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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第3章》精霊と妖精の城塞都市。
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66話.闇の双子(1)

ベルモンド商会は、カル達が生きていることを知らぬまま次の目標をルル達に定めます。


ここは、ベルモンド商会の奥にある一室である。通常の客とは異なる曰く付きの客のみが通される部屋で、他の客の目に触れないよう通路も扉も全て異なる作りとなっていた。


「ほお、お前が城塞都市アグニⅠの新しい領主か」


ベルモンド商会の会頭であるハイファ・ベルモンドは、城塞都市アグニⅠの領主と名乗った男の品定めをすべく全身を目で嘗め回した。


ハイファ・ベルモンドには、その男のデカい腹を見ただけで英知の欠片もないつまらない男に見えた。


「いえ、領主候補です。私は、北地区の住民代表です。それに南地区の住民代表との話し合いがついておりません」


領主候補と少しだけ謙遜を込めた言いまわしでベルモンド商会の会頭であるハイファ・ベルモンドの気を引こうとしたが、それが返って失敗だったと男は悟った。だが、男は後には引けないところにいることを理解もしていた。


「その南地区の代表とやらは、何と言っている」


「はい。城塞都市ラプラスの傘下に入るとほざいております」


「ほお。南地区の代表は懸命な判断をしたな」


その言葉を聞いた北地区の代表の顔が少し曇って見えたがそんな事など気にも留めない。ベルモントは正直な感想を言ったまでのこと。


ベルモントは、目の前にいる北地区の代表と名乗る男に懐疑的な目を向けていた。この状況下で城塞都市ラプラスから独立すると言うやつの言葉など信用できるはずがない。だいたいにして金も持たないやつが城塞都市の領主など務まるはずがないのだ。


「それでお前は、その南地区の代表とやらを説得できるのか」


「やってみせます。ですのでご支援のほどをお願いしたいのです」


北地区の代表は、ハイファ・ベルモンドとの間に置かれたテーブルに金貨が詰まった布袋を置いた。


「この金貨で領民を食わせる穀物を買いたいのです。どうかご裁量を」


今度は、ハイファ・ベルモンドの顔が誰が見ても分かるほど険しくなった。この場面で金貨の詰まった袋を出すという事は、金貨でハイファ・ベルモンドの信用を買うというのが正解なのだ。そうしていれば、腹をすかした領民へ配る穀物などハイファ・ベルモンドはタダでくれてやったのだ。それを領民に食わせる穀物を買わせろなどと目の前の男は、何をバカな事をほざく間抜け野郎であろうか。


目の前にいる男は、駆け引きの経験すら無いと見たハイファ・ベルモンドは、この男を城塞都市アグニⅠの領主に据えることを早々に諦め、かわりにこの男を当初の計画に組み込むことを思いついた。


ハイファ・ベルモンドは、目の前のテーブルに置かれた金貨のつまった布袋を手に取ると男に向かってこう言い放った。


「この金は、前領主に融資した資金の回収とさせてもらう」


「えっ、待ってください。その金は、住民たちの穀物を買う金です。住民から集めた大切な金です。それを取られたら明日から何を食べていけばいいんですか」


「ほう、城塞都市の領主たらんとする者がこの程度の金を用意できないのか。お前は、城塞都市の領主を何だと思っている」


男の顔色が明らかに変わった。男はハイファ・ベルモンドの前で領主であろうと振舞って見せたつもりでいた。だが、すでに領主の器ではないことをハイファ・ベルモンドに突きつけられたのだ。


「お前にひとつ面白い話をしてやろう。城塞都市ラプラスの領主は14歳の人族の子供だ。だが、領民に食わせる穀物を買付に来た時、やつはミスリルの特品の入った袋をこのテーブルが埋まるほど用意して来た。お前にそれができるのか」


「・・・・・・」


「お前のそのでかい腹の中には、我々が前領主に融資した金で買った穀物や肉が入っている。では、お前は、そのでかい腹で私に何を返してくれる」


「そっ、それは・・・」


それ以後、男の口からは言葉が出てこなかった。


「ならば、条件を出そう。お前を城塞都市アグニⅠの領主にしてやる。代わりこの双子を連れていけ」


先ほどまでハイファ・ベルモンドの後ろには誰もいなかった。だが、いつの間にか同じ顔をした双子の少女が立っていた。黒いドレスを纏い瓜二つの顔をしているが、なぜか恐怖を感じる冷たい顔つきをしていた。


