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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第2章》 都市が増えました。
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51話.ダンジョン討伐(1)

城塞都市アグニⅡの近郊にある通称”中級ダンジョン”。


このダンジョンに魔獣達を結集させるメリルの姿が・・・。


城塞都市アグニⅠを手に入れた城塞都市ラプラスだったが、傭兵団により街に火を放たれたことによる損害が著しく、また穀物庫に火を放たれたことにより備蓄の穀物の相当量を焼失したことで、都市運営に甚大な影響が出ていた。


城塞都市アグニⅠは、いまだ元兵士と住民達の混乱が続き、小規模な暴動も頻発しさらなる混乱に拍車をかけていた。


この暴動の発生源が城塞都市の住民達なのか、傭兵団による誘導なのかさえ不明で下手に鎮圧もままならない。


城塞都市アグニⅠは、復興どころではない状況下でありアグニⅡからの物資輸送でなんとかしのいではいたが物資の不足は、誰の目にも明らかであった。


周辺の村々も傭兵団により家や穀物の備蓄庫が燃やされ、先が見通せない状況に村民の不安と不満が募るばかりである。


カル達が統治する魔王国の南域は、山々に囲まれ他の国へと繋がる道は、ラドリア王国のポラリスという街へと繋がる峠道しかなく、それ以外となると砂漠の西側を迂回して魔王国の中央へと向かう道と、カルが砦に向かった砂漠の東側を通る道だけである。


円を描く様に連なる山脈に囲まれ、山脈の中央に横たわる巨大な砂漠にはワームの群れが住み、山脈の峰々の僅かに気候の穏やかな場所に点在する村々で穀物を細々と栽培していた。


この村々で栽培する穀物だけでは、城塞都市の住民を食べさせるのは不可能であった。魔王国の中央に穀物を求めても数多く存在する城塞都市群を賄える穀倉地帯もなく八方塞がりの状態である。


カル達は、城塞都市アグニⅡへと拠点を移しアグニⅠでの不測の事態に備えていた。都市運営の”いろは”を知らないカルにとって、今の状況下で出来ることは、ただ待つしかないのである。


追い打ちをかけるようにベルモンド商会の穀物輸送が止まり、誰が今回の騒動を裏で糸を引いていたかが分かってきた頃、城塞都市アグニⅡにある通称”中級ダンジョン”の前である事態が起ころうとしていた。






早朝。まだ朝日も昇らない時間にライラに起こされたカルは、”中級ダンジョン”へと連れ出された。


”中級ダンジョン”の入り口に立つカルとカルロス。そしてダンジョンを背にしてふたりの前に立つメリル。


「カル様。大盾をダンジョンに向かって構えてください」


カルは、メリルに言われるがままに背中に担いでいた大盾をダンジョンの入り口に向かって構える。


「こんな感じ?」


「はい。ありがとうございます。では・・・」


"コンコンコン"。


メリルは、カルが構える大盾を3回ノックする。


「盾の魔人。盾の魔人・・・おい、いつまで寝てる。さっさと起きて魔獣達を出しなさい!」



”・・・・・・”


”フワー、ウルサイナー。メリルハナンデオレニダケオオザッパナンダ?”。


「盾の魔人。あんたこそいつも寝てばかりいるの。今回は、ホワイトローズ様の要件なんだからシャッキっとしなさいシャキッと!」


”シカタナイナー”。


そんな気の抜けた会話が続いた後、大盾を構えるカルの耳にとにかく耳障りな音が聞こえてきた。


”オッ、オッ、オエ~”。


”ゲロゲロゲロ~”。


この音が何を意味するか、誰が聞いても明らかな声が辺り一面に響き渡る。


「えっ、えー、魔人さんもしかして吐いてるの」


大盾を構えるカルには、盾の表面にある魔人の口は見えない。いや、見たくないのだ。それが人ではなく盾の魔人であっても。


”ハァ、ハァ、ハァ。クッ、クルシイ”。


”オッ、オッ、オエ~”。


”ゲロゲロゲロ~”。


そんな声を何度か残したあと盾の魔人の声が聞こえなくなった。流石に盾の魔人が心配になったカルは、大盾の上から盾の表面を覗いてみる。すると、口から赤い長い舌を出したまま口を開いてこと切れている盾の魔人の姿がそこにあった。


