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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第3章》精霊と妖精の城塞都市。
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91話.氷の塔

精霊の森へと進軍を開始する兵士達をどうにかして食い止めたいカル達。


そしてメリルの魔法を見て目がキラキラと輝き出すお猫サマ。


「お待ちください」


裁定の木の精霊とカルの言葉を遮った者。それは、エルフ族の族長であるオースティンである。


「恐らくあの兵士達は、村や町から領主命令で集められた人達です。あの者達を殺すのは簡単ですが、それでは殺された者の家族が悲しみます」


「僕もそう思います。裁定の木の精霊さんんなら、彼らを傷つけずに排除する方法を知っているんじゃないですか」


エルフ族の族長であるオースティンとカルの意見が合致した瞬間であった。


「ほう。なら、僕に言った事を君達も出来るんだよね。人に命令したり意見するのは勝手だけど、出来ない事を人に押し付けるのは御免だよ」


「そっ、それは・・・」


カルもオースティンも裁定の木の精霊の言葉に思わず口ごもってしまう。


「それなら私がやります」


メリルは、エルフ族の族長であるオースティンの言葉を遮ると、自らが行動すると宣言した。


「ほう。魔人メデジューサくずれがあれだけの数の兵士と戦わずに進軍を止められるのかい」


裁定の木の精霊は、メリルが魔人メデジューサであることを知っていた。当然メデジューサであれば石化の術が使える。だが、石化の術で進軍を止めたとしても石化された人間は、すぐに石化を解かないと死んでしまう。


それでは、カルとオースティンが切望した戦わず傷付けづに兵士を撤退させたいという思いとは合致しない。


「止めて見せます」


「石化で進軍を止めては意味がないよ」


「もちろんです。石化は使いません」


「ほう。さすが魔人だ。威勢だけはよいな」


メリルは、少しの間だけ瞼を閉じると腰のベルトに装備した短剣を鞘から抜き、カルの目を見つめる。


「カル様といつも行動を共にしているのです。カル様の考える事が分からない私ではありません」


メリルのその言葉は、覚悟の表れでもある。


メリルは、カルから送られた短剣に魔力を込めると、精霊の森へと進軍する隊列が進む先へと短剣を向ける。


そして、精霊の森を囲む様に連なる山々が少しだけ低くなっている場所。


メリルは、その場所に短剣の先端を向けると一気に魔法を放つ。


白く輝く光球がいくつも連なり精霊の森を囲う山へと降り注ぐ。


そこに現れたのは、貴族の屋敷ほどもある氷の塊であった。それが次々と現れると山の上に氷の壁が築かれていく。


氷の壁は、さらに高さを増し人が登れる高さを超えるほどに成長していく。


さらにメリルは、短剣の先端を進軍する兵士達の後方に布陣する騎士隊へと向ける。


次にメリルの放った魔法は、空から拳ほどもある雹を騎士隊の頭上へと降らせた。


騎士がいくら甲冑で全身を守っているとはいえ、空から降り注ぐ拳ほどの大きさの雹の雨を浴びてはひとたまりもない。しかも騎士よりもさらに辛いのは騎士達がまたがる馬達である。


馬達も形だけの布と皮で出来た皮鎧を装備させられていた。だが、そんな皮鎧で拳ほどもある雹の雨を浴びて痛くない訳がない。しかも形だけの皮鎧のため馬の体の露出部も多い。


あまりの雹の痛さに悲鳴を上げ始めた馬達は、主人である騎士を落馬させるとどこかに走り去っていく。


落馬した騎士達は、重い甲冑を着込んでいるため自身の力では立つこともままならない。いつもなら行動を共にする従者の手により起こされるのだが、馬と同じで雹の雨を浴びた時には既にどこかに逃げ去っていた。


地面に倒れた騎士達は、起き上がることもできず甲冑を脱ぐことも敵わず、ひたすら拳ほどもある雹を浴び続ける羽目になる。いつしかその痛みに耐えきれなくなった騎士達は、気を失い動けなくなる者が続出していた。


