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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第3章》精霊と妖精の城塞都市。
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69話.下級精霊神。”お猫サマ”。

ライラの体の中にいた精霊神が現れます。ただし下級神でいろいろやらかす神様のようです。


お猫サマは突然と匂いを嗅ぎつつ周囲を歩き出した。いや、お猫サマは歩くというより先ほどから胡坐をかいたまま”ぷよぷよ”と宙を浮いている。


「お猫サマって浮いてますね」


「下の下の下でも精霊神にゃ。浮いたり飛んだりするのは簡単にゃ」


"クンクン"。


「ところでこの美味しそうな匂いは何にゃ」


”クンクン”。


「お酒にゃ。この樽小から匂いがするにゃ。いい匂いのお酒にゃ」



「飲んでみます?ラピリアという果実から作ったお酒です。でも普通のラピリアの実ではなく、精霊の森で獲れた特別な果実を使っています。果実には”精霊加護(小)”がついていますが、お酒にすると”精霊の加護(中)”になります」


「にゃにゃにゃ。精霊の森で獲れた果実を使ったお酒にゃ。それはいいにゃ」


お猫サマは、小樽から赤色のラピリア酒を割れかけの器に注ぐと、まず匂いを嗅ぎ、続いて口の中に流し込み味を確かめる。その後に喉に流し込んで口と鼻に抜ける香りと余韻を楽しんだ。


「美味いにゃ。でも少しお酒が若いにゃ。こうするともっと美味くなるにゃ」


そういうとお猫サマは、変わった呪文を唱え始めた。


「ニュニュ、ニュニュ」


もう一度割れかけの器に赤いラピリア酒を注ぐと、酒を口の中に流し込む。


「んーーーーー、美味くなったにゃ」


「お猫サマ。お酒に何をしたんですか」


「お酒の時間を100年程進めたにゃ。これでこの酒は古酒になったにゃ。こうするとお酒の効能も上がるにゃ。さっき”精霊の加護(中)”と言ったにゃ。今は精霊の加護(特)にゃ」


「お猫サマは、そんなことが出来るんですか」


「そうにゃ。お猫サマは精霊の神にゃ。位は下の下の下にゃ。でも熟成にかけては右に出る神はいないにゃ」


お猫サマは少しほろ酔い気分になったのか、ライラの体の中に戻ると言い出した。


「それじゃカルよ。また来るにゃ」


そう言って足元が少しおぼつかなくなりながら体の中に戻ろうとライラの体に手と頭を摺り寄せた・・・のだが。


「あれ、あれれ、ライラの体に戻れないにゃ。にゃーーーーーー」


お猫サマは、必死になってライラの体の中へ戻ろうとするが、いくらやってもライラの体の中には戻れない。


「でもお猫サマは、どうしてライラさんの体の中にいたんですか」


涙ぐむお猫サマの気晴らしにとカルは、お猫サマに話かける。


「精霊神様が下界で神々が面白い実験ををやっているから、お前も参加してこいと言われたにゃ」


ところが話始めたお猫サマの表情が次第に険しくなっていく。


「成功したら二階級特進にゃ。でも失敗したら二階級降格にゃ。降格したら10万3000冊の書類にページ数を書き込む仕事が待ってるにゃ。1冊3000ページもあるにゃ。役所神のやつら、お猫サマが失敗すると思って席と名前入りの湯飲みまで用意して待ってるにゃ。そら恐ろしいにゃ・・・」


精霊の下級神であるはずのお猫サマが、顔を青くしてブルブルを震え出した。10万3000冊の書類にページを書き込む仕事なんて数年、いや数十年単位の時間を要する気の遠くなる話だ。顔が青くなるのも頷ける。


「だったら僕が面倒を見ます。そのお酒も気に入ったならお分けしますよ」


「ほんとにゃ。このお酒は美味いにゃ。下界で精霊しゅ・・・いや、なんでもないにゃ」


「その変わり、お願いがあります」


「さっきみたいにお酒を熟成させると美味しくなったり、効能が上がる可能性があるんですよね。それをお願いできませんか」


「そんなことでいいにゃ」


「はい。それで重い病気の人が救えるなら」


「わかったにゃ。美味いごはんと美味いお酒とふかふかの寝床があればなんでもするにゃ」


お猫サマは何気なく重めの注文をしてきたことに気づいたカルは一瞬動揺してしまう。


「あっ、ありがとうございます」


カルは、意図せず精霊の神であるお猫サマを仲間にできた。だが、お猫サマの時間操作能力により超熟成されたラピリア酒は、さらに効能を増しとんでもない出来事を引き起こすことになる。






双子を追いかけていった3体の妖精が帰ってきた。今回の騒動でこの妖精達がいなかったらどうなっていたか。それを思うと、カルは思わず割れかけた器に妖精達の好物であるラピリア酒を注いで妖精達にふるまう。


