3.精霊の愛し子
翌日、朝食をとったクリスティーナはすぐに屋敷にある図書室へと向かった。
クリスティーナの父であるフォルク公爵はこのマルクス王国の貴族の中でも一、二位を争うほど有力な貴族だった。
当然ながら、その屋敷は大きく初めて屋敷に入った者は迷ってしまえるほどだった。
そんな大きい屋敷の中にある図書室はとても広く、本が数えきれないほど並んでいた。
さすがに自分で目的のものが書かれている本を探すとなると、いつまでかかるかわからなかった。
だがこの世界には、魔道具という便利なアイテムがある。
魔道具というのは精霊魔法を道具に閉じ込めたもののことで、精霊魔法が使えない人でも使うことのできる優れものだ。
そのため、貴族たちだけではなく庶民の間でも出回っており、今では生活に欠かせなものとなっている。
この図書室にある魔道具は、探している本の題名、内容、またはそれに関連することを言えば自動で検索してくれるものなのだ。
まあ前世で言うと図書館によくある検索機ですね。
「えっと、『精霊の愛し子』についての本!」
当然こんな便利な道具があって使わない手はない。
ちなみに私はこれを初めて使うので、ドキドキしている。
水晶のような透明の玉に手を置き目的の本の内容を言った。
『『精霊の愛し子』に関連する本はコチラになります』
(え! 喋るのこれ!?)
ロボットのような機械音の声が魔道具から出たことに驚いた。
魔道具の横には一冊の本が現れた。
その本には『精霊に関する本』とあった。
(有能すぎじゃん……さすが魔法が存在する世界だわ)
そう思いながらも本を取り、自室に戻った。
自室に戻って早速本を開き読み始めた。
本には精霊と人との歴史、精霊魔法、精霊の愛し子、そしてこの国の建国の話が書かれていた。
だが『精霊の愛し子』に関する内容だけは浅かった。
なぜ、『精霊に関する本』に人間の国の建国の話なんかと思うがその理由はいたって簡単だった。
それは精霊がこの国の建国に深く関わっているからだ。
というのも本当かどうかは置いておいて、初代国王が契約していた精霊は、あの精霊たちを束ねる精霊王だというのだ。
そして精霊王の力を借り、この国が建国されたという簡単な内容だった。
「精霊王ねー。本当に初代国王と契約してたのかな……」
『してたよ~』
突然聞こえた精霊の声よりもその内容に驚いた。
「そんなことわかるの!?」
『わかるよ~』
「なんで!?」
『精霊の記憶って基本的には共有されてるからかな~』
精霊は呑気に答えているが、一般的には知られていないことだった。
「それって結構重要なことなんじゃ……」
『まあ~大丈夫でしょ~』
色々な情報(特に最後の)が頭に入り少し疲れたため休憩を入れることにした。
エミリーが気を利かせてくれ、オレンジピールというリラックス効果のあるハーブティーを淹れてくれた。
ついでに、昼時だったので昼食もいただいた。
「はぁー……落ち着くわ」
お茶は前世での楽しみの一つでもあったため今もいろんな種類のを飲めることが嬉しかった。
さっき話していた精霊との会話の内容を思い出す。
さっきの話を含めゲームではなかったような設定が多かった気がする。
(この世界はあくまでゲームに似た世界という認識にしておいたほうがよさそうね)
「ボソッ………それにしても精霊王かー、どんな人なんだろう……」
『優しい~』
興味本位で思ったことを誰にも聞こえない大きさで言ったつもりだったが、どうやら精霊には聞こえてしまったらしい。
「そうなの?」
『うん~。でもティナは精霊王のお気に入りだから会えると思うよ~』
「…は? お気に入りってなに? え、会えるの?」
さらっと爆弾発言したのを聞いて思わず飲んでいたお茶を噴き出すのをどうにかこらえることができた。
思わず問い詰めようとしたところーー
--コンコン
「失礼します、お嬢様。旦那様が執務室まで来るようにとのことです」
エミリーが父からの言付けを伝えに来たようだった。
「わかったわ、お父様に準備でき次第すぐに行くと伝えてくれる?」
「かしこまりました」
そう言ってエミリーは退出して行った。
私はささっと準備をし、執務室へ向かった。
(あ…話が途中で脱線したから結局『精霊の愛し子』についてほとんど分からず終いだわ。後でもう一回調べてみないと)
そうこう考えているうちに、執務室の前へと到着した。
扉をノックし、中から「入れ」というのが聞こえ、扉を開けた。