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僕の盾は魔人でダンジョンで!  作者: 純粋どくだみ茶
《第1章》 僕は、おかざり領主になりました。
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28話.羊の様に眠れ

ポラリスの街で助けたエルザさんの魔法を試してみるカルです。


ラドリア王国のポラリスの街で処刑されそうになっていた元領主のバルフト伯爵夫妻と娘のエルザさんを保護して城塞都市ラプラスに移り住んでもらった。


その後、城塞都市ラプラスの都市運営についてアドバイスを頂けるように顧問という形で都市運営に参加してもらっている。


こちらとしても領地運営の経験者にアドバイスをいただけるので大助かりだ。


娘のエルザさんはというと、領地運営のノウハウをお父さんから学びながら、識字率の低い城塞都市ラプラスで誰もが通える学校を作る前準備として文字や計算を教えられる先生を教育する教官の教育を行ってもらっている。


字が読み書きできる人達を募集し、実際に読み書きと計算をさせてみたところ、自己流の人が多くこのままでは先生として使えないことがわった。


さらに学校で使用する教科書や教材の作成、機材の開発にも参加してもらっている。いきなり領地で死刑になる寸前に命からがら逃げて来たのでいろいろ混乱しているようだが、いつまでそれを引きずってもいられないと、先生の育成に専念している。


教官となる人達の人材育成のための場所は、都市の役所が入る建物の空室を利用させてもらっている。


ある日、カルは、エルザさんの元を訪れるとあるお願いをした。


「エルザさん、先生の先生役は順調にいってますか」


「はい、大変ですけどなんとか上手くいっています。いや、上手くいくようにします。両親と私の命を助けていただいたのです。この程度で恩返しができるとは思っていません」


「いえいえ、焦らずのんびりお願いします」


「実は、今日お願いがあって来たんです」


ふたりは、部屋の隅にあるテーブルを挟んで配置された椅子に座るとカルが唐突にこんな話を始めた。


「エルザさん、魔法使えますよね」


「えっ、なんで知っているんですか。両親にも言っていないのに」


「実は、エルザさんが魔法を使えるのを知ったのは、エルザんが鉄格子の馬車で連れていかれる時です」


「・・・・・・」


「どうやって魔法が使えるのかを知ったのは、まだ話せません。そこは、折を見て話します」


「そして、その魔法が集団睡眠魔法であることもです」


「そんなことまで」


「実は、お願いがあるんです」


「エルザさんの魔法を僕に分けてください」


「魔法を分ける?」


「はい」


「実は、近く隣りの城塞都市がこの都市に攻めて来るようなんです。あっ、エルザさんにも戦って欲しいとかそんな話ではないです」


「魔法を分けて欲しいというのはですね。この魔法アイテムは、魔法を封じることができるんです」


カルは、目の前のテーブルに魔法筒をひとつ置いた。テーブルに置かれた魔法筒に入れられた魔石は、無色透明であった。


「エルザさんの集団睡眠魔法をこの魔石筒に封じることができれば、戦争で死ぬ人を減らせるかもしれないと思ったんです」


「この話は、エルザさんの協力がなければできません。でも、もし人が死なずに済むならそれに越したことはないと思います」


「・・・・・・」


「確かに。戦争で人が死ぬのはいやです。もしカル様がそう望んでいるのなら協力させていただきます」


「ありがとうございます。では、この魔石筒に魔法を封じる方法を伝授・・・ははは」


カルは、テーブルに置かれた魔石筒を見つめるエルザさんを前にいきなり笑いはじめた。当然といえば当然。魔法が使えないカルが魔法アイテムに魔法を封じる方法を教えるのだ。笑い話にしか聞こえない。


