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門の内側には、廃墟と化した町並みが広がっていた。

西洋式ののレンガで構築されたそれらは、戦争や災害などによってではなく、ただ人がその町を見捨てて逃げ去ったかのように、その原型をとどめていた。


その中を、オーウェンと康太、そしてもう一人のコートの人物が歩いている。


魔蟲の毒の影響なのか、傷口からの出血は止まり、康太は次第に落ち着きを取り戻しつつあった。


「この町は元々は農作物を生産し、それを他の町に輸出することで生計を立てていた。……だが、魔蟲の増加によって陸地輸送は困難になり、そして30年前の主要都市防衛強化令で兵士が皆主要都市に送られた結果、放棄された。」


「……ならおっさんは何でここに来たんだよ?」


「忘れ物を取りに来た。それだけだ。」


「……わざわざこんな廃墟にか?」


「そうだ。……何か問題でもあるのか?」


「……いや。……………その……変に思わないのか?」


「……………?変にとは?何をだ?」


「俺のことだよ。明らかに変だろ、格好もそうだし、この世界のことを何も知らないなんて……」


「……そんなことはあまり驚くに値しないさ。こうして言葉は通じているし、何よりも君には治療が必要だ。……まあ、確かに何があったのか後で落ち着いてから説明はしてほしいがな。」


「まあ、その方が俺はありがたいけど……」


「……まあいい、着いたぞ。ここだ。」


そう言うと、オーウェンはこじんまりとした家の前で立ち止まった。


今まで帰っていなかった主の帰りをひたすらに待ち続けていたようなその一軒家の扉を開け、中へと入った。


「ここで待っていてくれ。忘れ物を取ってくる。」


リビングに着くと、オーウェンはそう言って別の部屋へ行ってしまった。


静かなリビングには、康太と、これまでずっと無言であった小柄なコートの人の二人だけが残された。


「…………あの」「あの」


「―――――ッ!」「ッ!」


二人とも同時に口を開いてしまったため、二人の間に若干気まずい雰囲気が流れてしまった。


しかしこの時、康太はコートの人物の声が、女のものであるように聞こえた。


「……あ、そちらから、どうぞ。」


コートの女性は、おずおずとてを差し出しながら、そう言った。


「あっ、どうも。えっと……俺は草薙康太、16歳。君は?」


「アリシアよ。年は18。……よろしく。」


「アリシア……さんね。フード……取ってもらえないかな?流石に屋内だし……ね?」


康太はコートの中の人物が女性であると確信すると、好奇心と下心から、アリシアの素顔を見てみたくなったのであった。

それにしても、ちょっと理由としては流石に無茶があったかのように思われたが、彼女はフードを取った。


「……これで満足かしら?」


フードの中から現れた素顔に、康太は我を忘れるほどに見とれてしまった。


若干つり目気味の透き通った青い目に、肩までのびた黒髪と、まだ幼さを残しながらも完璧に整っている顔立ち……全てが、目を離すことを許さないほどまでに完成した美であった。


「……ちょっと、いつまで見てるのよ?」


「――――ッ!ご、ごめん。つい……見とれてた。」


「ま、そう言われて悪い気はしないわ。ありがと。」


「……君も、やっぱり感染してるの?魔蟲に。」


「いいえ……まだ、してないわ。まだ、ね。」


「……まだ?それはどういう―――――」「待たせたな。取り敢えず目当てのものは見つかったぞ。」


アリシアの含みをもった言葉に疑問を感じ、問いを投げ掛けようとした瞬間、まるで図ったかのようにオーウェンが戻ってきた。


恐らく例の忘れ物なのであろうが、手には黒いケースを持っていた。


「……どうした?何か話していたのか?」


「……何でもないわ。それで、これからどうするの?」


「そうだな……まずは、彼の治療から始めようか。傷を見せてくれ。」


「あっ、分かりました。」


オーウェンはコートを脱ぎ捨て、その内側に背負っていたバックパックから包帯と水筒を取り出し、差し出された左腕を検診し始めた。


「ほぉ……もう左腕の侵食が終わったのか。……予想よりも早いな。」


「あの……まず始めに、マムシって何なんですか?」


「毒だ……と、言われているが、正確にはウイルスだ。このウイルスは感染した者から噛まれることによって感染が拡大する。最終的には身体の支配権を奪われるが、そこまでには約2ヶ月かかる。」


