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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第3章》精霊と妖精の城塞都市。
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97話.森の番人達の日常と帰路での出来事(2)

続きとなります。


現にこの湖を通り過ぎてもよかったはずなのだが、何故か冒険者達が行っている水龍狩りが気になってしまい、馬車を湖畔近くに止めて狩りの見物をする事になった。


「皆さん。魚が焼けましたよ」


カル達は、湖の近くにあった宿屋にでも泊まるつもりでいた。だが、そこは既に冒険者達の予約がいっぱいで泊まることができなかった。そのため宿の生け簀で売っていた川魚を買って湖畔で魚を焼いて夕ご飯にありついている訳である。


メリルとライラの呼び声により馬車の周囲や湖で遊んでいた面々は、焚火の周りに集まると、焼けた魚を思い思いに頬張り始める。




精霊の森からの帰路であるカル達は、行きとは違う街道を進んでいた。せっかく遠くまで来たのだから行った事のない場所を少しでも見て行こうという話になり、街道沿いの茶屋で聞いた風光明媚な湖があるという話を聞きつけてここにやって来たのだ。


ところが、湖まで来てみると冒険者達がわんさかと押し寄せていて、景色を楽しむといった風情ではなくなっていた。


なんでも湖で水龍を見たという目撃情報が多数寄せられたため、冒険者ギルドから調査と討伐依頼が出る運びとなり、一攫千金を狙う冒険者達が周囲の街からわんさと集まっていた。


そんな事とは知らずに観光気分で湖へとやって来たカル達は、日が沈む少し前にこの場所に到着したため、この日は湖畔に止めた馬車の中で夜を明かす事にした。


馬車には、カル、メリル、ライラ。それに精霊の森のエルフの村から族長命令でついて来たエレン。さらに精霊神であるお猫サマと妖精の姿をした裁定の木の精霊という面子が乗り込んでいる。


精霊の森へ行くときにいたラピリア・トレントの苗木は、精霊の森へ残るというのでこの馬車には乗っていない。




お猫サマは、焼いた川魚を両手に持って美味しそうに食べている。妖精の姿の裁定の木の精霊も、小さな妖精の姿の割には大きな焼き魚をパクパクと食べていた。


カル達はというと、途中の街で買った食材で野菜のスープを作りそれに少し固めのパンを浸して食べていた。


魚を焚火で焼くといっても一度に何匹も焼ける訳ではないし、時間もあるので魚の大好きなお猫サマから順番に食べることになった。


この湖は、セスタール湖よりは小さいが山の中の森に囲まれていて景色のよい静かな場所である。湖の近くには、数件の宿屋と食堂と土産物屋があり、周辺の街に住む者達の憩いの場になっている。


元々、この湖に水龍がいるといった話はなく、突然の様に湧いた話であった。


最初は、湖に遊びに来ていた者達が大きな魚の様なものを見た事からはじまり、それが龍の様な姿をしているという話になった。


数人の冒険者が噂を聞きつけ、湖で数日の調査を行った結果。


「かなり大型の魔獣がいる。鑑定魔法では水龍と断定できなかったが、恐らくそれに準ずる魔獣であろう」


調査に向かった冒険者からは、そんな報告がギルドにもたらされた。


冒険者達は歓喜した。この世界で冒険者が倒せる龍は大方狩られてしまい、残った龍は冒険者では狩れない強大な力を持つ龍ばかりであった。


氷の塔の上に住み着いた氷龍がそれにあたる。氷龍は、いくつもの王国の強大な兵力を注ぎ込んでも勝てないとされるほどの強大な力を持ち、かつ空を高速で飛べるため全く手が出せないこの世界で最強の部類に入る生物である。


それに比べると水龍の強さは数段落ち、Aランクの冒険者が10数人もいれば倒せる程である。しかもその素材は高く取引されるため、水龍討伐のおこぼれにあやかりたいと考える冒険者達が、次々と湖に押しかけていた。




湖畔から湖を眺めているカルの目には、水龍を探す冒険者達の姿と水龍を休ませない様に交代で湖に魔法を放つ魔術師達の姿が映し出されていた。


何か釈然としないカルであったが冒険者達にも生活があり、水龍との接点のないカルにとって狩りをやめろとは言える立場にない。ましてこの地は、カルの領地ではないため領主命令も出せない。


