表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第2章》 都市が増えました。
56/218

56話.それはお酒なのか薬なのか。(1)

カルは、ラピリアの実をあるところへ持ち込みます。


カル達は、城塞都市ラプラスの商店街にある"猫目亭"でいつもの様にランチを食べていた。


カルの頭の中にはラピリアの実を”何とか保存できないか”ということだけがひたすら頭の中を駆け巡っていた。


ラピリアの実は、果実である以上腐る。だがひとつだけ腐らせずに保存する方法があった。


それは、カルが腰にぶら下げている鞄である。カルの鞄は、お爺さんから受け継いだアイテムバックなのでラピリアの実を入れておいても腐らない。


だがこの鞄は貴重だ。この様なアイテムバック持ちは、城塞都市ラプラスの中でも数人いるかどうかという代物である。いくらカルがお人好しと言えどもこの鞄を領主の館や役所や病院に差し出す気にはなれなかった。


カル、メリル、ライラの3人は、テーブルに座るといつもの日替わりランチを食べて始めた。ゴーレムのカルロスだけは、食事をしないので店の外で待機している。


だがカルだけは、ランチを食べる口がうわの空で半分も食べずに残していた。


そんなカル達の近くのテーブルで食事をしていた冒険者風の男達が昼から葡萄酒を飲んでいた。


「やっぱり昼から飲む酒は格別に美味いな」


「昼間っからエールではなく葡萄酒とは、ずいぶんと飛ばすな」


「ははは。いやな、昨日の稼ぎが思いの外良かったからな」


「そうか。しかもいつもの3年物じゃなく、10年物とはまた豪勢だな」


「葡萄酒は、時間が経てば経つほど旨味が増すからな」


何気なくカルの耳に”10年”と言う言葉が入って来る。食べ物や飲み物で”10年”も保存できる物は存在しない。だがお酒だけは別である。まだ成人していないカルはお酒を飲めないのでその事に気づくはずもなかった。


