04話.鬼人族との闘い(1)
この物語のヒロイン達の登場です。
カルを遠巻きに囲っていた敵の兵士の中から、ひときわ体の大きな者が現れた。
「私は、この第2隊を指揮するガレオ隊長である。お主の戦いに敬意を表して私と勝負・・・・・わっ、なんだこの蛇の様なものは」
ガレオと名乗った者は、大盾から伸びた赤く長い蛇の様な舌が繰り出す左右に上下へと素早い動きに翻弄されていた。いくら剣を振っても舌には全く当たらない。
「ええい、なぜ剣が当たらない。くそっ、こんな化け物がいるとは聞いていないぞ」
当たらない剣に業を煮やしたガレオ隊長は、渾身の一撃ともいえる大振りの斬撃を放った。しかし、その動きを先読みしていた舌は、斬撃をひょいと避けるとガレオ隊長の腰に巻き付き一気に大盾へと引き寄せた。
「ひっ、はっ、離せ、離さん・・・・・・」
”ゴックン”。
”オイシイ”。
「ガッ、ガレオ隊長が大盾に食われたぞ」
「ガレオ隊長ですら歯が立たないなら、俺たちじゃ手も足も出ない」
「皆、逃げろ!」
敵の兵士達は、我先にと戦いの場から逃げ出してしまい、カルは戦場にひとり取り残された。
周囲には、高そうな盾や剣が散乱している。カルは、落ちている剣や盾を拾い集めると盾に吸収させる。
剣や盾を吸収すると剣爺の力が増すと聞いた以上、カルをこの戦いから守ってくれる頼みの綱は、剣爺だけなのだ。だから剣爺にはもっと強くなってもらう必要があった。
小さな砦を攻める敵部隊の最奥に3人の鬼人族がいる。
ひとりは、ルル。
この部隊を統べる将である鬼人族の少女だ。
16才になった鬼人族の少女は、己の力量を示すべく城塞都市の攻略を父親から命じられた。
ひとりは、リオ。
ルルの護衛兼参謀役で魔法使いの17才の少女。
ルルの父親からルルの側近となるべく子供の頃から教育を受け、それを実践する事を要求された。
もうひとりは、レオ。
ルルの護衛兼戦闘指揮役の17才の少女。
レオもルルの父親からルルの側近となるべく教育を受け、それを実践する事を要求された。
ルル達は、既に城塞都市ラプラスを攻略し自らの手中に収めていた。
さらにいくつかの城塞都市を攻略し、父親へ自らの器量を示すはずであった。
そう、カルに出会うまでは・・・・・・。
「なに、第2隊が壊滅したと言うのか」
「はい、ガレオ隊長も・・・・・・その魔人らしき魔物に食われた模様です」
「第1隊からも増援を送りましたが、連絡が取れません」
報告を受けたレオは、少し考えたあとに部下に言った。
「引き続き、その魔人とやらの監視を頼む」
「はっ」
部下からの報告を受けたレオは、ルルの元へと赴くと小声で現状を報告した。
「ほう、魔人か」
「はい」
「その様なものがこの辺りにいるとは聞いていなかったが、まあ、おもしろそうだ」
「お相手なされますか」
「するしかなかろう。その魔人とやらに第2隊を壊滅させられたのではな」
「では、まず私めが相手をいたします」
「その魔人とやらの力量を知るのも大切かと」
「頼むぞ。我らも直ぐに行く」
レオは、数十人の部下を連れてルルの元を離れた。
鬼人族のルルの参謀役であるリオにも部下から魔人の情報は伝えられており、魔人の元へと走ったレオの姿を見たリオがルルの元へと歩み寄った。
「魔人ですか?」
「聞いていたか、そのようだ」
「私も部下から報告を受けました」
「かなり悍ましい姿をしているとの報告を受けています」
「そうか、魔人に倒されるなら父上も納得してくださるだろう」
「では、我らも魔人とやらを退治しに行くぞ」
「はい」
「私の破壊槍をもってこい。盛大に魔人とやらを倒しにかかるぞ」
数人の部下が、ルルが使う破壊槍を手に持ちルルへと手渡す。
砦の攻略を目的とした部隊は、いつしか魔人攻略へと舵を切った。
鬼人族のレオは、数十人の部下を引き連れ、部下から報告のあった魔人が宿る大盾を持つという少年の元へとやってきた。
辺りには剣も盾も鎧さえも、さらに服さえも着ていない裸となった兵士達が何十人と意識もなく倒れていた。
それらの兵士達の体にはべっとりと粘液が絡み付き身動きすらできない状態であった。
まず、数十本の矢を射かけたが大盾に阻まれ全く効果がなかった。
次に魔術師が魔法攻撃を行った。ファイアランスやアイスランスを次々と打ち込むも大盾は無傷。大盾を構える少年も倒れる素振りも観られなかった。
「レオ様。矢では敵わないようです。さらに魔人というだけあり魔法攻撃には耐性があるようです」
「ここはあの大盾を持つ少年を囲い、四方から一斉に切りかかりましょう。恐らく正面の何人かは魔人の餌食となりますが」
「やってくれるか」
「はい」
兵士達は、横一列に並び盾を構えると、遠巻きに大盾を構えるカルを囲い始めた。
だが、そこに誤算が生じた。
カルが持つ大盾は、何も盾の魔人が放つ長い舌だけで攻撃を行っている訳ではない。そう、剣や盾や鎧の金属を奪い吸収し、さらに体の自由を奪う金の糸という隠し玉を持っている。だが、ここにいる兵士達は、金の糸の存在を知らなかった。
既にカルを取り囲む兵士達の足元には、金の糸が広がり兵士達の剣や盾や鎧へと金の糸は伸びていた。遠巻きにカルを囲い、一斉に切りかかろうとした瞬間。自分達が持つ剣や盾や鎧が一瞬にして消えたのだ。
一斉に走り出した兵士達は、いきなり軽くなった体と己を守る盾と鎧が無くなったことに気が付かず、剣も持たない身ひとつで盾の魔人が宿るカルの元へと走り出した。
カルの目の前まで走り出し、ようやく自分達の置かれた状況に気が付いた兵士達が一声に声を張り上げた。
「なっ、剣はどこにいった!」
「盾がない!俺の盾!」
「よっ、鎧はどこだ!」
あっという間の出来事だった。盾の魔人の赤く長い舌がカルを囲い切りかかろうと肉薄した兵士達をことごとく絡め取ると魔人の”くち”の中へと押し込んでしまった。
”ゴックン”。
”マズイ”。
カルを取り囲んだ兵士達は、だれひとり残ってはいなかった。残ったのは、大盾を構えたカルと鬼人族のリオとその護衛の数人の兵士だけ。
鬼人族のリオも、目の前で繰り広げられた見たこともない惨劇に思わず立ち尽くすしかなかった。
「なっ、何がどうなったのだ。あれだけの兵士達が一瞬で魔人に食われた・・・・・・だと」
「まずい。とにかくまずい。こんな魔人がなぜこんな辺境に地にいるのだ。こんな魔人がいると知っていれば、他の地を選べばよかった」
「ド田舎だから城塞都市攻略など簡単だと言われたが無理だ。こんな魔人がいては勝てる気がしない」
立ち尽くす鬼人族のレオの頭の中に後ろ向きな考えがどんどん流れ込んでくる。だがもう遅かった。目の前の大盾からは、赤く長い舌が蛇がのたうつ様にレオの元へとと近づいていた。
盾の魔人は、高価な武具を装備した者を食べると”オイシイ”、安い武具や武具を装備していない者を食べると”マズイ”と言うようです。
今日は、あと2話投稿予定です。