似たもの師弟①
前回の投稿から一年以上経過しているのまじか。
「町一帯が呪われた?」
「ああ。・・・で、道すがら説明しようと思ったんだが・・・」
男は、向かいの席に座る青年に記録書を手渡しながら、彼の隣で項垂れる、等身大のビスクドールに呆れた目で見る。
「こいつはまったく・・・。弟子に世話かける師匠がいるか」
「あー、いいっすよ、このまま寝かせて。徹夜したところに起こされて不機嫌なだけだし、てゆーかいつも通りだし。・・・ってキーファさんは俺より師匠と付き合い長いから知ってますか」
ノエル、ミシアと同じ馬車の車体に同席してるのは、令嬢も顔負けの美しい金髪を右耳の後ろで緩くまとめた、上品な容姿をしつつもどこか厳かなオーラを纏った紳士。騎士団本部にて、”団長”の次に階級の高い”副団長”に就く上級騎士のキーファ・ヨエンだ。
彼は長らく王家に仕える官職貴族の末子で六つに小姓となり、若くに正騎士となってから二十余年あまり経つ。
古株同士のマリアは勿論、彼女が一等目にかけているミシアとも長い付き合いだ。
「年月でいったらそうだが、ほぼ毎日一緒にいる薬学室には負けるさ。しかし__」続けながら二人を見る。
ミシアは十一という齢で、国内でも選りすぐりの学者が集うサリザド魔法研究所にて魔法薬剤師として認められた神童。しかし、所詮子供は子供。それも小生意気で(マリアを除いて)誰にも懐かない子猫。
そんなミシアがいまや無防備に、ノエルに体重を預けて眠りこける様は彼女がノエルに心を許している証拠であろう。
「些か、甘やかしすぎな気もするがな。誰かに尽くすタイプではないだろうに?」
「合ってますよ、それで。まあ、でも俺から志願してこの人の弟子になったってのもあんのか頭が上がらないんすよ」
「こうしてみると、師弟っていうよりは、主従に見えるな」
「え”っ」
背格好も風貌も幼く見える少女の方が青年の師匠だと見破れる者はそういないだろう。むしろ、兄妹。それか、姫を甲斐甲斐しく世話する従者の方がお似合いだというキーファの指摘に、ノエルは取り繕うことなく表情を歪めた。
「勘弁してくださいよ・・・。それよりコレの話、してくださいよ」
記録書を軽くはたきながら拗ねた口調で要求するノエルに、キーファは「悪い、悪い」と冗談を謝罪したのちに打って変わって真剣な表情へと切り替えた。
三人の乗っている馬車の行き先は『リューセル』という郊外の小さな町。
「順を追って説明しようか」
領地には三月に一度、国から巡察の使いが派遣されるわけだが、十日ほど前にリューセルへ訪れた使いが町の異常事態を報告した。それが『リューセルの領主、町民が呪いをかけられている』というものであった。
”呪い”とはいわば人が他者や地、物に悪意を持って付与する魔法の事を指す。
恐怖や幻覚、毒といった状態異常の魔法も呪いに値する。果てには相手を死に追いやる呪いだってある。その解呪方法は解呪魔法や魔法薬が主だが、呪いによっては特定の動作が解除鍵となったりする。絵本のようなおとぎ話で王子が姫にキスをして呪いを解く様なものだ。
調査と対処の命を受け、町へと赴いたキーファの部下らは十数名の町民が体調不良を訴えていることを知る。原因不明の病に侵されているという事だろうか。
それならば、専門の治療師に依頼するのが筋だろう。しかし、調査を進めるにつれて報告にもあながち間違いがないことを認識させられる。
姿が異形だとか、長い眠りについてしまうだとか、そういったあからさまな呪いではない。しかし、妙な様子の町民が幾ばくかいるのだ。
「妙?」
「ああ。二枚目に治療師の記録書があるだろ」
騎士団の小隊には治療や解呪に長けた騎士が一人以上編成されている。
彼からの記録書には『感染症の疑いは無し。症状は人によって異なる。ベレンチュール子爵の容態が深刻であり、心が不安定な状態にある』と綴られていた。
「『ベレンチュール子爵』・・・。リューセルの領主ですか?」
「・・・なるほど。だからキーファさんが自ら動いているわけだ」
「うわっ、びっくりした」
揺れる馬車の中でうたた寝をしていたビスクドールが徐に上半身を正す。
「起きてたんですか、師匠・・・」
「いまおきた」彼女は短く答えると、許可も取らずノエルの手に持っていた記録書を奪い取る。「あっ」
__っんとに、この人は・・・。
ノエルは内心呆れながらも奪い返そうとはしない。こういうところが甘やかしだと思われているのだろうか。
「領主が被害に遭っているとなれば、慎重な上層部も重い腰を上げざるをえないわけですか」
「そこまでは言ってない」
「騎士団はそこまで人でなしだと思われているのかね。それと__」キーファの声色に神妙さが増し、続く言葉を察したミシア。
「数時間前、死者が出たと報告を受けた。・・・最悪な事にな」
気を引き締めるように顔を強張らせたキーファに釣られてノエルにも緊張が走ったところで、馬車が大きく揺れ、ノエルの心臓もまた跳ねるように大きく揺らいだ。
サリザドから馬車を走らせること半時。観光名所も名産品も無ければ魔獣の出現も極めて稀で、凪のように平和な町といわれていたリューセルの町に到着。
「さて、働きますかー。・・・師匠?どうかしました?」
馬車から降車した後も記録書を凝視しているミシアだったが、顎に手を添えて考える素振りをしたあと、「・・・ま、ちょうどいっか」と楽観的な言葉を呟いた。
その瞬間、ノエルは天の啓示が下りてきたかのように直感する。嫌な予感がすると。
今回の話はめちゃくちゃ長いので飛ばし飛ばしで読むことをおすすめします。
あと、ちゃんと話が繋がっているのか不安過ぎる。




