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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第2章》 都市が増えました。
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61話.家に戻れぬ者達

今回は、回収できていなかったお話を集めました。


話は少し前にさかのぼります。


ロイズ商会にミスリルの買い取りを依頼し、ロイズ商会のロイドが子爵の屋敷へと向かった日の深夜、例の如く精霊ホワイトローズがカルの元へとやってきた。


宿屋は、ロイズ商会ご用達で宿泊料金は全てロイズ商会持ち。しかも全員分個室を用意してくれた。太っ腹だが恐らく商談で取引される穀物やミスリルの量とそれに伴って動く金額が、金貨換算で十万枚ともなれば宿屋代など必要経費として処理できるからであろう。


「カル。この小さな箱を繋げたいふたつの場所に置くの。するとゲートが開いてその場所と行き来することができるの」


精霊ホワイトローズがカルに手渡した小さな金属の箱。手の平に納まるほどの小さく何であるかさえ分からないものであった。


「この箱は、精霊通販で買ったフルスペック版に私が制限を加えたものなの。カルにしか操作できないようにしてあるの。だから盗まれても誰も操作できないの。安心して使うの」


「へえ。こんな小さな箱でそんなことができるんですか」


「しかも36協定対応済みなの。1日8時間。1週40時間を超えたら特定の人以外はゲートを使えないの。こんなゲートを置いたら誰でも労働者を24時間働かせようとするの。だから36協定に対応させたの」


「さぶろくきょうてい?」


「ゲートを使えるのは、朝8時から昼の12時迄。それと13時から夕方の17時迄なの。土日はお休みなの。周に40時間を超えてゲートを使う場合は、カルに書面で申請して時間外労働の協定を結ばなければいけないの」


「うーん。よく分からないけど、その時間内だけゲートを使えばいいんですね」


「そうなの。それとこのゲートシステムは、直線距離にして100km以上離れて使うことはできないの。それにゲートを通れる大きさは馬車の大きさ迄なの。一度に通れる重さも馬車に穀物を満載したくらいに制限したの」


「うん。いろいろ気を使ってくれてありがとうございます」


「また何かあったら言うの。こういうのを魔改造するのは楽しいの」




実は、精霊ホワイトローズがカルに貸し与えたゲート空間移送システムは、精霊通販で買える安物である。文明レベルが違えば物に対する価値感も利用基準も異なる。精霊界では、子供でも買える玩具の類である。


メリルは、ダンジョン内を転移魔石を使って各階層を自由に移動していた。城塞都市アグニⅡのダンジョン攻略の時は、魔獣達ですら転移魔石を使っていた。


このゲート空間移送システムは、あの転移魔石に比べても数段劣るものである。そもそも移動した拠点間にわざわざ対になる金属の箱を置かなければ移動できない制限付きのものであり、精霊界からすれば便利な移動グッズですらないのだ。


精霊ホワイトローズは、これを作る前にカルにミスリルが大量に必要だと言ったのは嘘で、魔改造に必要なミスリルはほんの僅かである。大量のミスリルは、魔人復活のために必要なものであったがそんな事など知らないカルは、精霊ホワイトローズにまんまと騙されたのである。


とはいえ、この世界の文明が1000年発達しても成しえない技術であることに変わりはない。それを少量のミスリルで使わせてもらえるのだから破格である。


カルは、街の冒険者ギルドに頼みふた組の中堅冒険者チームを倉庫の警備に雇った。城塞都市に入り込んだ傭兵団がこの街にいないという保証がない以上、城塞都市アグニⅠやアグニⅡの様に倉庫に火を放たれるのを心配したためだ。


倉庫を警備する冒険者達には、倉庫の脇にある事務棟に寝泊りさせ、倉庫にいつも人がいると思わせることで防犯対策とした。




カル達はというと、倉庫への穀物の搬入の管理を商会に頼み次の日の夜には、サラブ村へと向かった。この倉庫とサラブ村をゲート空間移送システムで繋ぎ穀物や物資の輸送を円滑に行うのが目的であった。