「僕、魔法使えないのに偉そうです。魔法を封じる方法は、この魔石筒を作った魔術師さんからの受け売りです。なのでできなくても文句は言いません」


「まず、この魔石筒の両側にある金属の部分を両手で持ってください。そして、体の中を巡る魔力をこの魔石筒の魔石に放つ感じで魔法を放ってください」


「上手くいくと魔石に色がつきます。魔法によって魔石に付く色が違うそうです。魔石にひびが入ったり壊れたら失敗です」


「ちなみに、1日に使える魔法の回数ってご存知ですか?」


「分からない。そんなに使ったことがないので。恐らくですが2~3回だと思います」


「そうですか。なら、1日に封印する魔法は2回迄としましょう。この袋の中に魔石筒を用意してありますから、壊しても気にしないでください」


「では、一度試してみましょう」






その日に魔石筒に封じることに成功した魔法は1回。失敗も1回。


数日後、4個の魔石筒に集団睡眠魔法が封印されていた。魔石筒の魔石の色は水色で今までにない色だった。


カルは、エルザさんの集団催眠魔法が封じられた魔石筒を部屋に持ち込み、部屋の中で試すことにした。


下手に外で試して他の人が眠ってしまったら迷惑になると思い、密閉された部屋の中なら自分だけ眠りにつくだけだと思ったのだが・・・。


部屋の扉を開けて通路に誰もいないことを確認すると、扉をそっと閉じてベットの上に座った。


「さて、エルザさんの集団睡眠魔法を試してみます。まずは深呼吸です」


”スーハー”。


「では、いきます。通路には誰もいないことを確認したし、眠くなってもベットの上です。何の問題もありません」


「ではいきます」


カルは、部屋の中で独り言を言いながら床に向かって魔石筒をおもいっきり投げつけた。魔石筒の硝子が割れる音が部屋に響いた・・・が、ここで誤算が生じた。


「カル殿。ちょっと話があるのだが」


通路に誰もいなかったはずなのに、なぜかルルが部屋に入ってきてしまった。


「あっ!だめ!」


カルが思わず叫んだ。だが、既に遅しである。部屋の中には白い霧が立ち込めるとその中で何かがうごめいていた。


「なっ、なんだ!部屋の中が煙だらけではないか。火元!火元はどこだ!ひっ、ひ?・・・羊?」


カルとルルの目の前には一匹の羊が楽しそうに飛び跳ねていた。


”メー”。


煙の中に気の抜けた鳴き声を発する羊が1匹。


さらに羊が目の前を通り過ぎると、その後ろから羊が歩いてきた。


”メー、メー”。


煙の中に気の抜けた鳴き声を発する別の羊が1匹。


その羊が通り過ぎると、また羊が1匹。


「なぜ部屋に羊がいるのだ。いや、それよりも火元はどこだ。ひっ、ひっ、羊が1匹、羊が2匹、ええいなぜ羊の数を数えなければならんのだ。だっ、だが、なぜか羊の数を数えなければいけない気がする。羊が3匹、羊が4匹、ええい、羊の数など・・・、羊が5匹・・・グー」


「ルルさん。なんで部屋に入っ・・・羊が3匹、羊が4匹、羊が5匹・・・グー」


カルもルルも睡魔に負けて床に倒れてしまいそのまま眠ってしまった。だが、ふたりの寝顔は実に穏やかだ。


さらに惨劇は続いた。


「通路に煙が!誰か、誰か火事です!だっ、羊?なぜ領主の館に羊が、羊が飛び跳ねているのです。羊・・・が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹、羊が5匹・・・グー」


通路の床にメイドが静かに倒れるとやがて深い眠りについた。


さらに惨劇はどこまでも続いた。


「「たっ、大変だ。火事だ!かっ・・・・・・羊?なぜ羊!」」


次に巡回中の2人の警備の者が床に倒れると深い眠りについた。


その日。領主の館では、50人以上が集団睡眠魔法の餌食となり12時間の眠りについた。


領主の館で伝染病が蔓延したのではないかと大騒になり、何人もの治癒士を呼び賢明の治療が施されたが、改善の兆しもなく12時間が経過した。すると、倒れた50人は何事もなく”心地よい眠り”から順次目覚めていった。


12時間後、カルは、大勢の人達に謝罪して回る羽目になったのは言うまでもない。






次の日。


カルは、植林予定の荒地に建てた作業小屋にいた。


「ここなら誰も来ないはず!」


「今日は、ここで集団睡眠魔法にかからないキーワードを試します。これが成功したら戦いで死ぬ人を減らせるかも」


カルは、その思いを胸に頑張っているのだが、カル以外の人達にカルの熱意は伝っていないようだ。


昨日は、誰も訪れないはずの部屋にルルさんが来たため、部屋から集団睡眠魔法の霧が漏れ出して50人以上の人達を意図せず12時間の安眠の旅へと招待してしまった。


だが、ここなら誰もいないし来ない。昨日よりも慎重に周囲を見渡して誰もいないことも確認した。


「さて、エルザさんの集団睡眠魔法にかからないスペシャルキーワードの確認開始!」


カルは、そう言うとエルザさんの集団睡眠魔法が封じられた魔石筒を床に投げつけた。


魔石筒の硝子が割れる音が作業場に響き、白い霧がモクモクと広がる。


”メ~”。


気が付くと霧の中に1匹の羊が気の抜けた鳴き声を響かせながら飛び跳ねていた。


「羊さんがいっぱい、羊さんがいっぱい、羊さんがいっぱい!」


これが集団睡眠魔法にかからないためのキーワードだ。なんとも間抜けなキーワードだが、これさえ知っていれば眠らないはず。


キーワードを唱え終わると、カルの周りにはなぜか数十匹の羊が群れていた。だが、眠くはならない。成功だ!


作業場の中は、相変わらず濃い霧が立ち込めているため数メートル先も見えない状態になっている。


これで戦いになっても死ぬ人を減らせる。カルは、これから起こるはずの城塞都市戦での、この集団睡眠魔法の使い方をいろいろ模索していた。それもこの集団睡眠魔法が魔石筒に封じることができてこそ。


「後は、この霧がおさまるのをまつばか・・・」


その時、作業場所の扉を勢いよく開け放つ音がした。


「領主様。井戸掘りがようやく終わりま・・・なっ、作業場に煙が充満しとる。火事、火事だ。火元は・・・」


「領主様。頼まれてた苗木と腐葉土をお持ちしたっす。苗木植えるのに人手がいると思って若い衆何人か連れて・・・、けっ、煙っす、火事っす。大事っ・・・」




「「領主様。なぜ作業場の中で羊を放し飼いにしとるんだ!」」




”メ~”。


”メ~、メ~”。


”メ~、メ~、メ~”。


井戸掘りを終わらせた井戸掘り職人と、カルが視察の時に村に依頼した植林用の苗木と腐葉土を馬車で運んできた村人は、目の前で気の抜けた鳴き声を響かせながら飛び跳ねる羊を見て驚きを隠せなかった。


程なくして10人の人達が意図せず集団睡眠魔法による12時間の深い眠りについてしまった。


「ぼっ、僕って呪われてるのかな・・・」


カルは、そんな呟きをしつつ羊の群れの中で床に倒れている10人もの人達を運び、作業場の奥へ寝かせていく。


汗だくになったカルもいつしか深い眠りについていた。


カルは、12時間後に昨日と同じ様に全員に謝罪をした。ところが10人の人達は、こんなに気持ちよく眠れたのは久しぶりだと喜んで作業場をあとにした。


世の中って謎が多いと嘆くカルでした。


集団睡眠魔法をお試しで使ってみたものの、なぜか周囲に迷惑をかけるばかりのカルでした。


明日から第1章の終わりに向けてラストスパートです。


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