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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第3章》精霊と妖精の城塞都市。
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86話.お猫サマの教会と剣爺の教会

カル達は、エルフ族のエレンと共に馬車で旅に出る準備をしていますが、そこにサラブ村から獣人達がやって来ます。


お猫サマがサラブ村で救った獣人の娘。名前をエトーレという。


城壁から落ちて頭と首の骨を折り死ぬ寸前だったが、カルから貰った薬のおかげで命を救われた。


その後、療養のため仕事を休んでいたが、はれて元気になり仕事に復帰したという。


サラブ村の獣人達は、お猫サマを獣人の神と敬う様になり、砦跡の広場に小さな教会を建てて毎日祈りを捧げる様になっていた。


そんな事もつゆ知らず、お猫サマは子供達に荷馬車で酒樽の運搬をまかせっきりにして、年老いた馬や古くなった馬車を買い付けては、時を操る術で馬と荷馬車をどんどん増やし運搬の仕事を拡大していた。


そんな折、仕事に復帰したはずのエトーレとお猫サマと同じ種族の4人。さらに手伝いの数人の獣人達が馬車で大挙してお猫サマがカルから借り受けたボロ屋に押しかけて来た。


目的は、お猫サマを祀る教会を城塞都市ラプラスにも建てること。その教会の建築資材を馬車で運んで来たというのだ。


建てる教会は、サラブ村で建てたものと同じというので、図面も木材やレンガも全て加工済みのものを馬車で運んできたのだ。


既にボロ屋が建つ土地の空き地に線を引いてどこに教会を建てるのかさえ決めている始末。


後は。お猫サマの許可を待つばかりで、いつ許可が下りるかをじっと待つ獣人達の目は潤みっぱなしであった。


さすがに教会を建てるなとは言えないお猫サマは、仕方なくカルに相談話を持ちかけた。


「カル。これから旅に出るというのに相談にゃ。お猫サマが借りてるボロ屋の敷地が空いてるにゃ。あそこに教会を建ててもいいにゃ」


「教会ですか。問題ないと思いますよ」


「城塞都市ラプラスには、他に教会はあるにゃ」


「教会ですか・・・無かったと思います。そもそも城塞都市ラプラスは、魔王国にありますから神を祭る教会はないはずですけど」


「そうにゃ、それはよかったにゃ」


「ちなみにどこの神様を祭る教会ですか」


「・・・その、お猫サマにゃ」


「えっ」


「お猫サマを・・・祭る教会にゃ」


「えっーーーーーーーーー」


「サラブ村で瀕死の獣人を助けた話は話したにゃ」


「はい」


「その件でサラブ村の砦跡にお猫サマの教会が建ったそうにゃ」


「既に建設済みと言う訳ですか」


「そうにゃ。それでお猫サマが普段暮らしているラプラスにも教会を建てようという話がサラブ村の獣人達から持ち上がってるにゃ」


「資材とかはどうされます?何なら僕が・・・」


「実は、もう資材も運ばれて来たにゃ」


「手際がいいですね。お猫サマは、精霊神ですから神として祭られるのはいいことではないですか」


「祭られると神格が上がるにゃ」


「おっ、格上の神様になれるんですね」


「・・・怖いにゃ」


「はあ?」


「お猫サマは、祭られた事がないにゃ。死ぬほど怖いにゃ」


「お猫サマは、以前ドワーフのバレルさんにこう言いましたよね。”自分に都合の良い様に考えるにゃ。面倒なことを考えるとこの先の数百年が地獄にゃ”と。お猫サマも気楽に考えたらどうですか」


「そっ、そうにゃ。・・・気楽にゃ。気楽がいいにゃ」


「そうですよ」


「僕だって村人からいきなり城塞都市の領主になったんですよ。それが今では3つの城塞都市の領主です。ただ、僕の場合はお飾りですけどね」


「カルはもうお飾り領主じゃないにゃ。3つの城塞都市の領主がお飾りでできる訳ないにゃ」


お猫サマは、自身のは話ではないと思うと途端に舌が滑らかになる。そして真顔でカルに迫り言うのだ。


「薬を他国に売る事業を成功させたにゃ。あれはすごいにゃ」


「でっ、でもお猫サマも凄いですよ。この世界に来てまだ日が浅いというのにもう教会を建てようという人達が現れて・・・」


カルは、そこで違和感を覚えた。お猫サマは精霊神、つまり神様だ。カルの周りには他にも神がいたはず。


そう、それは剣爺だ。


カルは、剣爺に武具をもらい城塞都市の領主にまでなった。ならば、そのお礼をするべきではないのか。だが、カルは何もしていなかった。そう全く何も・・・。


「まずいです。非常にまずいです。こんな恩知らずはいないですよ」


カルは、とにかく誰かに相談をしようと考えた。だが剣爺に相談する事できない。ルルやリオに・・・いや、やっとケガが治ったばかりだし、しかも城塞都市アグニⅡにいるのでは相談などできるはずもない。


