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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第2章》 都市が増えました。
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38話.中級ダンジョン19階層

カルがやらかします。


カル達は、通称”中級ダンジョン”の19階層に来ていた。


ダンジョンの通称は”中級ダンジョン”だが、もうすぐ上級者という中級冒険者でも15階層近辺で戻るのが、このダンジョンのお約束事であった。それは、16階層以降になるといきなり難易度が跳ね上がるためである。


メデューサのメリルさんの話では、今の僕の強さではこの辺りの階層が限界らしい。ここで魔獣との戦い方を覚えればもっと強くなれると言ってくれた。


この階層は、ファイアウルフという口から炎の玉を吐き、やたらと足の速い狼型の魔獣が出現するらしい。ファイアウルフ自体の強さは大したことないとメリルさんが言っていたけど、この魔獣は群れで行動するのが厄介らしい。


群れの数だけど2~3体で行動とかそんな生易しい話ではなくて、5体以上が普通で多ければ10体以上の群れで行動するのが基本だとか。


中級冒険者チームだと群れに囲まれて集中攻撃にあってチームが全滅なんていうのが普通にあるらしい。


で、僕はというと草原エリアの中央に陣取り集団で襲ってくるファイアーウルフ達を金の糸で次々と絡め取ると盾の魔人の”くち”へと放り込んでいいく。


精霊ホワイトローズさんの注文書にはない魔獣だけど、勢いでどんどん捕まえていく。また精霊ホワイトローズさんに怒られそう。


たまにファイアウルフの上位個体のフレイムウルフとかいう魔獣も混じっているけど、盾から伸びる金の糸でどんどん絡め取れるので問題はない。


普通は、魔獣と戦って倒すまでが戦いなんだけど、僕の場合は、金の糸で魔獣の自由を奪った後は、盾の魔人さんの”くち”の中に放り込むだけなので楽ちん。金の糸もファイアーウルフの炎の玉を受けても燃えたり切れたりすることがないので、安心して戦うことができる。


ファイアウルフが放つ炎の玉も大盾で防げるし、盾の魔人さんは、あの赤く長い舌で炎の玉を簡単にはじいていた。さすが盾の魔人さんというべきなのかな。


最初は、僕と一緒に戦ってくれていたゴーレムのカルロスさんやメデューサのメリルさんも、僕の戦い方を見て安心したのか少し離れた場所に生い茂る木々の根本で休んでいる。少し怖い気もするけど、ひとりでも戦えるようになっておかないと。






カルの戦い方がだいぶ板についてきた頃、19階層にある異変が起きた。


この19階層のフロアボスは、フレアウルフという狼型の魔獣だが、体の大きさがファイアーウルフの数倍はあろうかという巨大な魔獣であった。体の大きさの割に動きは俊敏で足も速く、炎に耐性のある魔獣だ。


通常フロアボスは、階層主がいる最奥のボス部屋にいてその部屋で冒険者を待ち構えている。


ところが、カルの戦いぶりに脅威を感じたのか、或いは別の意図があったのか、通称”中級ダンジョン”と呼ばれるダンジョンマスターは、階層主であるフレアウルフをこの階層に解き放った。しかも同時に3体も。


フレアウルフは、大きな体を低く小さく屈めながら静かにカルに近づいていった。


それに気ずかないカルは、ファイアーウルフを捕まえることに専念しすぎてフレアウルフの接近に気が付かなかった。


3体のフレアウルフは、草原の起伏と草の丈を利用してゆっくりとカルに近づいていく。ゴーレムのカルロスやメデューサのメリルもそれに気づいてはいなかった。


カルの近くに生い茂る木々の根本で休むふたりの周囲には、石の像と化したファイアーウルフや、金の糸でグルグル巻きにされて身動きが取れなくなったファイアーウルフ達がゴロゴロ転がっていた。


カルの戦いぶりを安心して見ていたふたりだったが、ある違和感を覚えるとおもむろに立ち上がった。


「何かしら。強い魔獣が近くにいる気配がするわね」


メデューサのメリルがそう言うとゴーレムのカルロスも金の糸を周囲に張り巡らせて警戒に努めた。


そしてしばらくした時、カルの側面からフレアウルフが大きな巨体を低く屈めながらゆっくりとカルへ向かっていく姿を捕らえた。


「まずい。カル様を狙っている!」


メデューサのメリルが魔獣に向かって走りだす。


それよりも早くゴーレムのカルロスが草原を滑る様にカルの元へと急行する。


「怪光線!」


メデューサのメリルが魔獣に向かって目から石化の怪光線を発射した。


怪光線は、フレアウルフの巨体に命中し、体はあっという間に石化していく。


だが、石化したフレアウルフの巨体の陰からもう1体のフレアウルフが現れた。


フレアウルフは、カルに向かって突進を開始する。


ゴーレムのカルロスが草原を滑る様に走り、フレアウルフが攻撃態勢に入る前に金の糸で体中を絡めとることに成功した。それを見ていたメデューサのメリルが安心した表情を浮かべた瞬間。フレアウルフの陰からさらにもう1体のフレアウルフが現れた。


