23.巻き込まないでほしい
私は今日も学園に来ていた。
ヒロインを避けつつ、楽しく過ごそうと思っていたのだが別の問題が発生した。
『キャーーーー!!』
そう、うるさいのだ。
通路を挟んだ隣の机周辺に女子生徒が集まり、甲高い声を出していた。
それもそのはずで、そこに座っている人物はこの国の第一王子であるアルフォード殿下だからだ。
こんなにうるさくなると知っていたら別の席に座っていた。
もう一人の攻略対象のところにも殿下ほどではないが、女子生徒が集まっている。
ちなみに、その攻略対象の名前はフレッド・ダーズリーで、現騎士団長の息子だ。
容姿も家柄も良いと皆から人気だ。
レイも容姿は良いが、黒髪のせいで平民だと思われているから周囲には私以外いないのだろう。
「ティナ様ー! 入学式の日はお声掛けできずにすみませんでした」
「ミア様! いえいえ、大丈夫ですよ」
私の名前を呼びながらこちらへ来たのはミア・ギャレット伯爵令嬢だった。
彼女は私が13歳の時お茶会で出会った。
私に話しかける令嬢は公爵家と繋がりを持ちたい人たちばかりだった。
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私とお母様はギャレット伯爵夫人のお茶会に招待された。
あまり乗り気ではなかったが、お母様は友人を作っておくべきだということで連れてこられた。
「そこで何をしているんですの?」
「考え事よ……」
私は一人でお茶を飲みながら、ぼんやりとしていたところに話しかけてきたのがミア様だった。
「あの、名前は何というのですか?私はミア・ギャレットと申します」
「………私は、クリスティーナ・フォルクですわ」
「先にお声をかけてしまい、失礼しました! ですがせっかくなので私の屋敷を案内しますわ!」
私の名前を告げても、媚びてきたりしなかった。
今までの令嬢たちは名前を聞くと顔色を変えて私のドレスなどのことを褒めてきたりした。
相手を褒めることは貴族の間では常識なのだが、彼女たちの場合は度が過ぎていたのだ。
「ミア様は私が公爵令嬢でも、態度を変えないのですか?」
「変えませんわ……えっ! 変えたほうがよろしかったでしょうか!?」
私はミア様の態度に思わず笑いそうになった。
「いえ、変えないままでいいですわ。ミア様、私とお友達になってくれませんか?」
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私にとって、ミア様は信頼できる友達だ。
しかも彼女はクリスティーナ・フォルク公爵令嬢ではなく、『私』を見てくれた数少ない人だった。
「ところでお隣に座っている方がこの前お話ししていた方ですか?」
「ミア様! ここでは……」
「! そうでした。すみません!」
「気にしないでください」
ミア様とレイの話をしていたというのは本人には筒抜けになっていると思うが、実際に目の前で話されるのはさすがに恥ずかしい。
それを指摘し、私が言いたかったことに気づいたらしくすぐに謝ってくれた。
もちろん私はこんなことで怒るわけないのだが……
「クリスティーナ様! ミア様を苛めるのはやめてください!」
突然、私が一番関わりたくない人物が大声で注意してきた。
桃色の髪をした女子生徒、ヒロインだった。
(…………は?)
私たちの周りにいる人全員そう思っただろう。
私とミア様の会話は誰がどう聞いても、恋愛相談していた友達がうっかり本人の前で言いそうになり、謝っただけなのだ。
それをどう解釈すれば苛めていることになるのだろう。
それに公爵令嬢ともなれば、大勢の人がいる教室で苛めたりしないだろう。
その前に友達を苛める人がいるのか?
「私は苛めてなどおりません」
「言い訳しないでください!」
「言い訳などしておりません。……私、クリスティーナ・フォルクと申します。あなたのお名前をお聞きしても?」
「なっ!」
ヒロインは私の言葉の意味を理解したのか、顔を赤くしていた。
照れ……などではなく、怒りで顔が赤くなったのだろう。
彼女は私が名前を知っているとでも思っているのだろうか?
私は遠くから何度か見ていたが、一応初対面なのだ。
それに貴族の間では身分が下の者が上の者に気軽に話しかけてはいけない。
そのことは誰でも知ってるようなことだった。
ここは学園だからそのことは仕方がないとしても、人が話しているところには普通割り込まない。
割り込むどころか濡れ衣を着せられかけているのが。
それからも周囲の人がどれほど違うと訴えても、彼女は私が苛めたと言い張っているままだった。
ミア様もこれ以上言っても無駄だと思ったらしく、私に行ってくださいと目配せしてきた。
「……話になりませんわ。私はこれで失礼いたします」
後ろから待ってください、と声が聞こえるがヒロインのものだとわかっていたので無視した。
それから数日たってもヒロインは何かと言ってくる。
しかも盛大に勘違いして……
だが私はヒロインの言いがかりには、すべて聞き覚えがあった。
乙女ゲーム内での私がヒロインにしてきた行為のことばかり言ってくるが当然身に覚えはない。
ここまで考えれば彼女も転生者ということになるだろう。
しかも面倒なことにヒロインは私に言いがかりをつけた後、アルフォード殿下とフレッド様に泣きついている。
私……いえ、周囲の人全員が冷たい目でその様子を見ていた。
シナリオとは少し違うが、殿下も最初ヒロインをからかったりしていた。
だが私に苛めらていると泣きつかれて庇護欲のようなものが芽生えでもしたのだろう。
今ではすっかりヒロインに夢中だ。
私の方はヒロインを一生懸命避けているのに、相手がこちらに近寄ってきているのだから意味がない。
そして相変わらずヒロインがこちらに来るとレイは苦々しい顔をしていた。
私はレイと楽しく学園を満喫したいのに巻き込まないでほしい……