「やつらの副領主と話し合いがしたいと持ち掛けろ。話し合いの場で双子をお前の子供だと言って副領主に合わせればよい。あとはこの双子がやる。お前の仕事はそこまでだ。後は、城塞都市アグニⅠの領主にでもなんでもしてやろうではないか」


ハイファ・ベルモンドが言い放った”領主にしてやる”という言葉は嘘である。最初からそんな気など毛頭ないのだ。どこの馬の骨とも分からない者を領主にする気などなく、自身の息のかかった者を領主に据えるつもりでいた。


”コンコン”。


誰かが部屋の扉をノックする。この部屋を訪れる者はそれ相応の者しかいない。それは・・・。


「入れ」


ハイファ・ベルモンドの声の後、扉から入ってきたのは傭兵団ヘルハウンドの団長であるブレインと副団長のヒースであった。


ブレインは、部屋に先客がいたのを見て言葉を発しなかった。だがハイファ・ベルモンドがそれを許した。



「先客のことは気にしなくてもよい。この男も同じ案件に参加する”役者”だ」


ハイファ・ベルモンドは、城塞都市アグニⅠの領主候補をあえて”役者”と言い放った。ここにいる者達は、ハイファ・ベルモンドにとって全て舞台の上で演舞を舞う”役者”にすぎないのだ。


「例の件ですが成功いたしました。領主は、鉱山にて不慮の事故に合いました。消息は不明です」


「そうか、残念なことになったな」


「では我らの依頼事項は全て終了いたしましたのでこれにて失礼します」


傭兵団ヘルハウンドの団長ブレインは、手短に要件だけを話すと早々に部屋から去ろうとする。だが、それをハイファ・ベルモンドが制した。


「お待ちを。次の仕事があるのだ。できればそのまま契約を継続したいと思っている」


「申し訳ありません。とある王族からの依頼があるためこちらの依頼はお受けすることができません」


「そうか・・・残念だ。では、またの機会にお願いしたい」


「その時はまたよろしくお願いいたします」


ブレインは、部屋を早々に出ると扉を静かに閉めベルモンド商会の館を後にした。


「王族の依頼。そんな話ありましたか」


今まで黙していた副団長のヒースは、聞いたこともない次の仕事の話について団長を問いただした。


「そんな話などない。お前は、ハイファ・ベルモンドの後ろにいた双子を知っているか」


「いえ」


「あれは闇の双子だ。ラプラスの盾の魔人と同じ部類だ」


「まさか。あの双子が魔人ですか」


「ああ、それもかなり厄介なやつらだ。いくつかの国の王族があれに滅ぼされている」


「ハイファ・ベルモンドは、我らにあの双子の子守りをさせるつもりでいたのだろう。だが、あれに巻き込まれたら最後、命がいくつあっても足りん。我らがあれに巻き込まれない様に早々に撤収する。城塞都市に残っている部隊にも撤収命令を出せ。なるべく早くだ」


「はっ」


傭兵団ヘルハウンドの団長ブレインと副団長のヒースは、足早に街を去って行った。





その頃カル達はというと・・・。


ドワーフのバレルが住む村から荷馬車を借りて城塞都市アグニⅡへと向かっていた。


御者席には、ゴーレムのカルロスが座り馬の手綱を握っていた。


いつもならカルの大盾のダンジョンにある安全地帯にメリルとライラを待機させ、カルはカルロスの肩に乗り移動するのだが、そんな姿を晒せば傭兵団に見つかる可能性があるため馬車でものんびりとした移動することにした。


メリルとライラは、馬車の荷台で本を読んで時を過ごしている。


カルはというと、ラピリア酒(薬)の匂いにつられてついて来てしまった3体の妖精達と馬車の荷台で遊んでいた。小さな木の実を玉の様に投げては拾い、拾っては投げてを繰り返していた。そしてカルと妖精達は、乾いた喉をラピリアの実をかじり潤していた。


