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36.バルジーナ帝国





 「お……ティナ様、暑くないですか? 私の気のせいとかじゃないですよね」


 「そ、そうね。気のせいじゃないわ」


 「なんで隣国なのにこんなに差があるんでしょうね」


 「わからないわ」


 「ていうか皆さんの様子がおかしくないですか?」


 「えぇ……これは一体どういうことかしら」




 マルクス王国は基本暖かいのだがここ、バルジーナ帝国は王国とは比べ物にならないくらい暑い。

 本来は活気溢れていそうなところが静かなのだ。

 私たちは今街の大通りであるはずのところに立っているのだが、屋台が並んでいるのにおいしい香りが全くしない。

 というか、商品すら出されていなくそれぞれの屋台の店主だと思われる人は皆ただ呆然と椅子に座りこんでいた。



 私は、このバルジーナ帝国に来る前に図書室で少し調べてきたのだが、あまりにも本の内容と今見ている光景が合わない。

 本ではマルクス王国と似たような気候でそこに住む人々は楽しく暮らしている、と書いてあったのにこれではまるで正反対だ。

 私が読んだ本が古かったとかではない。

 むしろ最近のものだ。



 これはおかしい。

 この国に何かが起こっているとしか思えない。

 私は街の人たちを目にしながら歩いていたため、前を見ていなかった。



 「………っ! すみません!」


 「あ、あぁ大丈夫だよ。こちらこそ悪かったね、お嬢さん」


 「いえ、こちらの不注意です。お怪我はありませんか?」


 「ないよ。………ん? お嬢ちゃんよく見たら可愛いね。俺のお嫁さんに来ない?」




 前を見ていなかった私は人にぶつかった。

 彼は褐色の肌に翡翠色の瞳を持ち、どこか高貴な雰囲気を放っていた。

 おそらく年齢は私と近いと思う。

 その人はこちらをじっと見て言い放った言葉を私はすぐに理解できなかった。

 え、は? お嫁さんって言った? この人。

 何言ってるの。



 「あの──────」


 「寝言は寝て言えよな」


 「じょ、冗談だよ。じゃあ俺は用事があるから失礼するよ、あはははは」




 私が何か言う前にレイは私を抱き寄せ、私がぶつかった男性に対して笑顔で言い放った。

 けれどその目は笑っておらず、微かに殺気が出ている。

 それを感じた男性は口元を引きつらせて、用事があるからと逃げて行った。

 ………何だったんだろう。

 とりあえずこの国にある冒険者ギルドに行って情報を集めることにした。



 「あのーすみません。この国について聞きたいことがあるんですけど」


 「あ、あなたは! もしや蒼銀の聖女様ではありませんか!?」



 ちょっと待って。姿見ただけでわかるの? まさか隣国にまで知られているとは思わなかった。一応フード被ってて良かった。

 受付のお姉さんは私たちを見るなり、通信用の魔道具を取り出してどこかに連絡を取っていた。



 連絡が取り終わったのか、彼女は「ご案内いたします」と言いなぜかギルドの外に出た。

 え、ギルド内で話すんじゃないの?

 どこに向かうのかと思っていたら、着いた先はこの帝国で最も大きい建物である皇城だった。

 どういうことよ。



 「それでは少々お待ちくださいませー」



 受付の姉さんは私たちを皇城の一室に案内した後、そう言ってギルドに帰っていた。

 説明もなしに………。

 そう思っていたのだが扉が開く音がして、男性が入ってきた。

 私はその男性を見た瞬間ポカンとした表情になってしまい、男性も同じような表情をしていた。



 「貴方、さっきの!」


 「お嬢ちゃんはさっきの!」



 声が見事に重なった。

 驚いてしまったのも無理はないだろう。

 扉から入ってきた男性は私たちが先ほど会った褐色の肌に翡翠色の瞳を持った人だったからだ。






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