57話.それはお酒なのか薬なのか。(2)
薬というかお酒は順調に出来上がっていきます。
黄色いラピリアの実が次々と宙をふよふよと浮いて小屋の外へと飛んでいく。
「こりゃいかん。早く仕込まんと妖精達がみんな食っちまう。俺にも妖精は見えるが普段から姿をみせる連中じゃない。そんな連中が昼間から姿を現すくらいだ。このラピリアの実がよほど好きなんだろう」
「じゃあ、良いお酒が出来たらもっと注文してもいいですか」
「仕方ない。妖精がここまで気に入る実だ。俺も酒を造ってみたくなった」
「ありがとうございます。では、ここにお金を置いていきます。必要なものがあればここから使ってください」
そういうとカルは、ドワーフの前に金貨20枚を置いて小屋から出て行ってしまった。
「おっ、おい金貨20枚なんて多すぎる・・・、行ってしまったわい。なんとも気忙しい小僧だ」
「大将。あいつ俺が作った魔石筒を大量に買ってくれたんだ。それに、城塞都市の警備隊の装備品に選んでくれたんだよ」
「まてまて、お前は何を言っておる。そんな権限を持っている奴なんざこの城塞都市に数人しかおらんぞ」
「あのカルって小僧は、その数人のてっぺんにいるんですよ」
「なっ、なんだと」
「あっ、大将。魔石筒なんですが、あと3000個注文が来そうです。そっちの部品もお願いします」
「3000個だと。バカもの。そんな数作れる訳なかろう」
「大将。この実で作った酒、凄い酒になりますよ。それに金になります。あいつは何かを持っています。だからあいつに協力してやってください」
「話をそらすな。魔石筒の部品3000個だぞ。作るだけで数年はかかるわい」
「そこを何とかお願いします。この城塞都市ラプラスを守るめです」
ゼクトは、ドワーフの大将に向かって深々と頭を下げた。
「お前さん、あの小僧に入れ込んどるな」
「はい、あのカルは、城塞都市を・・・いえ、何でもないです。では、酒作りと魔石筒の部品もよろしくお願いします」
そう言い残すとゼクトもドワーフの大将の前から去っていった。
「仕方ない。知り合いのドワーフ共に頼んで手伝ってもらうか」
そいう言ったドワーフの目の前を、黄色いラピリアの実が宙をふよふよと浮いて小屋の外へと飛んでいく。
「まずいな。酒を仕込む前に妖精共に本当に食い尽くされてしまうわい」
ドワーフの大将は、慌ててラピリアの実を樽に積めると樽に蓋をして上に重石を置いた。
ラピリアの実が入った樽の周りには、妖精が群がりラピリアの実を盗み取ろうと樽を押し倒そうと必死になっていた。その様を見ていたドワーフは、慌てて酒の仕込みに取り掛かった。
その日の夜遅く、ラピリアの実を仕込みは終わった。黄色のラピリアの実の酒と赤色のラピリアの実の酒だ。
これから数日をかけてどんな酒になっていくか注意深く見ていく必要がある。しかもだ、ラピリアの実を仕込んでいる最中にも妖精達にかなりの数のラピリアの実を盗られてしまった。
今でも、ラピリアの酒を仕込んだ樽の周囲には、多数の妖精が酒を盗もうと虎視眈々と狙っている。
数日後、ドワーフは、ラピリアの実を仕込んだ樽から酒の発酵具合を確かめるべく、樽からほんの少量を取り出して香りと味を確かめた。そして驚きの顔をのぞかせた。
「なんということだ。既に酒になっているではないか。それに・・・この酒を飲むと体の痛みが和らぐのはなぜだ」
ドワーフが感動のあまり器に残した黄色いラピリアの実の酒には、妖精達が群がりあっという間にラピリア酒を飲み干していた。ここ最近、ラピリアの実で酒作りをしてからというもの、ドワーフの家に妖精が大挙して押しかけて来るようになり、家のあちこちでいたずらをして困り果てていた。
とある日。
城塞都市の下町にある魔法具屋に珍しい客が訪れた。
「ゼクトはいるか」
「えっ、ドワーフの大将。都市に来るなんて珍しいですね」
「あの小僧には、どこに行けば会える」
「いきなりですね。えーとどこぞの鉱山で採掘をするって言ってましたから、帰って来るのはもう数日かかると思いますよ」
「そうか。直には会えんか。しかし、鉱山に行くというのにドワーフのわしに一言も言んとはいい度胸じゃわい」