実は、そこまではよかった・・・のだが、器にふるまったラピリア酒は、普通のラピリア酒ではなく先ほどお猫サマが魔法をかけて100年の時を進めたラピリア酒の古酒である。


妖精達が割れかけの器に口をつけて美味しそうにラピリア酒を飲み見始める。


最初は、妖精達がお酒を美味しそうに飲む姿を笑顔で見ていたお猫サマであったが次第に表情が険しくなっていく。


「この酒は、さっき時間を進めた古酒にゃ」


「そうですね」


「まずいにゃ。まずいにゃ。この酒には”精霊の加護(中)”ではなく”精霊の加護(特)”がついてるにゃ。そんなものを妖精が飲んだら何がおこるか・・・」


だが時すでに遅しである。妖精達の体に異変が起こった。妖精達の体が光り出すと手の平ほどの大きさだった体が、人族の子供くらいの大きさにみるみる成長すると手には小さな苗木を持っていた。


「「「おっ」」」


「「「おーーーーーーーーー」」」


「「「きゃーーーーーーーー」」」


妖精達が違いの姿を指さしながら飛び跳ねて驚き合っている。


「「「僕達、精霊の木の精霊になったみたい」」」


「にゃにい。待つにゃ。待つにゃ。精霊の木は、100年に1度しか生まれないにゃ。それが3つ同時に生まれるのはおかしいにゃ」


お猫サマががっくりとうなだれてしまった。


「失敗にゃ。降格確定にゃ。10万3000冊の書類に毎日毎日毎日ページを書き込む仕事が待ってるにゃ。1冊3000ページにゃ。もう終わりにゃ」


だが、お猫サマの言葉にカルが思わず反論した。


「待ってくださいお猫サマ。それはおかしいです。だって、このお酒は、僕が精霊の木を移植してライラさんに精霊治癒魔法をかけてもらい誕生した精霊の森に植えたラピリアの木の果実から作りました。お酒はドワーフのバレルさんに作ってもらいました。さらにここの場所にこのお酒を持ち込んだのは僕です。

もしそのお酒を飲んで起きた結果を否定されたら、最初から起きた全ての出来事が否定されたのと同じです」


「むむむ・・・確かにゃ」


「でしょ。こんな出来過ぎた話には裏があるんですよ。きっと」


「でも、でもにゃ・・・」


「さっきお猫サマは言いました。神々が下界で何か実験をしていると。ならば、これもその実験のひとつじゃないでしょうか。そう考えれば気が楽になりませんか」


「そうかにゃ・・・そうにゃ」


「あくまで実験です。実験なんて失敗するのが普通です。もし、10万3000冊の書類にページを書き込む仕事が嫌ならここにずっといてください。お猫サマなら大歓迎です」


「にゃにゃにゃ、ありがとにゃ」


お猫サマは、カルに抱きつくと目から大粒の涙を流して泣き出した。


その後、目を覚ましたライラにお猫サマの事を話して納得してもらった。いや、無理やり受け入れてもらった。一応、お猫サマは、ライラと行動を共にしてもらうことになったが、お猫サマは、歩くことはせず殆ど浮いたまま移動するので人々の視線を一身に浴びるライラがそこにいた。






先に病院に運び込まれたルルとリオは、カルが持ち込んだラピリア酒(薬)により容態は安定していた。


戦いの後に運び込まれたメリルとオルドアもラピリア酒(薬)のおかげで容態は徐々に改善している。


大盾の中から出てきた魔法スライムの大群は、いつの間にか大盾の中へと戻り、盾の魔人については書の魔人さんから治療中だという話を聞かされた。


だがあの双子、書の魔人さんの話によると”闇の魔人”というらしいが、あの双子は逃げてしまいどこかで僕達を狙っているに違いないとカルは確信していた。


今、あの双子に街を襲われても成す術はない。できるとしたら街や村にラピリアの苗木を植えて双子に備えることくらいだ。


ラピリア酒(薬)を街や村に装備させることもの考えたが、数が少なすぎて全ての街や村に配置することはできない。


今は、ドワーフのバレルの元に戻り、出来たラピリア酒をこの病院に持ち込むくらいしかできない。それとラピリアの苗木の移植だ。それも早急に。


それと同時にカルにはやることがあった。カルの後ろに控えている精霊の木の精霊3人を植える場所を探すこと。


それは、以外とそれは簡単に決着がついた。精霊の木の精霊達は、自身で判断してどの辺りに植えて欲しいか考えていたというか分かっていたらしい。


やはり何か・・・知らない誰かの力が働いているとしか思えないとカルには思えてならなかった。


ケガで歩けないメリルを病院に残して、カルとライラ、それとお猫サマと精霊の木の精霊達は、馬車に乗り精霊の木を植える場所へと向かう。


カルは、病院に籠に詰まった大量のラピリアの実を置いてきた。病院に入院していた患者さん達にも振舞ったラピリアの実は、たいそう喜ばれることとなった。


そういえば、ルル、リオと会合を開いていた城塞都市アグニⅠの北地区の男達がどうなったのかというと、商工会議所の会合の場には、身元不明の干からびた亡骸が多数転がっていた。それらは、明らかに北地区代表と名乗っていた男達が着ていた衣服を身に着けていた。恐らくあの双子の手によって死んだものと判断された。