いつもの様にゴーレムであるカルロスの肩に乗るカル。盾のダンジョンの安全地帯でのんびりと過ごすメリルとライラのふたり。


ゴーレムのカルロスが滑る様に穀倉地帯の街道を進み夜明け前には、山道へと入り暗くなる前にはサラブ村へと入ることができた。





カルは、村の村長にお願いをして砦にある旧武器庫を穀物庫として使わせてもらうことにした。旧武器庫の奥にゲート空間移送システムの金属の箱を設置し箱に指を置きキューブを起動させる。


キューブの前には、金属でできた大きな輪が出現すると、その輪の先にリガの街にある倉庫の内部と繋がった。


あっけなくゲート空間移送システムは、サラブ村の砦の旧武器庫と倉庫が繋がり輪をくぐると、何の問題もなくリガの街の倉庫へと移動することができた。こんな簡単にふたつの場所を移動できてしまうと、移動に時間をかけるという行為そのものがバカバカしく思えてしまうカルであった。


ただ、精霊ホワイトローズからある事について釘を刺されていた。それは、ゲート空間移送システムを悪用する輩がいないとも限らない。その対策として城塞都市ラプラスの都市の中にこのゲート空間移送システムを設置しないようにと。


わざと城塞都市から遠いサラブ村に設置したのはそのためであった。今までもこのゲート空間移送システムを悪用されて他国の軍隊が王都に雪崩れ込み、いくつもの国や都市が滅んだという話を聞かされて、遊び半分で使う代物ではないことを肝に銘じるカルであった。




次の日の朝。


サラブ村の獣人達にお願いをして倉庫からゲート空間移送システムを通り砦の旧武器庫に穀物袋を運んでもらう。倉庫にある穀物袋は、大袋で8000袋。さらにロイズ商会の4つの倉庫にもあるので、城塞都市への輸送を含めれば数ヵ月を要する大事業となる。


サラブ村の村長には、城塞都市ラプラスの役所の職員に充てた手紙を手渡した。これで、カルがいなくても穀物輸送は行えるはずである。


いくつかの穀物袋は、カルの盾のダンジョン内にある安全地帯に運び込んだ。これを持って各城塞都市に穀物を最優先で届けるつもりでいる。その後、サラブ村から定期便の馬車を走らせて穀物を運ぶ計画でいた。


とはいえ、城塞都市ラプラスの領主の館の職員にも役所で働く職員にも内緒で進めている大事業である。何らかの混乱を生じることは分かっているが、それを手紙ひとつで職員達に丸投げをする気満々のカルであった。




それともうひとつ。


リガの街で立ち寄った武器屋で見た武具。あの武器屋で見た魔石を埋め込んだ武具に心を惹かれたカル。魔石をはめ込んだ魔石武具を作り、それを各都市の警備隊に配置すれば、今回の傭兵団の様な強い敵にも対応できるかもしれないと考えていた。


酒作り・・・いや、薬作りを頼んだドワーフの大将に頼んで試作の魔石武具を作ってもらう。それにルル、リオ、レオの武具も盾のダンジョンで取られてしまったままだから新しい武具も作ってもらおうと考えていた。


使う材料は、カルがミスリル鉱山から採掘したミスリルの特品と、城塞都市アグニⅡのダンジョン攻略の時に30階層のボス部屋で拾った多数の人工魔石。


どんな武具ができるか分からないが、それがかえってカルの心お躍らせていた。






カルは、ゴーレムのカルロスの肩に乗り城塞都市ラプラスに到着した。だが城塞都市には入らずに植林地にある作業場に向かった。城塞都市の中にはまだ傭兵団がいると踏んでいたからだ。このままラプラスに入り傭兵団に見つかってアグニⅠやアグニⅡの様に都市に火を放たれては敵わない。


