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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第2章》 都市が増えました。
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64話.ドワーフの武具作り(3)

ドワーフのバレルは、魔法アイテム屋の店主を連れて茫漠へと向かいます。背中には複数の盾を背負って。


城塞都市ラプラスの下町にある魔法アイテム屋に珍しい訪問者があった。その者は、大きな鞄と大盾を3枚も背負っていた。


店の扉が勢いよく開け放たれると、縦には小さく横には大柄なドワーフがなんとか扉を通り抜ける姿があった。


店の奥でのんびりと椅子に座って寝ている店主に向かってドワーフは、太い声でぶっきらぼうな挨拶を投げかけた。


「店主。今日もひまそうじゃな」


椅子に腰かけてウトウトしていた店主は、その声に気付くと椅子から飛び起きた。


「あっ、バレルさん。お疲れ様です。どうしたんですかこんなせまっ苦しいところに」


「お前さん。魔法が使えるな」


「はい。中級魔法くらいなら全般的に」


「ならわしにつきあえ。タダとは言わん、ほれ」


ドワーフのバレルは、背中に背負った大きな鞄から大びんをひとつ取り出すとカウンターの上に置いた。


「これは、カルが生産を依頼したラピリア酒じゃないですか。これ美味いっすよね」


「わしが作った盾の試験をしたい。おぬしの魔法で手伝って欲しい」


「大将のお願いなら何でも聞きますぜ」




ゼクトは、店を閉めるとバレルと共に城塞都市ラプラスの外にある精霊の森の先にある茫漠へと向かった。馬車が通れるほどの道を歩きながらいつもの作業場の横を通りラピリアの木々の横を通り抜けると、相変わらず妖精達がラピリアの実を食べる光景が見えてきた。


「以前は、妖精なんてそんなに見えなかったんですがね、あのラピリアの実を食べたせいなのかラピリア酒を飲んだせいか、妖精がよく見えるようになりましたよ」


魔法アイテム屋の店主であるゼクトが歩きながらそんなことバレルに言ってきた。


「わしもじゃよ。以前は、妖精は見えておったがやつらが何を言わんとしているのかさっぱりじゃった。じゃが最近は、あやつらの言っていることが分かる様になったわい。あの実や酒には、そんな効能があるのかもしれんわい」


ドワーフ族であるバレルには、元々妖精を見る能力があったがカルが持ち込んだラピリアの実や酒によってその能力がかさ上げされていた。やはり実や酒に付いている精霊の加護の影響なのかもしれない。


「最近、詳細都市の街中でも妖精を見かけるようになりました。元々見えなかった妖精達が見えるようになったのか、精霊の森が出来た影響で妖精達の行動が活発になったのか分かりませんが」


「そうじゃな。わしが住んでる村でも変わったことがあったわい。畑の作物の実りがいきなり良くなったそうだ。これが妖精共の加護だったら、あのカルの仕出かした事の意味はとてつもなく大きいわい」


