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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第2章》 都市が増えました。
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39話.新しい仲間(1)

カルは、城塞都市ラプラスに戻る街道で行き倒れの少女と出会います。


カルは、城塞都市ラプラスへと戻ることになった。


当初、城塞都市アグニⅡを奪還すべく城塞都市アグニⅠがすぐにでも兵を動かすとルルが予想していた。だが、その兆候が全くないので城塞都市ラプラスに戻って療養することになった。


既に歩く程度なら問題ない程にまで回復したカルだが、ルルの心配ぶりが凄まじく普通に歩かせてはくれない程であった。


カルの乗る馬車は、貴族が乗る様な豪華な馬車ではなく、商人や庶民が都市間の移動に使う乗り合い馬車でもない。カルが乗る馬車は、荷物の運搬用に使う荷馬車だ。


それも御者がふたりだけ。ひとりの護衛もいない飾り気のない馬車。ただ、護衛がいないというのには語弊がある。馬車を操る御者は、城塞都市ラプラスの領主の館で雇った護衛専属の者である。


城塞都市ラプラスで兵士の経験がある者の中で体術や剣技に優れたものが領主の館の護衛として雇われ、その中から領主の御者を交代で行っていた。


馬車の荷台には、偽物の木箱や穀物袋が積まれていて、一見荷物を運んでいる馬車に見えるよう偽装されていた。


それは、街道で馬車を襲う盗賊が多発しているため、それらを釣る餌としてわざと護衛のいない馬車に見せかけていた。


けれども、そう簡単に盗賊団が現れる訳でもなく、カルは、馬車に揺られながら暇な時間を持て余していた。


馬車には、ゴーレムのカルロスさんとメデューサのメリルさんが同乗している。ゴーレムのカルロスさんは、元々話すことはできないし、メデューサのメリルさんは、ダンジョンの19階層に誘ったことを悔やんであれから口数が減ってしまった。


ふたりとも言葉を発しないため話し相手になってくれず、揺れる馬車の中で本を読むと気持ち悪くなるので、本を読むこともできず、ただ時間が過ぎ去るをひたすら待っていた。


空を眺めたり、景色を見たり、たまに御者さんに話しかけたりもするが、護衛を兼ねているため、周囲の警戒の邪魔になるので、長く話をすることもできなかった。


稀に荷物を積んだ荷馬車とすれ違うが、それだけで何かが起こる訳でもなく、馬車がすれ違う時に御者同士が挨拶を交わす程度だった。


街道脇には、スライムがいたり遠くにホーンラビットが見えたりもするが、速度の早い馬車を襲う魔獣はいない。


のんびりとした平和な時間が流れていた。


街道に転がる石を踏むたびに馬車は、コトコトと揺れすることもなせいかカルの瞼がだんだんと重くなっていた。


急いでいる訳でもないので途中の村で一晩を過ごし、次の日の昼頃には城塞都市ラプラスへ到着する予定だ。


乾燥した風に少し水分が感じられるようになった頃、セスタール湖へ近づく街道へとさしかかり、もう少し行くと今日の宿泊先のカラブ村が見えて来るという場所で馬車はゆっくりと止まった。


