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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第3章》精霊と妖精の城塞都市。
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75話.想像を絶する薬の効能(6)

若返ったドワーフのバレルが森の作業場にやってきます。


「もしかして、剣爺って裁定の木の精霊と合ったことがあるんですか」


「以前、ほんの少しじゃがな。じゃが、その精霊と今回の裁定の木の精霊が同じとは限らんのじゃ」


「あっ、そうか」


「とにかく、わしは神じゃがあやつは精霊じゃ。担当分野が違うのから話しかけても音信不通じゃった」


「じゃあ、精霊の木の精霊さんの話を待つしかないんですね」


「そうじゃな。明日、もう一度精霊の森へ行ってみるいしかないのじゃ」


「分かりました。・・・剣爺って若い姿だと好青年ですね」


「おっ、カルよ。分かってくれるか。わしも若い時分は女神どもにかなり手を出しての。上位神にさんざん天罰を下されたものじゃ」


「女に目が無かったんですね」


「まあ、そんなところじゃ」


その夜、カルと若返り好青年になった剣爺は、身振り手振りを交えて若い頃の剣爺と女神との恋バナというかエロ話をカルに熱く語って聞かせた。






次の日の朝、カルは、体調が回復したお猫サマとライラと共に馬車で精霊の森の作業場へと向かった。


城塞都市ラプラスの運営は、基本的に領主の館と役所の職員が行っているため、お飾り領主であるカルがする仕事など殆どない。


今は、城塞都市ラプラスの新しい産業となりつつあるラピリア酒(薬)の国外輸出に力を注いで欲しいと職員達に懇願されていた。産業のない城塞都市ラプラスは、絶えず税収不足で城塞都市の運営費がひっ迫していた。


それを逆転できるものがやっと出来たのだ。それを喜ばない職員はいない。




精霊の森の入り口にある作業場へと到着したカル達は、作業場の中に人の気配がすることに気が付いた。


「まさか例の傭兵団でしょうか」


「でも、傭兵団は手を引いたって手紙が来てたけど」


「カル様は、のんきです。あんな手紙如きを信じるんですか」


ライラは、カルの命を狙う傭兵団がまだいるのでは疑っていた。とはいえ、ライラは精霊治癒魔法師であり攻撃魔法を使える訳ではない。もし傭兵団がいたなら相手にならないのは分かっていた。


だが、ライラは城塞都市アグニⅡでの双子との戦いで役に立たなかったという負い目があり、次こそはという思いがあったのだ。


そのため、警備隊に装備されている魔法筒を警備隊から分けてもらい、何かの時にはそれを使うつもりで絶えず装備していた。


ライラは、それを使うべくホルスターから魔法筒を抜くと手に魔法筒を握った。


「カルよ。まっておったぞい。昨日の酒でこんな姿になってしもうたわい」


作業場の中にいた男は、馬車が到着したのを見ると作用場の扉を開けてカルに向かってそう話しかけてきた。


”~わい”。


この口調、カルもどこかで聞き覚えのあるものであった。しかし、目の前に現れた男は細くえらく痩せていた。


カルの知り合いにこんなに痩せている者はいない。だが、着ている服はダボダボで服やズボンのあちこちを紐で結わいている。しかもどこかで見た服だ。


ふと昨晩の剣爺の姿を思い出す。剣爺は、あのお酒を飲んだことにより若返りほぼ別人にようになっていた。とすると、目の前の青年ももしかすると。


「・・・まさかバレルさんですか」


「そうだ。バレルだ。村の者共もわしのことを知らんようだし、誰もわしの事を覚えていないのかと思ったら不安になってしもうたわい」


「えーーーーーーー。でもバレルさんって割腹のよい体形でしたよね」


「そうじゃ。じゃが鍛冶師になった頃は、ガリガリのヒョロヒョロで、鍛冶の工具すら持てないほど痩せておったのだ」


バレルの豹変ぶりに思わす目を見張る面々であったが、とりあえず作業場の中で話をすることにした。


ライラも魔法筒ホルスターに戻すと安堵した表情へと戻っていた。


「バレルよ。わしもほれこの通りじゃ」


「おおっ、神様ですら若返らせる酒ですと」


「そうじゃ。恐らくあの酒には、神の力に通じる何かを秘めておるのじゃ。でなければたかだか100年の時を進めた程度で神であるわしを若返らせることなど出来るはずがないのじゃ」