そんな会話をしながらゼクトとバレルは、精霊の森を抜けて茫漠へと差し掛かる寸前。ゼクトの目にあるものが映り、思わず顔がほころんでしまう。


「バレルさん。森の中に裸の女がいますよ。それも絶品の美女です」


ゼクトの話を聞いた瞬間、バレルの顔色が変わった。


「いかん。耳を塞げ。とにかく走れ。走れ。走れ」


「えっ」


「いいから走れ」


バレルが耳を塞ぎながら巨漢を揺らしていきなり走りだした。


「まっ、まってくださいバレルさん」


バレルの慌てふためいた姿を見たゼクトもバレルの後を追って走り出した。


「はあはあはあ・・・、バレルさんいきなり走り出してどうしたんですか」


「あれは、ドリアードだわい」


「ドリアード。死ぬまで精気を吸い付くすあれですか」


「わしの若い頃にあれに仲間を何人もやられたわい」


「ちょっと待ってくださいよ。城塞都市から歩いて30分も経っていない森にドリアードがいるなんて・・・」


「あやつら、普段は深い森の奥にいるんだがこんな城塞都市のすぐ近くにいるはずがないわい」


「ならば、冒険者ギルドに討伐依頼を出さないと」


「いやまて、ここはカルが作った森だ。もしかするとこの森を統べる精霊の配下なのかもしれん。それにあれを下手に討伐すると犠牲者が二桁を超える可能性があるわい」


「犠牲者が二桁ですか」


「触らぬ神にたたりなしだ。一応冒険者ギルドに報告だけはしておくとするかの」


またしばらく森の中の道を歩いていると、先ほど歩いて来た道から何やらザワザワと音がする。バレルが振り返るとそこにはトレントの集団が道を横断していた。


「ゼクト走れ。今度はトレントの集団だわい。数にして10体は下らん。ふたりでは勝ち目はないぞい」


また走り出したバレルの後を必死になって追うゼクトの姿があった。


「待ってくださいバレルさん。この森はどうなっているんですか。城塞都市のすぐ横に精霊はいる。妖精もいる。ドリアードもトレントもいる。山奥の深い森の中じゃないんですよ」


