24話.盾のダンジョン・リベンジ(1)
鬼人族3人娘が盾のダンジョンへ再び挑戦します。
「盾のダンジョンに入りたいんですか?」
「お願いしたい」
「でも、負けると武具も服もみんな取られてしまいますよ」
「ああ、だから武具も服も取られてもよいものを装備してきた。カルの盾のダンジョンは、負けても誰も死ぬことはない。だから安心して負けることができる。そんなダンジョンなどカル殿の盾のダンジョン以外にあり得ぬからな」
「それに、我らも負けたままでいたくはないのだ」
なんだかいつものルルさんより凛々しい顔つきをしている。僕とは強さも覚悟も違うんだろうな。
「わかりました」
”コンコンコン”。
「盾の魔人さん、ルルさん、リオさん、レオさんが盾のダンジョンで戦いたいそうです。よろしくお願いします」
大盾に3回ノックをして話しかけると、カルが構える大盾に大きな”くち”が現れ、そこから赤くて長い舌が”にょろにょろ”とはい出て来る。
何度見ても気持ちのよいものではないが、カルが鬼人族のルルさん達に勝ったのは、この大盾のおかげなので文句は言えない。
赤くて長い舌がルルさん達の体に巻き付き、3人の足が床から離れていき、盾の”くち”が大きく開かれ3人は静かに飲み込まれていく。
盾の”くち”は閉じると何事もなかった様に大盾から消えていき、部屋にはカルひとりだけが残された。
カルは、城塞都市ラプラスの領主の館のとある大広間の中央で大盾を構えて静かに待った。
どれくらいでルルさん達が戻るかは分からない。大盾のダンジョンで戦って負けても命を落とす事はない。ただ、装備しているものは武具から服、下着まで全て取られてしまう。こんなダンジョンは聞いたことがないとルルさんが言っていた。
大盾のダンジョンに入る時は、盾の魔人の”くち”から入り、出る時も魔人の”くち”から出る。
今まで盾のダンジョンに入って無事に出て来た人をカルはまだ見たことはない。カルは、領主の館の大広間でひとり静かに皆の帰りを待つ。
ルル、リオ、レオの鬼人族3人は、カルの盾のダンジョンに入った。
薄暗い石作りの回廊をゆっくりと進みながら、ダンジョンの構造を確認していく。
「ルル様。以前入った時は、ただ広いだけのエリアに大量のミミックだけが並んでいましたが、今回は違うようです」
「しかも他のダンジョンの様に迷路という訳でもなく、通路の両側に扉のない部屋が整然と並んでいるだけのようです」
魔術師であるリオは、オートマップで現在地と通過した場所のマップを確認しながら進む。
リオの前には大盾と片手剣を装備したレオ、そのすぐ後ろには槍を装備したルルが続いている。
「敵です。前方20m先です。反応が小さいのでスライムのようです。数は1体」
探知魔法に何かの反応があり、それがスライムであるとリオは答えた。
「カル様が集めていたというスライムでしょうか。ですが、魔人がただのスライムをダンジョンに放つでしょうか」
「まあ、そうだな。とにかくスライムだろうと警戒は怠るな」
「「はい」」
ルルは、カルが集めていたスライムを盾に住む魔人が何か手を加えてダンジョンに解き放ったのではないかと推測していた。
元々ダンジョンに湧く魔獣は、どのダンジョンでもだいたい同じ様な個体と強さを持っている。ルルは、いくつかのダンジョンで探索を行った経験でそれを知っていた。
ところが、カルが持っている盾に住む魔人は、なぜかカルにダンジョンに放つ魔獣を集めさせていた。そんな話は聞いたことがない。つまり、この盾のダンジョンは、他のダンジョンと何かが異なる。
それに、ダンジョンに入った者を殺さずに身ぐるみ剥がして外に追い出すという信じられない現象にも驚いた。とにかく、この盾のダンジョンは、全てにおいて他のダンジョンの常識が通じない。
ほどなくして3人はスライムと出会った。
「あれは、普通のスライムと違いがありそうか」
「なさそうですね。プルプルしたまま動きませんね」
「とりあえず倒すぞ。警戒を怠るな」
「「はい」」
ルルは、日頃使っているミスリルの槍ではなく、武器屋から調達した安物の槍を構えると、一気に跳躍して槍をスライムに突き刺した。
スライムは動かずにルルの槍に貫かれ、光の粒子となって消えていった。
「特に普通のスライムと変わらないか。動きも鈍いし、特に変わった点もない」
倒したスライムは小さなスライムの核を残していたが、それも他のスライムと変わらない。3人は、その後も数体のスライムと遭遇しては、倒していったが普通のスライムとの違いは感じられなかった。
しばらく進むと下の階層へと続く階段を発見した。
2階層へと降りて来た3人は、特段に代わり映えのしない回廊と回廊に面した扉のない部屋が続くダンジョンを先へと進んだ。
「ルル様。探索魔法に反応があります。前方から1体。後方から1体です」
「反応はスライムですが、移動速度が速いです。明らかに1階層とは別の個体です」
「よし、前方のスライムを先に狩るぞ。走れ」
ルルの指示により3人はリオが示した方向へと走り出した。ルルは、先行するレオの大盾の陰からさっと出ると前方のスライムに槍の一撃を加えた。
だが、槍の矛先をスライムはなんなく避けた。ルルは、そのスライムの素早い反応についていけず槍を戻すタイミングを逸した。
するとスライムは一瞬に跳躍するとルルの顔のすぐ横を飛んで行いった。ルルがスライムの動きを目で追った時には、レオの大盾に正面からぶつかるスライムの姿が目に飛び込んでいた。
