44話.国境の砦(1)
魔王国の国境の砦に向かったカル達ですが、早速砦でもめごとです。
カル達は、魔王国の国土防衛協定にもとづいて国境の砦へと向かった。
その魔王国の国境にあるという砦までは、ラプラスの西にある砂漠を迂回する必要がる。
砂漠の東側を通るのであれば、ラプラス近くの街道を行けばよいが殆ど誰も通らない街道で、途中に都市も無ければ村も無い。
さらに途中から荒れた山道を進む必要がある。ただし、砦まで馬車で最短の3日で行けるらしい。”らしい”というのは、城塞都市ラプラスでこの街道を使ったことがあるという者が誰ひとりとしていないのだ。実際、街道がどうなっているのか全くの不明である。
砂漠の西側を通る街道であれば、途中に都市も村もあり街道も整備されている。ただし、城塞都市アグニⅠのすぐ近くを通ることになり、砂漠をぐるっと迂回するので砦まで1週間はかかる。
ちなみに砂漠は、大小ワームの生息地域なので足を踏み入れる者は誰もいない。大型のワームであれば馬車ですらひと飲みにされてしまう。
さて、カル達はというと、馬車ではなく大盾の中にあるダンジョンの安全地帯にリオ、メデューサのメリル、治癒士のライラ、100人の兵士達に待機してもらっている。水、食料、衣類、武具など砦で必要と思われる物資は、全て盾のダンジョンの安全地帯に運び込んだ。
通常100人の兵士が移動するとなると、10台以上の馬車を用意する必要があるが、悲しいかなラプラスにそんな金はない。だが、馬車で熱い砂漠近くの街道を行く方が馬も兵士も体力を消耗するので、盾の中にあるダンジョンの安全地帯の方が快適で過ごしやすい。
カルはというと、ゴーレムのカルロスの肩に乗り、滑る様に茫漠の荒れた街道を進んでいた。夜になると交代で数人の兵士に見張りと護衛を頼み野宿で夜を過ごした。この工程で一番大変なのはカルであった。
それでも茫漠の街道は、それ程の道のりではなかったが、問題は、山間部に入ってからだった。山間部に入ると街道というより殆ど獣道で馬車など通れる道もなく、さらに倒木とがけ崩れの連続で街道は寸断されていてとても道と呼べる代物ではなかった。
道といえない様な道は、ゴーレムのカルロスが居て初めて進むことができた。カルはというと、城塞都市アグニⅡの宝物庫で見つけた”書の魔人”のお喋りに付き合い以外と暇な時間もなく3日間を過ごすことができた。
国境の砦が見えた頃、100人の兵士達に盾のダンジョンの安全地帯から出てもらい隊列を組んで行進をしながら砦を目指すことになった。魔王国内といえども他の地域から集められた兵士のいる砦に行くのだから最初が肝心と部隊の指揮も高かった。
カル達は、国境の砦に着任した。
砦の周囲には、街も村もなく山肌に崩れかけた岩の様な小さな砦があるだけだった。
まずは、砦の指揮官へ挨拶に向かう・・・が、砦に着任早々もめごとが起こった。
砦に先着していた貴族がメリルの姿を見た途端、メリルを寝室によこす様にと訳の分からないことを言ってきた。
そんな命令を聞く必要はないので無視をして、砦の司令官の元へと向かった。
カルは、城塞都市の領主であるため貴族の”子爵”待遇として扱われるため、砦の指揮官もカルを貴族として扱った。
「私が、この砦の指揮官のガルシアです」
「始めまして城塞都市ラプラス領主兼、城塞都市アグニⅡの領主のカルと申します。こちらが副領主のリオです」
砦の司令官のガルシアは、人族の子供がふたつの城塞都市の領主だと説明を受けて一瞬戸惑った表情を浮かべたが、人格者なのかそれ以降特に態度に変化は見られなかった。
早速、この砦の置かれた状況と割り当てられた任務の確認を行うことにした。
砦の防衛と周囲の哨戒任務が基本任務となり、哨戒中に敵と遭遇した場合は、個別に戦わず砦からの増援を待って戦う。
敵部隊が攻めて来た場合、砦から応戦するのが基本。絶対に砦の外で戦わない様にと釘を刺された。
砦を警備する部隊の数は、指揮官のガルシア殿の部隊が200人。ムーア伯爵の部隊が300人。それと着任したカルの部隊が100人。
