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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第3章》精霊と妖精の城塞都市。
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87話.旅の始まり

カル達は、馬車でエルフ族のエレンが住むという精霊の森へと向かいます。


※すみません。今回も長いです。8000文字超えてしまいました。


精霊神であるお猫サマを祭る教会が城塞都市ラプラスの下町に獣人達の手により建てられることになり、さらにドワーフのバレルが住む村には、酒倉の隣りに剣爺を祭る教会が建った。


城塞都市ラプラスは、魔王国領内に存在するため神を祭る教会などなく、他の城塞都市にも神を祭る教会はない。


ふたつの教会は、共に規模も小さく人族の王国にある神を崇拝する強大な宗教団体でもないため、魔王国領内にあっても特に問題ないはず・・・なのだが、こればかりは何とも言えない。


しかもどちらも城塞都市の領主であるカルに縁の強い神である以上、領主であるカルは教会を守る側に立つことになる。これが今後にどんな影響を及ぼすのか。


さて、遠い地にある精霊の森を助けるため、エルフのエレンの案内でその地へと向かうことになったカル。


案の定、ルルに手紙を送り城塞都市ラプラスを不在にする事を伝え、領主の館、役所、警備隊本部などの関係各所にも不在時の業務遂行に関する引き継ぎや申し送りを急いで行う。


カルが城塞都市の領主などではなく、冒険者ならすぐにでも都市を移動してダンジョンで魔獣狩りにとなるのだが、領主である以上そう簡単に事が進まないのが実情である。


カルは、精霊の森の入り口にある作業場で馬車に黄色いラピリア酒(薬)の入った酒樽と水の入った樽を積むと、いよいよ出発まじかとなった。食料や着替えなどはカルの盾の中にある安全地帯に置いてあるので、盗賊に馬車を襲われても問題はない。


馬車に酒樽を積み込んだのは、荷物を積んでいない荷馬車を国境では変な目で見る事が多く、要らない詮索を避けるため最低限の商品を積んでいると思わせることが狙いである。


国境を通過するときに多少の関税は取られるが、その程度の金をケチっていては国外に行くことなどできない。


間もなく馬車は出発という時に馬車に珍客が乗り込んで来た。それは人の背丈ほどしかないラピリア・トレンである。


馬車の荷台のはしに座る?と言葉もなく黙ってうずくまっていた。


「あっ、あのラピリア・トレントさん。僕達これから遠い場所にある精霊の森へと行くんだけど君も行くの」


ラピリア・トレントは静かに頷く。


「精霊の森の精霊さんとかラピリア・トレントの族長さんも知っているの」


ラピリア・トレントは、ただ頷くだけ。


「まさか、君が遠くの精霊の森へ行くというのは、その精霊の森で生きて行こうとしているの」


ラピリア・トレントは、大きく頷いた。


「分かった。じゃあちょっと待ってて」


カルは、作業場にあった大きめの鉢に土を入れると荷馬車へと運び込む。


「ラピリア・トレントさん。旅は長くなるからこの鉢に根を埋めて休んでいて。その方が楽でしょう」


ラピリア・トレントは、大きく頷くとカルが持ち込んだ鉢の土に根を埋め”ほっと”ため息を付いて安土した様に見えた。


荷馬車は、カル、メリル、ライラ、エレン、妖精、それとラピリア・トレントを乗せて城塞都市ラプラスを出発した。お猫サマはというと馬車の幌の上で相変わらず昼寝を楽しんでいる。


だが、お猫サマは馬車の幌の上でただ昼寝を楽しんでいた訳ではなかった。カル達が乗る荷馬車を空の上から観察する妖精をずっと見ていたのだ。


上空からカル達が乗る荷馬車を見ている妖精の事は、裁定の木の精霊が化けている妖精も知っていたかも知れない。だが、その妖精の態度からはそれをうかがい知ることはできなかった。





カル達の馬車が出発したのは、昼を過ぎてからだったのでサラブ村に到着するのは、夜半になってかになる。


馬車で夜道を進むのはあまり安全ではないが、のんびりしてもいられないので仕方がない。


途中、街道でサラブ村から穀物を運ぶ馬車に何度か出くわすと御者席に座る人達と手に振って挨拶を交わす。それは、この街道を馬車で移動する時の礼儀みたいなもので、馬車で穀物を運ぶ人達は殆ど知った顔なので尚更である。