「要は俺は2ヶ月後には死ぬってことですか?」


「正確に言うと違うが、まあそういうことだな。……だが、そうさせるつもりはない。」


「……どういう事ですか?」


「そのままの意味だ。君を助けられる、と、いうことだ。ウイルスを除去することで、な。」


「そんなことが可能なんですか?」


康太はかなり強めの口調で問いかけた。


「分からん。行ってみない限りは……な。」


「行くって……どこに?」


「この世界の中心にして、世界最高の魔蟲研究機関のある島……『アルマナ島』だ。」


《 * * * 》


―――――この世界は、一つの大陸と、その大陸の中心にある内海に浮かぶ島、アルマナ島しか陸地は存在しない。


そしてこの大陸では、東西を巨大な山脈によって隔てられていて、その東西で全く異なる文明が発展し続けていた。


言語も違えば文化も違う、そんな東西が争わないはずもなく、2国は常に争い続けていた……200年前までは、な。


しかし200年前、東には華之国、西にはヴィルターニュ連合王国が成立していた頃の話だ。

両国で奇病が蔓延していた。その病は、身体中に蛇柄の模様ができることから、青蛇病と呼ばれた。

……これ自体は、ただ人をしに至らしめるだけの病だったが、そのウィルスは、我々人類をはるかに越える知能を持っいて、我々が何度対策を練っても、その度にウィルスは進化していった。

その結果、ウィルスは感染速度を犠牲にして、ウィルスの宿主を徹底的に守ることにしたんだ。それが、今君に宿っている魔蟲と呼ばれるヤツらだ 。


魔蟲は、3日足らずで心臓以外の首より下の部位を侵食し、その一ヶ月後には心臓の支配権を掌握する。そうしたら、あとは脳を侵すだけだ。心臓を侵食された人間は、その一ヶ月後には身体全身の支配権を奪われる。そうなったらもう助からない。


……だが、心臓が侵食されただけなら、まだ助けられる可能性がある。その治療のための試作ワクチンがアルマナ島にはある。


私は元々そこの研究員だったからな。……ま、ヘマをして感染したから、今ここにいるんだがな。


……とにかく、君にはまだ、助かる余地がある、と、いうワケだ。


《 * * * 》


「……そのアルマナって所にはどうやって行けばいいんだ?」


「この町から東に20キロほど進んだところに、ロンバルという都市がある。そこには内海に繋がる運河があるから、船に乗ってアルマナまで直行できる。」


「20キロ!?危険すぎるだろ!魔蟲に襲われたらどうする!」


「そこは心配する必要はない。ここら辺は魔蟲はあまりいない。……ま、君が遭遇したのは運が悪かった。と、いうことだ。」


「運が悪かったって……」


「まあいずれにせよ、魔蟲とはいつか戦わなければならない時が来るだろう。その時は、これを使うんだ。」


そう言ってオーウェンは、先ほど取ってきた黒いケースから、一発の弾丸を取り出した。

その構造は、一般の弾丸とさして変わらないだろうか、その弾頭は赤紫色の水晶のようになっていた。


「通常の弾丸の場合、魔蟲のウィルスが宿主を守るために生成する硬質な皮膚を貫通させることはできない。もしできるとすれば、私の持っている大口径のライフル弾か、機動鋼鉄車の固定砲位だ。」


「……だが、それなら魔蟲に対抗できると?」


「その通りだ。この弾頭は魔蟲の感染者の血液を結晶化した物だ。普通なら皮膚に傷すらつけられない弾でも、これならダメージを与えられる。一発の撃つたけで魔蟲は死ぬ。」


「そいつはすごいな。それさえあればマムシを殲滅出来るんじゃないか?」


「それは無理だ。この弾丸は一発の製造コストが高過ぎる。だから、このケースにある20発しか残っていない。」


「なるほどね……ならかなり重要な場面でない限り使用は避けた方がいいのか。」


「その通りだ。……だから、特別魔蟲を倒す必要がない時はこれを使う。」


そう言って、オーウェンはバックパックから小型の単発中折れ式の散弾銃を取り出した。


「この銃なら、皮膚を突き破ることはできなくても、吹き飛ばすことはできる。それに何よりも、弾が入手しやすい。」


「なるほどな。確かに無駄に結晶の弾丸を使わなくて済むな。」


「そうだ。……君は銃を撃ったことはあるか?」


「いや、知識はあるが、実際に撃ったことは一度もない。」


「そうか。なら、明日から訓練しよう。魔蟲の影響で身体能力や動体視力は並みの人間とは比べ物にならないほど強化されているはずだ、銃に馴染むまでにはそうかからないだろう。」


「……色々と住まないな。……まだ名前も明かしてないような俺に色々と教えてくれて。」


「ああ……そうだな。名前を聞いておくのを忘れていたな。君、名は何という?」


「草薙康太です。16歳。」


「……コウタか。いい名だ。……さてコウタ、今日はもう遅い。今日は色々とあって疲れているだろうからもう休むといい。あの扉を抜けた先の部屋にベッドがある。それを使ってくれ。」


「ああ……えっと……おやすみ。」


そう言うと、康太は扉の向こうへと去っていった。


《 * * * 》


「……本当にいいのか?」


「ええ、前からそう言ってたでしょ。」


「……戻れないんだぞ。それでも……」


「覚悟の上よ。早くやってちょうだい。」


どうやっても彼女の意思は変わらないと感じると、諦めたかのように、オーウェンは差し出されたアリシアの腕へと顔を近づけ―――――

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