ではあると思う。

 しかし、そればかりに頼っていても、成長はない。

 それに、いろいろと手段を模索することは、創作にも必ず活かされるはずだ。



「海原さんの御実家? 悪いけれど生徒のプライベートな情報を公開することはできないわ」


 学園へ戻った僕たちは、職員室で、日陽先輩の所属する二年一組の担任である佐倉先生に尋ねてみたけれど、残念ながらというか、当然というべきか、断られてしまった。

 極浦学園は、ごく普通の高等学校であり、漫画やライトノベルに登場するような、生徒会が巨大な権力を有しているなどということはないため、生徒会長である一ノ瀬先輩であっても、個人情報の閲覧はできたりしない。

 学園側としても、日陽先輩はテスト自体はきちんと受けていたため、休みの期間になにをしていようと――もちろん、犯罪など、悪事に関わっらなければというのは前提だろうけれど――個人の自由だと考えているのだろう。


「では、日陽先輩と連絡の取れないような事情をなにかご存知ではないですか? 今が試験休み期間で、学園に来る必要が無いことはわかっているのですが、部活動に顔を見せず、試しに日陽先輩のお住まいを訪ねてみたところ、どうも人はいないようで、スマートフォンにも連絡が繋がらないので」


「ごめんなさい。連絡は受けていないし、詳しいものも、詳しくないものも、一切、事情はわからないわ」


 とりあえず感謝を告げて、僕たちは職員室を後にしたけれど。

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