ところが指揮官のガルシア殿がこの砦の裏事情を話してくれた。
「実は、ムーア伯爵の部隊は、私の指揮下にないのです」
ガルシア殿の話では、伯爵がこの砦に着任してからというもの、敵の攻撃への対応が酷いありさまで連戦連敗とのこと。
前任の貴族とは、協調体制でやっていたがムーア伯爵は、砦の指揮官よりも自身の身分が上であることを理由に、砦の指揮権を委譲しろと散々もめたため、それ以降、砦の中で指揮系統がふたつに分かれてしまったとのこと。
「先程もムーア伯爵から僕の護衛の女性を寝室に連れて来いと言われました」
「それは許しがたいですな。とはいえ、こちらも伯爵と事を構えて砦の内部で戦いにでもなることだけは避けたいのです」
「こちらの部隊のことは、僕が何とかします」
「そう言っていただけると助かります」
その後、砦の城壁から周辺の説明を受けることになった。
「正面の川が国境になります。川向こうの山肌に見えるのが敵側の砦です。こちらの4倍以上の規模で、兵力も1000人を超えています」
「さらに最近は、城壁に天幕を張り何か戦いの準備でもしているようですが、こちらからはそれ以上の確認ができておりません。さらにこちらの斥候が確認したところ、別動隊として1000人が砦の山向こうに配備されている模様です」
「明らかに何かの作戦が進行中であると推察しております」
「その割には、この砦の守備隊の数が少ない様におもわれますね」
今まで砦の司令官の説明を聞いていたリオが、疑問に思ったことを口にした。
「はい。本隊へは、増員を願い出たのですが国境沿いの警備は、人手が足りないと言われ増員として派遣されたのがカル殿の部隊となった次第です」
「状況は、理解しました。我々の任期は6ヵ月ですがその期間は、この砦を何としても守ってみせます」
「おおっ、心強いですな」
砦の指揮官であるカルロスは、笑顔でリオに向かってそう言った。だが、その目は笑ってはいなかった。
カルロスという男は、この砦で長年指揮官を務めたのだ。砦の戦いがそんな甘いものではないとその目は物語っていた。
カル達の部隊は、砦の最奥にある大部屋へと案内された。
砦は、長年の戦いであちらこちらが破壊され、老朽化も進みとても使用に耐えるものではなかった。
そして案内された部屋は、大部屋の半分が倉庫と化していた。
これでは、兵士の士気にも関わるし、第一衛生的でないことから寝泊りは、引き続き盾の中の安全地帯で行うことになった。
ただ、砦の中といえども警備を行う必要がありそうなので、交代で大部屋の前に警備の兵を配置することになった。
そう、あのムーア伯爵とかいう輩の対策として。
「おい貴様。なぜ私の寝室にあのお女を連れて来ない!」
やはりというか、伯爵がやって来た。
貴族の爵位がどうだのとか、魔王様に顔がきくだとかカルにとっては、どうでもよいことを延々と話していたが、カルは頑としてメリルを差し出すことはなかった・・・のだが。
「カル様。ちょっと行ってきます。まあ、気晴らしに”石化”するのもよいと思いますから・・・」
「あっ・・・」
そう言うとメリルは、伯爵の手を取り姿を消した。
「よろしかったのですか。メリル様をあの様な伯爵に差し出して」
リオがカルの横でメリルの心配をしていた。同じ女性としてあの様に強引に貴族に連れていかれるのは、見るに耐えなかったのだろう。
「絶対伯爵を”石造”に変える気満々だよね」
「あっ、そうでした。メリルさんってメデューサでしたね」
「きっと”石化”の術を解いて欲しければ・・・なんて言って取引をしてくると思うけど」
カルとリオは、お互いの顔を見合いながら、これから起こる惨劇を想像していた。
砦の伯爵の寝室へ伯爵の手を引いて入るメリル。
伯爵の部屋は、カル達に与えられた大部屋とは雲泥の差で、手入れの行き届いた美しい部屋であった。
「よくぞ。私の願いを聞き入れてくれた。お前の様な美しい女は、私の元にいるべきなのだ」