馬車の荷台には、沢山のラピリアの実が詰まった籠がいくつも積んであり、果物を運ぶ馬車に見せかける絶好の荷となっている。


馬車は、村を出る時間が遅かったため城塞都市アグニⅡの渓谷に到着するはるか手前で夜を迎えていた。


そのため、街道脇の草原に馬車をとめてこの場所で夜を迎えることになった。遠くには、セスタール湖の姿が見え湖面には月明かりが反射しキラキラと光り輝き幻想的な景色が広がっていた。


妖精達は、カルの鞄の中にしまい込まれたラピリア酒を欲しがり、カルの服をひっぱり、髪をひっぱり、頬をひっぱりと散々いたずらを繰り返した。


妖精達のいたずらに根負けしたカルは、仕方なくラピリア酒を器に注ぎ妖精達にふるまう。妖精達は、美味しそうにラピリア酒を飲み干しやがて顔を赤くして籠いっぱいに積まれたラピリアの実の上で気持ち良さそうに寝息を立てて寝入ってしまった。


メリルとライラは、馬車の荷台で毛布を被り早々に眠りに入っていた。


馬車の護衛は、いつの間にか大盾の中から出てきた魔法スライム達が買って出てくれた。ぴょんぴょん跳ねながら馬車を守る魔法スライムの姿は、妖精達の寝顔に劣らず可愛いくその姿を見ていたカルは思わず微笑んでいた。


月明りの中、眠る必要のないゴーレムのカルロスは、無言のまま焚火を囲み揺らめく炎を見つめながら静かに時を過ごしていた。こんなのんびりと時を過ごしたのはいつ以来だったか。


そんな思いにふけながらカルもいつしか眠りに入っていた。横になったカルに毛布をかけるカルロスとその毛布の上に集まる魔法スライム達。


ゴーレムであるが故に話すことはできないカルロスだが、人と同じ様な感情を持ち、人と同じ様に接することができる世界で唯一のゴーレム。そんなゴーレムをカルは、家族の様に思っていた。


カルには、家族と呼べる肉親は誰もいない。そんなカルの側にいて絶えず行動を共にし、戦いの場でカルを守ってくれる存在がカルロスである。だが、ゴーレムである以上、ゴーレムコアには寿命というものがある。


その寿命が明日なのか100年後なのか、それを知るのはカルロスを作った剣爺ただひとりであった。その件爺がカルが寝入るのを見計らった様に現れると、話すことができないカルロスと何やらひそひそ話を始めた。それは、何を意味するのかは剣爺のみが知っていた。





次の日の朝。


カル達は、早々に馬車を走らせ城塞都市アグニⅡへと向かった。何事もなければ、アグニⅡには午後に到着する予定である。


のんびりと街道を進む馬車は、昼前には渓谷の中央付近にある砦を後にした。渓谷の絶壁から落ちる水しぶきを浴びながら馬車はゆっくりと進む。


そんな馬車の横を城塞都市アグニⅡから徒歩でやって来た集団とすれ違った。10人程の男女で商人だったり冒険者だったりと姿は三者三様であった。だが、あきらかに行動が他の者と違っていた。それは、訓練された者達でしか分からない仕草さであった。


そんな者達がカル達が乗る馬車の横を通り過ぎていく。狭い渓谷の水溜まりが足元を濡らす街道をお互いが譲り合いながらすれ違う。


すれ違った者達は、徐々に離れやがて渓谷の陰で見えなくなる。


「団長。さっきの馬車の御者ですが例のゴーレムです」


「ああ。あの馬車の中にはあの子供が乗っていたな」


「はい」


「そうか、あの廃坑の落盤の中を生き抜いたのか。敵ながら見事だな」


「団長。生かしておいてよろしいのですか」


「構わん。我らは、あの場所であの子供を仕留めた。我らの仕事はそこで終わったのだ」


「はい」


傭兵団ヘルハウンドの一団は、カル達の前から姿を消した。またカル達の前に立ち塞がるのかは分からない。だが、世界は以外と広くて狭い。いつかまた相まみえることになるのかもしれない。