「魔人さん。魔人さん大丈夫!」


「カル様。こんな程度で死んだりする盾の魔人ではありません。それよりカル様。あれを見てください。ホワイトローズ様が作りし魔獣兵達です」


カルの目の前には、今までに見たこともない魔獣の群れが隊列を作り、これから始まる戦に備えていた。


「あれ、今まで盾の魔人に飲み込まれて吐き出された人達は、みな粘液だらけで裸だったような」


目の前に吐き出された魔獣達は、粘液を浴びることもなく裸でもなく綺麗な姿をしていた。


メリルは、カルの前に居並ぶ魔獣の隊列を前に誇らしげな顔を浮かべると、カルに最もらしい質問を投げた。


「カル様。ここがどこだかご存知ですね」


「うん。僕が大ケガをした”中級ダンジョン”だよね」


「はい。今からこのダンジョンを討伐します。精霊ホワイトローズ様の眷属であるカル様を殺そうとしたダンジョン主を生かしておくことはできません。これは、精霊ホワイトローズ様のご意思でもあります」


メリルは、カルを誘導しながら隊列を組む魔獣達の前へと進みでる。


「カル様。目の前に居並ぶ軍勢は、精霊ホワイトローズ様がお持ちになっている魔獣のほんの一部にしかすぎません」


メリルは、軍勢の前へと歩むと今までに見せたことのない感情の欠片もない表情を浮かべ魔獣の群れに言い放った。


「お前たち、今からこのダンジョンを討伐する。精霊ホワイトローズ様の眷属を殺そうとしたダンジョン主を最下層から引きずり出し、私の前に連れてくるのだ。精霊ホワイトローズ様にダンジョン主の首を捧げることが、精霊ホワイトローズ様への忠誠の証となる。皆、死を恐れず前へ進め!」


メリルがそう言葉を発した瞬間、”中級ダンジョン”の前に居並ぶ魔獣達が一斉にダンジョンへと前進を開始した。




全身にフルプレートを纏い、大盾と中剣を手にした装甲オーガ兵200体。


上級魔法を放つ魔導オーガ兵100体。


上半身に鎧と兜を纏い、両手に中剣を握る魔人メデューサ20体。


体に炎を纏う巨大な狼であるフレアウルフ50体。


装甲オーガ兵は、転移魔石を手にすると次々とダンジョン内へと転移を開始する。




その光景を遠くから見ていた者達がいた。この街で冒険者として日々ダンジョンを利用していた冒険者達であった。


「おいおい。なんだあの軍勢はよ」


「先日の戦いであの炎を纏った巨大な狼を見たぞ。あん時は6体で戦いが終わっちまったんだ」


「それが50体かよ」


「それにオーガ300体って、魔王国ですら倒せるんじゃないのか」


「おい、めったな事を口走るんじゃない。本当にそうなったらどうするんだ」


木々の陰からダンジョンの前に居並ぶ魔獣を見ていた冒険者達が口走る。


「まずいぞ。あれってダンジョンマスターを討伐する気なんじゃないか」


「それにあそこにいる子供。先日、この城塞都市の領主になったカルという少年だ。この城塞都市からダンジョンを奪われたら俺たち冒険者の生活の場がなくなっちまうぞ。なんとかしてあいつ等を阻止できないか」