日は陰り山間の道もだいぶ暗くなると、魔法ランタンの灯りを灯しながらサラブ村を目指す。


途中、魔獣らしき声を何度も聞いたが襲われることもなく夜遅くにサラブ村へと到着した。砦の城門を開けてもらい広場に荷馬車を置かせてもらう。


その広場には、以前は無かった小さな教会が建っていて、夜遅いというのに祈りを捧げている獣人が多くいた。


お猫サマは、サラブ村の村長に案内されながら教会へと入っていく。質素だが綺麗に仕上げられた教会の正面の祭壇には、お猫サマの像が飾られていて普段のお猫サマの数倍は美化された雄姿を晒していた。


「なんか恥ずかしいにゃ」


「いえいえ、精霊神様のお姿を実際に見ることなど本来はありえないのです。我々は、精霊神様のお姿を実際に見て話までした獣人として末代まで誇れます」


いつしか教会には、お猫サマを一目見ようと獣人達があふれかえり教会に入りきれないほどになっていた。


その日は、夜も遅いというので獣人達は皆帰っていったが、朝早くにミサを執り行うので少しでいいから顔を出して欲しいと懇願されてしまい、仕方なくそれに応ずることになった。


砦跡の一室に通されたカル達は、サラブ村でのお猫サマの歓迎ぶりに驚きを隠せず興奮気味で会話を続ける。


「サラブ村でのお猫サマ人気すごいですね」


「まさかこんなになってるとは思わなかったにゃ」


「ラプラスにも教会が建つんですよね」


「そうにゃ。でもラプラスには獣人は少にゃいからこんな騒ぎにはならないにゃ」


「これなら定期的にサラブ村に来てもいいですね」


「だめにゃ。あまり神が顔を出すと良からぬ事を言い出す者が出るにゃ。上級神様にもそれは釘を刺されたにゃ」


「へえ、やっぱりいろいろあるんですね」


「だからラプラスに教会が出来たらどこかに身をひっこめるにゃ」


「えっ、そうしたら僕達と一緒に居られなくなるんですか」


「それとこれとは別な話にゃ。それにカルは、あの薬で民が病気やケガを心配しなくてもいい都市を作ったにゃ、これ以上望まれても困るにゃ」


「では、後はお猫サマが神としての格を上げるだけですね」


「それも怖いにゃ。でもそれはまだ先の話にゃ。恐らく早くても100年は先のことにゃ」


「えーーーー。そんな先なんですか。じゃあ、僕が生きている間に格の上がったお猫サマを見ることはないんですね。ちょっと残念です」


「でも、カルとはこうやって話が出来るにゃ」


「ははは。そうでした。神様とお話が出来るって凄い事なんですよね」


「そうにゃ。それにカルには剣爺という神もついてるにゃ。剣爺はカル専用の神様にゃ」


カルは、冒険者の仲間達が会話をする様にお猫サマと話をしている。だが、お猫サマは精霊神である。本来なら精霊神を仲間にするなど出来るはずもないし会話をするなど論外である。


なぜそれが普通に出来てしまうのかを全く理解していないカルであった。






教会での朝の礼拝を終えたお猫サマとカル達は、荷馬車ごとゲート空間移送システムを通りリガの街へと到着した。


カル達は、国境を通らずにこの街へとやって来ていたが、全ての国で国境の検問を通っての越境を行う者の方が少ないのだ。


カル達は、荷馬車を穀物倉庫に置いて歩いてロイズ商会へと向かった。目的は、精霊の森への近道がないかを商人のロイドの情報網から仕入れるためである。



「おや、これはカル様。突然のご来店とは。本日は、いかがなされました」


リガの街にあるロイズ商会。以前は、ウエスト子爵の領地で作られた穀物が売れず、在庫を抱え込んで店が倒れそうな状態であった。それが、カルが城塞都市用にと溜めに溜め込んだ穀物を買ったことで一気に息を吹き返した。


さらに城塞都市ラプラスで作られているラピリア酒(薬)の販売を一手に引き受けると、近隣の宿屋や食堂からの引き合いが殺到した。今も取引を行いたい事業者との商談依頼が後を絶たない。


そんな中、カル達の突然の来訪にも快く時間を割いてくれた店主のロイドは、カル達をロイドの執務室へと案内した。


「実は、とある事情でヴァートル王国とヴィシュディン王国の国境へ行きたいのですが、乗合馬車で行くと10日ほどかかるというのです。近道というか他に早く行く方法はないものかと思いまして。商人であるロイドさんならそういった情報をお持ちではないかと」