精霊の森の候補地は、妖精から進化?した精霊達の要望で以下の3ヶ所となった。


・城塞都市アグニⅡと砂漠の間に広がる草原と荒地が広がる荒野。


・城塞都市アグニⅠと砂漠の間に広がる草原と荒地が広がる荒野。


・城塞都市アグニⅡ近くにある渓谷とセスタール湖の中間にある草原と荒地が広がる荒野。


さらに精霊の木の精霊とは、いくつかの取り決めを行った。


・カルは、森の手前に作業場を作りそこに通じる道を作る。


・精霊の森は、作業場と道の予定地に植林しない。


・ラピリアの苗木を植える場所を決め、ラピリアの苗木はカル達が植える。


・城塞都市や街道、畑等がある場所以外であれば自由に森を広げて構わない。


精霊の森を作ると言ってもただやみくもに木々を植えて終わりという訳にはいかない。


精霊の木の精霊からも要望があった。精霊の木を植える場所の近くに池を作りたいとのこと。城塞都市ラプラスの精霊の森のように精霊の木の前に池があると妖精達が集まった時に便利らしい。


池の件については、精霊の能力で水脈を近くまで引き込むことができるらしい。さすが精霊というべきか。ただ、地下水脈を地上に引き出すのは、かなり骨が折れるとかで、そこは人の手で何とかして欲しいとのこと。となれば井戸掘り職人さんを頼むしかない。




カル達は、今まで傭兵団を恐れてこそこそ動いていた。だが、それも必要もないと判断した。例の双子は、傭兵団の何百倍も脅威だという判断からだ。


城塞都市アグニⅡの役所に赴き、関係部署を周って草原と荒地が広がる場所に森を作るという計画を発表したカルだが、職員全員から笑われてしまった。


だが、城塞都市ラプラスから来た職員達はカルの話を真剣に聞いていた。領主が森を作ると言えば明日にでも森ができることを彼らは知っていた。それを実際に己の目で見ているのだから。彼らは慌てて図面を広げて植林地がどの辺りになるのかを書き記し、いそいで関係各所との調整に入った。


ところが、もともとアグニⅡの役所にいた職員立達は、全く動こうとしない。森を作るとなれば50年100年という月日がかかるのが当然である。それを明日にでも森ができるかのような言い方をする領主の言葉など信用できるはずがない。


中には”もし明日に森ができたら裸になって踊ってやる”と皆の笑いを誘う者まで出る始末。


ラプラスから来た職員達は、関係部署の者達を引き連れて草原と荒地を視察し、作業場と道を作る場所に次々と杭打ちを始めた。その作業は、夜遅くまで続いた。


次の日、カルが言った通り森は出現した。城塞都市アグニⅡと茫漠の間に広がる草原と荒地に千本を超える木々が立ち並び数百年、いや千年も前からそこにあったかのような森が出現した。


城塞都市アグニⅡの職員達は、唖然とする。唖然としない訳にはかなかった。その日から城塞都市ラプラスから来た職員達と領主を見る目が変わり、ある噂話が役所の中に広まった。領主様は、人ならざるものではないのか、もしかしたら精霊いや神ではないのかと。


カルは、精霊ホワイトローズの眷属ではあるが、れっきとした人である。いや、人族以外の何者でもない。だが精霊の森の精霊とひたしく妖精とも仲良しさんというだけである。剣爺やお猫サマといった神とも知り合いではあるが。


数日後、井戸掘り職人による井戸掘りが始まり、数日後には井戸から水が湧きはじめた。当初、井戸掘り職人達は、こんな荒地に井戸を掘っても水は出ないと断言した。だが、井戸を掘って数日後には大量の水が湧き出る様を見て驚きを隠せなかった。水は、コンコンと湧きだし池はどんどん大きくなっていく。


さらにトレント達が夜な夜な池の底をさらって深掘りを行い、池の周囲の拡張を行ったことで周囲が数kmにも及ぶ巨大な池が完成した。


これがお猫サマが100年の時を進めて作ったラピリア酒の”精霊の加護(特)”付きを飲んで進化した精霊の森の精霊の力だと思い知らされたカル達であった。


それを城壁の上から見ていたルル、リオ、レオは確信した。カルは既に人知を超えた存在であると。あの精霊の森を作ったのは、間違いなく精霊の森の精霊である。だが、その森を作るきっかけを作ったのはカルであった。カル以外にそれを成し遂げられる者はいない。それは、誰かに真似の出来ることではなかった。


お猫サマにより100年の歳月を進められたラピリア酒(薬)は、さらなる猛威を振るいます。


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