ドワーフの大将の顔が急に曇りだす。
「どうしたんです。カルが頼んだ酒作りで何か問題でもあったんですか」
「逆だ。あの小僧、とんでもないものをわしに頼んでいきおった」
ドワーフの大将は、背中に背負った鞄から小さな瓶をふたつ取り出すと、ゼクトの店のカウンターに並べた。
「これだ。あの小僧がわしに頼んだものだ」
「頼んだって、いやいや。酒作りって早くても数ヵ月はかかるはずじゃないですか」
ドワーフの大将の表情は、さっきと同じで雲ったままだ。
「まずは飲んでみろ」
ゼクトは、店の奥から小さなグラスをふたつ用意すると小瓶に入っている液体をグラスに注いだ。まずは黄色い液体を口の中に放り込んだ。
「うっ、うめえ。なんだこれは・・・。いや酒だ。酒だがこんな酒は飲んだことがねえ」
「赤い方も飲んでみろ」
ゼクトは、ドワーフの大将が進めるがままに瓶から赤い液体をグラスに注ぎ、口の中に流し込んだ。
「!」
ゼクトが声を出せずにいた。赤い液体の入った小瓶とドワーフの大将の顔を交互に見てはただ驚くばかりであった。
「まさか、あれが数日のうちに酒になるとは思わんかった」
「ドワーフの大将。この酒、売れます。絶対売れます。この城塞都市の名物になりますぜ」
「俺の名前は、バレルだ。今度からそう呼べ」
「えっ、えーとバレルさん・・・その、名前で呼んでもよろしいのですか」
「わしにあんな上客を紹介したお前さんだからわしの名前を教える」
「あっ、ありがとうございます!」
「そうか、あの小僧は出かけておらんのか。・・・ラピリアの実は手に入らんか」
ドワーフのバレルの表情は、さらに険しくなっていく。
「えーと、まさかあの酒を仕込みたいのですか」
「・・・そうだ。あの量では、わしが飲み干してしまうわい。いや、わしよりも妖精達が飲んでしまうわい。酒を仕込んだ日から妖精達が樽から離れんのだ」
「よっ、妖精がですか」
「わしが酒の仕込み具合を確認しようと樽から少量の酒を器につぐだけで妖精達が器の酒に群がって困ってしまったわい」
「・・・俺、妖精の気持ちが分かります。でもドワーフの大将も人が悪いですよ。こんな小瓶程度じゃ飲んだ気になりませんよ」
「バレルだ。俺の名前はバレルだ。じゃがな、あの酒は小僧のもんだ。前金までもらっておるのに人に飲ませたらあったいう間に無くなってしまうわい」
「それで、次を仕込みたいと。ならばラピリアの実を獲りに行きますか」
「ゼクト。お前は、あの実が成っている場所を知っているのか」
「ええ、ここに場所を書いた地図とラピリアの実を獲っていいってカルの許可を書面で貰ってあります」
「・・・あの小僧、わしが動くと知っておったな。けしからんやつだ」
「まあまあ、これから”精霊の森”へ行きましょうバレルさん」
魔法具屋の店主のゼクトは、ドワーフのバレルを連れて城塞都市の外にある精霊の森へと向かった。
精霊の森に入る直前に森の手前には、柵と看板が立っていた。
”この森は精霊の森です。精霊と妖精達の安住の地です。特に用事が無い場合は、精霊の森に入らないでください”
”精霊の森の管理者 城塞都市ラプラス領主より”
「この森は、領主命令で立ち入り禁止ではないのか」
「俺は、カルから許可をもらっています」
「つまりあれか、あの坊主・・・カルとやらがラプラスの領主なのか」
「まあ、その辺は”坊主”でもいいんじゃないですか。ドワーフの大将の年齢に比べたらカルはまだ子供だし。俺もカルって呼び捨てにしているからな」
「さっきも言ったがわしの名前は、”バレル”だ。そう呼べと言ったはずだ」
「ああっ、そうだったバレルさん」
ゼクトは少し気恥ずかしかった。400歳を超えるドワーフが、子供にしか見えないゼクトに名前で呼べと言った時は正直驚いた。魔石筒や魔法具を作るために何度も注文を繰り返したが名前すら教えてもらえなかったのだ。それをたった1回会っただけでカルは、名前を教えてもらえたのだ。まあ、カル本人はこにはいないのでゼクトの名前を知る由もない。
ゼクトは、カルが書いた地図を見ながら森の中を通る道を歩いてラピリアの木が群生している場所へとやってきた。