カルは、エルフ族のエレンが持ち込んだ地図を広げると行きたい場所を指さした。


それを見たロイドは、書棚から大きな紙を取り出すと皆が座る椅子の前にあるテーブルに書棚から持ち出した紙を広げる。それは、エレンが商人に書いてもらった手書きの地図とは明らかに異なる精巧に書き記された地図である。


「すごい精巧な地図ですね」


「はい。商人ならこの程度の地図は必須となります」


ロイドは、精巧な地図を見、無言のまま指で記された街道をなぞりながらいくつか思案を重ねる。


「では、エレン様のお持ちになっている地図ですが、それは現在運航されている乗合馬車で移動する場合のものになります。馬車をお持ちで護衛などを従えている場合であれば、この道が使えます」


エレンの地図には、おかしな部分があった。それは、”コ”の字の様に地図の真ん中に空白部分があるのだ。地図は、中央の空白部分を避ける様に各都市や村を連ねて乗合馬車の運航路線が書き記されていた。


「この地図ですと、ヘルタート国の山脈を通る乗合馬車がありませんので、そこを迂回する様になっております。ただ、これですと移動日数が倍以上になります」


ロイドは、地図の中央の空白部分を指さし、さらに書棚から持ち出した成功な地図の同じ場所を指さす。


「ヘルタート国を横に横断するセトヤ山脈。ここを通れば早くて3日でヴァートル王国へと到達できます」


地図を見るロイドの目は、なぜか輝いていた。それは、商人として新たな販路が開拓できるという希望を見ていたのだ。


「ただ、この地には、かなり前から魔獣が出るというのでヘルタート王国より討伐部隊が何度も送られております。さらに冒険者ギルドから冒険者に討伐要請も出されていますが、未だに魔獣討伐は成されておりません」


「魔獣・・・ですか」


「はい。以前は、この山脈を超える街道を通る乗合馬車があったのですが、魔獣が出る様になったため乗合馬車は運航されなくなっております」


「その、魔獣ってどんな」


「はい。ワイバーンでございます。ワイバーンは、空を飛ぶ魔獣で別名”飛竜”とも呼ばれております。ただ、竜といっても火龍や水龍とは別な魔獣となりますが、名前に”竜”が付くほどの強さを持ち合わせております」


「もし、僕達がその街道を行けばワイバーンと戦わないといけないんですね」


「はい。ですがカル様があの時の様に御強いのであれば、この道を進まれるべきです。そこでワイバーンを倒されたのなら私共もこの道を使えるようになります。それは、私達の望むところでもあります」


あの時とは、カルがサラブ村に来たロイドと初めて会い、その後、山を徒歩で越えた時にオークを武具も使わずに倒して見せた時のことである。


「僕は、そんなに強くないですよ」


「いえいえ。強くないお方が城塞都市を3つも奪う事などできましょうか」


「・・・・・・」


「その後のお話も存じ上げております。ベルモンド商会が放った魔人を退けたそうですね。あの魔人は、いろいろな国の王族を滅ぼしてきた話は有名です。それを退けたとなればその強さは本物です」


「・・・・・・」


カルは、あの魔人を退けたのが妖精達とラピリア・トレント達である事を知っていた。だから余計にその話を言い出せない。それは領主として城塞都市を守れなかったと白状してしまうのが怖かったからだ。


カル達は、ロイズ商会を後にすると馬車が置いてある倉庫へと向かった。途中、露店で売っている食べ物をじっと見つめるお猫サマに促される様にいくかの美味しそうな食べ物を買う羽目になり、メリルもライラもそれに便乗して両手にいっぱいの食べ物を抱えて馬車へと戻ることになった。


カル達の馬車は、ゆっくりとリガの街の中を進んで行くと、幌の上にいるお猫サマがこんな事を言い始めた。


「カル。幌の上は暑いにゃ。天幕を張って欲しいにや」


「天幕ですか。ちょっと待ってくださいね」


カルは、リガの街でいくつかの店に立ち寄り長い棒を数本と白いシーツの様な布を購入した。


荷馬車の幌の脇に長い棒を括り付けると、それらの棒の先端に四方に伸びる棒を紐で結び、四方に伸びた棒に白い布を結ぶ。


「急ごしらえですがこんな感じでどうですか」


「カルは、器用にゃ。これならお猫サマも空の監視が楽になるにゃ」


「空の監視?」


「なっ、なんでもないにゃ。それよりも早く馬車を出すにゃ」


リガの街を出て穀倉地帯を進む馬車。お猫サマは、馬車の幌の上でのんびり昼寝を楽しんでいると誰もがそう思っていた。だが、お猫サマは、城塞都市ラプラスからついて来るある者の姿に睨みを利かせていた。


