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Michia⑤その後の再会

タイトルにミシアと書いてますがミシアは出てきません。悪しからず。


宿舎の部屋に戻るため、俺は廊下を一人歩く。学者という生き物は昼夜の区分で生活していない人物も少なくない。日付が変わった夜中でも所々研究室から物音が聞こえる上__、


「妖精に睡眠は必要ないんだっけ」


廊下は人間こそは俺だけだがフェアリーや姿を持たない精霊が浮遊しており、研究所と宿舎の建物同士を繋ぐ通路に出ると風に乗って漂うシルフ、樹木に集う木霊の姿が見えた。人間が眠った夜は妖精たちの自由時間なのだろうか。


「ここにすっかり寝ている奴もいるけど」


ポケットに収めたマンドレイクは今もすやすやと眠っている。


(まあ、こいつは妖精じゃあないけど・・・)


俺もベッドに飛び込んだらすぐに寝落ちてしまいそうな眠気はある。早いところ宿舎に戻ってしまおうと足早に宿舎を目指したその時だった。


「__よかった、やっと来たね」


上から少年の声がした。前兆もなく降ってきたその声に俺は聞き覚えがあった。弾かれるように顔を上げた。

そこには宿舎傍にある樹木の枝に腰掛けて俺を見下ろす少年。月明かりに照らされたターコイズの髪、黒色の瞳の少年。


「・・・トール・・・?」


俺に名を呼ばれたトールは自身の存在を認知されたことを嬉しく思うようにその顔に笑みを浮かべた。


「なあに、亡霊にでも遭遇したような顔しないでよ。死んだと思った?」


トールは樹の枝から降りて俺と目線を合わせる。そして、あの日自分の身に起きた事情を話し始めた。

トールが説明するにはあの時、崖から滑り落ちた先には底の深い川があり地面に叩きつけられて外傷を負うことは奇跡的に免れたそう。その後トールが戻った時には既に俺の姿はなくそこにはミシアとノエルさんが倒したまだ消滅前の(魔獣は時間経過とともにその体が消滅するらしい)アルクトスの死体があるだけだった。

魔獣の側に俺の死体がなかったことから俺の無事はほぼ確信していたようだ。


「__で、僕も無事生還してサリザドにいる仲間の元に合流できたってわけ」


トールは楽観的に笑い、「ほら、これ」と俺に何かを放り投げた。受け止めたソレはあの日、馬車の下敷きにしたまま置いてきてしまっていた俺の手荷物だった。


「あ、ありがとう。よかった、暇つぶしに持っていったお気に入りの本入ってたから」


「なんだよー、僕の無事はよかったって言ってくれないのー?」


「お、思ってる思ってるって!無事でよかったって!」


突然の再会にあっけを取られて言葉を失っていたのだと必死に訳を話す俺にトールは、冗談だよ、とケラケラと笑う顔を見てからかわれたのだと自覚した。


「でも、本当によかった。君の無事を調べようにも俺にはその手段はないしどうしようもなかったから」


安堵の表情を浮かべる俺にトールも「僕もだよ」と笑い返してくれた。


「だから、会いに来た。あの日言えなかった言葉の続きを言うために。__()()()()()()()()


言葉の後半を俺にハッキリと聞こえるように強調するように言った。


「俺を、迎えに・・・?」


頷くトール。


「僕と一緒に行こう。僕なら君をここから連れ出せるよ」


そう言って手を差し出した。


「御伽噺みたいなことを言うんだね?」


「僕は本気だよ」


まるで囚われの姫を攫いだす王子の常套句のような誘いに対する照れを隠すように言った俺の言葉にトールはごまかすでもなく照れることもなくただまっすぐな目で返した。

これがあの日の言葉の続き。トールは手を差し伸べようとしてくれたのだと理解した。


「どういう事情で騎士団(ここ)にいるのかは分からないけど何らかの理由で帰れないんだろう?でも僕ならできるよ」


「・・・どうしてそこまでしてくれようとするんだ?」


たった一日、しかもたった数時間同じ刻を過ごしただけ。それだけの縁。それなのにトールは本気で俺を助け出そうとしている。


「友人に手を貸すのに理由がいる?」


「!」


「あと君にね、紹介したい人たちがいるから」


そう言って笑うトール。胸に込み上げるものがあった。俺の初めての友達。唯一の同じ境遇の、”魔力なし”の友人。あの日の俺なら間違いなくその手を取っていただろう。

でも__、


「・・・ありがとう。でもごめん。大丈夫」


俺はトールの手を取らずに断った。


「・・・ココにいるの?」


「うん」


「・・・サリザドは、この国は君が思っている以上に”魔力なし”(僕達)の居場所はないよ。今は平気でもこれから君が傷つかない保障だって」


分かっているよ。今までだって魔力がないことを疎んだことだってある。


「トールは自分の居場所あるの?」


「・・・あるよ。仲間もいる」


「じゃあ、よかった。俺もせっかくできた居場所、まだ手放したくないから」


中途半端に投げ出したらそれこそ養父(じいさん)に怒られるだろう。

俺の言い分に納得したのかしていないのかトールは「ふーん」と目を伏せた。


「なら、仕方ないか。今回は諦めるよ」


困り笑いのトールはその手を下ろした。


「うん、ごめん」


「謝らないでよ。君には君の、僕には僕の居場所があるってことで、しょっ!っと」


トールはフードを被って俺に背を向けると、身軽に二メートル以上ある外壁の上に登ってみせた。


「なっ・・・!?」


「実は僕、騎士団に忍びで来たんだよね。不法侵入」


驚嘆の表情の俺にトールは構わずにそう言った。


「そういうわけだから。また、いつか」


それだけ言い残して外壁の奥に姿を消した。

その別れ挨拶に何も返せずに口をぽかんと開ける俺。


(トールって一体何者なんだ・・・)
















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