「そうだ。ドワーフのバレルさんだ。剣爺の事も知ってるし、酒蔵の建築も頼んでやってもらったから教会だって大丈夫なはずだ」


とにかくカルは、慌てて領主の館を出るとバレルの元へと走り出した。


「あっ、あのカルさんどこに行かれるんです。ひとりで出歩いてはダメですよ。それに午後には馬車で出発ですよ」


ライラの言葉も耳に入らないカル。


城塞都市の城門で兵士達が敬礼をしてカルを送り出すも目には入らず。城塞都市の城門を抜けても必死に走る。


「カルさん。馬車に乗ってください」


「はあはあはあ。ラッ、ライラさん」


カルを追いかけて馬車でライラがついて来たのだ。馬車の御者席に飛び乗り息を整える。


「カルさんは不注意です。もしまた双子が現れたらどうするんですか」


「そうにゃ。あんなのが来たらお猫サマでも危ないにゃ」


「はあはあはあ。双子は大丈夫です。妖精さんとラピリア・トレントさん達がいます。それよりもバレルさんのところに行ってください。とても大切な話があるんです」




馬車は、程なくしてバレルが住む家の前に到着した。カルは、急いでバレルを探すが家にも作業場にもいない。ならば酒蔵にいるはずと、走って酒蔵へと向かうカル。そこでやっとバレルを見つけるとが出来た。


「おうカルよ。丁度良いとこに来たわい。剣爺神様を祭る教会が完成したわい。金属の神と聞いたのでな。教会のひとつでも建てんとドワーフとしても気が済まんのでな」


「あーーーーーー、先を・・・先を越された!」


建てられたばかりの教会。まだ内装工事も終わっていない教会。内装と建具の職人が慌ただしく作業を続ける最中、剣爺の短剣を出来たばかりの祭壇に祭り、両膝を折って頭を下げるカル。


「剣爺。ごめんなさい。僕、そういう事に疎くて」


すると祭壇の最上段に姿を現した手の平程の大きさの小さな剣爺。


「よいよい気にするでない」


「でっ、でも。あれだけ武具とかゴーレムのカルロスとか貰っておきながら何もしないなんて・・・」


「まあ、そう言うな。それにわしはそんな事をして欲しくてこの世界に来た訳ではないのじゃ」


「剣爺・・・」


「それにじゃ、神も若返ると嬉しいものじゃ。この世界に来れなんだら若返りなんぞできんかったのじゃ」


「ごめんなさい」


ひたすら謝るカルに剣爺は、優しい言葉をかけてくれる。


「まあ、あれじゃ。こういったものには”大人の事情”というやつが絡む事が多くてな。それにカルはまだ子供じゃからな。そういった事を気にせんでおおらかに育って欲しいとおもうとるのじゃ」


「あっ、ありがとう剣爺」


「そう言えば、カルのジョブは神官じゃったの」


「・・・あっ、そうでした。僕、大盾ばかり扱ってるからいつもタンク、盾役だと思ってますけど」


「カルよ。カルの周りをよく見てみるのじゃ」


「僕の周り?」


「そうじゃ」


「例えばわしは神じゃな、では、お主の盾のダンジョンにいる精霊、精霊の森の精霊、精霊神である猫サマ、さらに各城塞都市の近くに出来た精霊の森の精霊。それに主は、城塞都市アグニⅡにあるダンジョンのオーナーでもあったな。あのダンジョンのマスターも精霊じゃ。そして裁定の木の裁定者。されはまさしく精霊じゃ」


「神様や精霊だらけ・・・」


「そうじゃ。それに都市や森にいる妖精の数はどうじゃ。恐らく数千はいるのじゃ」


「数千の妖精・・・」


「お主は、それらと普通に向きあっておる。そんな人族などこの世界にはおらんのじゃ」


カルは、自身の両手を開いてそれを見つめた。


「僕は・・・、僕は何なのでしょう」


「まあ、あれじゃ。そんな難しい顔をするでない。もっと気楽に考えるのじゃ。お猫サマも言っておったろう”自分に都合の良い様に考えるにゃ。面倒なことを考えるとこの先の数百年が地獄にゃ”とな」


