一人目・Ⅱ
気がつくと私はキレイに花が咲く庭園にしゃがみこんでいた。
「あら、どうしたの? 迷子かしら?」
品のある老婦人がテラスから私に声をかけた。
私は突然のことに少し頭が混乱していて、すぐに答えることができなかった。
もしかしたら迷子だって、すぐに認めたくなかったのかも。迷子だなんて、子供じゃないんだから。
「もしよかったら、一緒にお茶でもどう?」
私が答える間もなく、老婦人は青い茶器に紅茶を注いだ。
「あなたは誰?」私はそう口にしようとして、また言葉を飲み込んだ。
どうしてそんなことを聞くのだろう?
なんだかとても不自然な感じがする。なぜだかひどく違和感を覚える。
「ここはどこですか?」これも変な気がする。
ここがどこだかわからないのに。
「どうしたの? お茶はお嫌い?」
「いえ、お茶は好きなのですが……」
私は彼女が入れてくれた紅茶をなぜか飲みたくなかった。
喉は乾いていたはずなのに。
だからテラスに、婦人の傍に行きたくなかった。
誘われて、傍まで行って、椅子に座って、お茶を頂かないなんてできないもの。
悟られないように言い訳を探す。
その時、一匹のカエルが庭園の植え込みから姿を現した。
「実は、探しものをしている途中なのです」
「まあ、何を探しているの?」
「ここに、立派な角をした金色のカブトムシは飛んできませんでしたか?」
「カブトムシは黒じゃなくて?」
「いいえ、確かに金色なのです」
「そう、あなたにはそう見えたのかしら」
婦人はそう言って自分で入れたお茶を一口飲んで微笑む。
「確かに金色だったんです」
すると今度は
「私にもそんな風に見えた時があったわ」って言って婦人は庭園の外を指さした。
「あそこがこの庭園の出口。あなたの探すカブトムシはその向こう。でもこの庭園を出たらもう帰ることはできない。それでも行くの? ここにはお菓子もあるのに」
「美味しそうなお菓子は残念だけど、私行かないと」
私はお辞儀をして庭園をあとにした。