「速い。本当にスライムか!」
レオが持つ大盾を弾いたスライムは左へと飛び回廊の壁から天井へと跳躍して体勢を崩したレオへと再び襲いかかった。
その瞬間、ルルが槍でスライムを突き刺す動作に入る。だが、スライムはその槍の矛を空中で挙動を変えることで避けた。
「なっ!」
空中で方向転換したスライムは、列の最後尾にいたリオに向かって跳躍した。
体勢を立て直したレオも最前列からスライムに槍を放ったルルも最後尾にいるリオを守れる距離にはいない。
リオは、自身に向かって来るスライムを真正面に身ながら身動きひとつしない。
それは・・・。
”バシ”。
リオの顔の正面でスライムは、何か透明な壁に当たりどろどろと体を溶かし、やがて光の粒子となって消えていった。
リオは、自身に魔法防御と物理防御の魔法をかけていたのだ。連続攻撃にでもさらされなければ特に問題がないので冷静に対処したのだ。
さらにリオは、後方に現れたスライムに対してファイアランスを放ち、難なくスライムを倒した。
「スライムの動きを見たか」
「はい、あの素早い動きには驚きました」
「それに・・・空中で方向転換したな」
「はい。あれには驚きました」
「ですが、魔法には弱いようです」
「そうだな。だが、この盾のダンジョンの魔獣を侮ってはいかんな」
ルルもリオもレオもあり得ないものを見たという顔つきでしばらくいたが、すぐに魔獣を狩る冒険者の顔へと戻っていた。
3人は、その場を後にすると回廊を先へと進んだ。リオの探知魔法に後方から3体のスライムの反応が現れた。
あの動きの速いスライム3体が同時に襲ってこられては3人では手数が足りない。だが、観察して分かったことだが通常のスライムの動きは、3人の走る速さよりも遅かったので追い付かれることはなかった。
その後、動きの速いスライムを2体倒した頃に下層へと降りる階段を発見した。
3階層に降りてきた3人だったが、最初の異変に気付いたのはリオだった。
「待ってください。この層は魔祖が濃いです。おそらく敵は魔法を使ってきます」
「魔法防御をかけます。安全のため物理防御もかかけます」
リオは、ルル、レオに魔法防御の魔法をかけると、さらに物理防御の魔法も重ね掛けした。
「そろそろ本番というところか。先ほどの動きの速いスライムですら肝を冷やしたが」
「はい。まさかルル様の”槍をよけるスライム”がこの世にいるとは思いませんでした」
「わしもあれには驚いた」
この層も他の層と変わらず石作りの回廊の両脇に扉のない部屋が並んだ作りだった。だが、以前と違うのは灯りが妙に暗く、周囲が見えない程ではないが、足場の確認にはいささか暗すぎてよく見えなかった。
「前方にスライムが1体です。ですが反応が今までと異なります。ご注意ください」
リオの探査魔法に魔獣の反応が現れる。だが、反応が今までとは明らかに異なり何故か体が熱く感じた。
足元が暗い石作りの回廊を進むと、回廊の先に赤く光る何かがぽつんところがっていた。
それはスライムだった。ぼんやりと赤く光るスライムなど初めて目にするものであった。
「どうするか、先制攻撃を行うか。だが、さっきの様に動きの速いスライムだと・・・」
ルルが攻撃に少しばかり躊躇していた時だった。
ぼんやりと赤く光るスライムの光が輝きだすと、いきなりファイヤーランスを放ってきた。
ファイヤーランスは、レオが構えていた大盾に直撃し、盾の上半分を真っ赤に熱していた。
「まっ、魔法を放つスライム!」
「まずいです。盾がファイヤーランスの熱で飴の様に溶けかかっています」
「ルル様、レオ、下がって。私がリフレクションを展開します」
「「分かった」」
ルルとレオが瞬時に後方に下がる。リオが前に出てリフレクションの魔法を展開する。
ちょうどリオが魔法を展開した直後、赤く光るスライムは、今度はファイアーランスの連射を始めた。
リオが展開したリフレクターの魔法によりスライムの放つファイアーランスは反射して石作りの回廊の壁や天井に当たり壁や天井を次々に赤い高熱に染めていった。
リオが展開しているリフレクションの魔法は、強力な魔法には対応できない性質があり、今まさにその状況へと追い込まれている最中だった。
ファイアーランスがあと数発も当たればリフレクションの魔法が破られる。そう確信したリオはルルに向かって叫んだ。
「ルル様。リフレクションの魔法が持ちません。攻撃を!」
「了解した」
ルルは、槍を赤く光るスライムに対して槍を投擲した。リフレクションの魔法の外からの投擲だったため、体勢がかなり苦しかったが赤く光るスライムに対して槍は真っすぐに飛び見事にスライムを打ち抜いた。
3人ともお互いの顔を覗き合いながら、光の粒子となって消えていくスライムの姿を見ていた。
「ルル様。魔法を放つスライムなんて聞いたことがりません。しかも、放ったファイアーランスは強力でした」
「私のリフレクションの魔法では、あと数発も受けたら破られてました」
ルルは、考えていた。通常のダンジョンならば、3階層など初級パーティでも走破できるレベルだ。
しかし、このダンジョンでは、3階層ですら中級階層よりも危険だと感じた。恐らく、この先はさらに危険になると思われた。
炎の魔法スライムに勝ち、さらに下層に向かう鬼人族3人娘です。




