11.初めての依頼
私たちが受けた依頼は、魔物討伐だった。
最近村の畑を荒らしているという。
幸い、死者はまだいないが重傷者が数人出ており、このままいけば死者が出るかもしれないということでギルドに依頼したらしい。
私とレイは転移でその村に着いた。
ちょうどその時その魔物は畑を荒らしていた。
『ブォォォォーーーン』
村人はすでに避難しており、周りには誰もいなかった。
暴れている魔物はイノシシに似ていたが、イノシシより何倍も大きかった。
しかも口もとにある牙はとても大きくとがっていた。
その牙で刺されたらそれは重傷者も出るだろう。
むしろよく死者が出なかったなと思う。
「じゃあ、さっさと終わらせますか!」
「そうだな」
『風よ!』
呪文を唱えた瞬間風の刃が魔物に向かって放たれた。
風はあっさりと魔物の体を割いた。
「これで依頼達成ね!」
「あぁ、そうだ……っ!? 危ない!」
私はこのとき初めての依頼を達成できたことに喜びすぎて内心浮かれていた。
だから、後ろから近づく気配に気づかなかった。
その気配にいち早く気が付いたレイが私の体を抱き寄せた。
「えっ!?」
次の瞬間私はレイの胸元にいた。
私がさっき立っていた場所には、先ほどの魔物より少し小さめのイノシシの魔物が突進してきたのだ。
少し小さめといっても、私の身長の五倍ほどあった。
きっと先ほど倒した魔物の仲間だろう。
気配はあっても、足音が聞こえなかったのだ。
それもあり私は気が付くことができなかった。
私は自分の顔が真っ青になるのを感じた。
あのままあそこにいたら、私はあの魔物の牙に貫かれていたかもしれない。
レイは私を抱き寄せた後、容赦なく雷を魔物に落とした。
私は今後、魔物討伐など危険度が高めな依頼は気を緩めすぎにしないようにと頭の隅に入れておいた。
「勢いよく引っ張って悪かったな」
「ううん、また助けられちゃったね」
私は平気そうな口ぶりでレイに言ったが内心とても怖かったし、肩も微かに震えていた。
「無理をしなくていい。怖かったら怖いと言え、泣きたかったら泣け」
そう言ってレイは私をまた抱き寄せ、私の顔はレイの胸元に埋まるようになっていた。
それで安心したのか自然と涙が出てきた。
「ふっ……ふぇぇーーん!」
レイはもう大丈夫だ、と言いながら私の頭を撫でた。
「………レイ、もう大丈夫。ありがとう」
「……わかった」
私はレイから離れた。
さっきの行動を振り返るととても恥ずかしくなった。
たくさん泣いたため、おそらく目も腫れているだろう。
それをレイから隠すように私はフードをさらに深くかぶった。
レイにはこんな顔を見せたくなかった。
「さあ、村長のところに行って報告して帰ろう!」
「そうだな」
私たちは村長の家で報告してすぐ帰ろうと思っていたのだが……
「お願いです! 冒険者殿、もし…もし治癒魔法が使えるのならば重傷を負っている者たちにかけてやってはくれませんか? 追加の報酬は……お金は今はありませんが食料ならばあります!」
私はレイと目が合い、訴えるような視線を送ったら彼は頷いた。
「村長さん、重傷者たちに治癒魔法はかけます。ただし追加報酬は受け取れません」
「な、何故ですか!?」
「お気持ちはありがたいのですが、魔物の被害で今ある食料では村の人たちが食べるので精一杯なのではないですか?」
「そ、それは……」
村長は戸惑ったような声で返してきた。
それに私はそこまで鬼ではない。
「それに私がいただくよりも重傷者や子供達の方へ多くあげてください」
「あ、ありがとうございます!」
私は、重傷者たちに治癒魔法を施して転移でギルドに戻ってきた。
「サナさん、ただいま戻りました!」
「お疲れ様です! 依頼者である村長から依頼達成であると連絡が来ています。冒険者カードをお預かりいたします」
サナさんは笑顔で出迎えてくれた。
冒険者カードというのは登録時にもらったカードのことだった。
私はそのカードを鞄から出してサナさんに渡した。
「初めての依頼はどうでしたか?」
「学ぶべきことが多かったです」
ティナはこの依頼を通して様々なことを学んだのだ。
魔物を倒すことは簡単だが最後まで油断してはならないこと、いくら魔法、体術、武術ができても経験を積まなければ役には立たないことなど……
「そうですか、それはよかったです。今回の依頼報酬はお金でしたので冒険者カードに入れておきました。次回も頑張ってください!」
「ありがとうございます!」
お金を引き出したかったらカードを専用の魔道具にかざせば、引き出せるらしい。
銀行を簡略化したようなものだ。
便利だと思いつつも私はギルドを後にし、屋敷へ戻ってきた。
抜け出したことは、ばれていないらしい。
--コンコン
ノックする音がしたので、急いで机に向かって座った。
いかにも、勉強をしていますという雰囲気を出したのだ。
入ってきたのはエミリーだった。
「お嬢様?」
いつもより少し低めの声で呼ばれた。
エミリーの方を見ると笑顔だが目が全く笑っていなかった。
私はその場から逃げ出そうとしたが捕まってしまった。
「お嬢様! どうしてこっそり抜け出したんです!? 今度から抜け出すときはせめて私に一声かけてから行ってください!!」
「ご、ごめんなさい……」
どうやらエミリーにだけ、ばれたようだ。
私はこの後約二時間ほどエミリーの説教を受けた。
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「サナ、そんな嬉しそうな顔してどうしたんだ?」
「マスター!」
私に話しかけてきたのはこのギルドのマスターだった。
「いえ、新人が来たんですけどこれがまた強そうで…絶対に『二つ名持ち』になりますねあの子!」
二つ名持ちというのはAランク以上の冒険者が持っている通り名のようなものだった。
「そうか…お前がそこまで言うのなら有望だな」
ティナさんはほかの冒険者と格が違うのはすぐにわかった。
(これから楽しみだわ……)