「カル様。街道に行き倒れがいるようです。もしかすると盗賊の罠かもしれません。周囲に誰か隠れていないか調べますので、少しお待ちください」


御者を兼務する護衛の人からそんな言葉が発せられた。


カルが荷馬車の幌の隙間から顔を出すと街道の先に目を向けた。確かにひとり倒れている人がいる。


「僕とゴーレムのカルロスさんで行き倒れの確認をするから、御者さんは、馬車の点検をするふりをして周囲の警戒をお願いします」


「わかりました」


ひとりの御者さんが馬車から降りると馬車の後方へと移動して馬車のあちこちを調べはじめた。


だが、目線は馬車ではなく馬車の周囲に広がる草原へと向けられていた。


街道の両脇には、人の腰ほどの草が生い茂り、そう高くはないが木々も茂っている。賊が身をひそめる場所などいくらでもある。


「メルさん、もし馬車を襲う賊が現れたら問答無用で石化してください」


メデューサのメルさんは、無言でうなづき馬車から降りると周囲の警戒につとめた。


カルは、いつもの様に背中に大盾を背負ってはいるが、大盾には布が被せられており、見た目には盾と分からないようにしていた。


ゴーレムのカルロスは、相変わらず黒いローブをまとい、はたから見ると剣士か魔術師という風情を醸し出していた。


賊が襲ってくるなら行き倒れの人を馬車に運んだ時だと思うけど、賊の気配が全くしない。


カルは、既に大盾から金の糸を出して周囲の警戒にあたっていたが、金の糸の反応からすると周囲には誰もいない様子だ。


行き倒れのそばまで歩いて来たところで、倒れている人の様子をうかがう。


どうも服装と装備からして魔術師か治癒士といった感じだ。


ゴーレムのカルロスは、少し離れた位置でことが起こった場合に対処できるように警戒にあたっていた。


カルは、街道に仰向けに倒れている人を起こして声をかけた。


「だいじょうぶですか、僕の声、聞こえますか?」


「・・・水、・・・それと食べ物、・・・お腹が空いたの」


そんな声が返ってきた。


綺麗な女性だ。女性というより少女かな。僕より少しお姉さんという感じだった。


話せるから大丈夫みたい。でも、僕では力がなさ過ぎて運べないのでゴーレムのカルロスさんに馬車まで運んでもらう。


行き倒れの少女を馬車に運んだので、すぐに馬車を出発させる。


ありがちなのが、この先で待ち伏せをして難癖をつけてくるというという手口。


馬車の速度を少し早めてもらったせいで今日の宿泊地の村まで馬車は揺れに揺れた。


少女には、水筒の水とお昼に残したサンドイッチを手渡したところ、ばくばくと音がするほどの勢いで食べ始めた。


「名前は、ライラです。治癒士です」


名前を聞いたらそんな答えが返ってきた。どうもお金がなくてここ何日も何も食べていなかったらしい。


揺れる馬車の中で話を聞いたら後で話すと言ってそのまま眠ってしまった。


カル達の乗った馬車は、今日の宿泊地であるカラブ村に入ると、誰でも利用できる簡易休憩所へと向かう。


何のことはない。ただ広間があるだけの少し大きめの小屋だ。


ここで皆で雑魚寝をするのだが、カルを見かけるなり村長が家に泊まるようにと言ってきた。でも今日は、視察で来た訳でもないのに村長さんや村の人達に気を使ってもらうことでもないからと丁重に断った。


御者さん達が馬の世話をしている時間を利用して、腰にぶら下げた鞄から今晩の夕ご飯を取り出して並べる。城塞都市アグニⅡを出る前に領主の館の厨房で、昼食や夕食に食べられる料理のいくつかをアイテムバックになっている鞄へと放り込んでおいたのが役に立った。


パンと煮込んだお肉のブロックと野菜のスープ、それとチーズと葡萄酒をふるまう。皆、美味しそうに食べてくれた。


護衛を兼ねた御者さんには、村の中なら安全だからと言って先に休んでもらう。葡萄酒が効いたみたいで少しほろ酔い気分でふたりとも先に寝たようだ。


ゴーレムのカルロスさんは、簡易休憩所の外で見張りをしてくれている。


メデューサのメリルさんは、少し離れた場所で本を読んでいる。僕がケガをしてかた少し距離を置いている感じがする。ルルさんにいろいろ言われたみたいだけど、僕がケガをしたのは、僕が強くないからなのに。


