表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第3章》精霊と妖精の城塞都市。
96/218

96話.森の番人達の日常と帰路での出来事(1)

国境の精霊の森を後にしたカル達。残された者達は、精霊の森を守るべく日々の戦いを続けます。


精霊の森の外縁部を3人の冒険者が全力で走っていた。


手には、魔石の欠片と剣。体は軽鎧を装備して背中には小さな鞄をしょっている。


彼らは、国からこの森が立ち入り禁止になったというお触れを耳にしていた。さらに森に入る獣道に置かれた検問所も確認済みであった。


冒険者達は、以前にも精霊の森に入り魔石洞窟から大量の魔石を採掘していた。その森が立ち入り禁止になったと聞いた時、国が森の魔石を独占しようとしているとそう考えた。


王国にだけに美味しい思いをさせる事に不満を持った彼らは、徒党を組み四方から精霊の森を目指す。


誰かが貧乏くじを引いて捕まったとしても誰かが魔石を持ち帰れば、その情報を共有することで次の魔石狩りをやり易くできると考えたのだ。


そして、以前に魔石洞窟があった場所へ向かった冒険者達であったが、そのうちの半分の者達は森に入る前に国境警備隊の兵士に捕まる羽目となる。


この国境警備に配属された兵士達は、国の中でも優秀な者達を集めた部隊であり逃亡犯追跡を専門にする者も多数にのぼる。


冒険者の中には、以前あった魔石洞窟の近くまでたどり着いた者もいた。だが、霧が立ち込め先の見えない森の中で迷い、逆に森から出られなくなる冒険者も多数に上っていた。


さらに森の中に入った途端、森の温度が急激に下がると軽装であった冒険者達は、凍えてしまい身動きが鈍くなりあっけなく追跡して来た兵士達に捕らえられる始末。


それでも氷の塔の麓にたどり着く数少ない者達もおり、その者達が見た光景は目を疑うものであった。


「これが氷の塔か。でけえ」


氷の塔の先は、空に浮かぶ雲海の中へと消えていた。


「それよりも氷の塔の中を見ろ」


ひとりの冒険者が氷の塔の白く曇った壁を服の袖で拭いてみると。


「おいおいおい。氷の塔の中に魔石がびっしりだぜ」


「こいつはすげえ」


「まずは、この氷の壁を砕かねえ事には、目の前の魔石は手に入らねえよな」


冒険者は、持っていた剣を振り上げると氷の塔の壁に向かって振り・・・。


”グルルルル・・・”。


魔獣か何かの唸り声が氷の塔の周囲に響き渡る。


冒険者が今にも降り降ろそうとした剣は、最も高い位置で微動だにしなくなった。


「どういう事だ。体の自由が効かない・・・」


冒険者は、僅かに動く首を後ろに向かって少しづつ動かしていく。その先には先ほど聞こえて来た唸り声を発した張本人の魔獣がいるはずである。


”フッフッフッ”。


冒険者の耳元には、唸り声を上げた魔獣の荒い鼻息が聞こえて来る。まさにすぐ側に魔獣を感じる音である。


僅かしか動かない首を何とか動かした先には、黒く大きな塊がたたずみ冒険者の顔を長い舌で”ベロッ”と嘗め回す。


「ワッ、ワッ、ワッ、ワイバーン!」


ワイバーンは、飛竜と呼ばれる魔獣で純粋な龍に比べると遥かに攻撃力は脆弱である。ただし、人族の男の攻撃力などと比べる迄もなく龍に次ぐ空の王者であり、そこいらの冒険者が狩ることなどできない強力な魔獣である。


しかも冒険者の後ろにいる黒いワイバーンは、通常のワイバーンとは異なり体が黒一色で通常の数倍もの巨体を有する特殊個体だ。


冒険者は、巨大な黒いワイバーンの口が耳のすぐ横にあることを理解した。ワイバーンが口を閉じた瞬間。己の頭が首から離れると察した冒険者は、正気を保てなくなりそのまま意識を手放してしまう。