「とりあえずギルド長にこの事を知らせろ。望み薄かもしれんが、何もしないよりかはましだ」


冒険者達は、街の冒険者ギルドの館へと全速力で走った。ギルド長に目の前で起こったことを伝えたところで、どうにもならないことだと知りながら。





その頃、ダンジョンの30階層のさらに最奥にあるダンジョンマスターの制御室では・・・。


「なんだあの軍勢は・・・」


「ダンジョンの入り口に多数の魔獣です。しかも魔獣が鎧と武器を装備しています」


ダンジョンマスターの制御室の壁には、各階層の状況が刻一刻と映し出されていく。


その映像には、ダンジョンの入り口に居並ぶ魔獣の軍勢が次々と転移魔石によりダンジョンの各層へと転移する姿が映し出されていた。


「まずい。緊急事態だ。ダンジョンにいる冒険者達を緊急排出!」


「それと各階層の防御壁を下ろせ。転移魔石による転移を阻止しろ!」


「はい・・・あれ、おかしいです。システムが機能しません」


「何をやっている!」


「それが、システムが一切のコマンド入力を受け付けません」


「ええい!私がやる。コンソールを開けろ!」


ダンジョンマスターは、オペレーターが座る席を奪うと、最上位権限であるダンジョンマスターのコマンドを打ち始めた。だが、そのコマンドはことごとく拒否されていく。


「マネージャー。システムを再起動させろ!」


「無理です。管理AIが乗っ取られています。システムログを確認しましたが、こんなログが記録されています」




”ダンジョンマスターへ。このダンジョンの全ての管理者権限は、精霊ホワイトローズが掌握済みなの”。


”私の眷属を殺そうとした罪をその命を持って償うの”。




「なっ、何だこれは。それに精霊ホワイトローズとは誰だ」


「どうされますダンジョンマスター。もうすぐあの軍勢が30階層に到達します」


「・・・分かった。物理的にシステムを落とせ。緊急用のDRサイトを起動しろ。ただし、外部への回線は物理的に切ってしまえ」


オペレータは、緊急マニュアルの手順に沿って全てのシステムを停止させると、緊急用のDRサイトのシステムを起動させる手順の実行を開始した。


マネージャーは、席を立つと権限をはく奪されたシステムを物理的に停止させていく。さらに外部に接続されている回線のケーブルを全て外していく。


現行の全てのシステムが停止し、DRサイトのシステムが起動を始めた時、新たな問題が起きた。


「DRサイトのシステムがコマンドを受け付けません。DRサイトのシステムが次々と停止していきます」


「魔獣達が各階層から消えていきます」


「ダンジョンの物理センサーが機能しません」


「モニターに各階層の画像が表示されません」


「・・・・・・」


ダンジョンマスターは、メインシステムが乗っ取られた時には既に、このダンジョンのシステムの実行権限を奪われていた。だが、まだダンジョンマスターには奥の手が残っていた。


「30階層のフロアボス部屋の地龍を1体から5体に増やす。ダンジョンマスターの最終権限だ。それと、この制御室への魔法防壁を物理的に起動させる。多重防壁がどれだけ持つか分からんが・・・後は、精霊神様に祈るだけだ」




ダンジョン3階層。


「今日もそれなりに魔獣を狩れたな」


「俺達、もう少し強くなれれば、もっと下層に行けるんだよな。早く下層で稼ぎたいぜ」


「まあ、焦るなよ。焦ったやつはダンジョンで早死にするってギルドで言ってい・・・」


4人の冒険者達がそんな会話をしている目の前をフルプレートを装備した10体の装甲オーガ兵が姿を現した。


装甲オーガ兵の体長は、優に2mを超えており中級ダンジョンで魔獣を狩っている冒険者達では、全く歯が立たない強さを醸し出していた。


「おいおい新手の魔獣・・・じゃないよな」


「緊急事態です。冒険者の方々は、速やかにダンジョンから退避してください。繰り返します。冒険者の方々は、ダンジョンから速やかに退避してください」


何度もダンジョンに足を運んだ冒険者達だが、初めて聞く声がダンジョン内に響き渡った。


「まじか」


「今の聞いたか」


「ああ・・・こりゃやべえぞ」


その時、目の前を通り過ぎていく装甲オーガ兵の1体が歩みを止めると、冒険者に顔を向けたどたどしい言葉で言い放った。


「オマエタチ、イノチガオシクバ、ダンジョンカラデロ」


冒険者達は、額から多量の冷や汗を流しながら装甲オーガ兵に向かって揃って首を縦に振ると走って上層階への階段がある場所へと走った。




ダンジョン15階層。


「おい見たか」


「ああ。オーガがフルプレート、大盾、中剣装備で行進してたな」


「数は、20体ほどか」


「どう思う」


「俺達に気がつかない訳がないよな」


「ああ、さっきちらっとこっちを見たオーガがいた。だが、そのまま通り過ぎていったな」


「下層に向かう階段に進んで行ったということは、このダンジョンのダンジョンマスターが狙いか」


「さっきフロア全体に警告を告げる声が響き渡ったしな」


「恐らく他のフロアも同じかもな」


「このダンジョンが討伐されるのか」


「分からんが、とにかくダンジョンから脱出することが最優先だ」


冒険者達は、持っている食料や水を確認すると、一匹の魔獣も出現しなくなったフロアを後に入り口へと向かった。




ダンジョン30階層。


各階層に散らばり主要な魔獣の討伐を完了した魔獣部隊は、ダンジョン30階層に集結した。


装甲オーガ兵200体、魔道オーガ兵100体。さらにフレアウルフ50体。魔人メデューサ20体。


「カル様。これからこのダンジョンの最下層のボス部屋に入ります。このダンジョンの最終ボスは地龍と伺っています。それを倒してカル様を殺そうとしたダンジョンマスターを取り押さえます」