「おっ、お兄さん!葡萄酒ってそんなに保存できるの」


「おっ、お前、酒に興味があるのか。そうだな、葡萄酒はおいて置けばそれだけ熟成が進むから美味くなる。だがお前にはまだ早そうだな。もう少し大人になってからだぞ」


「お酒ってどこで作るの」


「酒か。そうだな。村に住んでるドワーフが作ってるはずだ。まあ、俺の知り合いにはいないがな」


「ドワーフ・・・ドワーフ族か。ありがとうお兄さん」


カルは、同じテーブルに座るメリルとライラの食事をせかしながら、目の前のランチを口に掻き込み慌てて”猫目亭”を後にした。


カルの知り合いにドワーフ族はいない。だが、ドワーフ族を知っていそうな人を知っていた。


それは・・・。


カルは、下町の狭い通路を歩きその店の前へとやって来ると、いつもの様に小さな店の扉を勢いよく開ける。


「お兄さん。こんにちは!」


「おう、カルか。最近顔を見せなかったな」


何に使うのか使えるのかさえ分からない魔道具が所狭しと並ぶ店の奥で、椅子に座りながら魔石筒に小さな魔石を入れては魔法を放つ店主の姿があった。


「お兄さん。お兄さん。いつも買ってる魔石筒ってどうやって作ってるの」


「魔石筒か。あれは、ドワーフの大将に部品を作ってもらって、魔石を入れて・・・」


「そのドワーフの大将って、ラプラスの近くに住んでるの」


「大将か。ラプラスから歩いて1時間くらいのところにある村に住んでるぞ」


「その人は、お酒も作れる?」


「酒か。ドワーフと言えば酒だな。大将も酒が大好きで村で飲まれる酒は大将が作っていたな」


カルは、目を輝かせて魔法具店の店主であるゼクトの顔を見つめた。


「おっ、その顔は、すぐにでも会いに連れていけって顔だな。まあ、店はラプラスの警備隊に納品する魔石筒を作る以外にすることもないしな、どうせ客は来ないし」


すると、店のお兄さんは店の奥にある部屋に入り誰かと会話をはじめた。


「すまん。奥で魔石筒の魔石に魔法を封印する作業をやってるんだ。店を頼んで来たからこれからドワーフの大将のところに行くか」


「いいんですか!」


「おう、お前さんの顔を見てると商売の匂いがプンプンする。もしかすると魔石筒を超える何かがありそうだ」


カルは、店の店主であるゼクトとそんな会話をしつつ、領主の館から馬車でドワーフが住んでいるという村へ向かった。


「カル。相変わらずお前が連れているふたりは美人だな」


魔法具屋の店主であるゼクトは、メリルとライラの顔と大きな胸を見て小声でカルに話しかけた。


「だめですよ手をだしちゃ」


「分かってるって。最近、魔石筒を作るために魔術師を何人か雇ったんだが、その中に俺好みのやつがいるんだよ」


「もしかして狙ってるんですか」


「おっ、おほん。俺も従業員を雇うようになった雇用主だ。従業員をそういう目で見てはいけないって知ってるぞ。知っているがなあ・・・」


「まあ、危ないことだけはしないでくださいね」


大人のはずのゼクトが子供のカルに注意を促されるとは、困った大人である。




ドワーフの大将が住むという村は、歩けば1時間程度かかるという話だったが、馬車でその村まではすぐであった。


その村は、街道沿いの小さな村は今まで”視察で何度も通り過ぎた”村であった。


とある家の前で馬車をとめると、ゼクトが知った様に家の裏にある鍛冶場へと入っていく。


「大将。ドワーフの大将いるか。ゼクトだ」


だがドワーフの大将からの返事はない。


「きっと小屋の中で酒を飲んで寝てるぞ」


ゼクトの言う通りに小屋の中を覗くと、気持ちよさそうに寝ているドワーフがいた。


「大将。ドワーフの大将起きてくれ。客を連れて来た」


「ん。客だと。俺はお前さんの魔石筒の部品を作るのに徹夜をしたんだ。もう少し寝かせろ」


「大将。魔石筒の注文は、あと1000個も残ってるんだ。早く作ってくれよ」


「バカもん。だいたいお前は、何も考えずに魔石筒の注文を2000個も取ってきおって。あんな数、わしだけで作れる訳なかろう」


「あっ、その件については謝る。そのかわり代金を先払いしたし割増料金も払ったろ」


「ふん。あれっぽっちじゃ手伝いを雇う足しにしかならんわ」


「大将の言葉は耳に痛いな」


ゼクトとドワーフの話を聞いていたカルは、ゼクトが言うほど気難しい人には見えなかった。


「で、客というのはその小僧か」


「ああ。カルって言うんだ」


「俺の魔石筒を買ってくれる上客だ」


「ふん。変わり者か」


カルを一目見て変わり者と判断したドワーフは、かなりの観察眼を持っていた。


「それで、何を作って欲しいんだ」


「お酒というか薬です」


「薬だと。薬なら薬師のところに行け。俺は薬は専門外だ」


「いえ、薬ですけどお酒なんです」


「薬だが酒だと。何を言っておる。酒は薬になるが本当の意味で薬ではない。薬師のところへ行け」


「そんなあ」


カルは、また寝ようとしたドワーフの気を何とか引こうと腰にぶら下げている鞄からラピリアの実を取りだした。


「こっ、これです。この黄色いラピリアの実でお酒を造って欲しいんです」


「ラピリアだと・・・、あれはダメだ。糖度が全くない。仮に酒に砂糖をぶち込めは酒は造れるが、酒に大量の砂糖をぶち込むなんざ外道のすることだ」


ドワーフは、そう言って床に横になって寝始めてしまった。


「そっ、そんなことを言わないで。とにかくこのラピリアの実を食べてみてください」


カルは、そういうと床に横になったドワーフの鼻先に黄色と赤色のラピリアの実を置いた。


ドワーフの鼻先に置かれたラピリアの実は、甘く爽やかな匂いを放っていた。


「ふん。ラピリアの実にしては、ずいぶんと良い匂いがしとるな」


「まだ、実の数は大して獲れないけど、お酒になれば実が成らない冬でも保存できるから」


ドワーフは、鼻先に置かれた黄色いラピリアの実の匂いを嗅ぎつつひとかじりした。


その瞬間、ドワーフの表情が明らかに変わった。


ドワーフは、何も話さなかったが黄色いラピリアの実を何度かかじると、実を味わうようにじっくりと食べ始めた。


続いて赤いラピリアの実をかじる。だが、今度は顔が険しくなった。あの顔は甘すぎて食べられないという顔だ。カルはそう判断した。だが、ドワーフは、あの甘くてくどい赤いラピリアの実を全て食べてしまった。


「小僧。どこでこの実を見つけた。いや栽培した」


「ラプラスの近くの森です」


ドワーフの大将の眉間にしわがよる。明らかに嘘を付いた者を見る時の表情だ。


「ラプラスの近くに森はない」


「えーと、数日前に森はができまして・・・」


「わしをバカにするのか。森は100年経っても若造だ」


「大将。本当なんだ。ラプラスの隣りにひと晩で森が出来ちまったんだ。俺も見に行ったが数百年は経っているとしか思えない立派な森が出来たんだ」


カルの言葉を信じないドワーフに、思わず助け船を出したゼクトであった。


「ふん。ここ数日、妖精どもがうるさいと思っておったがそれが原因か」


「僕が精霊の木を移植したんです。それで森がひと晩で出来てしまって」


「今、なんと言った。精霊の木だと。精霊の木を移植したのか」


「えーと、はい」


「ありえん。精霊の木は、一度根を張ったらその土地から離れることはない。もし、その土地の精霊の木が枯れればその土地が死ぬことを意味する」


「えっ、そうなんですか。でも、精霊さんが助けてくれって・・・」


「小僧、精霊の言葉がわかるのか」


「うん。妖精も見える。今、ドワーフさんの食べ残した黄色いラピリアの実を妖精さんが持って行ったよ」


目の前には、食べかけの黄色いラピリアの実が宙をふわふわと浮きながら小屋の外へと飛んでいくところだった。


「黄色いラピリアの実は、妖精さんの主食みたいでいつも食べてるよ」


「・・・・・・」


ドワーフは、横になっている床から飛び起きると、カルの顔をまじまじと覗き込んだ。


「坊主。あの実は、どれくらいある」


「えーとですね。これくらい」


カルは、腰にぶら下げた鞄からラピリアの実を全て取り出した。


「うーん。その数では中樽ひとつといったところだな。赤い方は小ダルに8分目といったところだ」


「じゃあ、作ってもらえるんですか」


「まずは試作だ。酒作りは簡単ではない。何度も試行錯誤を繰り返さんと良いものはできん」


ドワーフがそう話すそばから、多くの黄色いラピリアの実が宙をふよふよと浮いて小屋の外へと飛んでいった。


やっとお話にラプラスの産業になる”物”が出て来ました。ここまで来るのが長かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