32話.城塞都市アグニⅡとの戦い(4)
城塞都市アグニⅡへとやってきたカル。果たして・・・。
カルは、夕暮の渓谷の砦をひとり静かに出発した。
剣爺のゴーレムの肩に乗って。
渓谷の激しく流れる川の両側に立つ砦には、300人のラプラスの兵士がたったひとりで敵地へと赴くカルの後ろ姿を見守っていた。
「いくらカル殿の盾とゴーレムが人知を超えた力を持っているとしても、子供をひとりで敵地に送り出すなんて、心が締め付けられるますな」
「まあ、そう言わないでください。私だって先陣を切って戦いに参加したいのです」
「ですが、この砦を放置したら退路が断たれます。ここを守りきることこそが、カル殿が自由に戦える場を作ることにもなるのです」
「そうですな。この戦いが終われば、子供を戦場に送りだすなんて事がなくればよいですな」
「そうですね」
「あの盾の中には、ルル様と300人の兵士がいるのです。全てはカル様の手腕にかかっています」
「子供ひとりに300人の命を預ける・・・か。カル殿の心中をお察しします」
砦の城壁の上で、鬼人族のレオと部隊長がカルの後ろ姿を見送りながらそんな会話を続けていた。
ひとりの兵士が近づき、魔法ランタンでレオと部隊長の足元を照らす。渓谷は既に闇の中へと埋没し、魔法ランタンによる灯りが砦のあちこちに灯り始めた。
渓谷の壁は高く不気味な姿をさらしていた。この砦の主となったラプラスの兵士達であったが、今度は、自分達が攻められる側であることを忘れてはいなかった。
カルがこの砦を落とすことができた以上、誰かが同じ様に砦を落とす事ができるのだ。兵士達は、城壁の上から警備を続けた。
砦にそびえる塔の上から、ふたつの塔を結ぶ回廊の中から渓谷の闇の中に敵が潜んでいないか、魔獣がいないか夜通し警戒を続ける。吸い込まれるよな渓谷の暗闇を睨みながら。
全ては、カルの戦いのために・・・。
カルは、ゴーレムの肩に乗り、街道を城塞都市アグニⅡへと向かっていた。
砦を出てから数時間が立つが敵兵と遭遇するとこもなく街道を進んでいた。
街道は、整備が行き届いていないのか足場が思いのほか悪く、ゴーレムは歩いて進んでいた。草原の様に滑る様に進む事も出来ず思いのほか時間がかかっていた。
丘を登りきると城塞都市アグニⅡの灯りが見えた。
綺麗だ。
月明かりのないこんな夜は、なおさら城塞都市の夜の灯りが綺麗に見える。けれど、見とれてばかりもいられない。
城壁の外に大きな何かの姿が見える。あの大きさからすると恐らくゴーレム。
1、2、3・・・10体の姿が見える。
城壁に近づくにつれて城壁の上の見張りの兵士がよく見える。
盾の魔人は、剣爺に鋼ゴーレムを取られた事をまだ根に持っているらしく、あれ以降、この戦いに参加していない。
なので今回、盾の魔人抜きで戦う必要がある。
ゴーレムの肩から降りて、街道から外れて城塞の灯りに照らされない様にかがみながら慎重に歩く。
ゴーレムの近くまで来たが、近くに兵士の姿はなかった。ゴーレムを操る魔術師は、城壁の上にいるようだ。
ルルの話では、ゴーレムの体内のどこかに魔石で作った核があるとかで、それを壊せばゴーレムは動かなくなるらしい。
でも、大盾の金の糸なら核の場所も分かるし、剣爺がやったみたいに核を吸収してしまえば、ゴーレムは動かなくなるのは確認済み。
だから大盾から出せる金の糸が届く距離まで見つからない様にゆっくりと進む。
金の糸は、ゴーレムの手からも出せるので、倒す敵のゴーレムをゴーレムさんとふたり?で分担する事にした。
ゴーレムって普通は簡単な命令しか理解できないってルルさんが言っていたけど、剣爺が作ってくれたゴーレムは、僕の会話をちゃんと理解してくれているみたい。
やっぱり剣爺が作ってくれたゴーレムは違うのかな。
なんとか、城壁を守るゴーレムの近くまでやって来た。
大きな岩の陰からゴーレムの手と、僕の大盾から金の糸を出して敵のゴーレムの足元まで伸ばす。
星しの輝きで金の糸が少しキラキラと光ってる。ばれないか心配。敵のゴーレム達。立ったまま動いていないから簡単に金の糸が足元から体内に侵入できる。
1体目の土ゴーレムの・・・核をみつけた。意外と簡単。サクッと核を吸収・・・完了。
ゴーレムさんも敵のゴーレムの核を吸収完了したみたい。
続いて2体目・・・、完了。
続いて3体目・・・、完了。
敵の土ゴーレム、ボロボロと土くれに変わって崩れてきた。
あっ、城壁の上で誰か騒いでる。
やっぱり敵のゴーレムの核を吸収したから魔術師にバレたみたい。早く次のゴーレムを・・・。
”ゴーレム!”
