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月と太陽の交わるところ  作者: 白髪銀髪


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201/306

テレビ取材 3

 ◇ ◇ ◇



「あれ、お兄ちゃんの学校だ」


 それから数日後。

 母さんと紫乃と(父さんは仕事だ)夕飯の席についていると、付いていたテレビに極浦学園の名前が表示される。

 すぐに画面も変わり、うちの学校の様子とか、この前受けた取材の様子なんかが放映される。

 

「そういえば、言ってなかったけど、この前、うちの学校の文芸部に取材が来てたんだよね」


 さすがにテレビ欄にまでは詳しく載らないし、一応、いつが放送の予定であるのかは、校長先生を通して連絡をもらっていたけれど、はっきり言って、自分が映っているのを家族に見られるのは恥ずかしかったし、黙っていたのだけれど。全国ネットではなく、地方局だし。

 

「えー! なんで言ってくれなかったの」


 そうしたら学校で自慢したのに、と紫乃が不満そうに唇を尖らせる。

 それが嫌だったからだよ、とは言えないな。まあ、極浦学園に兄姉が通っている子なら、テレビの取材が来たことくらいは伝わっているかもしれなかったけれど。


「録画もしてないし」


「明日言えばいいんじゃないかな?」


 僕たちへのインタビューのほかにも、生徒会長である一ノ瀬先輩や、あの時間、まだ敷地内に残っていた生徒への取材というか、質問なんかも行われていて、そんなこともしていたんだ、考えてみれば当たり前か、と新鮮な気持ちで画面に向かう。


「お母さん。ちょっと、縁子ちゃんに電話してきていい?」


 紫乃はまだ小学五年生で、スマホを持つ許可はもらっていないので、台所、炊飯器の横に置かれている子機を取り上げて。


「もしもし、秋月ですけど。あっ、縁子ちゃん? 今、お兄ちゃんの学校とお兄ちゃんたちがテレビに映ってるんだけど――」


 連司は学園にテレビの取材が来たことを知っているし、テレビ欄もチェックしていたのでは、とも思うけれど。そのくらいは友情を信じている。

 

「へえ。空楽くん。楽しそうにできているみたいでよかったわね」


 はす向かいに座っている母さんがそう言ってくれるのは、四月に小説の件で(その時は理由までは話さなかったけれど)僕が半グレていたことを知っているからだろう。

 

「うん。日陽先輩や弥生先輩、それに、まあ、たくさんの人のおかげかな」


 今の実力に満足しているわけではないけれど、日陽先輩がいなければ今程度にだって小説を書けるようにはなっていなかったし、そもそも、続けられていたかもわからない。

 どんなものでも、絶対、最後まで読んで、感想をくれると言い切ってくれる日陽先輩がいるからこそ、こうして毎日小説を書くことができているのだ。

 もちろん、最初に添削してくださった館先生にはいくら感謝してもしきれないし、僕の小説を毎度呆れるでもなく、面倒がったり、煩がったりされることもなく、むしろ、逆に喜んで読んでくれたり、感想をくれたりする奏先輩や弥生先輩、縁子ちゃん、それから今回のきっかけにもなってくれた氷彩さん、拡散してくださった咲耶さん、僕たちの小説の同人誌を買ってくれたお客さん方、ほかにも、たくさんの方のおかげと、ほんの少しの偶然が重なった結果だ。

 

「そうなの。いい人たちに恵まれたわね」


「本当にそう思うよ」


 対人運だけは、かなりのものだと思う。あとは、それに見合った実力をつけてゆかなければならない。そうでなければ、顔向けできない。

 

「まあ、肝心の小説のほうは、こうして取り上げてもらっているけれど、あんまり結果が芳しいものではないけどね」


 鹿島さんにも言ったけれど、やはり、実際に商業誌として売れなければ意味がない。いや、商いをして売れたという意味では同じなのかもしれないけれど、なんらかのレーベルから、一般ライトノベルして売り出されることが、とりあえずの、最終目標だから。

 もちろん、売れることも、メディアミックスも、そりゃあ、夢に見たことが無いかと言われれば嘘になるけれど、今はそこまで考えてはいない。

 とにかく、僕の好きな、愛しているといっても過言ではないような、ライトノベルという媒体として売れるように、いや、それよりもまずは、賞をもらえるように頑張らなければ。 

 基本的に、最近の、というより近年では、持ち込みというのは減っていて(あるいはほとんど認められていないと言っても意かもしれない)稀に出版社のほうから打診があるみたいだけれど、それはすでに実績のある人に限ったような話だし、なんらかの賞をとらなければ、小説として世に売り出されることは、まあ、無いと言えるだろう。

 もちろん、ちょくちょくといろいろなネットでの話を摘まんでいるだけで、実際にはそんなことはなくて、持ち込みでも認められているところもあるのかもしれないけれど。

 それに、賞をとれた、というのは自信というか、心の支えにもなるだろうし。

 なんにしても、作品の内容が一番重要なことであるのは、間違いない。

 面白ければ読んでもらえるし、つまらなければ見向きもされない。そういう世界だ。

 

「空楽くんは打ち込むと一本気だものね」


 小学生の頃から続けている武術の話だろうか。

 いや、まあ、たしかに、僕が続けていたものは武術くらい(正確には今も続けているけれど)だったし、よく言えば、他に目移りせず、一心に打ち込んでいたとも言えなくもないけれど。

 あれは身体を鍛える目的だったしな。

 それに、他のことをやっていなかったのは、単に、他に熱中できるものが見つからなかっただけ、あるいは探していなかっただけとも言えるし。

 とはいえ、今の僕の目に入っているのがライトノベルだけだということは、およそ、間違いでもない。


「いや、まあ、今回は運が良かっただけだよ」


 もちろん、運が良かった、というのも大事な要素だとは思うけれど。

 各レーベルごと、賞ごと、作品傾向というか、応募要項は決まっていて、それこそ、カテゴリーエラーだって、少なくないと聞く。

 それに、詳しくは知らないけれど、たまたま選考した人の好みだったとか、受賞にだって、そういう要素がまったくないとは言い切れないわけで。

 しかし、母さんは大分喜んでいるというか。

 一応、息子が世間で評価されたから? それとも、単純に僕が喜んでいるように見えているからだろうか。そりゃあ、たしかに、喜んでいないわけではないけれど、満足しているわけでもないからな。

 

「空楽くんの小説が売り出されたら、神棚に飾りましょう」


「うちに神棚はないでしょう」


 未来の猫型ロボットのいるうちの子が百点をとったわけでもないんだから。

 というか、それって、僕が小説を書いて賞をとるのは、それほどありえないことだってこと? いや、めでたいことだと言ってくれているのはわかっているけれども。少しひねくれ過ぎだったかな、反省。

 それはおいておいて、今からわざわざ作るなんて、それこそ、捕らぬ狸の皮算用だ。


「でも、私は空楽くんの小説を読ませて貰ってないわね」


「それなら、僕の部屋にも何冊かあるし、多分、紫乃も持っているから、夕飯が終わったら貸す、というか、一冊あげるよ」


 保存用、観賞用、布教用とか、そういう用途に分けているわけではなく、単に、前もって保管していた分があるだけだ。

 それに、これも皮算用のひとつかもしれないけれど、このニュースを見てくれた学園の人たち、それもまだ持っていない人たちから販売してくれという要望が、もしあった場合に、印刷所に頼む際、余計に頼めばいいだけだ。たくさん刷れば、その分、一冊の原価、単価が下がり、利益も増えるわけだし。


「ありがとう。じゃあ、今夜にでもゆっくり読ませて貰うわね」



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