「ここだ。確かにラピリアの木の数がすごいな。まるで果樹園だ」
「この森の木々を見ると300年以上は経っているように見えるわい。木々の根本に生える苔や栄養豊富な土はどうやったら1日でできるのか不思議でならん」
道の左側には果樹園と勘違いするほどの立派なラピリアの木が茂り、道の右側には、鬱蒼と生い茂る森が広がっている。
「この森をカルと精霊治癒魔法使いがひと晩で作り上げたらしい。実際は、木の精霊を精霊治癒魔法で癒したのが大きかったらしいが、同じ魔術師である俺も”木”に魔法をかけるという発想はないな」
ゼクトは、鬱蒼と生い茂る木々を見上げながら、自分とは全く異なる発想をするカルの行動が不思議でならなかった。
ラピリアの木は、緑色の実しか成らないがここの木々は、沢山の黄色いラピリアの実を成していた。その木々の枝の間を相変わらずラピリアの実が飛んでいる。
「ほう、あの宙を浮いているラピリアの実は妖精がやっておるのだな」
「カルの地図に書いてあるメモに”妖精が多数いるので実は半分は残して”と書いてあります。しかし、城塞都市の隣りにこんなに妖精がいる森があるなんて聞いたことがないぜ」
「わしの家でも酒を仕込んでから妖精どもが樽に群がって困っておる」
「それとこの先に赤いラピリアの実がなる場所があると書いてあります」
地図を片手にゼクトとドワーフのバレルがさらに森の奥へと入っていく。
「ほう。確かに赤いラピリアの実だな。こいつは甘すぎて妖精も食べないという訳じゃな」
「カルが書いた地図のメモにもそう書いてあります。赤いラピリアの実は全て取ってもいいと」
ドワーフのバレルは少し考えた後にゼクトに種明かしをした。
「なあゼクトよ。あの坊主が持ってきたラピリアの実を酒にした後、知り合いの魔術師に頼んで酒を鑑定してもらったんじゃがな・・・黄色い方の酒には、精霊の加護(小)が付いておったわい」
その話を聞いたゼクトは、思わず叫んでしまった。
「うっ、嘘だろ。精霊の加護(小)付きの酒なんて聞いたことがないぜ」
「それだけではない。赤色の酒だがあれには精霊の加護(中)が付いておる」
ゼクトも元はダンジョンに出入りする冒険者だ。元が付くが。だから精霊の加護(中)の魔法アイテムがどれだけ貴重で凄いものであるかを身をもって知っていた。
「精霊の加護(中)の魔法アイテムっていったら・・・」
「ああ、途方もない価値じゃわい。小瓶ひとつで金貨100枚でも買うやつはおるだろう」
「そっ、それが小樽程もあるってマジか!」
「じゃがな。小僧に前金を貰っておるからな。あの樽の酒は全て小僧のもんだ。あの小僧が酒作りを頼んだ時に”酒”ではなく”薬”と言ったのがよく分かったわい」
ドワーフのバレルは、その後、少し考えるとぼそっと小声でこうつぶやいた。
「もしかするとあの小僧、最初からこうなることを知っておったのか」
ドワーフのバレルの声は、小さくて聞き取れなかったゼクトは、そそくさとラピリアの実を獲るための準備に入っていた。
「森の入り口にある作業場を使う許可はもらってありますから、気合を入れてラピリアの実を収穫するとしますか」
「そうじゃな。このラピリアの実でもっとうまい酒・・・いや、もっと良い”薬”を作ってやらんとな」
「酒が出来たらもっと飲ませてくださいよ」
「それは、あの小僧にいえ。わしですら我慢しておるのだ。お前なんぞに飲ませられるか」
「ええっ、ドワーフの大将あんまりだ」
「バレルだ。わしの名前はバレルだと何度も言っておるではないか」
そんな会話をしながらゼクトとバレルは、赤色のラピリアの実を獲り袋に詰めていく。このラピリアの実が後に”酒”となり”薬”となって城塞都市ラプラスの価値を高めていくことになる。
土曜日の夕方にお話を投稿したところ、途中で処理が止まってしまいました。
2度目も同じで投稿できずに途方に暮れていると、何故か投稿できていました。
ただ、次話投稿(確認) → 投稿(実行)と2回の操作を行うべきところが1回で投稿されていました。
小説家になろうの管理ツールというよりWebサーバー側かDBサーバー側の処理に問題があるように見えます。