「あの様な子供の領主などに使えずに私の元へ来い。なに不自由のない生活をさせてやる」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて・・・」
メリルは、伯爵をベットに押し倒すまでもなく、拍車のズボンと下着を手際よく下していく。
伯爵もこれからメリルが行う行為を知ってか、メリルの金髪の頭を両手で掴み・・・掴み・・・髪の毛がなぜかわさわさと動いている様な感触に襲われた。
先ほどまで上気していた伯爵の表情が急に険しくなる。
伯爵は、目線を下げてメリルの金髪の頭を見てしまった。
そこには、小さな無数の白い蛇がうごめいていた。
「ひっ!」
だが、伯爵の一物は既にメリルの目から出る怪光線により”石の棒”と化していた。しかもそれだけではない。伯爵の両足もすでに”石”と化していた。
「あら、人の頭を見て悲鳴を上げるなんで最低な殿方。これから私と楽しいひと時を過ごされるのではなくて・・・」
メリルが伯爵の右手を触ると右手が”石”に、左手に触ると左手が”石”に変化した。
「まあ、綺麗な”石”だこと。私、”石”を見ると”いって”しまいそうになるの」
「ご存知かしら。人って”排尿”ができないと死んでしまうのです。あとどれくらい持つと思います?」
メリルは、ムーア伯爵の心臓の上で”の”の字を書いて顔を赤らめていた。
ムーア伯爵の心臓の上の皮膚が少しづつ”石化”していく。
「なっ、何が望みだ!」
「簡単なことです。私の可愛い領主様とその兵士達に手を出さないでください」
「もし、何か手出しをされたり、権力のものを言わせて卑劣な行為を行った瞬間。貴方と貴方の部下300人が全て”石の像”と化します」
「・・・・・・」
「お返事は?」
「わっ、分かった。手出しはしない」
「信用できませんわね。この紙にその旨をお書きになってください。署名も忘れずに・・・」
メリルは、胸の谷間に手を入れると、そこから紙とペンを取り出した。
しばらくすると倉庫になっていた大部屋にメリルが帰ってきた。
「只今戻りました」
「メリルさん大丈夫でしたか」
メリルは、誓約書と書きなぐられた紙をカルとリオに見せた。
「これで伯爵は、私達に手出しはできません。さらに・・・伯爵のあそこを石化させておきました」
「私達がこの砦にいる間は、”排尿”も”性行為”もできません」
「まあ、排尿のために1日に何度か”石化”を解いてあげるのが面倒ですね」
カルとリオは、お互いの顔を見合いながら、ある意味恐怖を感じていた。
”こんな恐ろしい女性は初めてだと・・・”。
日に数度、ムーア伯爵がメリルに面会を求めに来る。
それも顔面蒼白で・・・。
「メリル、いや、メリル様。お願いです。トッ、トイレに行きたいのだが」
するとメイルは、作り笑いを浮かべて伯爵の手を引いてトイレへと向かった。
トイレの中では、伯爵の後ろにメリルが立ち伯爵のズボンと下着を下ろすと、メリルが石の棒に変化させた伯爵の一物を握り元の柔らかい一物へと戻す。
その途端、伯爵は、放尿を始める。我慢に我慢をかさねどうにもできなくなりメリルの元へと走ったのだ。
やっとの思いで放尿が済むと伯爵の顔は上気していた。そして緊張が緩んだせいで思わず身震いをする。
「私が介助をしないと放尿もできないなんて。まるで小さな子供みたいです」
メリルの優しい声が伯爵の耳元でささやかれる。
だが、放尿が終わった瞬間、伯爵の一物はまた元の石の棒へと化した。
「伯爵。この砦で生きていたければ、私達に何かしようとは思わないでくださいね」
メリルが伯爵の耳に吐息をふきかける様に優しくささやいた。
伯爵は、メリルの美しい顔とは異なるどす黒い心に魅入られてしまったのだ。
自室に戻った伯爵は、自身が犯した過ちを悔いた。私が、あんな女に声をかけさえしなければ・・・、まさかあの女が魔人メデューサだとは。
だが、悔いたはずの伯爵は、またやらかすことになる。伯爵もまた懲りない人であった。
メリルがメデューサだと改めて実感したカルとリオでした。