「メリルさん。僕、別にケガをしたことは何とも思っていないんだけど」


「カル様がそうお考えになられても精霊ホワイトローズ様のお考えは違うのです」


メリルは、真剣な面持ちでカルの目を見ながら諭す様に話始める。


「よくお聞きください。カル様は、精霊ホワイトローズ様の眷属なのです。その眷属を他のダンジョンマスターが殺そうとしたのです。フロアボスである魔獣をその階層に3体も解き放ったのです。カル様は、殺されずに大けがで済みました。ですが魔獣の製造とダンジョン運営されている精霊ホワイトローズ様からすれば、到底受け入れられない屈辱なのです」


さらにメリルは、両手でカルの両肩を掴むと力を込めてカルを抱きしめる。


「精霊ホワイトローズ様は、異世界のダンジョンマスターに魔獣を売っておられます。そういったお話は、どこからともなく伝わるのです。この件は、カル様のお命だけのお話ではないのです。精霊ホワイトローズ様の威信が揺らいでいるのです。カル様。世の中には”けじめ”というものがございます。”けじめ”をつけなければ、世の中に”しめし”が付かないのです。それは、城塞都市間でも国家間でもそうです。カル様には、それを分かって欲しいのです」


カルとメリルがそんな会話をしている側から、30階層のフロアボスの部屋にフレアウルフがメデューサが装甲オーガ兵が雪崩れ込んでいく。






ダンジョンの30階層のさらに最奥にあるダンジョンの制御室では。


「マスター。書庫にあった古い精霊年鑑に精霊ホワイトローズの記述があります」


”精霊歴18522年。世界を滅ぼすために魔人を生産するも神々の逆鱗にふれ封印され長き眠りにつく”。


「今は、精霊歴188822年ですから300年前になります」


「まずいのが来た!どうする、どうるすよ!あれか。この前、ダンジョンをクリアするんじゃないかとあせってフロアボスを放ったやつか。あれの親玉が来たのか!今更、ごめんなさいと謝ってもダメだよな」


フロアマスターの態度が急変した。先ほどまでの冷静沈着な態度はどこかへ吹き飛んでしまったらしい。


「あの・・・、30階層のフロアボスの地龍5体が・・・倒されました」


「はあ!いくらなんでも早すぎ・・・」


「この制御フロアの第1次防御魔法陣が解除されています」


「第2次防御魔法陣も・・・第3次防御魔法陣も解除されました。この制御室は、無防備です」


オペレータ達が淡々と報告を上げていく。ダンジョン30階層の最奥にある制御室をも守るものは何もない。


「はあ、覚悟を決めるか」


そういうと肩を落としたダンジョンマスターは、制御室から出るとフロアの中央にある謁見の間へと向かった。


ダンジョンマスターが謁見の間に入ると、既に数百体の魔獣とそれを指揮するメリルが待ち構えていた。ダンジョンマスターは、覚悟を決め謁見の間の玉座の前へと進み出ると自己紹介を始めた。物事には、けじめというものが肝心だ。例え敵の前であろうとも。


「私が、このダンジョンのダンジョ・・・」


だが、相手が口上を述べ終わるまで待ってくれるほど心が広く余裕があると限らない。ダンジョンマスターは、自己紹介の言葉の半分も言うこともできずにメリルが持っていた”封印の魔石”により魔石内へと閉じ込められた。


「あっ、ダンジョンマスター様。封印されてしまいました。私達もこれで終わりですかね」


制御室の扉を少しだけ開け、その隙間から謁見の間を覗き見していたダンジョンのオペレーターが悲しげな表情で声をあげる。


「私もいつかオペレーターを卒業して、どこかの片田舎で小さなダンジョンを開いてダンジョンマスターになるのが夢でした。ですが、あんな大物がいるんじゃ無理ですよね」


「そうでもないかもよ。運よくこのダンジョンが残ったら、あの精霊様に拾ってもらって、どこかに小さなダンジョンの営業所を開けるかもよ」


「本当ですか!」


「ただ、ダンジョンマスター様の首は、本当の意味で飛ぶかも・・・」


「怖いです~」


制御室の扉の隙間から封印されたダンジョンマスターの姿を見て涙を浮かべるオペレータ達であった。


ダンジョンマスターの口上も聞かずにフロアマスターを捕らえたメリルでした。


※少し修正しました。時間がないのに帰宅後に修正するとろくな事がないです。


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