「あれ、ちょっと脅し過ぎたかな。ミランダが怖い顔で冒険者の顔を舐めるから気を失っちゃったじゃない」


先ほどまでの威勢はどこえやら。巨大な黒いワイバーンは、可愛らしい声でひと鳴きする。


”キー”。


その巨大な黒いワイバーンの背中には、この精霊の森の守護妖精であるフランソワがまたがっている。


実は、巨大な黒いワイバーンのフランソワは、菜食主義というかお肉をあまり好まない。木々になる果実が大好きであちこちの森に出向いては、大好きな果実を食べるのが日課である。


実は、カル達が植えたラピリアの木の黄色いラピリアの実が大好物である。まだ実は出来たばかりだが、既にあの黄色いラピリアの実に目がなく、あの実が食べられるならこの森にずっといたいと思うほどになっていた。


「ミランダ。他にも侵入した冒険者がいるからそいつらを狩るよ」


”キー”。


巨大な黒いワイバーンは、倒れている冒険者を足で鷲掴みにすると大きな羽をひと振りするだけで濃い霧が立ち込める森の空へと舞い上がっていく。






「はあ、はあ、はあ。待ってくれ。置いて行かないでくれ。前は、あんな巨大なワイバーンも龍もこの森にはいなかったんだ」


3人の冒険者の中で一番太っている者がやはり最後尾を走る羽目になり、そのすぐ直上を巨大な氷の塊の様な龍が長い羽を広げて飛んでいた。


ときたま巨大な氷の塊が走る冒険者のすぐ脇に着弾する。明らかにわざと外しているのが分かる。だが、それに突っ込みを入れる余裕すらない。


とにかく今は全力で走り国境の向こう側にある警備隊の検問所まで戻ることが先決である。


そう思った瞬間。


「わっ、わーーーーーー」


最後尾を走っていた太った男が空を飛ぶ龍の足に捕まれ一瞬で姿を消してしまう。


「くそ。Sランクの冒険者が束になっても勝てるか分からない龍がなんでこんな森にいるんだ!」


「はあ、はあ、はあ、もう、もう走れない」


ひとりの男の足がもつれフラフラになる。もう喉が渇いて目の前が霞んで見える。


「くそ。龍よ。最後のあがきだ。俺の剣を受けてみろ!」


冒険者はフラフラになりながら腰の鞘から剣を抜くと大振りに構える。


その瞬間。男の目の前に巨大な足が現れると、構えた剣ごと男を鷲掴みにして空高く舞い上がっていく。


「ひっ、ひいいいいいい」


一瞬にして霧の濃い森から遥か空の上へと舞い上がる龍。


眼下には森が小さく見える。龍の足に鷲掴みにされた冒険者は、剣を手に握ったまま全く身動きができない。


もうこのまま龍に食い殺されるのか、男はそう確信した。


ところがさっきまで空高く飛んでいたはずの龍は、地上がすぐそこに見えるところまで高度を下げて飛んでいた。


地上の景色がめまぐるしく移り変わり、男は目を回す寸前のところで、地面に叩きつけられることになった。


「ぐへえ。いっ、痛てえ。いったいどうなってんだ」


周りを見渡すと一緒に走っていたはずの冒険者仲間も地面に転がっていた。


そこに国境警備隊の兵士達が走って来ては、冒険者達を強引に連れていく。


「おい、抵抗するな。この森には入れない事くらい知っていてだろう。お前達は、取り調べの後に牢に入ってもらうぞ」


「えっ、そんなあ」


「バカ野郎。あの龍に食い殺されなかっただけでもありがたく思え」


国境警備隊の兵士が指を差す先には、大きな口から白い冷気と小さな氷の粒を吐き出す氷龍の姿があった。


さらに上空には、巨大な黒いワイバーンが大きな弧を描きながら空を舞っている。


3人の男達は、国境警備隊の兵士に引きずられながら国境警備隊の検問所へと連れ込まれていく。


白い氷の塊の様な氷龍の前には、この国境警備隊の隊長とその部下の兵士達が整列し、敬礼を以って謝意を表していた。


それを見た氷龍は、巨大な羽のひと振りで空高く舞っていく。


さらに兵士達の頭上を弧を描く様に飛んでいた巨大な黒いワイバーンも氷龍の後を追って姿が見えなくなっていく。