その者は、空のかなり高い場所からずっと馬車を見つめていた。そのことには誰も気がつかず、唯一お猫サマだけがそれに気が付き、その者がどう行動するかをじっと監視していた。


お猫サマは、空の上から馬車を見つめる者が、何か行動を起こすまでは触れずにいようと決めていた。旅の初めから面倒事をしょい込む必要もないと考えたからだ。


日が傾きだした頃、あまり大きくない川へとさしかかった馬車は、川の手前にある国境警備隊の詰め所へと到着した。国境には、城壁も柵もなく、警備隊の小さな詰め所がぽつんと1軒建っているだけである。


兵士は、ぱっと見ただけで5~6人といった感じで、国境を通る人も馬車もなく時間を持て余している様子で、あくびをしながら馬車の前に立ちはだかると身分証の提示を求めて来た。


カルは、ふたつの身分証を持っている。ひとつは、魔王国城塞都市ラプラス領主という肩書が記されたもの。もうひとつは、冒険者ギルドが発行したものだ。


カルは、基本的に冒険者ギルドから発行された身分証を使っている。それは、城塞都市の領主の身分証を出すといろいろ面倒な事になりそうな予感がしていたからだ。


カル達が、兵士に見せた冒険者ギルドは、当然ながら魔王国にあるため魔王国以外ではあまり良い顔はされない。それは、長年にわたり人族の王国連合と魔王国が戦争状態にあるためだが、ここ10年程は大きな戦争はなく平穏な日々が続いていた。


「魔王国の連中だぞ」


「おい。魔王国の冒険者が王国で何をしていた」


兵士達は、カル達が提出した身分証を見て怪訝な表情を浮かべながら馬車を取り囲む。


「実は、薬の取引をしてくれる商家を探してまして」


「薬?どんな薬だ見せてみろ」


兵士の威圧的な態度にも笑顔で答えながらカルは、荷馬車の奥にしまい込んだ小瓶を取り出すとへひとりの兵士に渡した。


「これです」


「こっ、これは最近売り出されたポーションよりも効くというあれではないか!」


「はい。実は、冒険者というのは身分証代わりでして、本業はその薬を作っています」


馬車を取り囲んでいた兵士達が、カルが手渡した小瓶に群がりはじめる。


「それは薬でもありますが、お酒でもあるんです」


「知ってるぞ。高級な宿屋とかで扱ってるよな。かなり高いがポーション以上の効能があるっていう酒だ。飲めば飲むほど体にいいって金持ちの間で評判らしいぞ」


「今は、リガの街にあるロイドさんのロイズ商会でしか扱っていませんし、ウエスト子爵にもお世話になっているのであまり大手を振るって販路拡大はできないのです」


「ウエスト子爵・・・これをお前が作ってるのか」


「いえいえ、実際に作っているのは職人さんです。僕は、製法を確立したので作ってもらっているだけです」


カルは、荷馬車から黄色いラピリア酒の入った大瓶を2本持ち出すと、警備隊の兵士に手渡した。


「どうですか。お近づきの印に」


「いいのか。これ高いんだろ」


「街で買えば金貨数十枚はしますが、そこはご内密に」


「そんなにするのか。わっ、分かった。気を付けて行けよ」


「はい。ありがとうございます」


黄色いラピリア酒が入った2本の大瓶を手渡された兵士達は、大瓶を持ったまま慌てて詰め所の中へと入って行く。


カルにしてみれば、黄色いラピリア酒の製造原価など殆ど無いに等しい。だが、このラドリア王国では、ロイズ商会が元の価格の数十倍の価格で売っているため高級酒(薬)として市場に出回っていた。