カルとフレアウルフの距離は、フレアウルフ1体分よりも短かかった。


カルは、この期に及んでやっとフレアウルフの接近を知り、盾を構えなおすと急接近するフレアウルフの前に金の糸で網の様な壁を作った。だが、壁を作る時間が間に合わなかったのか網の目が粗すぎた。


フレアウルフの前足が網の目の間をすり抜けるとカルの目の前に迫った。


カルが構える大盾から魔人の赤く長い舌が伸びてフレアウルフの前足に絡みつく。


しかし強力な力の前にフレアウルフの前足の鋭い爪が、カルの左肩から胸にかけて深くめり込んでいく。


その瞬間。カルの左肩と胸から赤い血吹雪が激しく噴き出した。


カルは、なんとか立ったまま大盾を構え続けた。盾の魔人は、カルに大きな爪跡を残したフレアウルフを大きな”くち”の中へと放り込んでいく。


カルは、静かに草原の海原へと倒れていく。血吹雪をまき散らしながら・・・。


ゴーレムのカルロスが近くにいた全てのファイアーウルフを金の糸で絡めとるとカルの元へと走る。


メデューサのメリルもカルの元へと走り寄る。


「カル様!カル様!いますぐポーションを」


メリルは、自身の胸の谷間に手を入れるとマジックバックからポーションを取り出した。


カルの胸から左腕にかけてフレアウルフの爪痕が深く残っている。傷は骨にまで達しており腕と胸からの出血が止まらない。


ポーションの蓋を開け、カルの傷口にかけていく。先ほどまでの様に勢いよく流れ出た血は、徐々に弱まっていた。だが、出血は完全には止まらない。


別のポーションの蓋を開け再び傷口にかけてゆく。若干、傷口はふさがった。だが、相変わらず少量ではるが出血は続いた。


「なっ、なんでポーションが効かないの!」


メリルは、自身の胸の谷間に再度手を入れるとマジックバックからハイポーションを取り出した。


ハイポーションの蓋を開け、カルの傷口にかけてゆく。


今度は、傷口はなんとか塞がった。だが、今までの出血の量が多すぎた。カルの顔色が青くなっていく。


このままでは、死んでしまう。


カルの口を手でこじ開けて無理やり開かせると、口移しでハイポーションを飲ませる。


だが、カルには薬を飲み込む力など残っていなかった。


メリルは、2本目のハイポーションをカルの傷口にかけ始めた。


カルの顔色がさらに青く変色していく。


このままでは、いずれ死ぬ。そう理解したメリルは、地上へ戻るべく転移魔石を手にした。


「カルロス。カル様を地上に転移させます。このままではカル様は死んでしまいます」






3人は、転移魔石を使って地上へと戻り、領主の館よりも近い冒険者ギルドへと駆け込んだ。


「ケガ人です。道を開けてください」


カルロスが近くにあったテーブルにカルを乗せた。その途端、またカルから出血が始まった。


メリルは、自身の胸の谷間からハイポーションを取り出し、カルの体にかける。


だが、出血が止まらない。なぜハイポーションが効かないのか。これでは、まるでカルの体が薬を拒絶している様にすら見える。


「ちょっと下がって。俺は治癒魔法士だ。今から治癒魔法をかける」


治癒魔法士がカルに治癒魔法をかけていく。


「・・・・・・」


「おい、どうなってる。治癒魔法が全く効かない。こんなの初めてだ」


「どいて、私がやる」


別な治癒魔法士がカルに治癒魔法をかけていく。


「・・・・・・」


「えっ、治癒魔法が効かない」


「とにかく治癒魔法をかけ続けろ。出血を止めるんだ」


「近くに回復魔法士がいたら呼んでくれ。回復魔法をかけないと体力がもたないぞ」


その後、4人の治癒魔法士のおかげでカルの出血は止まった。だが、出血が多すぎたせいで意識が戻らない。


さらに3人の回復魔法士が集まり、回復魔法による体力の回復も図られた。


「こりゃ、今夜が峠じゃな。お前さん達、この子の仲間なんじゃろ、覚悟しとくんじゃな」


ひとりの年老いた治癒士がそう言い残した。それは、最後通牒であった。


カルの側では、治癒魔法士と回復魔法士が、交代で懸命に魔法をかけ続けた。


その頃になって、ダンジョンに向かっていたルルが冒険者ギルドから呼びに行った者から事情を聞かされて戻ってきた。


「おぬし達は何をしてお・・・・・・」