”クレー、クレー、クレー”。
まずい、盾の魔人さん。いきなり大きな声を出して”くち”から赤くて長い舌を出しはじめ、鋼ゴーレムを長い舌に巻き付けて”くち”に放り込んじゃった。
「敵だ!敵がゴーレムを襲撃しているぞ!」
「ゴーレム、敵を攻撃しろ!」
「敵、敵はどこだ!見えないぞ!」
城壁の上にいる魔術師に完全にばれた。
あれっ、敵のゴーレムが僕たちに向かってこない。右往左往しているばかりだ。
もしかして金の糸で金属や魔石の核を吸収しているだけで攻撃をしていないから敵と認識できないのか。
あっ、また盾の魔人さんが敵の鋼ゴーレムを食べちゃった。
ゴーレムさんも最後に残った敵の鋼ゴーレムを金の糸で吸収できたみたい。
以外とあっけなく10体のゴーレムを倒せてしまった。
「ゴーレムさん、城塞都市アグニⅡの城壁を攻略に行こう」
ゴーレムさんが差し出した手に足をかけて肩に腰を下ろし、大盾を前に構えて弓矢の飛来に備える。
ゴーレムは、少しづつ歩みを早めて城壁へと近づく。
「いた。あそこだ」
「敵はゴーレム1体だ。魔術師、魔法で対処しろ!」
「矢を放って足止めをしろ!」
城壁に向かうゴーレムと大盾に向かって矢が次々と飛来する。
ゴーレムも大盾も矢じりを次々と吸収する。大盾に矢が命中しても衝撃を全く感じない。
金属を吸収する盾ってやっぱりすごい。
ゴーレムは城壁の前で全力で走りながら一瞬、力を溜める様に体勢を低くした。
カルは、その姿勢に合わせる様にゴーレムの首にしがみついた。
一瞬で周囲の景色が変わった。
目の前にあった城壁がなくなり夜空と城塞都市アグニⅡの夜景が目に入った。
すごい、ここまで高く飛ぶことができるんだ。
けれど、そんな景色に心を奪われてばかりもいられない。
カルは、腰の鞄から魔石筒を数個取り出すと城壁へと投げ捨てる。投げた魔石筒は、”雷の魔法”と”集団睡眠魔法”が封じられたもの。
魔石筒は、城壁の上にいる兵士と魔導士達の頭上に、それと城門の内側で盾を構える兵士達の頭上にも投げた。
高く飛んだゴーレムは、城壁のはるか内側に立つ建物の屋根の上へと飛び降りた。
そう、ここはもう城塞都市アグニⅡの市街地の真っ只中。
敵の兵士達は、僕たちがどこに行ったのか分からずに大声を出しながら探している。
一時遅れて魔石塔筒が城壁と城門前に落ちた。
数回の雷撃により多数の兵士達が倒れていく中、白い濃い霧の塊が徐々に広がる。
その様を市街地の建物の上から眺めていた。
まだ、僕たちを見つけた兵士達はいない。
徐々に城壁の上と城門前の兵士達のあげる声が聞こえなくなってきた。
皆、集団睡眠魔法により眠りの世界に誘われたみたい。
カルとゴーレムは、周囲を警戒しながら市街地の建物の上を飛び越えて城壁の上へと降り立った。
”コン、コン、コン”。
ゴーレムから降りると大盾の内側を3回ノックする。
すると盾の内側に小さな扉が現れ、扉の中から兵士達がぞろぞろと出て来た。
最初に大盾から出て来た兵士達が、城壁の壁に取り付いて敵の攻撃に備えた。
次に大盾から出て来た兵士達が、城壁の上で眠っている敵の兵士達を縄で縛り上げていく。
ここに残る兵士は200人。少ないけど砦から後続部隊が来るまでの守りを固めてもらう。
「では、隊長さん。ここをお願いします」
「分かった。カル殿もご無事で」
「はい」
カルは、部隊を指揮する隊長との簡単な言葉を交わすとゴーレムの肩に乗って市街地の建物の上を走って行った。
目標は、城塞都市アグニⅡの領主がいる領主の館。そこで領主を捕らえれば、この戦いは終わりを迎える。
城壁の上で守りを固めるラプラスの兵士達。
散発的に矢が飛んでくるが無理をせずに城壁に近づいて来る兵士だけを相手にする。