その光景を見ていたお猫サマの瞳がキラキラを輝きだす。メリルの手に握られている短剣にお猫サマの興味が集中する。


お猫サマは、メリルが握っていた短剣を使ってみたくなり、メリルの手からひょいと奪うと天に向けて高々とかざした。


「あっ、精霊神様。なにを・・・それはカル様より送られた品です。返してください」


いきなり短剣を奪われたメリルは、動揺を隠しきれない。


「お猫サマも魔法を放つにゃ。特大のすごいやつをはなつにゃ」


「えっ、ちょっ、お猫サマ。その短剣にむやみに魔法を込めないで・・・おねが・・・あっ、あーーーー」


カルは、今まで短剣を使ったことがないお猫サマがとんでもない魔法を放つのではないかと気が気ではない。


お猫サマは、裁定の木のてっぺんで今までいた淵から木の中央へと向かい、何やらポーズを取り始めた。


「いくにゃ。お猫サマの究奥義にゃ。胸にななつの傷がある男よりもすごいのを見せるにゃ」


するとどこからともなく軽快なリズムの音楽が響き渡り、お猫サマの背後にはどこからか現れたのか分からないお猫サマと同じ獣人が100人程も並び、猫サマと同じポーズをとっていた。


「おっ、お猫サマいったい何を・・・」


「いくにゃ。お猫サマとお猫サマダンサーズが繰り広げる華麗なダンスにゃ」


お猫サマのステップを踏むと、お猫サマの後ろで踊るお猫サマダンサーズも華麗にステップを踏む。


右に左に一糸乱れぬ踊りが繰り広げられる。


そして音楽が最高潮に盛り上がると、いきなり音楽の調子が切り替わる。


するとお猫サマの後ろで踊っているお猫サマダンサーズの並びが一気に変わる。


お猫サマは数歩だけ前に進み出るといきなり歌を歌い出す。


~~~ Music ~~~


お猫サマサマ。お猫サマサマ。


お耳ぴくぴく。しっぽふりふふり。


いつもやらかすお猫サマ。


幸せふりまく福の神。


みんな笑顔で愉快な世界。


にゃ。



お猫サマサマ。お猫サマサマ。


お耳ぴくぴく。しっぽふりふふり。


いつもやらかすお猫サマ。


笑顔ふりまく福の神。


みんな元気で楽しい世界。


お猫サマサマ。お猫サマサマ。


お猫サマサマ。お猫サマサマ。


にゃ。


~~~ Music ~~~


歌が終わると音楽も止まる。


そしてお猫サマの後ろで踊っていた100人の獣人達が繰り広げていたお猫サマダンサーズの姿がどこへともなく掻き消える。



「すっ、凄い。お猫サマって歌って踊れる精霊神だったんだ」


カルは、思わずお猫サマの変なところを褒め称える。


「魔力も最高潮に高まって来たにゃ。いくにゃ。いくにゃ。いくにゃーーーーーーーーーーーー」


お猫サマは、メリルの手から奪い取った短剣を天高く掲げるとありったけの魔力を短剣に注ぎ一気に魔法を放つ。


七色に輝く光球が空へと放たれ、その光球は精霊の森の遥か上空に立ち込めていた雲へと吸い込まれていった。


「あれ、魔法が発動しないにゃ」


「おかしいですね。今まで魔法が発動しなかったのは、見たことがあありません」


「でも空の雲に飲み込まれた後、何もおきないにゃ」


裁定の木の上では、皆が精霊の森の空の上に立ち込めている雲を見て何かが起きるのではないかとじっと見つめていた。


その頃、精霊の森を目指していた両王国の部隊はというと、メリルの放った魔法で築かれた巨大な氷の壁に行くてを遮られ進む事が出来ずにいた。


さらに後方で部隊を剣で煽っていた騎士隊は、全員が馬から落馬し拳ほどもある雹を全身にあびて気絶していた。


部隊の兵士達は、動揺が顔の表情に出はじめていた。部隊を指揮する部隊長も部隊を指揮する騎士達が全員倒れてしまっては、次にどう行動すればよいのか分からず困り果てていた。


彼らは、普段は村で畑を耕し、町で職人や荷物の運搬をなどをしている人達だ。中には、冒険者もいるいが殆どの人達は戦った経験すらない。稀に領主命令で集められて軍事訓練を受けることもあるが、それは手間賃をくれるからであって、戦いたいと思う者は皆無である。