カルを乗せたテーブルの周囲は、カルの血が大量に流れ出ていた。この光景を見れば、カルが生きているのか不思議としか思えない有り様だ。


「きさま・・・、私からカルを取り上げるだけでは飽き足らないのか。今度は、カルの命まで取るのか!」


ルルは、メリルに掴みかかった。だが、メリルはそれに反応しないどころか、一言も口を開かなかった。





「あそこで治療を受けている子供、16階層のオーガを狩っていたらしい」


「ちがうちがう。19階層のファイアーウルフの群れを狩っていたんだってさ」


「本当かよ。19階層っていったら上級者向けの階層だろ」


「しかも、本来ならボス部屋にしかいないはずの階層ボスのフレアウルフが19階層に複数出たんだとよ」


「まじか」


「あの子供。それを全て倒したんだってよ」


「それであの状態か。俺ら万年中級冒険者じゃ行ける階層じゃねえからな」


「それがなあ。あの子供。今日、初めてあのダンジョンに入ったんだってよ」


「1日で19階層ってどうやって行くんだよ」


「あの子供。この城塞都市アグニⅡをひとりで落として領主になったらしい」


「えっ、この都市の領主なのにダンジョンの上級者エリアでボス戦やってんかよ。化け物かよ」


どこから情報を仕入れたのか、カルの治療風景を遠巻きに見ていた冒険者達が、口々に噂しあっていた。


カルは、冒険者としては最低のFランク。しかしあの大盾が初心者のカルを上級者へと押し上げていた。だが、カルに経験が無さ過ぎた。所詮、冒険者Fランクなのだ。19階層のボスであるフレアウルフの狡猾さには勝てなかった。






後で分かったことだが、カルの体に何らかの変化が起きたことで、治癒魔法も回復魔法も殆ど効かない体になっていた。


しかもポーションやハイポーションですら効かない。これでは、治療すらできない。


深夜になって皆が寝静まり、治癒魔法士も回復魔法士も横で仮眠をとっていた頃、カルが寝かされていた簡易ベットの横にふたりの訪問者が姿を現した。


ひとりは、カルが持つ短剣に封印されている自称神である剣爺。もうひとりは、盾に封印されている精霊ホワイトローズ。


ふたりは、簡易ベットで眠るカルの姿をじっと見つめながら会話を始めた。


「おぬし、ちとあせりすぎじゃ」


「分かってるの。今回は大失態なの。ごめんなさいなの」


ふたりは、カルの命に少しばかりの細工を施し、消えかかっていた命の火を繋ぎ止めることに成功した。


本来、敵対し合っているはずのふたりが、同時に現れるなど今までなかった。だが、緊急を要するとふたりで対処することにしたのだ。


「ホワイトローズ様。申し訳ありません。カル様をお守りせよと言われながらこの様な大失態。私の命と引き換えにカル様をお助けください!」


メデューサのメリルが、床に頭をこすりつけ泣きながら精霊ホワイトローズに懇願した。


「その件は、後にするの。あのダンジョンの主がやってくれたの。今は、準備ができていないから我慢するの。でも、準備ができたら・・・、お前が大群を率いてあのダンジョンを潰すの。ダンジョン主を私の前に連れてくるの。精霊ホワイトローズの眷属を殺そうとしたらどうなるか思い知らせるの。精霊ホワイトローズをバカにしたらただではおかないの」


精霊ホワイトローズは、そう言い残すとカルの前から姿を消した。剣爺もカルの姿をまじまじと見た後に短剣へと戻っていった。





朝になるとカルの容態は安定に向かい領主の館へと移された。カルを部屋に運び込むと、ルルが仕事が手につかないと言って看病を続ける日々が何日も続いた。


数日後、カルの傷が治りかけた頃、ルルは、カルを城塞都市ラプラスに戻すことにした。


本当は、カルの看病を続けて毎日カルの顔が見れるようにしたかった。でも、このまま城塞都市アグニⅡに置いておけば、また勝手にダンジョンに入り、人知れずダンジョンの中で死ぬかもしれないと考えたのだ。


カル、カルロス、メリルの3人は、誰にも気づかれない様に荷馬車で城塞都市アグニⅡを後にし城塞都市ラプラスへと向かった。


カルは、いつの間にか治癒魔法が効かない体になっていました。


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