カル達が馬車に揺られながらまもなく城塞都市アグニⅡに到着するという頃、アグニⅡの商工会の会議場には、城塞都市アグニⅠの北地区の代表と名乗る男の集団と、城塞都市アグニⅡの副領主であるルルとリオが対面していた。


城塞都市アグニⅠの北地区の代表を名乗る男達とは、話し合いの場で会うたびに対立を繰り返すルルであったが、今回ばかりは勝手が違った。


北地区の代表を名乗る男達は、城塞都市アグニⅠをラプラスの庇護下に収めて欲しいと言い出したのだ。今までは独立を主張し”城塞都市ラプラスの暴挙を許すな”の一点張りであった。


今日は、城塞都市アグニⅠがラプラスの庇護に入るための段取りを決める会合ということになっていた。


城塞都市アグニⅠの北地区の代表を名乗る男達は、今までの様な声高の主張は影を潜め、全てラプラスに一任するという姿勢で話し合いは進んだ。


ルルもリオも今までの様に物別れに終わると考えていたため、拍子抜けとも思える会合に思わず緊張の糸が緩んでいた。そう、城塞都市アグニⅠの北地区の代表を名乗る男達は、その時を狙っていたのだ。


「では、城塞都市アグニⅠの北地区も南地区と同様に城塞都市ラプラスの庇護下に入ります。城塞都市アグニⅠの住民の代表として、心よりラプラスの領主様方を迎えさせていただきます」


「あっ、ああ。我らは、城塞都市アグニⅠの発展のため心より尽力することを約束する」


ルルは、城塞都市アグニⅠの北地区の代表と名乗る男達の前に歩み出る。アグニⅠの北地区の代表と名乗る男達もルルとリオの前に歩み出るとお互いが握手で会合の成功を称え最後を締めくくる。


「ああっ、そうでした。私の可愛い子供達です。今回の騒動でアグニⅠがどうなるかと思いましたが、どうにか丸く収まり娘達も安心していると思います。ささ、お前達も領主様にご挨拶しないさい」


黒いドレスを着た双子の少女は、ルルとリオの前で可愛い笑顔を披露すると、ルルとリオに向かって小さな手を差し出した。


「双子とは可愛いものだな」


「はい。本当に顔がそっくりなんですね」


双子を見たことがなかったルルとリオは、笑顔が可愛い双子の顔を見ながら微笑みかけた。


だが双子の笑顔が段々と背筋が凍る程の恐怖を発する笑顔えと変わる。その恐怖を伴う笑顔を目の当たりにしたルルとリオは、思わず後ずさった。


その瞬間。


ルルの脇腹に短剣が突き刺さる。


リオの脇腹に短剣が突き刺さる。


双子の手にはルルとリオの脇腹に刺さる短剣が握られていた。


「お姉さん達がラプラスの領主様でしょ」


「お姉さん達が主様を困らせてるんでしょ」


「すぐに楽になるから安心して。そうよねエトワール」


「そうよ。すぐに楽になるわ。そうよねノワール」


恐怖を伴う笑顔を浮かべた双子は、笑顔のままルルとリオの脇腹から短剣を引き抜いた。ルルとリオの脇腹からは、赤い血がにじむ様に流れ出る。


「おっ、お前達、・・・やってくれたな」


短剣で刺された脇腹を手で押さえながら表情がしだいに険しくなるルルとリオ。痛みは徐々に全身に広まり床に膝を付く。


「この短剣はね、毒と呪いを与える短剣なの。そうよねエトワール」


「そうよノワール」


ルルとリオは、鬼人族である。人族よりも数倍の生命力と毒に対する耐性を持っている。だが双子が刺した短剣の毒は、そんな鬼人族のルルとリオですら絶命の淵に追いやる強力なものであった。


さらに短剣にかけられた呪いは、どんな薬も治癒魔法も効力を発揮することを阻害するものであった。


商工会の会議場に倒れ込むルルとリオ。それを見つめる双子。


会議場の異変に気が付いた兵士達が双子と城塞都市アグニⅠの北地区代表達を取り囲み剣を抜く。


会議場は、今にも戦場と化そうとしていた。


いきなり双子に刺されたルルとリオ。さらにこの双子にカル達も苦戦します。


※すみません。配分を間違えて話が長くなってしまいました。


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