「隊長、こんな簡単に敵の城塞都市に入れるなんて夢みたいです」
「ああ、だが戦いはまだ終わってない。むしろこれからが本番だ。用心しろ」
「はい」
兵士達のすぐそばに矢が飛んで来る。さらに魔法がさく裂する。
こちらの魔術師も応戦して魔法を放つ。
城門に近づく敵兵には、カルが渡した魔石筒を投げる。
魔石筒が石畳に落下すると魔石を覆っていた硝子の筒と魔石が砕けて雷の魔法がさく裂した。
数人の敵兵が倒れていく。
敵兵は、かなりの数の魔術師がいると錯覚しているのか大群で攻めては来ない。
夜の闇で見えないからよいが、たった200人が城壁に取り付いただけと分かれば、敵は大群で押し寄せるだろう。
そうなる前に砦からの増援を城塞都市内に引き入れ、カルがこの都市の領主を捕まえられるかが勝敗を決めることになる。
カルは、領主の館のすぐそばまで来ていた。
領主の館の前には、数十人の兵士が盾を持ち剣を構えて待ち構え、屋根の上には、数人の弓兵が弓を構えている。
だが、カルとゴーレムは、石畳の道を歩いて来ると思っているらしく、敵兵は、領主の館の前へと続く石畳の道の先に目を光らせていた。
カルは、先ほどの城壁の上にいた敵兵に行った様に魔石筒を投げつけた。
ただし、魔石筒には、何の魔法も封じられていない。魔石筒といっしょに投げ入れたのは煙玉だ。
「がんばれ煙玉」
魔石筒が領主の館の前に落ちると硝子の筒と魔石が割れる。そしてカル言葉と同時に煙幕が領主の館前に広がった。
「この煙を吸い込むな。これは睡眠魔法の霧だ」
敵兵が叫んだ。
さすがに城壁の戦いを見ていた兵士から情報が伝わっていたようだ。
だが、誰ひとりとして倒れる者はいなかった。
「だっ、誰だ。この煙幕が睡眠魔法だなんて言ったのは。なんともないでないか!」
カルは、領主の館が見渡せる建物の屋根の上でこの時を待っていた。
腰の鞄から集団睡眠魔法が封じられた魔石筒を数個取り出すと、領主の館の前へと投げ捨てた。
”パリン”。
硝子と魔石が割れる音が領主の館の前で響き渡った。
しばらくの間、静粛の時が領主の館の前に漂っていた。
”バタン、バタン”。
人が倒れる音が響き渡る。剣が盾が石畳の道に落ちる音があちこちから響いて来る。
「くそ、今度は本当に睡眠魔法な・・・のか・・・」
誰かがそう言ったのが最後、領主の館の前で動く者はいなくなった。
カルを肩に乗せたゴーレムはそっと建物の屋根から降りると領主の館の大きな扉の前に舞い降りた。
”羊さんがいっぱい、羊さんがいっぱい、羊さんがいっぱい”。
カルは、集団睡眠魔法から逃れる呪文を唱えた。
ちょっと間抜けな呪文だが、これを言わないと睡眠魔法から逃れる事はできずに眠ってしまうのだ。
”コン、コン、コン”。
大盾の内側を3回ノックする。大盾の内側に小さな扉が現れ兵士達が次々と扉の中から出て来る。
「ルルさん。ここが城塞都市アグニⅡの領主の館の前です」
「本当にここまで来たのだな」
「はい。僕は、ここを守りますので、ルルさんと兵士の方達は領主を捕らえてください」
「そこは”領主に勝つ”だな」
「そうでした」
「カル殿も気をつけてくれ」
ルルさんが70人程の兵士を引き連れて、領主の館の中へと入って行った。
「では、もし敵が現れたら僕とゴーレムで戦います」
「皆さんは、この領主の館の入り口を死守してください」
「了解した」
しばらくすると騎馬の一軍が領主の館の前へと続く石畳の道を全速力で駆けて来るのが見えた。
「来たぞ!」
「皆、ここから誰も入れるな!」
「「「「「おう!」」」」」
皆の手が足がこわばっていた。剣を持つ手が少し震えている。緊張からか顔の表情もなく固くなっている。