「カル様。水龍のことが気になるのですか」


「うん。でも、ここは僕の領地でもないし領主でもないから何もできない」


「もし、水龍がカルさんに助けてくださいって言いに来たらどうします」


「そうだね・・・助けるかも。そういえば、氷龍さんとは話ができたけど水龍とも話ができるのかな」


「そうですね。一般的な話ですが長く生きている龍は人の言葉を話し、人の姿にもなれると聞いたことがあります」


「そういえば、城塞都市ラプラスの隣りにある精霊の森の池にも水龍の幼生がいたよね」


「あっ、そうでした。もう少し大きくなったらセスタール湖に移そうという話でしたね」


「でも、あんな大きな湖にひとり寂しくいるのってどうなんだろう」


「・・・楽しくはなさそうですね」


カルは、目の前で繰り広げられている水龍狩りの光景をただ見ているしかないのが少し残念でならなかった。


何か水龍との接点があれば、セスタール湖に水龍を運んで冒険者に狩られる心配のない平和な生活をさせてあげられるのにと考えていた。


そんな事を考えているカルに誰かのいたずらなのか、運命の細い糸を繋ぎ合わせた者がいた。


湖の中からカルの姿を見るものの存在。それは、カルが首からぶら下げている氷龍の鱗を見ていた。


カルが首からぶら下げている鱗からは、邪念や怨念の様なものは発せられておらず、逆に信頼と呼べる様な念が込められていた。


それを感じ取ったそれは、カルにあるものを託すことを決意した。




最初の異変に気が付いたのはメリルであった。


「カル様。何か来ます」


ライラが、魔法杖を手に持ちカルを後方へと下がらせる。


「カルさん下がって」


それが危険な存在ではないことに気がつたのは、カルの頭の上に乗っていた妖精の姿をした裁定の木の精霊であった。


「へえ、水龍か。それも子供連れとはね」


「えっ、子連れ?」


湖の水面から顔だけを出してこちらを見ている人族の女性らしき姿があった。


「ちょっと、水面から顔を出して様子を伺う姿って不気味というか怖いです」


ライラが魔法杖を手に持ち、カルの前に立ったものの、何か不気味な姿に思わず足が震えそうになる。


「あっ、カルさん。危ないから前に出ないでください」


だがカルは、ライラの制止を振り切ると湖の淵に立ち、湖から顔だけを出すそれに話しかける。


「水龍さんですか」


湖から顔だけを出していたそれは、うなずくと徐々にカルの方へと歩み寄る。


カルの両脇には、メリルとライラが立つ。


お猫サマは、相変わらず焚火のところで魚を焼き、エルフのエレンとラピリア酒を飲んでほろ酔い気分である。




カルに近づくそれは、人族の女性の姿をしているが衣服は何も身に着けておらず、20歳後半くらいの体つきをしていた。


そして腕には、一目で幼体と分かる小さな水龍を抱いていた。


「お願いします。私の大切なこの子をどうか助けてあげてください」


弱々しいが、しっかりとした口調でカルに向かって話しかける水龍。


「その水龍の幼体は、あなたの子供なんですね」


「私は、この湖でこの子を産んだのですが、冒険者達に見つかってしまいました。もう冒険者達から逃れられそうにありません」


人族の女性の姿になった水龍は、カルに向かって抱きかかえていた幼体の水龍をそっと差し出す。


「でも、なんで僕なんですか」


「あなたの首にかけられている氷龍の鱗です。その鱗からは怨念の様なものが感じられません。その鱗は、生きている氷龍から手渡されたものですね。その鱗からは、しっかりとした信念が感じられます」


カルは、何も言えなかった。首にぶら下げられた氷龍の鱗は、酒代の変わりに貰ったものだ。氷龍は、お酒が欲しくて心臓に近い最も価値のある鱗をカルに手渡したのだ。


そう氷龍は、お酒が飲みたい一心で鱗を手渡しただけである。


そんな事を言ってしまったら氷龍さんの尊厳を傷つけてしまう。それだけは絶対に言わないとカルは誓っていたのだ。


「はい。氷龍さんとの約束があり、最も大切な鱗をいただきました」


カルは、少しばかりの嘘で氷龍の尊厳を守るのに必死である。


「ならば、氷龍が信じたあなたを信じます」


「水龍さんは、氷龍さんを信頼されているのですね」


「私達水龍からすれば、氷龍は上位の存在です。その氷龍が信じた御仁を疑ってどうします」


「・・・・・・」


カルは、何も言い返せなかった。カルにとって氷龍は、カルの作ったお酒が大好きな大きなただの龍でしかない。


差し出された水龍の幼体は、寝息を立てて寝ている様である。お腹が動かなければ、それが生きているのかさえ分からない。


「明け方になったら私が、冒険者に戦いを挑みます。その隙にこの湖から遠くに逃げてください」


「ちょっと待って、つまりあなたは自身を囮に使うつもりですか」


「全てはこの子のためです。どうかこの子をよろしく頼みます」


カルは、人族の女性に化けた水龍から幼体を受け取る。


水龍は、静かに湖の中へと姿を鎮めると、水面の波紋だけを残して消えていた。


「そっ、そんな。子供だけ残して死ぬ親がどこにいるんだ!」


思わず叫ぶカル。


腕の中で静かに眠る水龍の幼体。


あどけない顔付きでとても愛くるしい。


その顔を見たカルは、思わず手に力を込めて宣言する。


「助けるなら水龍の子供だけじゃない。親も助ける!」


「「はい」」


メリルとライラが、カルに同調して返事を返す。


その光景をカルの頭の上で見ていた裁定の木の精霊。


「熱いね。ブレないね。でも君のそこがいいんだよなあ。別の世界にいる連中が君を選んだ理由が分かった気がするよ」


カルは、馬車に戻ると酒盛りの最中のお猫サマに空いている樽に細工をしてもらう。


お猫サマの爪で樽の蓋に丸く大きな穴を開けてもらい、樽に水を入れて水龍の幼体が少しでも過ごしやすい様な場所を作ったのだ。


樽の中で泳ぎ回る水龍の幼体。


その様子を見ていたカルは、馬車の周りに集まっていた皆にもう一度宣言をする。


「水龍のお母さんが僕に水龍の子供を託しました。でも水龍のお母さんは、死ぬ覚悟です。そんな事はさせません。僕が水龍のお母さんを助けます。でも僕だけでは力不足です。だから皆の力を貸してください」


「ふーん。カルの顔が男らしいにゃ」


「カルは男の子です」


「そうです」


カル達は、いつでも水龍のお母さんを助けられるようにと撤収の準備を始める。


水龍のお母さんが宣言をした明け方まで、まだいくばくかの時間が残っていた。


さて、お酒のために精霊の森を守る氷龍。それにカルに貰った氷龍の鱗を気に入り、森の番人を続ける守護妖精のフランソワ。


でも、精霊の森に侵入する冒険者が後をたちません。氷龍達の目を逃れた冒険者達に森の次なる番人達が立ちはだかります。


次回は、そんな話とカル達が水龍の親子を助け出す話になります。そしてお猫サマがまたまた・・・なお話になります。


※今日の明け方から書き始めてなんとか間に合いました。


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