34.旅立ち
時が経つのもあっという間であれから約一年過ぎた。
私がかけた記憶操作の魔法の効力は明日で切れてしまうため、今日が学園で過ごした最後の日だった。
ミア様は寂しくなると少し沈んでいたが、たまに会いに来ると言ったので「いってらっしゃい」と見送りの言葉をかけてくれた。
学園での生活は、最初の一年と比べると静かに感じた。
ヘレン様たちがいないからだろうか。
クラスで顔と家柄が良かった殿下たちが学園からいなくなり、教室内は前よりは静かになったのだが、数人の女子生徒がレイに言い寄ってきたのだ。
それに対し、なんだか胸の辺りがモヤモヤした。
けれどレイは言い寄ってくる女子生徒を無視しており、基本私としか話さないのだ。
無視していいのかと言ったが、レイは逆に相手をした方がいいのかと聞いてきた。
私はレイがほかの女子達と仲良くしている姿を想像したものの、先ほどの胸のモヤモヤが大きくなるばかりであまり気分のいいものではなかった。
それが何なのかはわからなかったが、レイが他の女子と仲良くしているのだけは嫌だとわかる。
その気持ちを伝えると、レイは愛おしそうに見つめて私を強く抱きしめた。
私は驚きながらも頬を赤らめて上を見上げるとレイに唇を塞がれ、その後も自然と何度か口づけをしていた。
傍にいた精霊がゴホンと気まずそうに咳払いをし、私は今していたことに気づき、すごく恥ずかしくなった。
………………話が逸れてしまったけど、私たちは学園で一年間楽しく過ごせた。
そして明日いよいよ出発する。
転移を使ってしまえば旅にならないので、自身の足で歩くことになった。
一緒に行くメンバーとしては私とレイ、リル親子で行くことにした。
旅をすることをお父様とお母様に話した時、二人は驚いたような表情をしていたが、微笑みながら応援してくれた。
お父様は一瞬リル達に寂しそうな目を向けていたので、私は慌てて「たまに帰ってきます!」と言うと「いつでも帰ってきなさい。むしろ毎日でもいいぞ!」と満面の笑みで返されたのだ。
お父様がそんなにリル達を気に入っていたなんて知らなかった。
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屋敷の門ではお父様とお母様だけでなく、使用人たちが見送ってくれた。
中には笑顔で手を振っている者もいれば、泣きそうになってハンカチで目元を抑えている人などいた。
なんか……これからも会えないみたいな雰囲気になっているけど、一か月に一回の頻度で帰ってくる気がする。
「行ってきます!」
『行ってらっしゃいませ!』
見事に全員の声が揃っていた。
私は皆の姿が見えなくなるまで手を振り続け、使用人たちも同様に私たちの姿が見えなくなるまで門の前にいた。
いつでも帰ってこれると言っても寂しくないと言えば嘘になってしまう。
屋敷で使用人たちとは気軽に話したりしていた。
貴族の中には使用人との間に壁を作ってしまう者もいたが、私やお父様たちはそういうのは気にする人ではなかったのだ。
そして私の専属侍女であるエミリーは先ほどの見送りの時にはいなかった。
見送りの時どころか最近ずっと見かけていなかった。
お父様に彼女の居場所を尋ねても、話をそらされたり目を泳がせたりといろいろ怪しかったのだ。
すぐに会えると思っていても一言くらいは言っておきたかったな……。
「お嬢様、私も連れて行ってください」
屋敷から少し離れたところまで歩いた私の後ろからは聞きなれた声がした。
すぐに後ろを振り向くと、柔らかな微笑みを浮かべているエミリーがいた。
彼女は屋敷でいつも着ているメイド服などではなく、街を歩いても自然と溶け込めるようなシンプルなワンピースを着ていた。
「でもお父様には────」
「旦那様には許可をいただいております。それに私は足手まといにならないように、冒険者ギルドに登録して鍛えていました。ですから私もご一緒させてください!」
お父様の態度が不自然だったのは、これが理由ね。
許可も出ているし、彼女がいれば心強い。
何より、私と一緒に旅に出るためにここまでしてくれて断れるわけないじゃない。
それにエミリーは無意識にしているかもしれないけど、目を潤ませ上目づかいでこちらを見ている。
ただでさえ美少女で可愛いのに、それに磨きがかかっている感じだ。
女の私でも一瞬見惚れてしまうくらいに。
「エミリー、私が断る理由なんてないわ。迷惑をかけると思うけれどこれからお願いするわ!」
「はいっ!」
エミリーは涙目になりながらも、満面の笑みでそう返した。
こうして旅のメンバーが一人増えたのだった。
私たちが最初に向かう場所はここから一番近い隣国のバルジーナ帝国。
ヘレン様から聞いていた続編に登場するもう一人の攻略対象である人物にはそこいるらしく、会わないことを願っていた。
………………ちょっと待って。続編ってことはヘレン様とは別にヒロインがいるってこと? それともヘレン様が続編のヒロインなの?
そこのところだけでも聞いておけば良かったわ。