ダンジョンに入ってドロップアイテムを集めるために魔獣を狩るのとは訳が違う。ここは戦場だ。人を殺しあうための場だ。その事をカルは、何度も自分の心に言い聞かせた。
今更だがカルは、戦いで人を殺した事がなかった。そんな場面になったら躊躇なく人を殺せるだろうか。そもそもカルは、誰かに戦場での戦い方を教えてもらったことはない。
今まで、そんな場面を迎える前にカルに敵意を向ける者達を盾の魔人が全て飲み込んでくれていた。それをこの場面でも期待してよいのだろうか。カルの脳裏にそんな杞憂がよぎる。
カルは、ゴーレムの肩に乗ると領主の館を通る石畳へと進み、騎馬隊が進む石畳の道へと魔法筒を投げ捨てた。
硝子と魔石が割れる音と同時に石畳の道が白くきらめき、氷で覆われたツルツルの道へと変貌した。
それと同時に煙玉も投げ入れる。
石畳の道が氷で滑る事を悟られない様にするためだ。
「がんばれ煙玉」。
ゴーレムとカルに向かって真っすぐ向かって来る騎馬隊、その数10騎。
走る馬の上から弓でい殺そうとする者、槍で突き殺そうと構える者、剣を天高く抜き放ちカルに切りかかろうとする者。
そして放たれた矢は、カルの大盾に吸い込まれる様に消えていく。大盾に矢が当たった時の衝撃は微塵も感じない。
ゴーレムも同じだ。矢は当たるそばからゴーレムの体の中へと消えていく。
「ええい、なんだあの盾は。矢を飲み込むのか」
「あれが話に聞くラプラスの魔人使いか」
「雑兵などに目をくれるな。ラプラスの魔人使い倒せばこの戦いは終わる」
騎馬兵達は、煙幕の中を突き進む。そして予想通りの結末を迎えた。
馬は凍った石畳の道で次々と倒れていく。馬にまたがっていた兵達は、馬から投げ出され、あるいは倒れた馬に押しつぶされ身動きが取れなくなっていく。
カルが腰の鞄から魔石筒を手に取り投げ入れようとした時、盾の魔人の”くち”が開いた。
凍った石畳の道に倒れた騎馬兵達を赤くて長い舌が次々とからめ取ると大きな”くち”の中へと放り込んでいく。
騎馬兵達は、倒れたまま剣を降って体に巻き付く舌を振りほどこうと必死だが、剣を振り上げた時にすでに目の前には大きな”くち”が開かれなすすべもなく”くち”の中へと投げ入れられていた。
ものの数秒だろうか、凍った石畳の持ちの上には、足が滑り起き上がれない馬とその馬具がが散乱しているだけであった。
”マズイ”
”ジツニ、マズイ”
「ははは、騎馬兵達は不味かったんだね。魔人さんは、いい剣や鎧を装備した人達を食べると”ウマイ”って言うよね」
盾の魔人さんが”くち”に放り込んだ騎馬兵達の感想を”くち”にした。ことのほかまずかったらしい。
”ヒュ”。
領主の館近くの屋根に潜んでいた弓兵から弓が飛んでくる。だが、ゴーレムの手から出た金の糸が、矢を次々と絡め取る。
石畳の道を埋め尽くしていた氷が解け始めると、馬達も立ち上がりどこかへ歩いていってしまった。
領主の館の前に倒れている兵士達も盾の魔人さんが、次々と”くち”の中に放り込んでいく。
”マズイ”。
”マズイ"。
”マズスギル”。
”アリエナイ・・・マズイ”。
敵兵達の装備がしょぼいためなのか、大盾の魔人さんが不満を延々と漏らしていた。
領主の館の前に盾を構えていたラプラスの兵士達の元へと戻り、カルも大盾を構えて敵兵の襲撃に備えた。
「あらかた敵兵は片付いたのでしょうか」
「どうだろう。城門のところにまだ敵兵が多くいそうだけど、今ここを離れる訳にはいかないからね」
「そうですね。ルル様もご無事でいればよいのですが・・・」
しばらくすると、領主の館の大きな扉を開け放ち数人の兵士とルルが現れた。
「カル殿。ここの領主は逃げたようだ。影も形もない」
「あとを任されたという文官が残っておった。皆、降伏するそうだ」
「ということは・・・」