だがバレルは、若くなって喜んでいると思いきや実はそではなかった。


「でも参ったわい。この体では、鍛冶の仕事はちと難しいのでな。それで相談なんじゃが、わしを元の姿に戻す事はできんかの」


「うーん。僕もそれは分かりません。そういえば、お猫サマは時を司る精霊神のはずです」


お猫サマに皆の視線が一斉に集まる。


「お猫サマ。バレルさんの若返った体を元に戻すことはできるんでしょうか」


お猫サマは、少し考えるとこう返答した。


「できるかできないかと言えばできるにゃ」


だが、お猫サマは言葉を選ぶかの様に話すのをやめた。しばらくの沈黙の後に話を続けた。


「かなり危険にゃ。お猫サマは、魔獣や動物に時を進めたり時を戻す術を使うにゃ。でも人族や獣人に使った場合、時を戻すと若返り過ぎて赤ん坊として生まれる前の状態に戻ったり、時を進め過ぎて老化で死んでしまうことが殆どにゃ」


「じゃあ、バレルさんは若返ったままですか」


「若返ったんにゃからかえって都合がいいにゃ。めったにできにゃい体験にゃ。ドワーフ族ならそのままもう数百年生きるにゃ」


「確かに誰も体験したことのないであろうな。しかも知識と経験はそのまま残っておるわい。もしかしたら、わしにはまだ精進が足りんという神のお告げだと思ってよいのかの」


「そうにゃそうにゃ。自分に都合の良い様に考えるにゃ。面倒なことを考えるとこの先の数百年が地獄にゃ」


「そっ、そうじゃな」


お猫サマののんきな助言が返ってバレルの悩みを打ち崩してしまう。結局バレルは、元の歳に戻ることより手に入れた若さを生かす事を決意した。


「じゃが、あの酒は封印せんといかんのじゃ。あれは神の領域の酒(薬)じゃ」


「そうですね。こんな酒(薬)があるって皆が知ったら奪い合いになりますね」


「そんな生易しいものではないわい。この酒(薬)を求めて世界中の王族や貴族が押し寄せるわい。最悪の場合、この酒(薬)を奪い合って戦争になる可能性もあるぞい」


「戦争ですか」


「そうじゃな、それが一番恐ろしいのじゃ」


カル、バレル、剣爺、お猫サマは、誰もが黙り込んでしまった。目の前の小樽に入った酒(薬)は、それほどのものであった。


「この酒(薬)は、わしが酒蔵に厳重に保管するわい。なに、どうせあと数百年は生きられるのだ。それくらい訳ないわい」


結局、バレルのこの言葉に皆が賛同した。皆があの酒(薬)についての方針が決まり安土したその時だった。


作業場の窓をたたく音がする。皆がその窓の方を見ると、そこには精霊の木の精霊が窓硝子をたたいている姿があった。


精霊の木の精霊に慌てふためく訳を聞くととんでもない答えが返ってきた。


「困ったことが起きたの。私が吐いたお酒のせいなの。・・・池に水龍の幼生が生まれたの」


「「「「「えーーーー」」」」」。


思わず叫んでしまう面々。


精霊の森の池まで全力で走り出したカル達は、精霊の森の池まで来るとその池を覗き込む。そこには、まだ小さな水龍らしき姿をした龍が可愛い顔をして池の中を楽しそうに泳ぎ回り、妖精達と無邪気にはしゃいでいた。


「まだ小さいからいいの。でも大きくなったらこの池では生きてはいけないの」


皆、お互いの顔を見合うだけで言葉を発する者はいない。


「そっ、そうだ、もう少し大きくなったらセスタール湖に移しますか」


「あっ、それがいいの。あそこなら魚もいっぱいいるし食べるにには困らないの」


お猫サマが100年の時を進めたお酒(薬)は、いろんなところで猛威を振るっていた。いや、猛威を振るいまくっていた。


結局、あのお酒は新しく建築した酒蔵に特別な部屋を作り、そこで厳重に施錠管理をすることが決まった。


若返りの酒。いや不老不死の薬かもしれないものの存在が世界中に知れ渡ったとしたら、世界中の王族や貴族が大挙して押しかけて来るかもしれない。もしかするとあおのお酒(薬)を巡って争奪戦となり戦争になる可能性も捨てきれない。


100年の時を進めたラピリア酒(薬)は、大問題を引き起こす種となってしまった。


だが、カルの腰にぶら下げた鞄の中には、小瓶に入った100年酒が保管されていた。これがさらなる問題の引き金になるのかは、また別のお話・・・。


黄色い実の成るラピリアの苗木は、妖精がラピリアの実を食べた時に口から出した種から生まれました。


水龍は、精霊の木の精霊が口から吹いてしまった100年酒が、池の何かの生き物に作用して誕生したようです。


結局、100年酒はお蔵入りしてしまいました。実は、例の短剣もしかりです。それはまた別のお話で。


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