つまり、戦場で何をすればよいのかを知っている者など誰もいないのだ。


そんな折、何か地震の前触れの様な地響きがどこからともなく精霊の森の周囲に響き渡る。


裁定の木の上にいるカル達も、巨大な氷の壁に行くてを遮られて途方に暮れている兵士達も、この地響きの音が気になり周囲をきょろきょろと見回したじめていた。


その時、精霊の森の上空に立ち込めた雲の一部が下に向かって膨らみはじめる。


「あっ、あれはなんでしょう」


最初に気が付いたのライラであった。


「竜巻でも起きるのでしょうか」


そんな事を口走ったのはメリルであった。


「そっ、そんな勘弁してください。せっかく精霊の森を復活させたんですか・・・」


カルの言葉は、終わりまで続けられる事はなかった。カル達が見つめる雲の膨らみからは、何か巨大な柱の様なものの先端が見え始めていた。


「にゃ?」


お猫サマは、一抹の不安を覚えていた。今までもいくつか”やらかして”はいた。だが、それは全て”ささいな”事であり、その結果も意外と受け入れられる良い事であった。


だが、今度の”やらかし”は規模が違う。規格が違う。


裁定の木は、精霊の森と両王国の国境が見渡せるかなり高い高さの空まで上っていた。だが、雲はそのさらに高いところに広がっている。


その雲を押しのけて見えて来た何かの柱の様なものは、裁定の木の幹よりも遥かに巨大で太かった。


それは、雲を押しのけて精霊の森へめがけて落ちはじめる。柱・・・いや塔にも見えるそれは、明らかに裁定の木めがけて落下を始めていた。


「まっ、まずい。このままだとこの裁定の木とぶつかる。回避、回避、緊急回避!」


裁定の木の精霊は、白いローブ姿で白いあご髭、白髪姿で裁定の木へと指示を飛ばす。


だが、既に空から落ちて来る巨大な柱・・・いや塔は、裁定の木の直上にまでせまっていた。


裁定の木は、あらん限りの力を以って後方へと移動を始める。


その反動と衝撃により裁定の木の上にいたカル達は、足元をすくわれ倒れる。さらに後方への急激な移動により裁定の木から落ちそうになる。


慌てて皆で手を取り近くにある太い枝につかまるが、それでも裁定の木から落ちるそうになる面々。


巨大な裁定の木は、あらん限りの力で後方への移動を行い、空から落ちてくる巨大な塔は裁定の木の僅か手前をかすめて精霊の森へと落下を続ける。


それは、裁定の木の巨大な枝を何本も巻き込みへし折り”ガリガリ”と音を立てて裁定の木と擦れあいながら精霊の森へと落下していく。


裁定の木は、落下していく巨大な塔と接触し傾きを増しながら何とか衝突だけは回避する事に成功する。


カル達は、目の前の巨大な塔の様なものを見つめ、さらに目線を上へと向ける。だが、未だに雲の中にその塔の姿はあった。つまりもうすぐ精霊の森へと落ちる巨大な塔の全貌が未だに見えないのだ。


「このままだと精霊の森の木々が潰される!」


カルがそう叫んだ時、精霊の森に異変が起きる。


精霊の森の木々達が、塔の落下地点の地面から根を抜きとると自らの根を足の様に動かしてどこかへ移動を開始した。


それはまるで森の木々が全てトレントであるかの様で、事前に空から落下する巨大な塔がこの地に落ちて来る事を知っていたかの様でもあった。


空に広がる雲を突き抜けて現れた巨大な塔は、精霊の森へと落下する直前に落下速度をゆるめ静かに精霊の森へと着地した。


”ズン”。


巨大な塔は、倒れることもなく精霊の森へと軟着陸した。その塔が着陸した場所は、さっきまでカル達が見学していた魔石洞窟の真上である。


これは、誰が見てもただの偶然で片付く話ではない。絶対に誰かの見えない力が働いている。誰もがそう思った。だが、それはお猫サマの力ではないと皆の顔が訴えていた。


裁定の木の上で巨大な枝の隙間から精霊の森を見下ろすカル達。


さらに裁定の木をも圧し潰そうとした巨大な塔の存在に肝を冷やした裁定の木の精霊。


この世界に自身を倒せる・・・いや殺せるかもしれない存在がいると考えた瞬間、精霊に恐怖という”ココロ”が始めて芽生えた。


精霊の森では、何事もなかったかの様に自らの根で歩いて移動した木々達が落下した塔の周囲に集まると、整然と自身の根を植える地を探し穴を掘り、再び根を埋めると何事もなかったかの様にいつもの営みへと戻っていく。


