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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第3章》精霊と妖精の城塞都市。
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71話.想像を絶する薬の効能(2)

本日投稿2話目です。


「しかし、この酒を妖精が飲むと途端に精霊に進化してしまうとは驚きじゃ」


「そうにゃ。”精霊の加護(特)”にそこまでの効能がるとは思ってもみなかったにゃ」


「わしもその話を聞いて驚いたが、こうやって飲んでも問題ないようじゃから妖精特有のものなのじゃろう」


「そうであろう。そう簡単にその様なことが起きては、わしら神の存在理由が疑われてしまうのじゃ」


「確かに」


「にゃにゃにゃにゃにゃ・・・・・・」


「「わはははははははは・・・・・・」」


神様と精霊神とドワーフのバカ笑いが家の外まで響き渡る。だが、その心配が現実となるのは次の日であった。100年酒は、剣爺とバレルの体を静かに蝕み始めていた。




それから3度ほど盃を酌み交わした3人は程なく・・・。


「この酒は、飲むとすぐに酔いが回るにゃ。フラフラにゃ。世界がよく回るにゃ」


「ドワーフ族は、酒に強い種族のはずじゃが、この酒は・・・特別酔いが・・・早いわい」


「そうじゃな。神である・・・わしですら・・・酔ってしもうたのじゃ」


「お猫サマは、酒を熟成させる・・・秘伝の良い技を・・・お持ちのよう・・・だわい」


「にゃにゃにゃ、熟成に・・・かけては神界で・・・いちば~んにゃ」


「そうじゃカルよ。そこの箱の・・・中に武具が・・・武具・・・もって・・・いけ。それと樽もな」


お猫サマは、プヨプヨ浮いたまま寝息を立て、剣爺はテーブルの上に座ったまま寝ていた。


バレルも依頼された武具とラピリア酒の入った樽を持って行けと言った途端、大の字になって寝てしまう始末。


その姿を見ていたカルは、こういう大人にはなりたくないと固い決意をするのであった。






カルとライラは、酒盛りの後に寝入ってしまった3人を後目に建ったばかりの酒蔵を見学を始めた。酒蔵はまだ第1棟が建ったばかりだ。今後を見据えてさらに酒蔵を建てる予定である。


「カルさん。まさか”闇の双子”対策に村々にラピリアの苗木を植えたおかげで、こんなにお酒・・・いえ薬を造れるほど実が成るとは思いませんでしたね」


「そうだよね。あの双子のおかげっていうのも変だけど、でもあの双子がいなかったらここまで出来なかったと思う。今、ラドリア王国のロイズ商会にこのお酒・・・いや薬を売る算段をしているところなんだ」


「いよいよ他国への輸出が始まりますね」


「これで城塞都市の収入が増えればいいんだけど、実際に役所の税収課で帳簿を見せてもらったら、帳簿が真っ赤で驚いちゃった」


「・・・そうなんですか」


「うん。僕が採掘したミスリルでなんとか補填しているけど、ミスリル鉱山が埋まってしまったから、残っているミスリルが無くなる迄にこの薬の輸出が軌道に乗ってくれないとね」


「都市経営って難しいんですね」


「僕なんてお飾りだからまだいいけど、ルルさんとかリオさんは大変みたい」


バレルの家で酒盛りの後に寝入った3人とは対照的に、城塞都市の将来を憂いているカルの悩みは尽きなかった。


バレルの家に戻ったカルは、バレルが製作したばかりの武具をもらい受けた。この武具は、ルルやリオ、メリルやライラに使ってもらうために作ってもらったものと、各城塞都市に配備する短剣と盾がいくつか。


各都市に配備する短剣は、バレルに無理な注文を受けてもらいかなり性能を落としてもらったもの。盾については、性能はそのままに魔力を撃ち返せるものと魔力を魔石に変えられるものを作ってもらった。


魔力を魔石に変えられる盾は、各城塞都市の警備隊の装備や消耗品の購入費用の補填に使うつもりだ。それだけ城塞都市の運営資金に余裕がないといことへの表れでもあった。




神様なのに酔いつぶれたった剣爺と、同じく酔ったお猫サマを回収してバレルの家を後にしたカル達は、いくつかのラピリア酒の樽をもらい受け、馬車で精霊の森にある作業場へと向かった。


バレルの住む村から精霊の森の作業場迄は、馬車で行けばたいして遠くないのだが、馬車の手綱を握るライラが程なくして馬車を止め、カルにこういった。


「カルさん。街道に例の黒いドレスを着た双子が並んで立ってます」


カルは、慌てて馬車の荷台から顔を出すと双子の姿を確認した。


「こんなところまで来たの!」


馬車の幌の上では、顔の赤いお猫サマが酔って寝ている。そんなお酒に酔ったお猫サマをあてにはできない。さらに酔って寝ていた剣爺もいつの間にか姿を消していた。何故か大切な場面で使えない2柱の神様であった。


