2.精霊
「お嬢様!? どうかなさいましたか!?」
大声で叫んでしまったため、心配をした私の専属侍女のエミリーが入ってきた。
エミリーはブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳を持った女性でどちらかいえば綺麗というよりは、かわいい部類に入ると思う。
「お嬢様?」
首を傾げて聞いて来る姿を見て慌てて返事を返した。
「な、なんでもないわ! ちょっとびっくりしただけよ」
「そうですか……何もなくて良かったです。では失礼します」
「え、えぇ」
危ない危ない……普通の貴族令嬢は大声を出さないんだっけ。
私は今後のために前世でのゲーム内容を必死に思い出せるだけだした。
この世界には精霊という存在がいる。
精霊と契約し、精霊を通じて使える精霊魔法を扱える者を『精霊使い』という。
そして貴族のほとんどが精霊使いである。
精霊にはランクのようなものがあり、下から下位、中位、上位、そしてそれらの精霊を束ねる精霊王が存在する。
もちろん精霊魔法は契約している精霊のランクが高ければ高いほど、使える精霊魔法も強力になってくる。
(確かヒロインは光の上位精霊だったかしら)
15歳から18歳にかけて精霊使い(大体貴族)が通う魔法学園がありそこに通うことになる。
ヒロインは平民だがめったにいない光属性しかも上位精霊の使い手ということで入学することになる。
自分の婚約者である第一王子は平民という理由で最初はヒロインに悪態をついていたがそれでも優しくしてくれるヒロインに少しずつ惹かれるというよくある設定だった。
それを見て嫉妬した私は、ヒロインを苛めたり、顔に傷を負わせようとしたり、彼女のあることないことの噂を広めようとしたり、精霊魔法で攻撃しようとしたりと事あるごとに邪魔したりしていた。
そういう証拠を集められ、18歳になったらある卒業パーティーで断罪されることになる。
ちなみに攻略対象は第一王子以外にもあと三人おり、逆ハールートも存在する。
悪役令嬢の私はその後国外追放である。
(長くなったけどざっとこんなもんかなー)
思い出したことを紙に書いてみた。
「国外追放か…できれば避けたいけど……ゲームで強制力? っていうのが働いたら厄介だな」
国外追放だと当然だが、家族や小さい頃から一緒にいる専属侍女のエミリー、ほかの使用人たちと会えなくなってしまうのは寂しい。
そして何より家族に迷惑がかかってしまうことだけは嫌だった。
それだけは避けたかったので私は動くことにする。
今私は10歳だからゲームが始まるまであと五年……
考えているとふと何かがまた見えた。
見間違いかと思って目をこする。
だが目をこすっても消えないことから、見間違いではないことだと認識した。
「見間違えじゃないよね?この光って飛んでいるのって……なに?」
さっきからぼんやりと光って飛んでいるもの。
頭痛がひいてからなんとなく見えてたけど気のせいで片づけていた。
『や~っと認識してくれた~』
『『『やっとか~』』』
「! 喋ったー!?」
独り言のはずだったのに光って飛んでいたものたちから返事が返って来たのだった。
『喋るよ~、だって僕たち精霊だも~ん』
他のと比べて少し大きめの光が代表して話しかけてきた。
よく見てみると光っているそれは手のひらに乗るくらいの大きさで小人(?)に羽が生えたような姿だった。
「精霊!? 精霊って喋れたの?」
『う~ん話せるけど本来は僕たちが契約した人にしか僕たちの姿は見えないし声は聞こえないかな~』
「じゃあなんで私は聞こえるの?契約してないよね?」
『してないよ~。でもクリスティーナは精霊の愛し子だからじゃな~い? 僕たちじゃよくわからな~い。でもクリスティーナは好きなのはわかる~』
ゲームでは『精霊の愛し子』というのはなかったはずだ。
今はその疑問を頭の隅にでもしまっておき、後で考えようと思った。
「そ、そう……ありがとう。クリスティーナじゃなくてティナでいいわよ」
『ティナ~?』
「そう、私の愛称よ」
『『『『ティナ好き~』』』』
「ふふふ、かわいいわね」
素直な精霊たちがとてもかわいく見えて仕方がなかった。
そんなかわいい精霊たちが純粋に自分に好意を向けてくれることが嬉しかった。
(明日『精霊の愛し子』についての本や記録がないか図書室で調べようかしら)
窓を見るともう日が沈んでおり寝る時間になっていた。
今日はいろいろなことがあり疲れていたクリスティーナはベッドに潜るとすぐに眠りについた。