「はい!」


カルは、バレルの建てた教会の建築費用全額を持つと言いだした。だが、バレルにも大人の意地がある。結局、大人であるバレルが建築費用の7割。カルは領主ではあるがまだ子供ということで3割を負担することになった。


バレルとしても大人に花を持たせろということなのであろう。さらに領主が建築費用を全額出すのと、一部を出すのとでは大人達のバレルを見る目が違うのだ。


教会の建築費用を領主が全額出してしまえばそれは領主の教会になってしまう。だが、バレルが7割、領主が3割を出すということは、バレルが領主に顔がきく事を意味する。領主に出資を頼めるバレルということだ。


つまり、領主への陳情をするにせよ役所に陳情に行くにせよ、同時にバレルに口利きを頼めば陳情が通り易くなり、領主に顔の利くバレルとして重宝されるのだ。それが大人の世界である。


いきなり湧いた様な教会の建設話もなんとか納まった訳だが、その後、お猫サマの教会には、馬が5頭。荷馬車が4台。それに街中の路上で生活をしていた身寄りの無い子供が10人以上も集まり、かなりの大所帯となっていた。


当面、教会の建設でサラブ村から来た獣人達が子供達と一緒に暮らすというので、カル達と長い旅にでるお猫サマも内心はほっとしていた。





「店主。店主はいるかにゃ」


「はいはいお待ちを。げっ、お猫サマ」


「”げっ”てなんにゃ。店の前に繋がれた老馬の馬肉が欲しにゃ」


「いえ、あれはその・・・」


「今日のお猫サマの爪は血に飢えてるにゃ」


お猫サマは、これ見よがしに持っていた古盾を自らの爪で三枚おろしにして見せる。そう、わざと貸し馬車屋の店主の目の前で。


「ひっ、ひえーーーーーーーー」


「お猫サマは馬肉が大好きにゃ。あの馬肉はいくらにゃ」


「でっ、では銀貨5枚で」


「いつも悪いにゃ」


そう言うとお猫サマは、店主の手に金貨を1枚握らせた。


「店主。また来るにゃ」


そういうとお猫サマは、ボロボロの馬車ごといつの間にか若返らせた”馬肉”を引いて貸し馬車屋を後にする。


「あっ、ありがとう・・・ございます」


店主は、お猫サマの姿が見えなくなったと見るや思わず愚痴を吐いた。


「こんなんじゃ商売あがったりだ。二度と来るな獣人!」


すると、貸し馬車屋の店主の頭の上には宙に浮いたお猫サマの姿が・・・。


「なんにゃ。店主、今なんて言ったにゃ」


猫手から伸びた長く鋭い爪を磨くお猫サマ。さらに鋭い視線が貸し馬車屋の店主の顔に突き刺さる。


「ひっ、いえ何も。あっ、あの来週にもその”馬肉”が入荷しそうです。よろしければ・・・」


「そうにゃ。悪いにゃ。でもお猫サマは来週はいないかもしれないにゃ。なら馬肉を取っておくにゃ」


肝を冷やした貸し馬車屋の店主は、またまたお猫サマを店先で見えなくなるまで頭を下げて見送った。





馬も馬車も極少額で手に入れたお猫サマ。そのお猫サマが率いる荷馬車の荷運びの仕事はカルの協力もあってあっという間に軌道に乗った。それは、子供達の頑張りもあり10人以上の食い扶ちを養うよりも遥かに高い利益を上げるようになっていた。


ただ、可哀そうな者がひとりだけいた。それは貸し馬車屋の店主である。お猫サマは、年老いた馬が入荷される度に店にやって来ては、馬肉と称して無理やり年老いた馬と古い馬車を買い叩くのだ。


お猫サマは、店主の目の前で年老いた馬を若返らせる術を何度も見せつけた。それをただ指をくわえて見ているだけの店主はとても不憫である。


結局、貸し馬車屋の店主もお猫サマの睨みつける獣人独特の目には恐怖を感じてしまい何もできずしまいであった。


そんな店主を不憫に思ったのか、お猫サマは貸し馬車屋の店主と契約を交わし、馬や荷馬車を融通し合う荷運びの仕事を共同で行う事業を始める。


以外と商才のあるお猫サマであった。


さて、次回よりエルフ族のエレンが住む精霊の森へと向かいます。主人公が冒険者だと気楽に旅に行くことができますが、領主であるカルはそう簡単に旅に行くことはできません。


カルが仕事以外で旅に出るのは、この物語では初めてになります。


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