困ったことに、いつも双子を追いかけまわしていた妖精達がこの時はなぜか1体もいない。


メリルさんは、城塞都市アグニⅡの病院から退院したばかりで歩く練習をしている最中でこの場にはいない。ゴーレムのカルロスは、剣爺に回収されたまま戻って来てはいない。つまり、ここにいるのは、カルとライラと酔いつぶれたお猫サマだけ。


カルは、ラピリア酒を入れた小瓶を手に取るとライラに手渡した。


「ライラさん。今回は、妖精さんがいないようです。だから僕達ふたりだけでやるしかないです。例の足元に広がる陰に注意です」


「はい」


ドワーフのバレルから引き渡された武器は、まだ箱の中に入ったまま。しかもそれを扱えるのは魔法が使える治癒士のライラだけ。さらにライラは、例の魔導砲の武器を一度も扱ったことがなく、いきなり危険な魔導砲の武器を使わせる訳にはいかない。


結局、使える武器はカルとライラが手にする小瓶に入ったラピリア酒(薬)のみ。


ふたりは、馬車を降りて街道に並んで立つ。もし双子が魔法を放って来たら大盾で避けるしかない。ただ、城塞都市アグニⅡでの戦いでは、双子の魔法を見たことがなかった。果たしてどんな魔法を放ってくるのか不安だけが過る。


双子は、カル達に向かってゆっくりと街道を歩いて来る。双子の陰は小刻みに揺れ伸びたり縮んだりを繰り返す。


口の中が妙に乾くカル。ライラも手に持つ杖が汗ばんでいる様子だ。


”コロン”。


カルの耳に何かが転がる音が届く。ふと足元を見ると、なぜか黄色いラピリアの実が転がっていた。


「あれ、なんでこんなところにラピリアの実が・・・」


カルがそう言いかけた時、空から多量の黄色いラピリアの実が降り注いだ。それも全て双子の頭の上に。


そう熟した黄色いラピリアの実は、双子の頭の上に落ちた瞬間に破裂して果肉と果汁を周囲にまき散らす。


まさしくあの城壁の上で行われた戦いの再来であった。


カルは、空を見上げた。そこには、100体以上もの妖精達がラピリアの実をかかえて飛んでいた。口角を上げ満面の笑みを浮かべた妖精達が双子に黄色いラピリアの実を投げつけている。


双子の頭と体からは白い煙を噴き上げ、言葉にできない悲鳴を上げている。


さらに双子とカル達の間にも多数のラピリアの実が降り注ぐ。これでは、双子は陰を伸ばすこともカル達に近づくこともできない。双子は、白い煙を体中から吹き上げながら精霊の森へと逃げ込む。


それは、双子にとって悪夢の始まりであった。逃げ場を失って精霊の森に入る双子。それを空から追う妖精達。


精霊の森の中には、ラピリアの成木があちこちに植えてある。しかも妖精が多数生息する精霊の森に入ってしまったらどうやって妖精達から逃げ切るというのだろうか。


「双子さん。精霊の森に入っちゃいましたね」


「あそこは、妖精達の住処だから縄張りを荒らされたと思って今まで以上に攻撃するんじゃないかな」


思わず双子の身を案じてしまったカルとライラであった。


精霊の森の中から言葉にできない悲鳴を上げる双子の声が響き渡り、魔法の音なのか爆発音なのか分からない音が幾重にも響き渡る。


双子と妖精達に申し訳ないという心境からか、思わずコソコソと馬車を進めるカルとライラであった。


その時、お猫サマはというと馬車の幌の上で相変わらず気持ち良さそうに酔いつぶれていた。


「うっぷ、飲み過ぎて気持ち悪いにゃ・・・」






カル達は、馬車で精霊の森の入り口にある作業場へと到着した。


精霊の森の作業場に入るとドワーフのバレルから渡された樽を作業場の床に置いていく。以前に運び込んだ樽もあるので、今回運び入れた樽と合わせて10樽程になった。


これから大樽に入っているラピリア酒を小さな樽と小瓶に入れ替える作業が待っている。以外と手間のかかる作業だが、カル達は、それを暗くなる前迄には終わらせる予定でいた。


カルは、腰にぶら下げた鞄からいくつもの小瓶を取り出し、それを机の上に並べるとひと瓶ずつ丁寧にラピリア酒の入れ替え作業を始めた・・・その時。


「「キャーーーーーーーーー」」


ライラの悲鳴が作業場内に響いた。


カルは、ライラが見つめる窓を見た。


「ギャーーーーーーーー」


カルの悲鳴も作業場の中に響き渡る。


そこには、窓ガラス一面に頬をくっつけて作業場の中をのぞき込む精霊と妖精達がびっしりと張り付いていた。


お猫サマは、お酒に酔って出番がありませんでした。さらに作業場に現れた精霊と妖精達。狙いはもちろんあれです。


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