植林地の作業場に運んで来た穀物袋を半分ほど下ろすとその日は、作業場の屋根裏部屋で灯りもつけずにメリルやライラと夜を明かした。


「カルさん。せっかくラプラスに戻ったというのに領主の館に戻れないって変ですね」


「そうだよね。自分の家に帰れないんだもんね。傭兵団・・・いや、ベルモンド商会との戦いが終わったらのんびりしたいな。ほんの数ヵ月前まで森の中にある家に住んでいたなんて考えられないよ」


「カル様ならベルモンド商会との戦いを終わらせることができます」


カルとライラの会話にメリルも入ってきた。


「今でもベルモンド商会などどうにもできるのです。でもカル様は、周囲の人達のことを考えすぎて躊躇しておいでです」


「そうなのかな」


「そうです。もっと後先考えずに行動されてもよいのです。どうにもできなくなったら周りの大人を頼ってください。周りの大人は、そのためにいるんですよ」


「うん。ありがとうメリルさん」


「私は、あまり役にたってないですけど」


「えー、ライラさんがいなかったらこの精霊の森は、あと100年は荒地だったもしれないのに」


「あっ、そうでした。でも私ってカルさんの治癒士なのに木に治癒魔法をかけてばかりですね」


「でも、もしかしたらあのお酒というか薬ができたら、この街に住む人達がケガや病気を気にしなくても住める街になるかもしれない」


「そうですね。そうなったら嬉しいです」


植林地の作業場の屋根裏部屋でそんな会話をしていた3人に、どこからか歌が聞こえてきた。歌は、森の中から聞こえて来るようだった。


歌が聞こえる精霊の森へと向かうカル、メリル、ライラ。


歌は、精霊の木の巨木がある池のふちから聞こえていた。


そこには、精霊の木の精霊がいて歌を歌っていた。実に綺麗な歌声だ。


池の周りには数えきれないほどの妖精が飛び交い歌を歌い踊っていた。


「綺麗・・・」


「こんな世界が城塞都市のすぐそばにあるなんて不思議です」


「僕が生きているうちに森ができると思ってなかったから、植林地を作って良かったって思えた」


3人は、思い思いの言葉を口にしながら精霊の歌声と妖精達の踊りを眺めていた。



カルが池の淵を取り囲んで踊る妖精達を見ていると、池の対面に美しい裸の女性達が複数座っていた。ドリアードである。


カルの姿を見たドリアード達は、カルに向けて両手を差し伸べた。だが、幸いにして池の対岸に座る彼女達の魅力的な誘惑はカルには届かなかった。


だが、カルの顔はほころびとろけていた。


「うわー、すごい美人のお姉さんだ。僕に向かって両手を挙げてる。もしかして呼んでるのかな・・・」


思わず足が前に出るカルであったが、それを見逃さなかったメリルとライラは、カルの頬を両方からおもいきりつねる。


「ちょっとカル様。私というものがありまがらドリアードに恋するなど不謹慎です。あの者達は、カル様をオヤツ程度にしか思ってないんですよ」


「そうですよ。目の前のふたりの女性を置いて何処に行く気ですか!」


「ひらいひらいから頬をふねらないで」(訳:痛い痛いから頬をつねらないで)


赤く腫れあがった頬を手でさすりながら、カル達は、夜遅くまで精霊と妖精達の歌と踊りに酔いしれた。






「最近、夜になるとどこからか楽しそうな歌が聞こえるよな」


「ああ、すごく綺麗な歌声だよな」


「新しい領主になってからいろんなことがあったけど、夜の警備でどこからか聞こえる歌を聞きながら何事もなく朝を迎えられる・・・そんな日々が続いてくれるといいな」


「そうだな」


城塞都市ラプラスの城壁の上で夜の警備をする警備隊の兵士達。そんな兵士の思いと共に今夜も精霊と妖精達の歌が城塞都市ラプラスの街に微かに響き渡っていた。


次回は、ドワーフの大将のところで武具の生産依頼をします。どんな武器ができるやら。


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