そして少年は一歩を踏み出す⑤
今回はちょっと小説の世界の魔法について書きました。せっかくなので後書きにこの現実世界に置いての魔法とか魔術について書きました。
「植物園に鍵、ですか?」
「ああ」
ラウルさんがぶっきらぼうに頷く。
俺、ミシア、ノエルさん、ラウルさんの一行は魔法研究所敷地内にある薬学室が所有する植物園に向かった。
魔法薬に使う植物のほとんどは植物園で栽培している。
中には熱帯気候や氷点下気温といった異状環境でのみ育成可能な植物も魔法で人工的に再現した環境のドームの中で栽培するものもある。勿論それでも栽培不可能な植物もあるのでその場合は騎士団に依頼や場合によっては研究員自ら採取しに行ったりするらしい。
ミシアとノエルさんが魔獣に襲われていた俺を発見した日も騎士と共に魔法植物の採取をしている最中だったそうだ。
「ここの扉が開かないんだ」
その内の一つの小植物園。そこに普段かけられている鍵とは別に魔法で鍵がかかっているとのこと。
扉の前に魔法陣が展開されている。これが例の魔法なのか。
「なんだこれ。嫌がらせか?」
「自分で解けばいいじゃないか。君ならこんな簡単な”鍵掛”の魔法朝飯前だろ」
「できないから呼んだ」
ラウルさんとミシアが魔法陣の前で議論をはじめる。言い合いにならないか不安だ。
その二人より一歩下がってノエルさんは黙ってその二人を眺めてた。
「ノエルさんはいいんですか?」
「うん?ああ、俺はいいんだ。あの二人の話し合いについてけないし」
ラウルさんは薬学室に十年所属していて現在副室長の席についているそうだ。なるほど。それは混ざるべきではないな。
魔法陣に両手をついて対峙するミシア。話し合いが終わったのかラウルさんは俺とノエルさんの方に戻ってきた。
「師匠が魔法の解析にはいってる。そんな高度な”鍵掛”の魔法なんですか?」
「高度っていうより”自己改良”の魔法らしい」
「「”オリジナル”?」」
俺とノエルさんの声が重なる。おそらく俺とノエルさんじゃ疑問に思った節は違うだろう。
「なんでそんなんが__ってそっか、アシルは分かんないよな」
ノエルさんは俺に自己改良の魔法について説明を始める。
「自己改良の魔法ってのはその名の通り魔法を自己流に改良したもののことだ。
で、これの何が難しいかっていったら自己改良の鍵掛魔法は鍵が元来の魔法とは異なるってとこだな。
本来鍵掛の魔法の解除方法は魔法を解析して鍵穴を見つけ、それに対して合鍵となる魔法を錬成する。基礎の鍵掛は高度なものでも解析さえできれば鍵は大体同じだから解除はできるんだよ」
(なるほど)
「分かった?」
「いや、まったくもって」
「あれ?」
正直俺は今まで魔法について魔法のまの字も学んできたことがない。なので先程の説明のおそらく一割も理解できていない自信がある。
その俺に対しノエルさんは今ので精一杯の説明だったようでどう分かりやすくしようものかと唸る。
そんな様子を見ていたラウルさんが溜息を吐きながらポケットから鍵錠をだして錠のみを俺に手渡しをしてくる。
何故今のタイミングで鍵を渡されたのかは不明だが俺は成すがまま受け取る。
「その錠を鍵掛の魔法と例える」
俺とノエルさんの様子を見かねて説明をし始めてくれた。
「錠を解除するためには鍵穴に鍵を挿す必要がある。それは魔法も一緒だ」
ラウルさんの手の中にあった鍵と俺の手の中にあった錠がゆっくり浮き上がり鍵だけが蝶のようにふよふよと動き、錠の元へと寄ってくる。
「ただその錠と魔法の違いは鍵穴は定位置になく隠されているってところだな。高度な魔法になるほど鍵穴を探すのは困難になる」
ラウルさんの説明に合わせて鍵が意志を持った生物のように錠の周りをうろうろとした。探し物をするみたいに。
「だが逆に鍵穴さえ見つけれればあと鍵を挿すだけ」
鍵は鍵穴を見つけたようですっぽりとはめ込まれ独りでに半回転する。ガチャリと小さな音を立ててその錠をアンロックし、重力に沿うまま俺の手の中へと落下する。
「で、これをふまえて自己改良の鍵掛との違いは簡単。鍵穴の形が違うんだ。鍵掛の魔法は普通ならば僕たちの手持ちの鍵で解除できる。けど__」
「__鍵穴の形が”オリジナル”だから手持ちの鍵じゃ解除することができないってことですか?」
「そういうことだ。理解が早くて助かるな」
だから簡単には解除できない魔法らしい。
「ラウルさんの説明分かりやすいっすね。教師向いてるんじゃないですか?」
「お前それ微塵も思ってないだろ」
「__ラウル、無理だ!」
説明が終わったのと同時にタイミングを見計らっていたかのようにミシアがギブアップを申し出た。
「お前でも無理か」
「無理。時間経過で解除されるようだけど今日解除は無理だな。その仕事期限いつまでなんだい?」
「明日。というか明日の朝までだな。マリアに頼んで納期延ばせないか交渉してもらうか・・・」
ラウルさんは、仕方ないな、と息を吐く。
「ちなみに魔法反応(※魔法使いが魔法を使用した際に残る魔力の残骸、痕跡のようなもの)から術者探すパターンは?できないんですか?」
「ミシアならできるだろうけど__」
「できなくもないけど疲れるから嫌だ」
「はい、終わり。戻るか」
今の会議の内容は俺には理解できる節はなかったけども手詰まりになったことは分かった。結局諦めて薬学室に戻ることになり、ラウルさんは間髪入れずに誰よりも早く薬学室に帰っていった。
「師匠?」
そんなラウルさんに対し両手を組んで伸びをしたミシアはすぐには戻ろうとせずに片手を腰に当てて釈然としていないような表情で魔法陣を見る。
「いや」
ノエルさんに呼ばれたミシアは、なんでもない、と首を横に振って植物園をあとにした。
「__ん?」
だがそれと入れ替わりに俺の頭の中で何かが引っかかった。
__なんか、それっぽい記述を見たような・・・?
記憶を探っている傍らで俺の上着のポケットがもぞもぞと動いた。
魔法や魔術について解説したいと思います。
魔法と魔術は定義的には別物であり、魔法は「あり得ない現象を引き起こす力」、魔術は「科学に基づいたオカルトやファンタジーに近い術」のことを指します。が、作者的には「魔法=願いや祈りにより引き起こす超現象。魔術=儀式といった手順を踏んで引き起こす現象」と解釈しています。
定義からも分かる通り魔法はフィクションですが魔術に関しては調べると現実的なものが結構でてきます。
魔術は大きく分けて「東洋魔術」、「西洋魔術」の二つであり、東洋魔術は「呪術」、「陰陽術」。西洋魔術は「錬金術」、「召喚術」とか。
そしてその二つとは別に魔女と関連付けられる魔術を「ウィッチクラフト」と言われます。魔法薬学は専らそうですね。
魔術は本当に奥深いので作者も混乱してます。難しい・・・。
この小説の魔法は「西洋魔術」と「ウィッチクラフト」を基準に書いている(つもり)ですがそこら辺は深く分けずにいろんな魔術について書きたい。