「この戦いは終わりだ」
「「「「「おおっ」」」」」
領主の館の前で新手を待ち構えていたラプラスの兵士達が安堵の声を上げた。
「だが、まだ油断をするな。味方の増援が城門に到達しなければ、これまで苦労も水の泡だ」
「もう少しだけ辛抱してくれ」
「「「「「はい」」」」」
ルルさんが緩んだ兵士達の心を引き締めていた。
「ルルさん。僕は、城門に戻ります」
「まだ、敵兵が残っているはずですから」
「すまぬ。これで最後だ。頼む」
ルルさんの完結だが覇気のある言葉がカルの心を勇気づけた。
でも、ルルさんの目の前では、盾の”くち”から飲み込まれた兵士達が次々と吐き出されていた。
それも裸で・・・。
その光景には、ルルさんも顔をそむけて苦笑いを浮かべていた。
「味方の増援はまだか」
「まだ。見えません」
城壁の上で守りを固めて敵の攻撃に耐えていたラプラスの兵士達だったが、なかなか現れない味方の増援にしびれを切らしていた。
「カル殿からもらった魔石筒も残り少ない」
「そろそろ敵が俺たちの数の少なさに気がつく頃だ」
「攻勢に出られたらやっかいだぞ」
城壁を囲む様に市街地の建物の陰から、建物の屋根から、弓兵が次々と矢を放ってくる。
こちらも矢を放って応戦はしているが、残りの矢も少なくなり、敵の放つ矢で負傷する兵士の数も増えてきた。
治癒魔法が使える魔法使いがケガの治療にあたっているが、負傷者も数が多くなり手数が足りなくなっていた。
そんな折・・・。
「来ました。味方の増援部隊です」
「来たか!遅いぞ。増援部隊に文句を言ってやる」
「皆、もう少しの辛抱だ。持ちこたえてくれ!」
城壁の上で壁にへばりつく様に敵の攻撃に耐えていたラプラスの兵士達だったが、隊長の言葉に安堵した。程なくして城塞都市アグニⅡの城門は開かれ、ラプラスの兵達が大挙して城壁の内部へと侵入を開始した。
この状況を見て戦局が不利だと判断したのか、市街地の建物の陰に隠れていた敵達が投降を始めた。
カルは城壁の上で守りを固めていた部隊の隊長の元へとやってきた。
「領主の館は占拠しました。アグニⅡの領主は逃げたそうです」
「「「「「おおっ」」」」」
兵士達にどよめきが起こった。
「分かった」
報告を受けた隊長は、大きく肩で息を吸うと少しだけ時間をおいて立ち上がった。
「城塞都市アグニⅡの兵士達、よく聞け!城塞都市アグニⅡの領主は逃げた。もうお前達を守ってくれる領主はいない」
「お前達に飯を食わせてくれる領主も、お前達に給料を払ってくれる領主もいないぞ!」
「投降するなら命はとらん。家族の分の飯も食わせてやる。見舞金も支払ってやる」
「今すぐ投降しろ!」
隊長の太くたくましい声が城壁と市街地にこだました。
しばらくすると、抵抗を続けていた敵兵達が列をなして市街地から現れ、手に持っていた剣や盾を次々と石畳の道へと投げ捨ていく。
「終わりましたな」
「はい。皆さんの協力があってこそです。ありがとうございました」
カルは、部隊を率いて奮戦していた隊長に思わず礼を言った。
「礼など言わんでください。あなたは、城塞都市ラプラスの領主なのです」
「兵士達の前に立ち、一番奮戦したのは領主であるカル殿あなた自身です。それは誇りに思ってください」
「それにあなたは、城塞都市ラプラスと城塞都市アグニⅡのふたつの都市の領主になるんです。我々にたんまりと給料を出してください。期待してますよ」
部隊長の言葉に思わず心を揺さぶられたカルは、思わず目から涙があふれ出ていた。
皆さま。『僕の盾は魔人でダンジョンで!』を読んでいただきありがとうございました。
本話にて、第1章の最終回となります。
次回より、第2章となります。少しゆるい話が続きますがご容赦くださいませ。