「精霊の森の木々って凄いね。ラプラスの隣りにある精霊の森もそうだけど、トレントでもないのに自身の根で歩くよね」


「歩きません。自身の根で歩く木などトレント以外にはおりません」


カルの言葉に反論して見せたのは、エルフの族長であるオースティンであった。その顔には冷や汗が溢れんばかりに沸き上がっている。


「この精霊の森は、カル様とライラ様があの精霊治癒魔法を放った時から何かが変わりました。もう以前の精霊の森とは別の森になっています」


裁定の木は、空から落下してきた巨大な塔とは、何とか衝突せずにすんだ。だが、折れた巨大な枝が何本もあり、その姿は実に痛々しい。


目の前にたたずむ巨大な塔は、相変わらず空の雲の中へと続いており、その全貌すら全く把握できない。


「巨大な柱?それとも塔?でしょうか。透明でクリスタルというか氷で出来ているような塔ですね」


「これだけ大きいと重さも凄そうです」


「普通なら自重で崩壊しそうだけど、立っていられるって事は、誰かの力が働いているのかな」


そう言ったカルは、ふとお猫サマの顔を見つめてしまう。メリルもライラもオーティンも裁定の木の精霊もである。


そこにいる全員から見られるお猫サマ。


お猫サマの顔は、獣人ではなくまるで猫の様な顔になり、冷や汗が滝の様に流れ落ちていた。


「おっ、お猫サマが”やらかした”にゃ。あの巨大な塔はきっとお猫サマの魔法が出現させたにゃ」


お猫サマは、手に握られていた短剣を持ち主のメリルに返すと、とぼとぼと裁定の木の端へと歩いて行き、膝を抱えてしゃがみ込んでしまった。


「お猫サマは、やらかす神にゃ。もう10万冊の書類に”項”を書き込む仕事を延々とやるにゃ。お猫サマの神人生は終わったにゃ」


お猫サマは、小声で何かを延々と呟き続ける。


だが、その時は、誰も気が付かなかった。本当に目の前に現れた巨大な塔は、お猫サマの魔法だけで出現できるものなのかを。


例えお猫サマが精霊神であろうとも神の位としては、下級神の下の下の下である。そんな力など持ち合わせていない事をその時は誰も知らなかった。それは、お猫サマ本人ですらである。


「ははっ、はははっ、僕はいろんな世界に行ったけど、初めて死ぬかもしれないという恐怖を感じたよ」


裁定の木の精霊は、笑いながらカルの顔を真剣に睨みつける。


「例えそれが偶然の産物であってもね。この世界にいるうちは、好き勝手なことはなるべく控える事にするよ。それに、この塔の出現は良い方向に向いたようだね。あれを見てごらん」


裁定の木の精霊が指を差した先では、精霊の森へと進軍していたはずの部隊が、雪崩を打って撤退を初めていた。いや撤退という秩序のあるものではない。


各々が勝手にばらばらになり、散り散りとなり我先に逃げ出していた。重い鎧や剣や盾など逃げるには邪魔になるものは、全て放り投げて逃げ出す者達の姿がそこにはあった。


「こんなものを自国の街にでも落とされたら街の住民は全滅だ。さらにこの塔が倒れたらその国にどれだけの被害が出るか・・・」


今度は、裁定の木の精霊が立ったまま小声でブツブツと言い始める。


「あっ、でも偶然とはいえお猫サマの魔法で敵が逃げていきますよ。これならお猫サマが”やらかした”ことにはならないですよ」


「そっ、そうにゃ。それはよかったにゃ」


お猫サマの顔が急に明る笑顔になる。カルは、裁定の木の端で膝を抱えて打ちひしがれているお猫サマに結果が良い方向に向いたと励ましていた。お猫サマもおだてると意外と乗ってくれる神様なので、分かり易くて助かると思うカルであった。


「さあ、いつまで考えていても始まらないか。次の行動に移るかな。カル、少し手伝って欲しい。一緒にふたつの国の国王に会いに行くから同行して欲しいんだ」


「こっ、国王ですか。僕がですか?」


「そう。この状況がこのまま終わると思うかい。国王に釘を刺しておかないとまた同じ事を繰り返すよ」


裁定の木の精霊にいきなり国王に会いに行くと言われて困り果てるカル。


カルは、政治や国家間の駆け引きなどに疎すぎてお話にならない。そんなカルを連れて行くと言った裁定の木の精霊。


精霊は、いったい何をしようというのか。



精霊の森へと落ちてきた氷の塔。あの塔はお猫サマが”やらかした”ために現れたものなのでしょうか。


それにお猫サマは、どこかの国の映画の様にいきなり歌って踊る神様だという事が判明しました。


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