「あの龍達。私達と冒険者達が違うって分かってるんですね」


「ああ。恐らく我らの言葉も理解していると思う」


「龍がですか」


「そうだ。長年生きた龍は、人の言葉を理解できるそうだ」


「へえ、あっそうだ隊長教えてください。さっき龍が地上に降りた時にワイバーンが弧を描く様に空を飛んでいましたが、あれには意味があるんですか」


「ほお。いいところに気が付いたな。あれは俺達を警戒しているんだ」


「警戒ですか」


「そうだ。俺達が龍を攻撃する素振りを見せた瞬間。空を飛んでいるワイバーンが俺達に襲いかかるんだよ」


「えっ、じゃあ。あの瞬間に変な素振りをすると・・・」


「ああ。俺達は全滅する」


「しっ、しかしよくそんな事を知ってますね」


「俺の親戚に他国で龍騎士をやっているやつがいる。そいつが教えてくれたんだよ。地上に仲間が降りる瞬間、上空援護を怠らないそうだ。その時が敵の攻撃に最も弱いらしいからな」


「つまり、俺達はいつでも殺されると思って行動しなければならないと」


「そうだ。皆も聞いていただろう。あの龍達は、この国の全兵士が戦っても勝てない相手だという事を肝に銘じて行動して欲しい。我々の行動が全てこの国の明暗を分けている事を忘れるな!」


「「「「「はっ」」」」」


国境警備隊の兵士達は、姿が見えなくなった龍の姿をいつまでも追っていた。


自分達の命を握っている龍と毎日の様に接する兵士達の緊張感は計り知れない。


ここは、ふたつの国の国境に跨る精霊の森。そして巨大な黒いワイバーンとそれを遥かに上回る巨大な氷龍が守護する精霊の森の地。




「へへへっ、バカめ。あんな空飛ぶトカゲに捕まるなんざ間抜けなやつらだ」


精霊の森には、まだ捕まっていない手練れの冒険者達が数多く身を潜めていた。潜伏スキルを用いて時間をかけてゆっくりと氷の塔へと近づいて行く冒険者達。


精霊の森と魔石を狙う冒険者との戦いはまだ始まったばかりである。






カル達は、途中で寄った茶屋で風光明媚な湖があると教えられ、その湖を目指して馬車を走らせ湖までやってきた。


途中、街道を行きかう者達がみな帯刀をしている事に疑問を持ったカル達は、街道を歩く者達に聞いてみると。


「この先の湖に水龍がいるらしいんだよ。冒険者ギルドからも討伐依頼が出されたんでみんなおこぼれ狙いで向かっているのさ。お前さん達は観光かい」


そんな話を聞かされたカル達。だがもう日が落ちかけていてそろそろ暗くなるという時間だ。


ここから引き返す訳にもいかず、馬車はそのまま湖へと向かうことになった。




夜の帳が降りる頃、湖畔のあちこちに松明に火が灯され、魔法ランタンを持った冒険者が行きかう。


数百人もの冒険者達は、チーム毎に湖畔に配置されて一定間隔毎に湖への魔法攻撃を行っていく。


水龍が湖の中で休む時間を与えない様にと、この冒険者達をまとめているチームの指示による作戦である。


湖の近くを通る街道にも冒険者達が配置され、抜け駆けを行うチームが出ない様にと監視までする徹底ぶりである。


カル達はというと湖畔に近い森の木々の間に馬車を止めると薪に火を灯してのんびりと冒険者達の狩りの見学・・・いや見物をしていた。


国境の精霊の森では、魔石洞窟内に2体の地龍の幼体がいたり、氷の塔の頂上には氷龍がいたりと龍に縁のあるカルであったが、この湖の水龍に関しては一切の縁はない。


いくら物好きなカルであっても、何の縁もない水龍を助けるといった事はできない相談である。


まして目の前の湖には、少なくても200人以上の冒険者達が集まっている。


そこに手を出せば、いくらカルであっても無事では済まない・・・はずなのだが、何か鼻がムズムズするというか、何かをしなければいけないのではという見えない糸がカルを操っている様なおかしな感覚を覚えていた。


すんません。量が多いので分割させていただきます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