「カルさん。今日は、馬車に乗せてもらってありがとうございます。しかも夕ご飯までいただいて」


「気にしなくていいよ。僕、城塞都市アグニⅡのダンジョンで大失敗してチームの人からダンジョンのないラプラスで休めって言われて戻る途中なんだ」


「・・・チームの方、優しいです。私なんてチームから出て行けって言われて・・・、治癒士なのに魔法の発動は遅いし治癒の効き目も悪くて」


「3つ目のチームだったからあの街では、私のことみんな知っていてどこのチームも使ってくれなくて。仕方なくラプラスの街に行こうと思ったんです。でも、お金がなくて馬車にも乗れないし食べ物を買うこともできなくて」


カルは、ライラの話を聞いて目から大粒の涙を流していた。


「くっ、苦労してるんだね。そうだ、僕にその治癒魔法をかけてくれないかな」


「僕、ダンジョンで大ケガをしたんだけど、治癒魔法も回復魔法も効かないし、ポーションもハイポーションも殆ど効果が無くて死ぬ寸前だったんだって。それにまだ完全に回復していないし」


「えっ、そんな酷いケガをしたんですか。でもハイポーションが効かないなら私の魔法なんて」


「物は試しだから」


「そうですね。そう言ってくれるなら」


ライラは、体内で魔力を溜めているのか呪文を詠唱するまでに少し時間がかかった。


「我の力の源たる精霊に願う、癒しの風よ吹け、命の泉よ湧け、守りの光よ導け、守護の力を貸し与えたまえ、精霊の癒しの力よ、かの者を守りたまへ」


治癒魔法が発動すると、カルの体が淡い光に包まれた。


「あれっ、なんか凄く落ちつくし体が軽くなった感じがする」


「本当ですか。私の治癒魔法ってちっとも効かないって皆さんに散々怒られました」


「そんなはずないと思うけど」


「それは精霊魔法です。カル様は、精霊ホワイトローズ様の眷属になったせいで精霊の影響を受けやすい体になっていたんです」


少し離れた場所で静かに本を読んでいたメリルさんが、ライラさんの治癒魔法を見て話しかけてきた。


「眷属?僕ってホワイトローズさんの眷属なの?」


「そうです・・・、あれ、ご存知なかったのですか」


「うん。ホワイトローズさんからそんなこと言われたことなかった」


「でも珍しいです。精霊魔法が使える人族なんて殆どいないはずです」


「えっ、私の魔法って精霊魔法なんですか」


メリルさん少し考え込んだ後、こんなことを言い出した。


「もしかしてカル様ってホワイトローズ様の眷属になったことで普通の治癒魔法や回復魔法が効かなくなったのではないでしょうか。でもライラさんの治癒魔法は精霊魔法だからカル様に効きやすいんだと思います」


「僕って精霊になっちゃうの?」


カルは、少し不安な表情でメリルさんに質問を投げかけた。


「いえ、そんなことはないです。でも今までとは少し違う体質になったと思っていただければ間違いじゃありません」


「そうなんだ」


カルは、おもむろにライラの両手を握ったかと思うとこう切り出した。


「ライラさん。僕の治癒士になってください」


「えっ」


「冒険者チームに入るとかそういうのじゃなくて、僕の治癒士になってください」


「えっ」


「ライラさんの面倒は、僕が見ます。住む所もお給料も払います。お願いです」


「えっ、えーと」


「あっ、別に結婚してくださいとか、そういうことじゃないですよ」


「はっ、はあ」


「ラプラスについたら住む場所とか、お給料の金額とか決めることがいろいろありますね」


「・・・・・・」


この会話を聞いていたメリルの心は大揺れに揺れていた。今までカルが女性の手を握って積極的な行動に出たことなどなかった。それなのに目の前の治癒士の女には積極敵すぎる。


「あのメリルという女。仲間ではないです。敵です。それも恋的です。これはルルさんにも教えてさしあげましょう」


何故か敵対していたはずのルルにライラのことを教えようと小声で決意を語るメリルであった。


カルに新しい仲間が増えました。精霊治癒魔法を使う治癒士です。お約束で女性です。


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