結局、兵士達は、カルの馬車の荷を何も調べずに国境を通してくれた。これでは、国境警備なんてあっても無いに等しい。


城塞都市がこんなずさんな警備体制だったなら勘弁して欲しいと内心思ってしまうカルであった。




カル達が国境の川を渡り終わった頃、詰め所の中で兵士達がもめていた。


「おい、その酒は、ひとり1日1杯だけだぞ」


「けち臭いこと言うなよ」


「バカ野郎。その大瓶ひとつで金貨30枚もするんだぞ。お前が注いだコップひとつでお前の給料が飛ぶんだ」


「えっ、まじか」


「皆もこの事は黙ってろ。その代り毎晩1杯づつ飲めるからな」


兵士達は、コップに注いだ黄色いラピリア酒の甘い香りを鼻で楽しみ、口に含んで味を楽しみ、喉に流し込んで喉ごしを楽しんだ。


「「「「「「美味え」」」」」」


「体が軽くなった気がする」


「俺は、痛かった肩が治った」


「俺は、足の痺れがなくなったぞ」


「こんな酒をあのガキが作っているのか」


「世界って広いな」


「俺、兵士なんて辞めてあのガキのところに働きに行こうかな」


「バカ野郎。兵士しか取り柄のないお前に酒作りができるかよ」


あっという間に空になったコップを見つめる兵士達。そしてその目線の先には、まだ半分以上も酒が残っている大瓶がひとつと手を付けていない大瓶がひとつ。


「だっ、ダメだ。この酒は明日の夜の分だ」


兵士達は、思わず”ごくり”と唾を飲み込む。


「頼む。もう1杯だけだ」


「おっ、俺も」


「俺にも1杯」


「・・・分かった。でもこれを飲んじまうと残り大瓶1本だけだな」


兵士は、皆のコップに酒をつぐと手を付けていない大瓶を鍵がかけられる棚の奥へと仕舞い込み鍵をかけてしまう。


「おい、鍵までかけなくてもいいだろ」


「バカ。その辺に置いたら明日の朝には、瓶の中は空になって代りにションベンが入ってるぞ。お前は人のションベンを飲みたいのか」


「人のションベンはいやだな」


詰め所からは、兵士の笑い声が漏れていた。しかも微かにだがラピリア酒の匂いも周囲に漂いはじめていた。


それを嗅ぎつけた彼らは、いつしか詰め所の窓にびっしりとはりついていた。彼らがどこからやって来たのかは分からない。だが、ラピリア酒を飲んだら見えてしまうのは”あれ”である。


そう”妖精達”だ。


兵士達は、鍵のかかった棚の奥にしまい込んだ酒瓶を巡って妖精達とひと晩じゅう大乱闘を繰り広げる羽目になる。


それは、ラピリア酒を飲んでしまった者の宿命でもあった。




クエスト:「ラピリア酒を妖精達から守リ抜け!」




次の日の朝、詰め所は、見るも無残な姿を晒していた。扉も窓も壁も屋根すらも穴だらけとなり兵士達は、傷だらけで全員が倒れていた。


それを見つけたのは、近くの村の者達であった。いったいどんな魔獣が現れたのかと村から剣や盾を持って恐る恐る穴だらけの詰め所へとやって来た。


ひとりの兵士は、顔に大きな痣を作り頭にはたんこぶを作っていた。服はボロボロで防具もあちこち凹んでいる。そんな兵士が目の前の妖精と握手を交わしていた。兵士と妖精の手には、割れたコップが握られていて、その中には黄色いラピリア酒。兵士と妖精は、割れたコップを傾けて口の中にラピリア酒を流し込む。


兵士と妖精は、長年の強敵の様にお互いのファイトを称えつつ、地面に倒れ込んで深い眠りについた。


兵士達の近くには、空になった大瓶が転がり、壮絶なバトルを繰り広げた兵士達と妖精達が地面でいびきをかきながら気持ち良さそうに大の字になり深い寝りについていた。


ラピリア酒を飲んでいない村人には、妖精の姿は見えず倒れている兵士の姿しか見えない。


姿の見えない魔獣に怯える村人達は、慌てて近くの街に兵隊を呼びに走り、兵士達は夜中に何が起きたのかを上司に説明できずに延々と上司の説教と事情聴取を受ける羽目になる。


ひと瓶の酒が元で詰め所を妖精達に壊されてしまった兵士達が実に不憫であった。


カルが国境警備隊の兵士に渡したラピリア酒は、妖精達に飲まれてしまいました。妖精達にお裾分けをすれば、こんな事にはならかったんですが。


でも、今まで妖精が見えていなかった人達にとって妖精が見えるようになったことは良かったのか悪かったのか。


※PCのキーボードのキーが引っかかります。そろそろ交換かな。


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