「死にたくなければ文句を言わずに走れ」


精霊の森を抜けて茫漠へとたどり着いたふたりは、命からがら点在する大岩の影で体を休めることにした。


「バレルさん帰りはどうしますか。トレントやドリアードがいる森の中を戻るのは危険ですよ。それに他にも魔獣がいるかもしれません」


「そうだな、少し遠いが別の街道もあるからそっちを行くとするかの」


「でもこの森は、冒険者ギルドの討伐対象になってもおかしくないもりですね」


「じゃが、この森に入る時に見たじゃろう。この森は領主が管理しているから入るなと書いてある立て看板を。あれのおかげで誰もこの森には立ち入らんからの」


「あっ、そうでした」


「我らもラピリアの木々が生い茂る場所と作業場くらいは、立ち入ってもよいとカルの許可をもらっておるが、そこから先は命の保証はないと言うことかもしれんわい」


「そこいらのダンジョンよりも恐ろしい森が城塞都市の横にあるってどんな都市だよ!」


ゼクトの空しい叫びが茫漠にこだました。





大岩の陰で休んでいたふたりの体力が戻ったところでドワーフのゼクトが、何をやろうとしているのか説明を始めた。


「さて、今日の試験じゃが、わしが担いできたこの3種類の盾を試そうと思う。これは、カルに依頼されて作った盾じゃが半分はお遊びで作ったようなものだがな」


バレルが並べた盾は3種類。全て大盾で大きな魔法陣と多数の魔石が埋め込まれている。


「バレルさん。さっきから気になっていたんですよ。大盾を3つも背負って重くないんですか」


「なら、盾を持ってみろ」


バレルの言うがままにゼクトは、並べられた盾を手に持ってみると・・・。


「かっ、軽い。まるで何も持っていないかのようです」


「そうじゃろ。盾は全てミスリルの特品でできておる。まあ、一部は他の金属も使っておるがの」


「ミスリルの特品で大盾を・・・、つまりこの大盾ひとつで・・・」


「おう、金貨万枚単位の価値があるぞい」


「ひえー、えっ、待ってください。まさかこの大盾を魔法で撃つ気じゃないですよね」


「いや、そのつもりだわい」


「待ってくださいよ。ミスリルの特品で出来た大盾ですよ。貴族や国王が住む屋敷の広間に飾ってもおかしくない代物ですよ。それを魔法で撃つんですか」


「そうだ。カルは、これを城塞都市の警備隊に配備したいと言っておったわい」


「おいおい、他国なら国王の近衛隊ですら装備できない武具ですよ。それを城塞都市の警備隊に装備させるって気が狂ってますよ」


「まあ、数が揃えられんからの。一部の部隊の専用装備にしたいと言っておったわい」


「あっ、あいつ。何を考えてやがる」


「まあ、そう言うな。わしは、この大盾を作っている時、子供のようにはしゃいだわい。こんな武具を作らせてくれる領主も貴族も国王すらわしの周りにはおらんからの」


もう言葉もなく大きな口を開けて大盾を見つめるゼクトがそこにいた。




「始めるぞい。渡した短剣に魔力を注いだらわしが構える盾に向かって魔法を放ってくれ。いきなり強力な魔法は放つな。これは試験じゃからな。わしはまだ死にたくはないぞい」


「りょ、了解です」


ゼクトは、バレルが手渡した短剣を鞘から抜いてみた。短剣の剣身にいくつかの魔石が埋め込まれ、細かな魔法陣と魔法回路が刻印された美しい短剣であった。


ゼクトは、思わず唾を飲み込んだ。ゼクトでも一瞬で分かるほど強力な魔法が撃てる剣だと。


短剣に微量の魔力を流し込み、魔石に魔力をためていく。そして大盾を構えたバレルに向かって魔法を放った。


短剣の剣先から赤い光が放たれると大盾を構えるバレルへと閃光がひた走る。


だが、バレルの近くまで飛んだ閃光は、大盾の前で方向を変え真横に向かって曲がると遥か先の地面へと落ち、その瞬間眩いばかりの閃光、そして熱、続いて爆風がバレルとゼクトを襲った。


ゼクトは、思わず地面に寝そべると頭を腕で守る体勢をとる。爆風は、ゼクトを容赦なく襲った。しばらくして爆風が収まるとゼクトの頭をこずくバレルの姿があった。


「ばかもん。最初は弱い魔法を放てを言ったじゃろ。わしを殺す気か」


「いつも使う中級魔法ではなく初心者用の威力が一番弱い魔法を放ったんですよ」


「まさか。初心者用の魔法であの威力か。短剣の魔法陣をもう少し改良する必要があるわい」


「たっ、大将。この短剣はなんですか。初心者用の魔法でこの威力っておかしいですよ」


「それはな、短剣の形をした魔導砲だからの」


「魔導・・・魔導砲!まさか300年前の大戦で使われたという魔導砲ですか!」


「ほう、おぬしも魔術師というだけはあるわい。魔導砲を知っておるのか」


「でっ、でも、魔導砲って物凄くデカいと魔導書に書いてありましたよ。こんな短剣が魔導砲のはずがないですよ」


「では、おぬしが放ったあの初心者用の魔法の破壊力をどう説明する」


「しかしあの魔法は、冒険者のAランク以上の魔術師が放つ魔法・・・いや・・・ですが」


ゼクトは、絶句した。目の前に短剣の形をした魔導砲があるのだ。しかも初心者用の魔法でAランクの魔術師と同等以上の魔法を放てるバカげた短剣が目の前に存在する。


「ふむ。この大盾は成功だな。じゃが、横に仲間がいたら巻き添えになるな。使いどころが難しい大盾じゃな」


バレルは、淡々と大盾の長所短所を紙に書き記していた。その姿を見ていたゼクトは、冷静すぎるバレルの態度に思わず苦言を呈した。


「バレルさん。まさかあの短剣を量産するんですか。どこの国と戦争を始めるつもりです」


「戦争?何を言っておる。あの短剣はそんなに作れんからの。各城塞都市に数本づつ配備する予定だわい」


「いや、それでもあの短剣が数本もあれば、国のひとつやふたつは滅ぼせます」


「おぬし、野心家だな。わしは、カルの言葉を信じた。この城塞都市を守るための武具を作って欲しいと。やつは他国との戦争に使わない武具だと言ったのだ」


「・・・・・・」


「わしは信じるわい。あの小僧、いやカルの言葉をな」


バレルとゼクトは、試作した大盾の試験を続けます。


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